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第一章 終わり。そして、新たな道へ。

番外編 Ep.1.5〈彼の後ろ姿〉-⑥ 違和感

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え、なんで神楽坂君がここに?
佑介君を打ち上げに誘っておいてもらっているはずだ。

神楽坂君は榊原君を殴り飛ばした右手を少し痛そうな顔をしてさすりながら私に頭を下げてきた。

「すまん、本当にすまん。
 アイツのこと、さっき誘おうとしたんやけど。
 アイツ、なんかいつものおとなしい感じと違っててなんか機嫌悪くてさ。
 それで、なんか俺、ちょっとだけビビってまって……。
 本当に、本当にすまん!」

誘うことが出来なかったのは残念だけど、神楽坂君を責めるのは違う。
まだ多分学校内にはいると思うし、が終わったら、直接、きちんと私の言葉で彼の事を誘おう。

そういえば……なんで佑介君の機嫌がそこまで悪かったのだろうか……?
元々今日体調でも悪かったのかな?
朝見た時はいつも通りの感じで、そんな風には見えなかったんだけどなあ。

「大丈夫!
 ありがとう、神楽坂君。
 これが終わったら、直接私が彼を誘ってみる。」

「お、おう。
 せやな、まずはコイツやな。」

神楽坂君はそう言って、頬を抑えてうずくまっている榊原君に視線を移し、語りかけた。

「なあ、榊原。
 中学時代、おまえがいじめられてたのを俺は知っとる。
 それを助けられんかった俺も、おまえをいじめてた奴らと同罪な傍観者ちゅう奴なのも俺は分かっとる。
 それについて、まず謝罪させて欲しい。
 すまんかった。」

神楽坂君は深々と頭を下げた。
だが榊原君は俯いたまま、何も言わない。

「謝って許されんてのも分かる。
 だがな、それをやり返したいんだったら、罪のない人を巻き込むのはやめてくれや。
 俺が背負う。
 やから……!」

そこまで言った所で榊原君は立ち上がった。
その表情は……。

笑っていた。
いつもみんなに対して向けているあの笑顔があった。

でも、今ならなんとなく分かった。
これは、彼が笑顔だ。
彼は今、偽っている。
自分自身を。

「ははは。
 冗談だって~。
 マジになんなよ、佐川さんも、神楽坂も!
 ジョークだよ、ジョーク!
 文化祭最後のジョークだよ!
 じゃあ俺、教室帰るわ~
 また後で~」

そう言って彼は校舎の方に走って行った。

しばらく、続いた沈黙を打ち破ったのは神楽坂君だった。

「ほ、ほな、俺らも教室帰ろか?
 佑介に早く言わんと、アイツ帰ってまうで?」

「そ、そうだね」

二人で校舎の方に向かって歩いてる間、私達の間に会話はなかった。

でも、多分彼もなんとなく分かっていたんだと思う。
榊原君のさっき見せたあの笑顔が偽物だってことに。

もしあの時、お互いに違和感を共有して、走って校舎に帰っていたら、あの悲劇は止められたのかもしれない。
今では、そう思う。


教室に帰ると、数人の女子の友達が駆け寄って来た。

「おかえり、亜里沙!
 ねーねー、今さっき榊原が荷物持って走って帰っちゃったんだけど、なんか知らない?
 亜里沙、さっき告白されたんでしょ?」

え?

告白されたことがバレてることにも驚きだけど、それ以上に……。

「そーそ。
 打ち上げ来てもらいたかったのに~」

「え、ありちゃん、榊原君に告白されたの!?
 で、で、で!?
 なんて返事したの!?」

榊原君が……帰った?
やはり何かおかしい気がする。
さっきの態度の豹変具合といい。

何か違和感を感じつつ、会話に応答する。

「ん~。
 断ったんだよね、実は……」

「え!
 本当!?
 あの完璧様の告白を!?
 もったいない!」

一人の女子が信じられないとでもいうような反応を示した。

あ、そういえばこの子は榊原君信者だったっけ?

「ふふん、やっぱり亜里沙は佑介君推しだもんね!」

ちょっと!
なんで知ってるの?
神楽坂君以外に相談してないのに!
もしかして……神楽坂君がバラした……?

「えー、はるかー、なんで知ってるの~!」

「そりゃ親友だもん!
 なんとなく態度で分かるよ~」

えー、そうなの!?とか驚いてる子達がいる中、私は内心少しホッとしていた。

よかった~。
どうやら神楽坂君が裏切ったわけではないみたいだ。

しかしその束の間の安息はすぐに打ち砕かれた。
ちょうどその時、正にその神楽坂君が焦った表情をしながら話しかけて来た。

「お、おい、佐川。
 いねえ!」


誰が?

「え?」

「い、いねえんだ!
 佑介と、榊原、両方とも!
 で、佑介が帰ったってことを聞いた直後に、榊原が帰ったらしい!」

ゆ、佑介君も!?
それに、聞いた直後に帰るって……。
まるで、佑介君のことを追いかけたかのような……。

「ま、まさか……!」

「せや!
 佐川!
 急がんと佑介が危ない……!」

***
おはようございます!錦木れるむです!Ep.1.5の完結までもう秒読みですねー。あ、ちなみにこれが、初のカクヨムとのリアルタイム投稿だったりします。

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