当て馬系ヤンデレキャラから脱却を図ろうとしたら、スピンオフに突入していた件。

マツヲ。

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23.やっぱり犬にはしつけが必要な件。

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 今しがたの行為が相手にとっての汚点だというのなら、それこそよくある『一夜のあやまち』にして流してしまえばいい。
 理性はそう提案してくるのに、感情がそれに同意をしてくれない。

 だって、さっきまでの山下からは、それこそ勘ちがいしてしまいそうになるくらい、ていねいにあつかわれたから。
 それにあんなところまでなめるなんて……相手のことを本当に好きじゃなきゃできないんじゃないかって、そう思う気持ちもある。

 ……期待なんてしちゃダメだ。
 どれだけ自分に言い聞かせようとしても、人から愛されることに飢えていた俺にとって、山下からあたえられたそれには、あらがいがたい魅力があった。

 その一方で、ここがBLゲームの世界だと知るもうひとりの俺の心が、『それはただの特殊性癖であって、それを許容してくれる相手ならだれでもよかったんじゃないか?』と疑ってかかる。
 それこそ『ちょっとやさしくしただけで、簡単にからだをゆるすなんて、チョロいヤツだと思われたはずだ』とばかりに、フワフワとした気持ちに水を差してくる。

 そのどちらもあり得ることで、特別おかしなところはない。
 ……なぁ、本当のところはどっちなんだ?
 今は山下の心がわからなくて、とても不安だった。

 もし本当に徹夜明けの妙なテンションのままでのまちがいだったというなら、それを受け入れるための覚悟を決めなくちゃいけない。
 大丈夫、それくらいなら耐えてみせる。
 だってこれまでだって、もっとツラいことでも耐えてこられたんだから。

 でも。
 なかったことになんてしたくないとばかりに、そこに特別な意味を求めてしまって、ジクジクと胸のあたりが痛みを訴えてくる。
 それこそ、油断をすればまた涙腺がゆるんでしまいそうなくらいに。

 だからといって、『なかったことにしたくない、これで終わりなんて嫌だ!』とその気持ちのままに、相手に泣いてすがればよかったんだろうか?
 自問したところで、こたえはすぐに出る。

 ───否。

 そんなのは、俺のキャラじゃない。
 あいにくとそれは、かんがえるまでもなかった。

 だいたいこんなかわいげのない見た目をしているんだ、無理にキャラクターをつくって甘えたところで、引かれるだけじゃないのかとも思う。
 まして俺は、山下にとっては立場上大切にしなくてはいけない、ただの雇い主にすぎなくて。
 そんな相手から甘えられても、困るだけだと思う。

 まだ俺の双子の弟の夏希なつきならば、育ってきた環境のちがいなのか、その小動物めいたかわいらしさがあるから、あるいはそれで心ゆらぐかもしれないけれど。
 なにしろあの白幡しらはたが選んだくらいの相手だ、そばにいて支えたくなるような魅力があるんだろう。

 ───でも俺は、そういうタイプじゃない。
 ともすれば冷たいという印象を持たれることもある、表立っては感情の起伏の少ないタイプだ。
 もちろんそれは、大企業の社長としての作られた仮面なわけだけど。

 でもそれが、弱い本心を隠すためのものだったなんて、こうして鷹矢凪たかやなぎ冬也とうやというキャラクターになってみて、はじめて気がついたんだ。
 口ではどうでもいいようなことを言ったところで、本心はツラくて泣きたいくらいに傷ついていることだってある。

 けれど、そうした本心を人に見せるのは、ただの弱みをさらす行為でしかないと言って、禁じられてきたことだったから……。
 親からの厳しいしつけによって培われた鉄面皮は、そう簡単にはがれることはなかった。

 そうやってこれまで生きてきた俺には、たとえ気をゆるした相手であっても、そう簡単に本心を明かしたりはできなくて。
 そのせいで、長年仕えてきてくれた秘書と、ようやく会えた弟に捨てられるという大きな失敗をしたからといって、いきなり正直者になることはひどくむずかしかった。

 そんな今の自分に言えることは、これ以上のヤケドをしたくないのなら、似合わないことなんてするもんじゃないってことくらいだ。
 だから、本当はなかったことにしたくないと思う気持ちがあっても押し隠し、決してそれが本心だと悟られないように冗談まじりの口調で告げるしかできなかった。

「大丈夫だ、今回はおたがいに徹夜明けの変なテンションに流されただけで、本気じゃないってことくらいわかってるから。お前のしたことは忘れてやるよ。いいよな、山下?」
 これが理解のある大人の余裕というヤツだろうか、そんな風をよそおって苦笑を浮かべたままに告げる。

 ただ、俺の発言を聞いても、山下は表情を変えることはなかった。

 ───あぁ、そうかよ、やっぱりおまえにとっては忘れたいあやまちだったんだな?
 思わずそんな恨みごとを口にしそうになって、必死にこらえてくちびるを噛みしめる。

 それにしても……いったいいつから俺は、こんなに臆病になってしまったんだろうか?
 あてつけのようなそのセリフよりもなによりも、本心では泣きそうだった。
 ゆがみそうになる顔を必死にこらえ、ズキズキという痛みを訴えつづける胸を無視してうつむく。

 このからだの記憶に残る冬也としては、いつだって、どんなことでもしっかりと決断してきたというのに。
 それが今や、どこまで本心をさらしていいのか迷い、決断もできずにいるなんて。

「社長……?」
 急に黙りこくってしまった俺を見上げるように、山下は首をかすかにかしげる。
 その目をまっすぐに見られなくて、思わず視線をはずした。

 だけど、次の瞬間。
 パァン!!
 小気味のいい音が、その場に鳴り響く。

「っ!?山下、なにして……っ!?」
 本当になにしてんだよ、コイツは?!
 あまりのことに、俺は絶句する。
 それもそのはず、今の音は山下が全力で自分自身の頬を叩いた音だった。
  
「ハハッ、痛い……」
「あたりまえだろっ!」
 そして、泣き笑いのような顔でつぶやくのに、あわてて身を乗り出して手をのばせば、その手をやんわりとつかまれた。

「夢じゃ、ないんですよね……?」
 きゅっとにぎられながら、確認される。
「……あぁ、残念ながら現実だ」
 伏し目がちなままにこたえれば、そのまま手の甲に頬ずりされた。

 その自然な動きにさえ、ドキリ、と心臓が大きくハネた。
 だってそのしぐさは、ここへ帰ってきてすぐに、手首をくまなくなめられた記憶を呼び起こすものだから。
 おかげで、さっきから心臓がトクトクと早鐘を打ちつづけていて落ちつかない。

「これが夢じゃないのなら、自分はおかしくなってしまったんでしょうか?あんなにあこがれていた社長の肌に触れるおゆるしを、直接ご本人から得たなんて……!!」
 俺の手を解放したあとも、頬を紅潮させたまま目をかがやかせる山下が、うわごとみたいにつぶやいている。

「……でもおまえは、俺を抱く気はないんだろう?」
「いえっ、とんでもない!!ゆるされるのなら今すぐにでもめちゃくちゃ抱きたいですし、なんなら抱きつぶすまでとことん愛でたいです!!」
 茶化すように問いかければ、いきおいよくかぶりを振りながら否定された。

「え……?」
 イヤな予感に突き動かされるように視線を下に向ければ、たしかにはふたたびの臨戦態勢に入っている。
 そしてその姿は、どう見ても大好物のエサを前にして『待て』をされた大型犬が、こちらをキラキラした瞳で見つめているようにしか見えなくて……。

「……いくらなんでも冗談、だよな?」
「とんでもない!!ただ、このあふれる想いをそのままにぶつけてしまっては、おそらく出勤時間をすぎてしまいそうでして」
 ───なんてこった、いい笑顔のままにとんでもない絶倫予告が来たぞ?!

 先ほどまで、さんざんなめまわされていたそこは、たしかにすぐに受け入れられるかもしれないけれど、こっちの体力はそこまでもちそうもない。
 なんなら今すぐにでも飛びかかってきそうな山下の様子に、思わず口もとがひきつった。

「先ほどからチラ見えしている社長のおみ足がまぶしくて、なんともおいしそうに見えます」
 ゴクリとつばを飲み込みながらうっとりとつぶやかれる声に、冗談じゃないと、背すじに恐怖にも似た寒気が走っていく。

「それでは、あらためていただきまー……んがっ!!」
「っ、ダメだ!!さすがにもうこれ以上やられたら、俺のからだがもたないから!」
 気がつけば、俺に飛びかかろうとした山下の顔面を足裏で蹴り飛ばしていた。

 ────あぁ、クソ、やってられない!
 たとえ忠犬に見えようと、犬のしつけはしっかりやらなくては、俺のからだがもたなくなりそうだ。
 そんなことを思いつつ、まずは『待て』からしつけよう、なんて心に固く誓ったのだった。
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