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マツヲ。

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135:ある意味予想どおりの最悪な流れ

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「ダグラス、貴様さえいなければ、我が弟がブレイン殿下からふたたび寵愛をたまわれる可能性があるのだ!」
 そう叫ぶロコトの瞳からは光が消え、見事なまでの闇落ち感を出していた。

「なに言ってんだよ、言うほど簡単なことじゃないだろ!?それに『俺さえいなければ』って……まさか、俺を殺そうってのか?!」
 手っ取り早く俺が『いなくなる』には、最たるものではあるけれど、俺がいなくなったところで一度心が離れてしまったところから、よりをもどすのは大変だろうに……。

 つーかそのぶっとんだ発想、完全に病んでるだろ!?
 現実を見なきゃいけないのはマオト本人よりも、悩みなんて筋肉が解決してくれそうな兄のほうだったわけかよ、チクショー!
 まさかの二段がまえの、闇落ちした敵の回避イベントだったってか?!

「いや───そんな野蛮なことは必要ない。我輩が直接手を下さずとも、『王族の恋人』たる資格を失わせるには、もっと簡単な手があるだろう?」
 ニヤニヤと口もとをゆがめて嗤うロコトに、先ほど感じたイヤな予感が的中してしまったことを知る。

「マオトにとっては余計な知識でしかなかった中央貴族としてのそれが、ふたたびマオトがブレイン殿下の恋人として返り咲くために役立つ情報となるのだから、悪いことばかりではなかろうよ」
「ハッ、弟はだまされただけだってのに、あんたは自ら進んで悪用しようとしてるとか、ずいぶんと善悪のわかれる兄弟じゃねーか!」
 余裕ぶって皮肉をかえしたところで、困ったことにここをうまく切り抜ける策はまるで思い浮かばない。

「そうだな、たとえば……我輩たちの部屋に来た貴様が眠ってしまえば、親切心から送り届けてやろうとしたものの、最近部屋を移ったばかりのせいでわからないなんてことは十分あり得ることだろう?それならば、いったんロビーの長椅子に寝かせ、管理人に貴様の部屋の位置を聞きに行ったその隙によなぁ?」
 意味深なセリフを口にするロコトは、そこで一度言葉を区切る。

「なにしろこの時刻は、本来なら生徒は皆学校に行ってるころだ。授業をサボった不良どもが近くの男爵部屋にひそんでいるだなんて、日々定刻どおりに通学している我輩には知りようもなかったことだ……」
 つまりは、そういうシナリオになっているとでも言いたいのかよ、コノヤロー!!

「冗談じゃない!もう用は済んだだろうが!帰らせてもらう」
「そうですよロコト兄様!僕はそんなこと、望んでないっ!!」
 長椅子から立ち上がって歩きだそうとする俺のセリフにかぶせるように、マオトも抗議の声をあげた。
 だけど。

 グイッ、ドサッ
「っ!?」
 まさかの力技で、手首をつかまれバランスをくずしかけた俺の首に、一瞬にして後ろから腕がかけられ、無理やりに長椅子の上へと引きもどされてしまった。

「なにすんだ、よ……っ?!クソ、離せってば!」
 後ろをふりかえって苦情を申し立てようとして、そのあまりの顔の近さにぎょっとする。
 いやこれ、背後から抱きつかれてるだけだろ!

 暑苦しい下まつ毛の目立つ濃い顔は、至近距離で拝むモンじゃない。
 必死に両手を使って腕を引きはがそうともがいたところで、さすがは筋肉ダルマ、俺の力ではいかんともしがたい。

「ちょっと待って、ロコト兄様、ホントになにをするつもりなのっ!?」
「大丈夫だよ、マオト。すべてこの兄にまかせておけばよい」
 キュポンという、なにかの栓が抜けるような音が耳もとでしたその直後、周囲には鼻をつく刺激臭が広がった。

「うっ!」
 とっさにこれを吸ってはいけない、そんな危機感にせき立てられ、息を止める。
 だけど俺のそんな反応を見越したかのように、即座に鼻まで覆うようにぬれた布があてられた。

「ンーーッ!!」
 このままじゃマズイ、なんとかして抜け出さないと!
 そう思うのに、いくらもがいたところで、圧倒的筋力差は埋められそうもなくて……。

 クソー、この布にかけられてる液体の正体、なんなんだよ?!
 これでも魔法だの、お茶に混ぜられる薬だのには警戒していたハズなのに、ここにきて筋肉ダルマらしい腕力で訴えてくる手法をとるとは、相手の危険度を見誤っていた。

 だいたい、息を止めているのだって限界があるんだぞ!

 って……あ、ヤバい、かも……?
 苦しくて苦しくて、なんだかあたままでクラクラしてくる……。

 できるだけガマンしようとしたのに、残念ながら脳みそは酸素不足を訴えてきて、でも必死にもがいたところで、物理的な筋力差で訴えられてはどうしようもなかった。
 ほんの少し口もとを押さえつける力がゆるんだそのとき、からだは新鮮な空気をもとめ、無意識のうちに大きく息を吸っていた。

「んんっ!!?」
 なんだこれ、熱い!?
 とっさに感じたのはそれだった。
 ツンと鼻の粘膜を刺激する匂いは、それだけにとどまらず、のどの奥の気管支までもが焼かれるような刺激を訴えてくる。

「『もしものときに使え』と言われたを、まさか本当に使うことになるとはな……まぁ安心しろ、別に毒じゃない。ほんの少し意識がもうろうとして、からだの自由が利かなくなるだけだ」
「ん……うぅっ!」
 なんだよそれ、十分心配しないといけないヤツだろ!!

 文句を言いたいのに、舌はもつれてうまく言葉にならない。
 手足どころか全身から力が抜けていき、視界もぼんやりと焦点を失い、かすんでいく。

「ロコト兄様、もうおやめください!!」
 暴走する兄を止めようとするマオトの声でさえ、まるで綿球を耳につめられたかのように遠くなっていった。

 マズイ、このままじゃ最悪の展開に陥ってしまう……。
 そう思うのに、ぼんやりとするあたまは、それ以上のことをかんがえるのも億劫で、顔に押しあてられていた布がはずされ、首を戒める相手の腕も解かれたというのに逃げ出すことさえできなかった。

「う……や、め……」
 手にしていたその布をどこかにしまったらしく、手ぶらになったロコトは長椅子をまわりこみ、俺の正面に立つと両手をのばしてくる。

「案ずるな、そのまま眠気に身を委ねていればいい……すべては眠っているうちに済むであろう」
 バカヤロー、そういう問題じゃないだろ!
 なのに苦情を申し立てることもできず、避けようもないままに軽々と抱きあげられた。

 こんな状態の俺じゃ重いだろうに、さすがは筋肉ダルマだな……じゃなくて!
 クソ、マジでどうしたらいいんだよ、これ?!
 焦りだけは募っていくものの、けれど意識を保っていられたのはそこまでだった───。
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