当て馬系ヤンデレキャラから脱却を図ろうとしたら、スピンオフに突入していた件。

マツヲ。

文字の大きさ
28 / 55

28.イベント進行は今にも詰みそうな状況な件。

しおりを挟む
 めまいがする。
 グラグラとゆれるあたまの位置は定まらず、手足にもうまく力が入らない。
 今にも倒れ込んでしまいそうなほど、強烈な眠気が襲いかかってくる。
 どうやら何らかの薬を盛られたのだろうということは、否が応にも理解した。

「あれぇ、鷹矢凪たかやなぎ社長?どうしたんですか?」
「ひょっとして、飲みすぎちゃいました?」
 白々しい声がかけられ、両脇からがっしりと腕をとられて支えられる。

「だいじょ…ぶですから……秘書を呼びます……」
 いつもであれば解散となる時間だということは、おそらく山下も知っていることだろう。
 俺からの呼び出しがそろそろ来るだろうかと、携帯を前に待機しているはずだ。

「そんなぁ、呂律がうまくまわってないじゃないッスかぁ~!心配ですし、ちょっと休んでいきましょうよ」
「~~~~っ、触っ……な……っ!」
 支えるというよりは、むしろ拘束するかのようなしがみつき方に、もはやイヤな予感しかしなかった。

 クソ、油断した……!!
 ここがどういう世界なのか、わかっていたはずだろう?!
 思わず己に怒りがこみ上げてきたところで、あとの祭りだった。

 現に自力で立って歩けないくらいには猛烈な眠気に襲われているし、しかしてこのまま眠ってしまえば、次に目が覚めたときにどんな目に遭わされているのか、知れたもんじゃなかった。

 そうだ、俺は───あの先輩の書くシナリオを、あの先輩の性格を知っている。
 時に容赦ない凌辱描写だろうと、それが物語上必要なのだと判断したら、臆せずに入れてくるタイプの人なんだってことを。

 夏希なつきが主役のゲーム本編でもあの人が担当したシナリオで、メインシナリオと言われる白幡しらはたルートのバッドエンドにおいて、当て馬系ヤンデレキャラとして出てくる冬也とうやに監禁されて、無理やり襲われる描写があった。
 ほんの少し選択肢をあやまっただけなのに、砂糖菓子のような甘ったるい白幡ルートのハッピーエンド直前の描写から一転して、不幸が押し寄せてくるんだ。

 そのきっかけは、一杯のコーヒーだった。
 やはりあのゲーム本編でもコーヒーを好んで喫する冬也のためにと、白幡は毎日淹れていたけれど、夏希はあの苦味が好きではなくて。
 毎回、たっぷりの砂糖やミルクを入れて飲んでいた。

 その砂糖のなかに、睡眠薬が仕込まれていた。
 そして眠りに落ちた夏希が目を覚ますと、鎖付きの首輪をはめられた状態で、寝室へと閉じこめられていたという展開になる。

 そこから先は、独占欲を全開にした冬也に襲われることになるわけだが、まぁそのひどさは言うまでもない。
 鷹矢凪冬也という人物の心のゆがみを描き出すために、『己の片割れとはひとつにならなければいけない』とか、謎の理論をふりかざしてエンドレスに犯してくるという鬱展開だった。

 もちろんその場合の白幡は、冬也の秘書としての職をまっとうするため、夏希を助けてはくれない。
 それどころか、無表情なままに冬也による夏希の調教凌辱に力を貸してくる始末で、それはもう夏希目線でゲームを進めてきたプレーヤーにとっては、絶望以外のなにものでもないお話だった。

 その味方になってくれていると思っていた白幡に裏切られる夏希と、今回酒匂さかわ先生に呼ばれて疑いもせずに来た己の立ち位置とは似ている。
 あぁ、まちがいない、これはあの人の書いたシナリオだ───!!

 ならば、ここで飲まされた熱燗の酒のなかに薬を仕込まれていたなんて展開も、十分すぎるほどにあり得るだろ!?
 実はもうすでに俺はその選択肢をあやまっていて、そして寝落ちたが最後、バッドエンドに向けて一直線なんてことにもなりかねなかった。

 それを、なんとしても回避するんだ!
 クラクラとゆれる視界に、今にも目を閉じたくなるのをこらえ、必死に意識を保とうとする。

「鷹矢凪社長は細身に見えて、それなりに鍛えてる感じですかぁ?」
「ひょっとして腹筋とかも、割れてたりして?」
 そう問いかけながらも、彼らはシャツの上から遠慮なく、こちらのからだをまさぐってくる。

「んっ!やめ……っ!」
 それだけのことなのに、からだは勝手に反応しそうになった。
 なんで、どうして?!

 猛烈な眠気に襲われているというのに、それでいてからだは妙に熱っぽい。
 そのせいで、わずかな衣ずれでさえも、思わずふるえてしまいそうになるほど、敏感に感じ取れてしまう。

 どうかんがえても、彼らが触れてくるその手つきはいやらしい。
 ただなでているのではなく、そこに欲の色がのせられたものであることは、感じる不快感でも明らかだった。

「帰ります、ので……くっ!」
 だけど振り払おうにも、どうにもからだにうまく力が入らなくて。
 それどころか、やけにからだが熱くて息苦しい。
 あえぐように空気を求めて、くちびるが開く。

「うっわ、エッロ~……」
 間近なところから、つばを飲む音とともに、そんなつぶやきが聞こえてくる。
 なんなんだよ、それ、いよいよもって不穏すぎるだろ!?

 どうせお約束の展開で、ここでまた俺はモブである彼らから襲われかねないわけなんだろう?

 ───そんなの、冗談じゃない!

 話の展開的には、最後のチャンスとして、ここでどうするかがバッドエンドになるかどうかの岐路になる可能性が高いと思う。

 考えろ!
 考えて、考えて、あの人が用意するであろう救いのルートを見つけ出すんだ!

「っ!?」
「ほらほら、足元もおぼつかない感じじゃないですか!」
「ねっ、少し休んでいきましょうよ。こんなこともあろうかと、布団も用意してもらってますし」

 からみついてくる腕をふり払って歩きだそうとしたところで、思わずフラついてしまい、再びガッチリと両脇から固められる。
 そしてもうひとりがふすまを開ければ、そこにはご丁寧にも、二組の布団がならべて敷かれていた。

 まさか、酒匂先生が黙認していたとして、料亭側までもがこれに加担しているっていうのか!?
 とたんに、心のなかに絶望が広がっていく。

 だってもしそうなら、いくらここで俺が助けを求めたところで、黙殺されるしかないわけだろう?
 もともとここは敷地も広く、客のプライバシーが優先されるよう、別のグループの客とは決して顔を合わせないで済む造りになっていたけれど。

「離して、ください……っ!」
「おとなしくしてろって、よけいな怪我とかしたくないだろ、アンタもさ」
 こちらの顔色が悪くなったことに気づいたんだろう、相手が急に強気な態度をとってきた。

「やめ……っ!」
 それだけじゃない。
 こちらは薬を盛られてフラついていて、相手は3人もいるのだから、抵抗なんてあってないようなものだった。
 なすすべもなく、布団のうえへと押し倒される。

 幸いにしてというか、さすがは高級料亭の用意する組み布団だけあって、しっかりと綿が打たれているからなのか、ふんわりとからだを受け止めてくれたけれど。
 だからといって、事態はなにひとつ好転するわけでもなく。

「は~い、それじゃあネクタイ取りましょうね~♪」
 上にまたがってきたホストくずれみたいなヤツが、喜色満面の笑みを浮かべて、言葉のとおりにネクタイに手をかけてくる。

「やめろっ!」
「はいは~い、おとなしくしててね」
 止めようとしたところで、逆にその腕をつかまれて布団のうえへと押しつけられた。
 その直後、押さえつける手は、すぐに別の男にとって代わられる。

「大丈夫、オレたち慣れてるから、マグロにしてたって、ちゃんと気持ちよくしてあげるよ?」
「うっはぁ、このキメの細かい肌、まさにビスクドールのごとしですよ!」
 俺の腕を押さえつけてくる男たちは、興奮したようにこちらをのぞきこんでいる。

 ドクンッ
「あ…………」
 その姿を目にしたとたん、心臓が大きくハネた。

 一度は乗り越えられたと思ったのに……イーグルスターの社長である鷲見わしみ勇征ゆうせいによって、無理やり犯されたときの記憶が突然よみがえる。
 この、相手を見上げる角度と、逆光で顔がよく見えないのも災いした。

 からだを引き裂かれるような痛みに、相手からもれ出る暴力的な攻撃性。
 下手に抵抗しようものなら、殺されてしまうかもしれないと思わせるほどのそれが思い出されて、からだはどうしようもなくふるえる。
 それだけじゃない、あのときと同じく、こちらを見下ろす相手の目は欲にまみれていた。

「い、やだ………」
 全力で拒否するはずの声は、自分でもおどろくほどに弱々しいものになってしまった。
 きっと顔色は青くなっているし、くちびるだって無様にふるえてしまっているはずだ。

 こんな隙を見せてしまっては危険が増すだけだと、あたまではわかっているはずなのに、からだは言うことを聞いてくれない。
 カチカチと音を立てる歯の根は合わなくて、息は浅く荒くなっていく。

「ヒッ!?」
 そんな俺の頬を、そっと大きな手のひらがなでていき、その接触にさえ肩は大きくハネた。
 どうしようもなく、怖くてたまらなかった。

「やだなぁ、そんなに怯えないでも、やさしくするよ?別にオレたちは、飲みすぎて具合の悪そうな人を介抱してあげようとしているだけだしね?」
 手慣れた感じに、いいわけをされる。

 どうしよう、このままじゃまた前の二の舞だ。
 まわりに味方なんていないこの状況、自分でなんとかするしかないのに、今はただ、だれかに助けてもらいたい気持ちでいっぱいだった。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)  インスタ @yuruyu0   Youtube @BL小説動画 です!  プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです! ヴィル×ノィユのお話です。 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけのお話を更新するかもです。 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新! Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

【完結】双子の兄が主人公で、困る

  *  ゆるゆ
BL
『きらきら男は僕のモノ』公言する、ぴんくの髪の主人公な兄のせいで、見た目はそっくりだが質実剛健、ちいさなことからコツコツとな双子の弟が、兄のとばっちりで断罪されかけたり、 悪役令息からいじわるされたり 、逆ハーレムになりかけたりとか、ほんとに困る──! 伴侶(予定)いるので。……って思ってたのに……! 本編、両親にごあいさつ編、完結しました! おまけのお話を、時々更新しています。 本編以外はぜんぶ、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  ゆるゆ
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 透夜×ロロァのお話です。 本編完結、『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけを更新するかもです。 『悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?』のカイの師匠も 『悪役令息の伴侶(予定)に転生しました』のトマの師匠も、このお話の主人公、透夜です!(笑) 大陸中に、かっこいー激つよ従僕たちを輸出して、悪役令息たちをたすける透夜(笑) 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

同性愛者であると言った兄の為(?)の家族会議

海林檎
BL
兄が同性愛者だと家族の前でカミングアウトした。 家族会議の内容がおかしい

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【完結】お義父さんが、だいすきです

  *  ゆるゆ
BL
闇の髪に闇の瞳で、悪魔の子と生まれてすぐ捨てられた僕を拾ってくれたのは、月の精霊でした。 種族が違っても、僕は、おとうさんが、だいすきです。 ぜったいハッピーエンド保証な本編、おまけのお話、完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! トェルとリィフェルの動画つくりました!  インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのWebサイトから、どちらにも飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

処理中です...