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愛弟はプニプニ魔王様
神秘は突然目の前で起きました。
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「もう、知らない!」
変な親だとは常々思って来た。だけれども、両親は人類のための仕事をしているのだと言い聞かせ、どんなに寂しくても文句など言ったことはない。だと言うのにこれはあんまりだ。自分の部屋のドアを荒々しく締め、ベッドに飛び込む。
「フギャッ!?」
猫が押し潰されたような声が体の下からして驚く。
「き、君!? え、どうして???」
さっきまで確かに母の腕に抱かれていたはずの子供。その小さな身体がベッドの上で私に押し潰されていた。
「い、何時の間に? じゃ、なくて大丈夫!?」
苦しそうにするその子を抱き上げてやる。
「プゥ」
少し涙目で恨めしそうに睨まれてしまう。でも、ホッペを膨らませた顔も可愛らしい。
「え、えと、ごめんね?」
「……ウン」
このくらいの幼児だったら泣き叫んでも不思議ではないだろうに、もう先程の事は忘れたとばかりにベッドに腰かけ、小さな手でポスポスと隣に座れと言うようにベッドを叩く。
「……えっと、そこに座れば良いの?」
「ニャ!」
クリッと首を傾けられると、抱きしめたくなる愛らしさ。混乱している頭の中でそれだけははっきりと感じていた。
「君、えっと日本語分かるの?」
こっくりと頷くと、少し真面目な表情になったので、私の方も正座をして正面に対する。もっとも、ベッドの上なので余りカッコは付かないけれど。
「あのね、けいやくして?」
「……はい?」
けいやく、とは契約のことだろうか、意味が分かっているのかどうかも分からないが、どちらにしても幼児にはそぐわない単語だ。大体、一体なにを契約するというのだろう。
「あ、あのね、君。今、お姉ちゃんは君の相手を出来る状況じゃないの。下に行ってお母さんたちと……」
そう言いながら扉を開けようとして、先ほど閉めた時に鍵まで閉めていたことに気付く。そう、鍵は閉めたし、この子が私より先に着くことは考えにくい。では、なぜこの子は此処にいるのか?
「あのね、しゅじゅーけいやくしてほしいの!」
ニパッと可愛らしく笑いかけられるが、今の私はそれどころではない。密室に何も破壊せずに入って来られる存在を私は一つしか知らない。
「え、ゆ、幽霊?」
「? ゴーストのこと? ちんでないよ?」
そう言って私の手を取り、ホッペを触らせる。プニプニなのに、しっかりした弾力とみずみずしい肌は嫉妬してしまいそうなほどに心地良い。
「ね?」
プニプニプニプニプニ
「あの……」
プニプニプニプニプニプニプニプニプニプニ
「ねこちゃ……」
プニプニプニプニプニプニプニプニプニプニプニプニプニプニプニ
初めて触った魔頬の肌触りは衝撃的で、先程までのシリアスな考えなど吹っ飛び、病みつきになってしまった。少し興奮しながら両手で包み込むように、プニプニと偶にムニムニと触りまくる。
「ハプッ」
――指を食べられるまで無我夢中でつついてしまうほどに。
「もごっ、おちちゅいて?」
モゴモゴと私の指を甘噛みしながら言われ、ようやく我に返ることが出来た。
「プハッ、あのね? ごしゅじんたまになって?」
一昔前のテレビアニメで可愛らしい生物と契約して魔法少女になるものがあったそうだ。でも、あれの契約は主従契約なんてものじゃないし、自ら従者になるという話でもなかった。それに、もしも主従契約だというなら、いったい私は対価に何を渡すのだろう?
「ごしゅじんたまのまりょく、おいちいもん」
魔力、また随分とファンタジーな名詞が出てきたと思うと、その子はにっこりと微笑み、せっかく口から出した私の指をもう一度口に含む。幼児の暖かい体温に少し癒されていると、ふと浮遊感を感じ始める。
「え、え? えぇ!? 私、浮いているの!?」
ベットからほんの30センチほど、だけれども間違いなく浮いている。だけれども、モギュモギュと美味しそうに私の指を甘噛みするその子は浮いていることなど気にせずに、まるで飴でも舐めるかのように私の指を舐めている。
「……夢、だよね?」
自分の頬っぺたを抓ってみても、しっかりと痛い。身の周りに初めて起きた神秘を、私はただただ茫然と受け入れるしかなかった。
変な親だとは常々思って来た。だけれども、両親は人類のための仕事をしているのだと言い聞かせ、どんなに寂しくても文句など言ったことはない。だと言うのにこれはあんまりだ。自分の部屋のドアを荒々しく締め、ベッドに飛び込む。
「フギャッ!?」
猫が押し潰されたような声が体の下からして驚く。
「き、君!? え、どうして???」
さっきまで確かに母の腕に抱かれていたはずの子供。その小さな身体がベッドの上で私に押し潰されていた。
「い、何時の間に? じゃ、なくて大丈夫!?」
苦しそうにするその子を抱き上げてやる。
「プゥ」
少し涙目で恨めしそうに睨まれてしまう。でも、ホッペを膨らませた顔も可愛らしい。
「え、えと、ごめんね?」
「……ウン」
このくらいの幼児だったら泣き叫んでも不思議ではないだろうに、もう先程の事は忘れたとばかりにベッドに腰かけ、小さな手でポスポスと隣に座れと言うようにベッドを叩く。
「……えっと、そこに座れば良いの?」
「ニャ!」
クリッと首を傾けられると、抱きしめたくなる愛らしさ。混乱している頭の中でそれだけははっきりと感じていた。
「君、えっと日本語分かるの?」
こっくりと頷くと、少し真面目な表情になったので、私の方も正座をして正面に対する。もっとも、ベッドの上なので余りカッコは付かないけれど。
「あのね、けいやくして?」
「……はい?」
けいやく、とは契約のことだろうか、意味が分かっているのかどうかも分からないが、どちらにしても幼児にはそぐわない単語だ。大体、一体なにを契約するというのだろう。
「あ、あのね、君。今、お姉ちゃんは君の相手を出来る状況じゃないの。下に行ってお母さんたちと……」
そう言いながら扉を開けようとして、先ほど閉めた時に鍵まで閉めていたことに気付く。そう、鍵は閉めたし、この子が私より先に着くことは考えにくい。では、なぜこの子は此処にいるのか?
「あのね、しゅじゅーけいやくしてほしいの!」
ニパッと可愛らしく笑いかけられるが、今の私はそれどころではない。密室に何も破壊せずに入って来られる存在を私は一つしか知らない。
「え、ゆ、幽霊?」
「? ゴーストのこと? ちんでないよ?」
そう言って私の手を取り、ホッペを触らせる。プニプニなのに、しっかりした弾力とみずみずしい肌は嫉妬してしまいそうなほどに心地良い。
「ね?」
プニプニプニプニプニ
「あの……」
プニプニプニプニプニプニプニプニプニプニ
「ねこちゃ……」
プニプニプニプニプニプニプニプニプニプニプニプニプニプニプニ
初めて触った魔頬の肌触りは衝撃的で、先程までのシリアスな考えなど吹っ飛び、病みつきになってしまった。少し興奮しながら両手で包み込むように、プニプニと偶にムニムニと触りまくる。
「ハプッ」
――指を食べられるまで無我夢中でつついてしまうほどに。
「もごっ、おちちゅいて?」
モゴモゴと私の指を甘噛みしながら言われ、ようやく我に返ることが出来た。
「プハッ、あのね? ごしゅじんたまになって?」
一昔前のテレビアニメで可愛らしい生物と契約して魔法少女になるものがあったそうだ。でも、あれの契約は主従契約なんてものじゃないし、自ら従者になるという話でもなかった。それに、もしも主従契約だというなら、いったい私は対価に何を渡すのだろう?
「ごしゅじんたまのまりょく、おいちいもん」
魔力、また随分とファンタジーな名詞が出てきたと思うと、その子はにっこりと微笑み、せっかく口から出した私の指をもう一度口に含む。幼児の暖かい体温に少し癒されていると、ふと浮遊感を感じ始める。
「え、え? えぇ!? 私、浮いているの!?」
ベットからほんの30センチほど、だけれども間違いなく浮いている。だけれども、モギュモギュと美味しそうに私の指を甘噛みするその子は浮いていることなど気にせずに、まるで飴でも舐めるかのように私の指を舐めている。
「……夢、だよね?」
自分の頬っぺたを抓ってみても、しっかりと痛い。身の周りに初めて起きた神秘を、私はただただ茫然と受け入れるしかなかった。
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