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マツヲ。

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133:無自覚タラシ同士の攻防戦

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 今回の件は、いたって単純な話だ。
 ブレイン殿下がはじめにマオトを好きになった理由が、ヒロインを好きになったときとおなじように、これまで己の周囲にいなかったような無知ゆえの無垢さが、その目に新鮮に映ったのだとしたら。

 それは次第にマオトが周囲にあわせて、いかにも貴族らしい立ち居ふるまいを身につけていくたびに失われ、気がつけば『そこらにいる人と変わらない存在』になってしまったというだけの話でしかない。
 それこそが、ブレイン殿下の心が離れてしまった原因なのだと思う。

 本来ならマオトの努力は、貴族としては報われるべき内容であって、決して悪いことではない。
 ただそれが、たまたまブレイン殿下にとっては逆効果にしかならなかったというだけの話だった。
 そういう意味では、だれが悪いわけでもないのに起きてしまった不幸な話と言ってもいいだろうか?

 むろんブレイン殿下だって、ただ無知な相手だから好きというわけでもあるまい。
 そんな無知が好きとか、俺なら確実に地雷案件だし!
 滅べ、白痴受!!って祟りそうになるくらい苦手だもんなぁ……。

 ブレイン殿下の中身は、実はリオン殿下と似た俺様なキャラかもしれないけれど、真っ白な相手を自分好みに染めていきたいとか、己の思うままにあやつりたいだなんて、そんな支配欲強めな気持ちの悪い思想にはいたっていないハズ……。

 この場合は、『己を知らないような相手の前でなら、人前でかぶっている完ぺきな王子としての仮面をはずせるから』という、その一点にこそ魅力を見いだしているにちがいない。
 だって、それなら俺が気に入られているのも、うなずけるから。

 俺の前で見せる近ごろのブレイン殿下の姿といったら、ナチュラルに俺様な姿だし、いつもの完ぺきすぎる姿とはちがう子どもっぽい姿だってある。
 そういうのが見られるのは、俺としてはうれしいことでもあるけれど。

「……なぁ、あんたの前でのブレイン殿下って、どんな人だったんだ?」
 気がつけば、その問いかけは口をついて出ていた。

「ブレイン様?そりゃ当然、キラキラしてて、めちゃくちゃ完ぺきな王子様だったよ?」
 もし俺の想像があたっているのなら、きっと素の顔を見せているハズ。
 そう思ってたずねたのに、しかしかえってきたのは、想像もしていないこたえだった。

「えっ?ウソだろ……っ?!」
 どういうことだ!?
 コイツの前で、素の自分を見せていたわけじゃないのか??
 だとしたら、俺の推測ははずれたんだろうか……。

「ウソなもんか!いつだって僕のことを大切にあつかってくれて、やさしかったんだから!」
 思わず否定の声があがったところで、相手の顔にはうたがわれたことにたいする不満の色が浮かぶ。

「あ、いや……悪い。別にうたがってるとかじゃなくて、いかにもブレイン殿下らしすぎて逆に『特別感』に欠けるっていうか……」
 どちらかと言えば、らしいっていうか、いつも人前で王子様を演じているときの姿そのものだろ!

 でもそんな疑問は、すぐに解決した。
 ほかでもない、マオト自身の発言によってだ。

「最初は、めちゃくちゃはずかしかったよ?だから僕も照れてしまって、まともな対応もできなかったけど……でもすごくうれしくて……」
 ほんのりとほっぺたを赤くして、笑みを浮かべるその姿はかわいらしくて、思わずほだされそうになる。

 クソ、これだから美少年は!
 笑顔ひとつでこっちがほだされそうになるとか、思わず対立的な立場にあるのを忘れそうになるだろ!

「───なるほど、その笑顔が見たかったからか……」
 やっとのことでひねり出したのは、どうしてブレイン殿下がマオトのためにキラキラの王子様キャラを演じていたのかという、分析結果だけだった。

「っ!なんでそんなこと……っ!」
 ふだんから義務としてやむなくしているときには息苦しいハズのそれも、もし自分がかわいいと思う相手から、本気でよろこんでもらえたとしたら、そりゃまったく意味がちがってくるだろうよ。

「あぁ、だってあんた、そうやって笑ってるとかわいいだろ?」
「は、はあぁっ?!別におまえにかわいいとか言われてもうれしくないし!」
 思ったことをそのまま告げれば、なぜか顔を真っ赤にして怒られた。

「そういうところなんだろうな、ブレイン殿下が気に入ったところ。自分の言動にそんなふうに一喜一憂してくれるの、かわいいって思ってたんだろうよ」
「ちょっと!さっきからなに、さらっとはずかしいこと言ってんの?!」
 なおも顔を真っ赤に染めたままのマオトに、思わず苦笑がもれる。

「あー、悪い悪い、あんた根はいいヤツなんだろ?」
 たぶん手が届くところにいたら、あたまをなでてるヤツだ、これ。
 本質はたぶん、ブレイン殿下が愛でていたころのマオトとそう変わってないんだろう。

「ずっとそうやって照れたり、すなおによろこんでたならよかったのに、どうして止めちゃったんだ?」
 たぶん俺の想像が正しければ、そうやって態度をあらためてしまったせいで、あの人の心が離れてしまったんだと思う。

「そんなの田舎くさいだろっ!!ブレイン様の恋人が、毎回そんなあか抜けない対応とかしちゃダメだって……そう言われたから、必死に貴族らしくあろうと努力したんだ!」
 なかば鎌かけのような俺からの質問に、しかしマオトの返答はその推測を裏づけるものだった。

「そんな外野からの意見、聞く必要なんてなかっただろ?ブレイン殿下なら、『気にするな』って言ってくれたんじゃないか?」
「そうだけど……」
 だってそれは、ヒロインのブレインルートのときの嫉妬イベントで、モブ令嬢から囲まれてイビられるときのセリフそのままだったから。

 そのときのブレイン殿下は、たしか『気にするな』と言ってくれたハズだし、ヒロインだってブレイン殿下とモブ令嬢のどちらを信じるのかという選択肢が出て、ブレイン殿下のほうをえらべば好感度もあがるという展開だったような気がする。

「でもっ、やっぱりキラキラの王子様なブレイン様のとなりに立つのにふさわしい人物は、貴族としても洗練されてなきゃダメだろ?!」
「本人がいいって言ってくれているなら、それを信じればよかっただろ?」
 そのモブ令嬢たちは、親切めかしてアドバイスをよそおった罠をしかけてくるんだもんな。

 あくまでもこれまでブレイン殿下のそばにいた、自分に媚び、おもねってくるモブ貴族たちとはちがうからこそ、マオトは気に入られていたんだ。
 それが失われてしまったら、心が離れてしまうのは時間の問題だった。

 どうやって相手を傷つけることなく、それを伝えればいいんだろうかと思っていたことは、しかしはっきりと言葉にせずとも相手の心には届いたらしい。
 それは、目の前にあるマオトの顔を見ればわかる。

「そんな……じゃあ、まさかあのときの僕の選択はあやまってたっていうの……?ブレイン様にふさわしい貴族であろうとしただけなのに、逆効果だったってこと……?」
 今のマオトの瞳は不安げにゆれ、寄る辺なき子どものように見えた。
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