プニプニほっぺの魔王様

アイム

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愛弟はプニプニ魔王様

夢、の話です。

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 自分が寝ているのだと分かる。
 そう、これは夢、夢なのだ。

 頭は何となくハッキリとしているのに、身体が何処かぽわぽわした温かい膜に包まれているような。
 そんな感覚。

「ご主人様」

 クスリと笑う目の前に現れたやたらと綺麗な金髪の少女は、何処か悪戯めいた瞳で私を見つめていた。

「フフ、本当に可愛いご主人様だ」

 ペロリ、と、頬を舐められてしまう。

「ッ!? な、なに!?」

 慌てて飛び退こうとしても、身体は思う様にならない。此処は所詮夢の中、身体が自由にならないこともある。

「ん~♪ 美味しい!」

 本当に心の底からそう思っている様に、ニッコリと笑う少女は蠱惑的な、いや、何処か捕食者めいた笑顔で覗き込んでくる。

「こんな可愛くて美味しいご主人様で嬉しいな♪」

 そのまま体を重ねるように抱きつかれ、耳元で怪しく囁かれる。

「あ、貴女は……?」

「フフ、ご主人様の手下だよ? 奴隷でも良いし、ペットでも良いよ?」

 ナデナデと、動けない私を撫でるその姿から、どうして自分がこの少女の主人と言えるだろう?

「あ、でも、性別は間違えて欲しくないなぁ。俺はオスだからね♪」

「ひゃゥッ!?」

 そう言って耳を甘噛みされてしまう。ゾワリと背筋に走った悪寒に、思わず声を上げてしまうが、そんな事はお構いなしに少年(?)はチロチロと耳たぶを舌先で弄る。

「ハァ、本当に美味しい」

 何が美味しいのか分からないが、私をご主人様と呼ぶこの少年は確実に私を食べている。それは決して肉体的な話ではないし、精神的な話でもないのかもしれない。でも、私は何かを食べられている。それが分かっていた。

「や、やぁあ」

 でも、私は碌な抵抗も出来ない。そもそも夢なのでまともに体が動かないのだが、動いたとしてもやはり抵抗できなかっただろう。

 何故だろう? 私は食べられることに妙な幸福感を感じていたのだ。今までに感じたことの無いそれは、感じること自体に恐怖を覚えるものだった。そう、一度知ってしまえば戻って来られない。そう直観的に分かっていたのだ。

「なんで? ご主人様は俺が嫌い?」

 そうじゃないことは分かり切っている。この少年を拒絶できる者などいない。この、天使の様な外見の少年は、悪魔の様に私の精神を蝕んでくる。

 ツツッと、耳たぶを弄っていた舌が首筋に降りていく。為すがままの私はもう、抵抗すると言う意識まで食べられてしまった。

「俺はご主人様が大好きだよ? 全部食べてしまいたいくらいに」

 その言葉は、むしろ魅力的な提案に思えた。いっそ全部食べてもらいたい、それほどに彼の食事は私に快楽を与え、多幸感に苛まされる。

「でも、まだ俺も目覚めたばかりだからね。もう少しの我慢。もう少ししたら、フフッ」

「ツッ!?」

 鋭い痛みを首に感じる。夢なのに痛みを感じたのだ。

「……残念、もう朝みたいだね。また明日逢おうねご主人様?」

 コツンと、少年がおでことおでこを合わせてくる。そして、そのまますごく近いところでほほ笑む。明日もまた私を食べてくれる。そんな倒錯した思いを抱き、少しずつ世界が明るくなっていく。

「じゃぁね」

 バイバイと言う様に手を振る少年が姿を消していく。

「ま、待って、君は一体!?」

「ん? 俺の名はアス……



 何故か上半身を起こし、手を伸ばした状態で目が覚める。こんなことは初めてだ。

「えっと、……何だったっけ?」

 自分は何かを掴もうとしたのか、それとも押し退けようとしたのか、それとも、ただ手を伸ばしただけなのか。夢を見たような気はしても、その夢の内容は覚えていない。

「あ、あれ、寝汗? 昨晩は暑かったのかな」

 じっとりと汗で濡れた寝間着に戸惑ってしまう。

「……あ、違うね」

 だけど、それは胸から首元にかけてが一際ひどい。まるで誰かがモギュモギュしたり、ダバーッと涎を垂らしたように濡れているのだ。

「とらくんだなぁ」

 私の布団に勝手に入り込み、未だグッスリと寝ている愛弟は、今は私の枕をモギュモギュしている。

「うん、お風呂入ってから考えよ」

 時刻は朝の6時。お風呂に入ってから朝ご飯とお弁当を作り、とら君を幼稚園に送り届けて学校に行く。そうそう、その前にとら君の持ち物もチェックしなければいけない。脱衣所に着いてもズットそんな事を考えていた。全身がしっとりと濡れているパジャマを脱ぎ……少し心に引っかかった疑問は吹き飛ばす。

「今日はハンバーグにしようかな」

 お風呂に入っている間にお弁当のことも考えなければいけない。夢のことなど、私は疾うに気にも留めなくなっていた。
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