当て馬系ヤンデレキャラから脱却を図ろうとしたら、スピンオフに突入していた件。

マツヲ。

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28.イベント進行は今にも詰みそうな状況な件。

 めまいがする。
 グラグラとゆれるあたまの位置は定まらず、手足にもうまく力が入らない。
 今にも倒れ込んでしまいそうなほど、強烈な眠気が襲いかかってくる。
 どうやら何らかの薬を盛られたのだろうということは、否が応にも理解した。

「あれぇ、鷹矢凪たかやなぎ社長?どうしたんですか?」
「ひょっとして、飲みすぎちゃいました?」
 白々しい声がかけられ、両脇からがっしりと腕をとられて支えられる。

「だいじょ…ぶですから……秘書を呼びます……」
 いつもであれば解散となる時間だということは、おそらく山下も知っていることだろう。
 俺からの呼び出しがそろそろ来るだろうかと、携帯を前に待機しているはずだ。

「そんなぁ、呂律がうまくまわってないじゃないッスかぁ~!心配ですし、ちょっと休んでいきましょうよ」
「~~~~っ、触っ……な……っ!」
 支えるというよりは、むしろ拘束するかのようなしがみつき方に、もはやイヤな予感しかしなかった。

 クソ、油断した……!!
 ここがどういう世界なのか、わかっていたはずだろう?!
 思わず己に怒りがこみ上げてきたところで、あとの祭りだった。

 現に自力で立って歩けないくらいには猛烈な眠気に襲われているし、しかしてこのまま眠ってしまえば、次に目が覚めたときにどんな目に遭わされているのか、知れたもんじゃなかった。

 そうだ、俺は───あの先輩の書くシナリオを、あの先輩の性格を知っている。
 時に容赦ない凌辱描写だろうと、それが物語上必要なのだと判断したら、臆せずに入れてくるタイプの人なんだってことを。

 夏希なつきが主役のゲーム本編でもあの人が担当したシナリオで、メインシナリオと言われる白幡しらはたルートのバッドエンドにおいて、当て馬系ヤンデレキャラとして出てくる冬也とうやに監禁されて、無理やり襲われる描写があった。
 ほんの少し選択肢をあやまっただけなのに、砂糖菓子のような甘ったるい白幡ルートのハッピーエンド直前の描写から一転して、不幸が押し寄せてくるんだ。

 そのきっかけは、一杯のコーヒーだった。
 やはりあのゲーム本編でもコーヒーを好んで喫する冬也のためにと、白幡は毎日淹れていたけれど、夏希はあの苦味が好きではなくて。
 毎回、たっぷりの砂糖やミルクを入れて飲んでいた。

 その砂糖のなかに、睡眠薬が仕込まれていた。
 そして眠りに落ちた夏希が目を覚ますと、鎖付きの首輪をはめられた状態で、寝室へと閉じこめられていたという展開になる。

 そこから先は、独占欲を全開にした冬也に襲われることになるわけだが、まぁそのひどさは言うまでもない。
 鷹矢凪冬也という人物の心のゆがみを描き出すために、『己の片割れとはひとつにならなければいけない』とか、謎の理論をふりかざしてエンドレスに犯してくるという鬱展開だった。

 もちろんその場合の白幡は、冬也の秘書としての職をまっとうするため、夏希を助けてはくれない。
 それどころか、無表情なままに冬也による夏希の調教凌辱に力を貸してくる始末で、それはもう夏希目線でゲームを進めてきたプレーヤーにとっては、絶望以外のなにものでもないお話だった。

 その味方になってくれていると思っていた白幡に裏切られる夏希と、今回酒匂さかわ先生に呼ばれて疑いもせずに来た己の立ち位置とは似ている。
 あぁ、まちがいない、これはあの人の書いたシナリオだ───!!

 ならば、ここで飲まされた熱燗の酒のなかに薬を仕込まれていたなんて展開も、十分すぎるほどにあり得るだろ!?
 実はもうすでに俺はその選択肢をあやまっていて、そして寝落ちたが最後、バッドエンドに向けて一直線なんてことにもなりかねなかった。

 それを、なんとしても回避するんだ!
 クラクラとゆれる視界に、今にも目を閉じたくなるのをこらえ、必死に意識を保とうとする。

「鷹矢凪社長は細身に見えて、それなりに鍛えてる感じですかぁ?」
「ひょっとして腹筋とかも、割れてたりして?」
 そう問いかけながらも、彼らはシャツの上から遠慮なく、こちらのからだをまさぐってくる。

「んっ!やめ……っ!」
 それだけのことなのに、からだは勝手に反応しそうになった。
 なんで、どうして?!

 猛烈な眠気に襲われているというのに、それでいてからだは妙に熱っぽい。
 そのせいで、わずかな衣ずれでさえも、思わずふるえてしまいそうになるほど、敏感に感じ取れてしまう。

 どうかんがえても、彼らが触れてくるその手つきはいやらしい。
 ただなでているのではなく、そこに欲の色がのせられたものであることは、感じる不快感でも明らかだった。

「帰ります、ので……くっ!」
 だけど振り払おうにも、どうにもからだにうまく力が入らなくて。
 それどころか、やけにからだが熱くて息苦しい。
 あえぐように空気を求めて、くちびるが開く。

「うっわ、エッロ~……」
 間近なところから、つばを飲む音とともに、そんなつぶやきが聞こえてくる。
 なんなんだよ、それ、いよいよもって不穏すぎるだろ!?

 どうせお約束の展開で、ここでまた俺はモブである彼らから襲われかねないわけなんだろう?

 ───そんなの、冗談じゃない!

 話の展開的には、最後のチャンスとして、ここでどうするかがバッドエンドになるかどうかの岐路になる可能性が高いと思う。

 考えろ!
 考えて、考えて、あの人が用意するであろう救いのルートを見つけ出すんだ!

「っ!?」
「ほらほら、足元もおぼつかない感じじゃないですか!」
「ねっ、少し休んでいきましょうよ。こんなこともあろうかと、布団も用意してもらってますし」

 からみついてくる腕をふり払って歩きだそうとしたところで、思わずフラついてしまい、再びガッチリと両脇から固められる。
 そしてもうひとりがふすまを開ければ、そこにはご丁寧にも、二組の布団がならべて敷かれていた。

 まさか、酒匂先生が黙認していたとして、料亭側までもがこれに加担しているっていうのか!?
 とたんに、心のなかに絶望が広がっていく。

 だってもしそうなら、いくらここで俺が助けを求めたところで、黙殺されるしかないわけだろう?
 もともとここは敷地も広く、客のプライバシーが優先されるよう、別のグループの客とは決して顔を合わせないで済む造りになっていたけれど。

「離して、ください……っ!」
「おとなしくしてろって、よけいな怪我とかしたくないだろ、アンタもさ」
 こちらの顔色が悪くなったことに気づいたんだろう、相手が急に強気な態度をとってきた。

「やめ……っ!」
 それだけじゃない。
 こちらは薬を盛られてフラついていて、相手は3人もいるのだから、抵抗なんてあってないようなものだった。
 なすすべもなく、布団のうえへと押し倒される。

 幸いにしてというか、さすがは高級料亭の用意する組み布団だけあって、しっかりと綿が打たれているからなのか、ふんわりとからだを受け止めてくれたけれど。
 だからといって、事態はなにひとつ好転するわけでもなく。

「は~い、それじゃあネクタイ取りましょうね~♪」
 上にまたがってきたホストくずれみたいなヤツが、喜色満面の笑みを浮かべて、言葉のとおりにネクタイに手をかけてくる。

「やめろっ!」
「はいは~い、おとなしくしててね」
 止めようとしたところで、逆にその腕をつかまれて布団のうえへと押しつけられた。
 その直後、押さえつける手は、すぐに別の男にとって代わられる。

「大丈夫、オレたち慣れてるから、マグロにしてたって、ちゃんと気持ちよくしてあげるよ?」
「うっはぁ、このキメの細かい肌、まさにビスクドールのごとしですよ!」
 俺の腕を押さえつけてくる男たちは、興奮したようにこちらをのぞきこんでいる。

 ドクンッ
「あ…………」
 その姿を目にしたとたん、心臓が大きくハネた。

 一度は乗り越えられたと思ったのに……イーグルスターの社長である鷲見わしみ勇征ゆうせいによって、無理やり犯されたときの記憶が突然よみがえる。
 この、相手を見上げる角度と、逆光で顔がよく見えないのも災いした。

 からだを引き裂かれるような痛みに、相手からもれ出る暴力的な攻撃性。
 下手に抵抗しようものなら、殺されてしまうかもしれないと思わせるほどのそれが思い出されて、からだはどうしようもなくふるえる。
 それだけじゃない、あのときと同じく、こちらを見下ろす相手の目は欲にまみれていた。

「い、やだ………」
 全力で拒否するはずの声は、自分でもおどろくほどに弱々しいものになってしまった。
 きっと顔色は青くなっているし、くちびるだって無様にふるえてしまっているはずだ。

 こんな隙を見せてしまっては危険が増すだけだと、あたまではわかっているはずなのに、からだは言うことを聞いてくれない。
 カチカチと音を立てる歯の根は合わなくて、息は浅く荒くなっていく。

「ヒッ!?」
 そんな俺の頬を、そっと大きな手のひらがなでていき、その接触にさえ肩は大きくハネた。
 どうしようもなく、怖くてたまらなかった。

「やだなぁ、そんなに怯えないでも、やさしくするよ?別にオレたちは、飲みすぎて具合の悪そうな人を介抱してあげようとしているだけだしね?」
 手慣れた感じに、いいわけをされる。

 どうしよう、このままじゃまた前の二の舞だ。
 まわりに味方なんていないこの状況、自分でなんとかするしかないのに、今はただ、だれかに助けてもらいたい気持ちでいっぱいだった。
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