妹のままでいさせて

深宙 啓 kei Misora

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第三章 【急】全てを懸けて

第51話 もしかして1億段あるかも知れないけどね

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「待ってて、お姉ちゃん。今溶かしてあげる」

 そう言って勇ましく伸ばしたその右手から、

「はっ」 

 まるでアニメの魔女っ子みたいに光る花びらを大放出。凍った一山に浴びせ続けた。みるみる解凍部位が広がって行き、氷の塊から姉が姿を現す。

 やがて全身が露出すると、左手からも『えぃっ』と加勢、見る間に全てを溶かし尽くす。

 笑顔で『さぁ』と声をかけ、姉の手を掴み体を引き起こす蘭。得意げのどや顔。

「何で私だと分かったの?」


「私こそがお姉ちゃんの唯一血の繋がった姉妹なんだよ。お姉ちゃんストーカーの私が見つけられなくて誰が見つけるの! 」

「ぅ……グスッ、さすがだね……」

「本当言うとね、ずっと泣いてたの。でも、お兄ちゃんが教えてくれたの。お姉ちゃんはまだちゃんと心が続いてるって。だからお兄ちゃんのお陰でも有るんだよ」

 ……お兄ちゃん!

「さあ、もう動けるから早く! 時間が無い、あっちへ向かって走って!」

「う、うん、ありがと、蘭ちゃん」


「 間に合わなければ永遠の眠りだからね!とにかく急いで!!」

 闇の中、指さす方向には妖しく光る何かが見える。
 ありがとう! と叫んで走り出す澄美怜すみれ。 

 魔法を浴びた腹部は更に温かさを増し、力がどんどん沸いてくる。その腹部に手を当てててみる。

「温かい……すごい、蘭ちゃん……こんなにも温かいよ!」


 意識はまだ消えず、その不思議な夢はそのまま続いた――――


 *


 一方、現実の世界では。

 蘭が置いていったもう一つのもの。
 ベッドの上では耳元に置かれたスマホから薊からのボイスメッセージが流れ始める。


「スミレ……聞こえる?……

 あざみだよ。

 ……

 最近いくらメッセしても返事ないから……
 どうしたかと蘭ちゃんに聞いたら……

 そんな大変な事になってて……


 でももしかしたら声なら届くかなって思ったから……


――― ねえ、私、スミレのおかげで悔いのない恋が出来た。そっちの最高の中高生活が送れた…… 


 それでこっちに来て気付いた……


 そっちがあんなに楽しかったのは
 スミレが居たからだって……


 だから…… 

 今は大変かも知れないけど、私は信じてる。


 絶対戻って来なよ!  


 ……っっくっ……


 ……約束したよね、深優人みゆとのこと任せたって……

 う……う……グスッ……



 アンタが取り憑かなくて誰がやるっっ!!!



 もし!……

 もし約束破ったら……


 うう……

 ぐっ……


 絶対許さないから――――――っっっ!!    
    ……はううう……グスッ……



 ……私はスミレの言う通り……
 残り1億段、登りきったよ……


 だからアンタもどんなに大変でもっ!
 這い上がって来なさいよっ!!  ……


 ……んん……スズッ……ゴクッ……



 ……待ってるよ。


 必ずだよ……


 元気になったら逢いに行くから……

 ……きっと……



 じゃ、またね……      

  ―――プツッ」




  : + ゜゜ +:    。 .。: +    ゜ ゜゜ +:。. 。


 黒き闇の夢の世界で――――

 妖しく光っていた場所まで来ると、そこは分厚い氷の壁が阻んでいた。

 氷の向こうからボンヤリと光が透過してくる。厚さ数十センチ、或いは1M位はあろうか。上に登って越えられないか見上げて驚いた。







 それは高さが自分の背丈の20倍を越える程の巨大なドームとなっていて、そこに幽閉されていると直感した。 その壁は叩こうが何しようが壊れない。

 ここまで来たのに出られない! 
 ああ、誰かっ! 出してっ……

―――声が氷に反射してエコーの様に響く。

 『誰か―――っ! 』

 悔しそうに叩きながら力尽きるように膝から折れる。ここで終わるのかと……




「パンジー!」

 えっ!!……

  「それとも今日だけ特別に、ヴァイオレットッ!」  



 ……その聞き慣れた声は!


 薊さん?!  とその姿を探す。氷の向こうから差す光には見覚えあるツインテールのシルエット

「なに諦めてんの!」

「だって……」

「だからあの時、何があっても絶対に負けちゃだめだ、って言ったでしょ」

「うん……だけど……」

深優人みゆとのこと、任せたって言ったよ」

「でも、もうここから進めないよ……」

「そもそも今更戻ってどうするつもり?」

「だって……全部思い出して……でも、やっぱり未練なのかな……戻れば兄さんを犠牲にするのかな……」

「スミレ、もう忘れたの?  迷惑掛けたくなくて逆にこれ以上ないダメージ与えたんじゃなかったの?……このドームは自分自身の囚われの結界。
 いつ迄もここで守られているから本当の兄の心を守れない。それでいいの?!」

「守りたいけど……何もしてあげられない……」

 「ホント相変わらずバカ! 自分を捨てれば兄を守れるだなんて。アンタに出来る事なんてそんな自分を晒してでも全力で守られて、そうやって惨めだろうと全力で尽くす事ぐらいでしょ! 
 全てを捨ててでもあの人の所へ飛び込んで行けないなら、私がもらっちゃうよ!」

 そう言われると、その相手は言いたい事が言える薊。つい反発心が。

「イヤ、だめ。それは大事なものなの」
「そんなの知らない」
「だめ。イヤ」

「立ち上がる気が無いなら渡さない」
「だめ……いやだ……」

「その程度の恨性なら任せられない!  もう私が行くっ!」

「いやだ……それは、それは絶対……
 ……ぜぇったいっ  、
 イヤァァァァァァ―――――――ァァッ!!!」 


    心からの金切り声の大絶叫は衝撃波となって巨大ドームの大崩壊を起こし、スローモーションの様に破片は分解し続け、美しく煌めきながら虚空へと散ってゆく。

 自分の本気がここまでの力をもっていたとは……そう自分で驚く。

 そして美しく散りゆく破片の先に現れてくるあの笑顔。 

『やれば出来るじゃん』

 そういえば……薊さんとはいつも素直に奪い合えた……百合愛姉さんにはどうしても譲ってしまうのに。

「薊さん、(……腑甲斐ない私に気合いを入れてくれて……) ありがとう。これで自由に行動出来る」

「やっとここ迄来たね」

 幼児の様に素直に「うん」と頷く。―――こんなに心強い援軍があっただろうか。

「この先に階段の洞窟がある。そこを一気に抜けて進むんだ」

 指を差す方向には巨大な氷の山が立ちはだかり、そこに1つのほこらが見える。

「うん、分かった」

「急ぎなよ。時間がないから。でも長い階段だからへこたれるんじゃないよ。そうそう、もしかして1億段あるかも知れないけどね、フフッ」

 ウインクして悪戯っぽく笑う薊。

「こんな時まであの時の仕返しですか?!」

 と言いつつ呆れたような、照れ臭いような、そんな複雑な笑みを浮かべ、愛しそうに見つめる澄美怜すみれ

「……でも、力をくれてありがと。じゃ、行くね」

 人を貶めようとした言葉というのは得てして見事に自分に返って来てしまうものだ。あの時の自分を恥ずかしく思った。

 ……思えばこの恋を自覚出来たのはこの人が居たからだよね。そしてこの人がいたから私はお兄ちゃんやお姉ちゃんの付属物ではなく、拙くても自我が目覚めて、私が私になったんだ。

 そしていつでも私に無謀なパワ―を与えてくれる。本当に得難い存在だったんだ。

―――私、任された。だから、頑張る!

  さらにその先へと力強く走って行く。


    *


 現実の世界―――― 

 天啓により知らされた『カギを渡された』と言う安堵によるものか、或いは力尽きたか、深優人みゆとは意識が遠退いてソファーに崩折れたままだった。

 だが隣家では、深優人みゆとのその異様な意識の変容を察知した百合愛ゆりあが心配になって胸の前で手を結び念を込めていた。

 少し前に兄が受け取った『お兄ちゃん助けて』の澄美怜すみれの念声も、百合愛ゆりあもその疎通の力でほぼ同時に受け取っていたのだった。

『……澄美怜すみれちゃん!』

 ……今こそ澄美怜すみれちゃんのために……。

 それが深優人みゆとくんの幸せにも繋がるのだから。

 そう、生まれながらに不信しかなかった私が、一つでも信じられる事が出来たのはあの二人のお陰。
 それがなければ私は一生灰色の世界に生きていた……
 
 そう。この祈りは追い求めていた理想の世界をずっと示し、与え続けてくれたあの二人へのせめてもの恩返し。

 だからどうか届いて!

 澄美怜すみれちゃん……私の前の生の不幸は遥かな過去。 でも澄美怜《すみれ》ちゃんのものは現世で受けてしまった悲しい業。

 本当に報われるべきはあなたなのよ。

 それをあなたが理解できる様に、私はこの全霊の祈りであなたの背中を押し続ける……


 ―――百合愛ゆりあはその疎通の力を祈りに変えて、在らん限り振り絞った。



  *



 ひたすら階段の洞窟を駆け上る澄美怜すみれは息を切らせて先を急いだ。

 ようやく洞窟を抜けると一気に視界が開け、広大な宇宙空間が広がっていた。月明かりの下、静謐な森の湖畔のような穏やかな海にたどり着いた。

 雪の様に光の粒がゆっくりと舞い降りている幻想的で穏やかな闇の世界。その畔には光をまとった麗しい人型。

 それはまるで女神のよう。
 優しげに「待っていたわ」と出迎えるその人。


―――いつ見ても美しい。


百合愛ゆりあお姉さん!」







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