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カカシの村
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山奥の小さな村には、代々伝わる言い伝えがあった。
「田んぼのカカシには、感謝を忘れるな」
村人は毎年、収穫の終わりにカカシへ供物を捧げ、手を合わせて「ありがとう」と感謝を述べる。カカシは、村の豊作を見守る守り神だからだという。
都会からやってきた翔太は、そんな風習を馬鹿にしていた。
「カカシに感謝? くだらねぇ。あんなボロ布の人形に拝むなんて、バカみたいだ」
翔太は村人の目を盗み、供物の米や酒を適当に捨てた。
その夜、妙な気配を感じて窓を覗くと──
庭の真ん中に、一体のカカシが立っていた。
「……なんだよ、気味が悪いな」
昨日まで田んぼにあったはずのカカシだ。誰かがいたずらで動かしたのかもしれない。
だが翌朝、翔太は絶句した。
カカシが玄関の目の前に立っている。
「……冗談だろ?」
背中に嫌な汗が伝う。翔太は村の老人に相談した。
「お前、まさかカカシに感謝しなかったのか?」
「そんなもん、ただの迷信で──」
「バカ者!!」
老人の顔は恐怖に歪んでいた。
「カカシはな……恩を忘れた者を欠かしていくんじゃ……」
ぞわり、と翔太の背筋が凍る。
「……欠かし?」
その言葉の意味を理解する前に、全身に奇妙な寒気が走った。
──ズキン。
激痛が走り、翔太は悲鳴を上げた。
見れば、自分の右手がなかった。
そこにあったはずの手が、まるで初めから存在しなかったかのように、跡形もなく“欠けて”いた。
「う……嘘だろ……?」
慌てて村人たちに助けを求めるが、彼らは誰も翔太の手のことを認識していないようだった。
「お前、何を騒いでいるんだ? 元々右手なんてなかったじゃろ」
「え……?」
まるで、最初から“欠けて”いたかのように。
──次の日、翔太の左足がなくなった。
──その次の日には、片目が消えていた。
自分の体が少しずつ、誰の記憶からも“欠かされて”いく。
そして、翔太の姿は完全に消えた。
彼を覚えている者は、もうどこにもいない。
静まり返った田んぼに、一体のカカシが立っていた。
ボロ布の袖が、風に揺れている。
まるで、そこにかつて人間だった何かがいたことを、わずかに名残惜しんでいるかのように──。
「田んぼのカカシには、感謝を忘れるな」
村人は毎年、収穫の終わりにカカシへ供物を捧げ、手を合わせて「ありがとう」と感謝を述べる。カカシは、村の豊作を見守る守り神だからだという。
都会からやってきた翔太は、そんな風習を馬鹿にしていた。
「カカシに感謝? くだらねぇ。あんなボロ布の人形に拝むなんて、バカみたいだ」
翔太は村人の目を盗み、供物の米や酒を適当に捨てた。
その夜、妙な気配を感じて窓を覗くと──
庭の真ん中に、一体のカカシが立っていた。
「……なんだよ、気味が悪いな」
昨日まで田んぼにあったはずのカカシだ。誰かがいたずらで動かしたのかもしれない。
だが翌朝、翔太は絶句した。
カカシが玄関の目の前に立っている。
「……冗談だろ?」
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「お前、まさかカカシに感謝しなかったのか?」
「そんなもん、ただの迷信で──」
「バカ者!!」
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「カカシはな……恩を忘れた者を欠かしていくんじゃ……」
ぞわり、と翔太の背筋が凍る。
「……欠かし?」
その言葉の意味を理解する前に、全身に奇妙な寒気が走った。
──ズキン。
激痛が走り、翔太は悲鳴を上げた。
見れば、自分の右手がなかった。
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「う……嘘だろ……?」
慌てて村人たちに助けを求めるが、彼らは誰も翔太の手のことを認識していないようだった。
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「え……?」
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──次の日、翔太の左足がなくなった。
──その次の日には、片目が消えていた。
自分の体が少しずつ、誰の記憶からも“欠かされて”いく。
そして、翔太の姿は完全に消えた。
彼を覚えている者は、もうどこにもいない。
静まり返った田んぼに、一体のカカシが立っていた。
ボロ布の袖が、風に揺れている。
まるで、そこにかつて人間だった何かがいたことを、わずかに名残惜しんでいるかのように──。
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