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46.ようやく迎えた決着…とはならない件。
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たしかに俺は変わったのだと思う、あのゲーム本編のころに出てきた鷹矢凪冬也というキャラクターからは。
それこそ夏希を主役にしたゲームの本編に、攻略対象キャラクターとして登場したときの冬也は、無表情でなにをかんがえているかもわからなくて、それでいてなにをするにも完ぺきな面白みのない人間にすぎなくて。
この世のなかで、常に勝者として君臨しつづけてきた人物だった。
だからこそ、そんな彼では挫折の経験なんてなかったから、万が一のときの立ち直り方を知らなかったのだとしたら……?
それならば、はじめて味わうそれに耐えきれずにあっさりと折れ、ロクにあがきもせずに凋落エンドをむかえてしまったなんてこともあり得るだろう。
それにひきかえ今の俺は、たくさんの失敗をし、どうにか乗り越えてきたという経験がある。
ほかにも鷹矢凪グループの総帥として、自グループの社員たちひとりひとりの生活を預かっているという自覚もあった。
そういう意味では、ここで失敗すれば、その社員たちすら巻き込むことになってしまうという危機感があった。
この数週間、会社のためにと、汗水たらしてがんばってくれていた彼らの顔は、目をつぶっっていてもすぐに思い出せる。
こういうのはきっと、ゲームのなかの冬也には、最後まで持ちえなかった感覚だろう。
盤面の駒を動かす感覚で会社の経営をしていたあのころの冬也にとって、社員というものは数字か、もしくは記号程度の存在でしか認識できていなかったものだけど、言うまでもなくそれはとても傲慢な考えかただ。
いくら本人がカリスマ経営者だとしても、実際に企業を支えてくれるのは、そこで働く社員たちで、その彼らがいなければ冬也だけではどうしようもないというのに。
もちろん彼らは数字や記号ではなく、ひとりひとり独立した意識を持つ生身の人間だ。
おなじがんばるにしても、己の上司から、きちんと働きぶりを見て評価してもらえているとわかれば腐らずに済むし、さらにはその上司、ひいては会社のためにがんばろうという気持ちにだってなれるものだから。
なにより自分だって、たんなる数字や記号のためには、そこまで必死になれはしない。
大切に思う相手のためだからこそ、限界を超えてでもがんばろうという気になるものなのだし。
でもそれをゲームのなかの冬也は、最後まで気づけなかったのだろう。
今の自分とゲームのなかの冬也と、そのちがいはなんなのだろうかと考えてみれば、こたえはすぐに出た。
すぐそばで支えてくれている、山下の存在に気づけたのか否かだ。
山下のことを想うと、柄にもなく『あぁ、好きだ……』なんて、しみじみとそう思ってしまう。
それどころか、こうして相手のことを想うだけで、なぜだかふしぎと力が湧いてくるほどだった。
「はぁ~、負けたよ、完敗だ!トーヤの心のなかに、その男はずいぶんとどっかり居座っているらしいな。これ以上はいくら愛をささやいたところで、無意味のようだ」
「すまない、アレク……」
両手をあげて降参のポーズをとると、俺の上からどいたアレクが、がっくりと肩を落とす。
「あやまらないでくれ、トーヤ。あるいは今のキミならば、ワタシの好きにできるのではないかと考えた、我が身の不明を恥じよう」
そう口にするアレクの顔は、苦渋に満ちていた。
そしてアレクは自身のシャツの胸ポケットから取り出した鍵を使い、長らく己の手首を戒めていた金属製の枷をはずしてくれた。
「ケガはないな?」
「あぁ、大丈夫だ」
そのずしりと重かった感触がなくなり、思わずホッと息をつく。
とはいえ、いくらタオルをクッション材代わりにかませていたといっても、やはりそれなりに重みがあっただけに、あらわになった皮膚はかすかに赤くなっていた。
「───なぁ、本当にアレクの気は済んだのか?俺はどんなことをされようと、受け入れるつもりでいたんだが……」
世のなかには、たとえ心を通わせることはなかろうと、からだをつなげることだけでも癒されることはあるのだから。
今の俺にできる最大限の譲歩案として、覚悟を決めていたというのに。
「あぁもう!そんなかわいらしいことを言われたら、思わず心がぐらついてしまいそうになるだろう!……でも、もういいんだ。ワタシが欲しかったのは、その心もふくめたトーヤのすべてだからね。どんなときでも輝きを失わない、その高潔なるキミの魂こそ好ましいと感じてきたんだ。それを得られないというのなら、いくら抱いたところで、決して満たされはしないさ」
泣き笑いの顔で告げられたのは、こんなときでも紳士的なアレクらしいセリフだった。
「それに存外ワタシは保守的でね。負けるわけにはいかないからこそ、勝てない試合には最初から挑まないことにしているんだ。ついでに言えば、こう見えてワタシはたいそうモテるんだ。待っているだけでもチャンスなんて、いくらだってめぐってくるほどにね!」
「アレク……どうして……」
わざと明るい口調にしているのは、きっとこちらに気をつかわせないためだ。
だからこそ、よけいに胸が苦しくなる。
言いかけて止めたのは、『どうして、俺だったのだろうか?』ということだった。
今アレクが言ったように、アレクは学生時代からその身分と外見とで、男女を問わずたいそうモテていたのは言うまでもない。
なかには俺よりもはるかに条件の良い相手だっていただろうし、そんな彼らをえらび放題だったはずなのに……。
「男なんてバカなものさ、『初恋の君』には弱いものだろう?」
「あぁ、そうだな……」
言いかけた俺のセリフは正しく相手に伝わり、そしてたったそれだけで、俺にもアレクの言いたいことがわかってしまった。
アレクにとっての俺は、はじめて自分の言葉をあやまたずに理解をしてくれた人で、その衝撃は彼にとって、なにものにも代えがたいものだったというわけだ。
「───結局、俺たちは似た者同士だったというわけか……」
ぽつりとつぶやいた己の声は、静かな室内に余韻を残して溶けていった。
それまで自分の話す言葉を正しく理解してくれる人物に出会ったことがなかったアレクが、初対面からずばりと俺に本心を言い当てられた際に受けた衝撃と、白幡と夏希に愛想を尽かされた悲しみをうまく顔に出せないだけで、めちゃくちゃ苦しかった俺に、そっとハンカチを差し出してくれた山下のやさしさにふれた際に受けた衝撃と。
そのどちらも、はじめて受けた衝撃にやられ、相手のことを好きになっただなんて───あまりにも似すぎているだろう。
「───ところで、興味本位で聞くのだけど、そこまでトーヤを惚れさせたその男は、いったいどういうヤツなんだ?」
「そうだな、人懐っこい大型犬、といったところだろうか……?」
いや、もちろん仕事ができて男前で、優秀であることはまちがいないのだろうけれど、どうしても山下を思い浮かべるときは、真っ先にその満開の笑顔を思い出してしまうから。
「お、大型犬っ?!どういうことなんだい、トーヤ??」
「その言葉どおりだな、見ればわかる…と思う」
こうして会話をしていても、ふたりのあいだに流れる空気は、おだやかなものになってきていた。
コンコンコン……
と、そのとき、部屋の扉を控えめにノックする音が聞こえてきた。
「かまわん、開いているから入れ」
それにたいしてアレクが声をかければ、ゆっくりと扉が開く。
そしてその隙間からひょこっと顔を出したのは、まさかの夏希だった。
「失礼します。あの、兄さまとのお話は済みましたか……?」
まるで小動物のようなかわいらしさで小首をかしげてたずねてくる夏希に、思わずハッとしてあわててシャツのボタンを留めていく。
はだけたシャツと乱れた髪という今の俺の姿では、実際にはなにもなかったも同然だけれども、それでも誤解をあたえかねない姿だった。
「あぁ、つい先ほど長年の片想いが、無事に玉砕したところだ」
なんとも情けない声で応じるアレクのかげに隠れて、あわてて身だしなみをととのえる。
けれどこちらに近づいてくる夏希が気にしたのは、どうやらそちらのほうではなかったらしい。
「───って、兄さまの手枷が!!そんな、なんではずしているんですか?!」
「『なんで』って、これ以上ここにトーヤを引きとめていてもしょうがないだろう?」
「この……アレクさんの裏切り者ぉっ!!」
バチィッ!!
物騒な音にあわててふりむけば、俺の目に飛び込んできたのは、その場でくずれ落ちるアレクの姿だった。
「アレク!?」
受け止めようとしたけれど間に合わず、アレクはそのまま床へと沈む。
「ちょっと待っててね、兄さま。今度は僕が、必ずあなたのことを守るから」
「な、夏希……??」
いったい、なにが起きようとしているんだ?!
足もとからこみあげてくる悪寒に、思わずからだがふるえたのだった。
それこそ夏希を主役にしたゲームの本編に、攻略対象キャラクターとして登場したときの冬也は、無表情でなにをかんがえているかもわからなくて、それでいてなにをするにも完ぺきな面白みのない人間にすぎなくて。
この世のなかで、常に勝者として君臨しつづけてきた人物だった。
だからこそ、そんな彼では挫折の経験なんてなかったから、万が一のときの立ち直り方を知らなかったのだとしたら……?
それならば、はじめて味わうそれに耐えきれずにあっさりと折れ、ロクにあがきもせずに凋落エンドをむかえてしまったなんてこともあり得るだろう。
それにひきかえ今の俺は、たくさんの失敗をし、どうにか乗り越えてきたという経験がある。
ほかにも鷹矢凪グループの総帥として、自グループの社員たちひとりひとりの生活を預かっているという自覚もあった。
そういう意味では、ここで失敗すれば、その社員たちすら巻き込むことになってしまうという危機感があった。
この数週間、会社のためにと、汗水たらしてがんばってくれていた彼らの顔は、目をつぶっっていてもすぐに思い出せる。
こういうのはきっと、ゲームのなかの冬也には、最後まで持ちえなかった感覚だろう。
盤面の駒を動かす感覚で会社の経営をしていたあのころの冬也にとって、社員というものは数字か、もしくは記号程度の存在でしか認識できていなかったものだけど、言うまでもなくそれはとても傲慢な考えかただ。
いくら本人がカリスマ経営者だとしても、実際に企業を支えてくれるのは、そこで働く社員たちで、その彼らがいなければ冬也だけではどうしようもないというのに。
もちろん彼らは数字や記号ではなく、ひとりひとり独立した意識を持つ生身の人間だ。
おなじがんばるにしても、己の上司から、きちんと働きぶりを見て評価してもらえているとわかれば腐らずに済むし、さらにはその上司、ひいては会社のためにがんばろうという気持ちにだってなれるものだから。
なにより自分だって、たんなる数字や記号のためには、そこまで必死になれはしない。
大切に思う相手のためだからこそ、限界を超えてでもがんばろうという気になるものなのだし。
でもそれをゲームのなかの冬也は、最後まで気づけなかったのだろう。
今の自分とゲームのなかの冬也と、そのちがいはなんなのだろうかと考えてみれば、こたえはすぐに出た。
すぐそばで支えてくれている、山下の存在に気づけたのか否かだ。
山下のことを想うと、柄にもなく『あぁ、好きだ……』なんて、しみじみとそう思ってしまう。
それどころか、こうして相手のことを想うだけで、なぜだかふしぎと力が湧いてくるほどだった。
「はぁ~、負けたよ、完敗だ!トーヤの心のなかに、その男はずいぶんとどっかり居座っているらしいな。これ以上はいくら愛をささやいたところで、無意味のようだ」
「すまない、アレク……」
両手をあげて降参のポーズをとると、俺の上からどいたアレクが、がっくりと肩を落とす。
「あやまらないでくれ、トーヤ。あるいは今のキミならば、ワタシの好きにできるのではないかと考えた、我が身の不明を恥じよう」
そう口にするアレクの顔は、苦渋に満ちていた。
そしてアレクは自身のシャツの胸ポケットから取り出した鍵を使い、長らく己の手首を戒めていた金属製の枷をはずしてくれた。
「ケガはないな?」
「あぁ、大丈夫だ」
そのずしりと重かった感触がなくなり、思わずホッと息をつく。
とはいえ、いくらタオルをクッション材代わりにかませていたといっても、やはりそれなりに重みがあっただけに、あらわになった皮膚はかすかに赤くなっていた。
「───なぁ、本当にアレクの気は済んだのか?俺はどんなことをされようと、受け入れるつもりでいたんだが……」
世のなかには、たとえ心を通わせることはなかろうと、からだをつなげることだけでも癒されることはあるのだから。
今の俺にできる最大限の譲歩案として、覚悟を決めていたというのに。
「あぁもう!そんなかわいらしいことを言われたら、思わず心がぐらついてしまいそうになるだろう!……でも、もういいんだ。ワタシが欲しかったのは、その心もふくめたトーヤのすべてだからね。どんなときでも輝きを失わない、その高潔なるキミの魂こそ好ましいと感じてきたんだ。それを得られないというのなら、いくら抱いたところで、決して満たされはしないさ」
泣き笑いの顔で告げられたのは、こんなときでも紳士的なアレクらしいセリフだった。
「それに存外ワタシは保守的でね。負けるわけにはいかないからこそ、勝てない試合には最初から挑まないことにしているんだ。ついでに言えば、こう見えてワタシはたいそうモテるんだ。待っているだけでもチャンスなんて、いくらだってめぐってくるほどにね!」
「アレク……どうして……」
わざと明るい口調にしているのは、きっとこちらに気をつかわせないためだ。
だからこそ、よけいに胸が苦しくなる。
言いかけて止めたのは、『どうして、俺だったのだろうか?』ということだった。
今アレクが言ったように、アレクは学生時代からその身分と外見とで、男女を問わずたいそうモテていたのは言うまでもない。
なかには俺よりもはるかに条件の良い相手だっていただろうし、そんな彼らをえらび放題だったはずなのに……。
「男なんてバカなものさ、『初恋の君』には弱いものだろう?」
「あぁ、そうだな……」
言いかけた俺のセリフは正しく相手に伝わり、そしてたったそれだけで、俺にもアレクの言いたいことがわかってしまった。
アレクにとっての俺は、はじめて自分の言葉をあやまたずに理解をしてくれた人で、その衝撃は彼にとって、なにものにも代えがたいものだったというわけだ。
「───結局、俺たちは似た者同士だったというわけか……」
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「───ところで、興味本位で聞くのだけど、そこまでトーヤを惚れさせたその男は、いったいどういうヤツなんだ?」
「そうだな、人懐っこい大型犬、といったところだろうか……?」
いや、もちろん仕事ができて男前で、優秀であることはまちがいないのだろうけれど、どうしても山下を思い浮かべるときは、真っ先にその満開の笑顔を思い出してしまうから。
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そしてその隙間からひょこっと顔を出したのは、まさかの夏希だった。
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「あぁ、つい先ほど長年の片想いが、無事に玉砕したところだ」
なんとも情けない声で応じるアレクのかげに隠れて、あわてて身だしなみをととのえる。
けれどこちらに近づいてくる夏希が気にしたのは、どうやらそちらのほうではなかったらしい。
「───って、兄さまの手枷が!!そんな、なんではずしているんですか?!」
「『なんで』って、これ以上ここにトーヤを引きとめていてもしょうがないだろう?」
「この……アレクさんの裏切り者ぉっ!!」
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