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エンドロールが終わる
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頭がズキズキと痛む。
閉じていた瞼がゆっくりと開いていく。すると赤い何かが俺の視界を埋めた。赤い……座席のようだ。
顔を動かして見てみると、その座席は前にも横にも後ろにも配置されていた。そして真ん前、壁一面に広がった大きなスクリーンが、俺をじっと見つめていた。
ここは……映画館か……?
立ち上がって探索して見たところ、映画館で間違いなさそうだ。それも普通の、よくある映画館だ。
出入り口のドアを開けようとしてみたが、鍵が掛かっているのか開かなかった。
つまり、完全に閉じ込められたのである。ここに……、この映画館に。一体誰が、何の為に……。
思考を巡らせていると、俺は大切なことに気が付いた。
ないのである。記憶が。
眠る前、何処で何をしていたのかだけではない。住所も、年齢も、友人関係も、家族構成も……自分の名前さえも、わからないのだ。
自分に関する記憶が一切残っていない。
その事に気が付いた途端、内から出る猛烈な不安感が俺を襲った。頭がふわふわして、まるで頭部だけ宇宙空間にあるかの様な感覚に陥る。足元がおぼつかなくなり、急いで近くにあった座席に腰をかける。息……息が、うまく出来ない。
ヒュー、ヒューと鳴る喉を落ち着かせる。
だが……、何故だろうか、それがとても自分には似合っていて、心地よいと感じてしまうのだ。
身体と心がまるで繋がっていない。
果たして、どちらが正常なのか……、それとも……
ブーっというブザー音が響き渡る。
驚いて前を見ると、真っ暗だったスクリーンが光り始めていた。
何か映像が流れるのだろうか。
何故だろう、こんな摩訶不思議な出来事の最中だというのに、俺の胸は期待でいっぱいだった。
しかし、期待は裏切られた。
勿論、悪い意味で。
映像の内容は、情けない一人の青年の人生をただ映しているだけのもので、はっきり言ってとてもつまらなかった。
こんなのが実際に映画館で流れたら、確実に100人中100人がつまらなかったと答えるだろうし、寝る人や途中退場する人が跡を絶たないだろう。
映像の青年は終始悲しそうな、辛そうな顔をしていた。泣いている場面も多かった。
確かに、辛そうだなと感じる場面はあったが……、泣くほどか?と疑問に思う。
ラストは突然終わるし、そういうところがつまらないと思わせる要因なのだろうか。
そんな事を考えながら、俺はエンドロールを冷めた目で見ていた。
いや、エンドロールと言って良いのだろうか。
目の前のスクリーンには、 木名瀬 健人 という名前だけが永遠に流れているのだ。
その様はただただ気味の悪いものであった。
暫くするとその奇妙なエンドロールも終わりを迎えた。
劇場内の明かりが付き始める。
しかし、
まだ映っている。
今まで散々見てきたあの青年が、こちらをじっと見つめているのだ。
「あ
俺だ。」
閉じていた瞼がゆっくりと開いていく。すると赤い何かが俺の視界を埋めた。赤い……座席のようだ。
顔を動かして見てみると、その座席は前にも横にも後ろにも配置されていた。そして真ん前、壁一面に広がった大きなスクリーンが、俺をじっと見つめていた。
ここは……映画館か……?
立ち上がって探索して見たところ、映画館で間違いなさそうだ。それも普通の、よくある映画館だ。
出入り口のドアを開けようとしてみたが、鍵が掛かっているのか開かなかった。
つまり、完全に閉じ込められたのである。ここに……、この映画館に。一体誰が、何の為に……。
思考を巡らせていると、俺は大切なことに気が付いた。
ないのである。記憶が。
眠る前、何処で何をしていたのかだけではない。住所も、年齢も、友人関係も、家族構成も……自分の名前さえも、わからないのだ。
自分に関する記憶が一切残っていない。
その事に気が付いた途端、内から出る猛烈な不安感が俺を襲った。頭がふわふわして、まるで頭部だけ宇宙空間にあるかの様な感覚に陥る。足元がおぼつかなくなり、急いで近くにあった座席に腰をかける。息……息が、うまく出来ない。
ヒュー、ヒューと鳴る喉を落ち着かせる。
だが……、何故だろうか、それがとても自分には似合っていて、心地よいと感じてしまうのだ。
身体と心がまるで繋がっていない。
果たして、どちらが正常なのか……、それとも……
ブーっというブザー音が響き渡る。
驚いて前を見ると、真っ暗だったスクリーンが光り始めていた。
何か映像が流れるのだろうか。
何故だろう、こんな摩訶不思議な出来事の最中だというのに、俺の胸は期待でいっぱいだった。
しかし、期待は裏切られた。
勿論、悪い意味で。
映像の内容は、情けない一人の青年の人生をただ映しているだけのもので、はっきり言ってとてもつまらなかった。
こんなのが実際に映画館で流れたら、確実に100人中100人がつまらなかったと答えるだろうし、寝る人や途中退場する人が跡を絶たないだろう。
映像の青年は終始悲しそうな、辛そうな顔をしていた。泣いている場面も多かった。
確かに、辛そうだなと感じる場面はあったが……、泣くほどか?と疑問に思う。
ラストは突然終わるし、そういうところがつまらないと思わせる要因なのだろうか。
そんな事を考えながら、俺はエンドロールを冷めた目で見ていた。
いや、エンドロールと言って良いのだろうか。
目の前のスクリーンには、 木名瀬 健人 という名前だけが永遠に流れているのだ。
その様はただただ気味の悪いものであった。
暫くするとその奇妙なエンドロールも終わりを迎えた。
劇場内の明かりが付き始める。
しかし、
まだ映っている。
今まで散々見てきたあの青年が、こちらをじっと見つめているのだ。
「あ
俺だ。」
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