ボクと魔剣と時々勇者 〜『忌子』と呼ばれ追放されたボクが泣き虫勇者な妹と戦う理由〜

愛善楽笑

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37話 脅威、去りて

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「く……てめぇみたいなガキに……屈するとは……ッ」 

「ぐ……がは、ぁ」

 ハンスの装備している鎧がまるで果物を切るかのように二つに分かれた。

 一拍遅れてハンスから赤い飛沫が上がると、膝から崩れ落ちる。

 聖剣が折れたとはいえ、魔剣の膂力を抑えられた逃した、ハンスは致命傷には至っていなかった。


 ……これが上位聖騎士なのか……本気の全力で斬りつけたのに……さすがとしか言いようのない。

 驚きの感情を心に押し留め、気がつくとボクは魔剣を振り下ろした姿勢のままでいた。

 荒い息で肩を上下する中、ふと見ると手首から滴り落ちるハンスの返り血。
 そして魔剣ソウルイーターに降りかかった返り血がまるで吸い取るかのように吸収されていく。

『うえ……まっず』とメルがぽつりと呟いた声を聞き流しながら……ボクはただ目の前の聖騎士を見ていた。

 目の前で片膝をついてもなお、それでも戦意を失わないハンスのすぐ側で……折れた聖剣がゆっくりと、その輝きを消していくのを瞳に映しながら。



 ◇




「っハンス!! なんということだ……!!」


 ウェドガーと交戦中の聖騎士キルザは信じられない光景を目にする。ロイヤルアークナイツ最強とは言えなくも、第二師団を任される程の聖騎士が血を流し膝をついているのだ。さらに目を疑うのは大地に転がる折れた聖剣フラガラッハ。

 目線を別方向へ向けてしまったキルザの隙。その一瞬の刹那を剣聖ウェドガーは見逃さない。ジョンソンに生じた僅かな隙を捉え目にも止まらぬ一閃を浴びせ。

「……ッ!」

 キルザはその斬撃に顔をひきつらせていた。かろうじてその剣線をツヴァイヘンダーで防ぐも、間合いを詰められ攻防が逆転していく。

「くッ……!! ハンス! 残念ですがここまで……退却しましょう!!」

「んだ……とぉ? ふざ……けるな…ッ」

 ハンスは悲痛な声をあげる。血走るような目には悔恨の念が灯っていた。聖剣を折られ、第二師団の頂点に君臨するプライドまで折られても、誇りまでは折れてはいなかった。

 だが。

「まったく……! たまには私の言うことを素直に聞いたらどうなんです!! 死にますよッ?! それに、ロイヤルアークナイツ筆頭を貴方は目指していたのではなかったのですかッ?! このままその願いを叶えることなくその命を散らしたいならそれはそれで結構!! 好きにすればよろしい!!」

 キルザが絶叫した。
 打ち付けられる唸るようなウェドガーの猛剣を防ぎながらその声を響かせる。
 縦横無尽に大気を斬り裂くような剣撃を受け止め続けるキルザに向かい、ハンスは顔をひきつらせた。

「……くそぉッ」

 全身が悲鳴を上げ、絶え間なく迸る血を止めるように右手で押さえながら、ハンスは苦悶の表情を浮かべ呟く。
 魔族を殲滅するといった漠然とした願望、そして堕天使族を根絶やしにせよ、と仰せつかった任務を完遂できなかったことに口を噛む。

 堪らなく感じる苛立ち。
 初めて、己が魔族に敗北を喫したことが、しかもそれが年端もいかない子供によって──その事実をハンスは飲み込んだ。眼前の少年が自分より格上だったことを本能が認めてしまった。自分よりもずっと上に位置する存在であるのだと。

「これで……はぁはぁ! 終わったと思うなよクソガキ!」

 大人気なく思いの丈をぶつけ、叫び散らす。意地と執念が滲み出るように、ゆっくりと彼は立ち上がる。

「てめぇのツラぁ忘れねぇ……必ず借りは返し……て……はぁはぁ……! やるからな!!」

「そんなこと知るもんか! いいから早くここを立ち去れ!!」

「そういきりたつな、クソガキ! ロクスといったな……次に会う時はてめぇに仲間の後を追わせてやるッ!」

「できるものならそうしてみろ! でももし、魔族に手をだしたら今度こそ許さないからな!」

 脱出の術の詠唱をした様には見えなかった、しかし聖騎士ハンスの身体が光に包まれ消えていく。
 それを確認した聖騎士キルザが一つ溜息を吐き、そして周囲に居る聖騎士達に向かって口を開いた。

「第二、第三聖騎士団全員に通達!! 撤退だ!! 堕天使族討伐は不本意ながら失敗、ここまでだ!!」
「「「はっ!!!!」」」

「騎士が背を向けて逃げるのか小童! おのれはそれでもまとめ役なのか?! 笑わせてくれるぞ!!」

「ふっ……自分の分は弁えているつもりです。それにこれ以上の戦いは互いに損だとは思いませんか? オーガ族の剣士殿」

「これは予想外な発言ですな! 私が貴様を、貴様らを生かして返すと思うのか!!」

 ウェドガーさんが片手に握る片刃の長剣を無造作に振るい空を斬る。
 垂れ目の聖騎士とそれを取り巻く数名の聖騎士達に向かって叫ぶと、キルザは落ち着き払った表情で答えていた。

「オーガよ、貴方の気持ちと同様、私も魔族をのうのうと生かしておくつもりはない!! ……しかし、このまま戦って利があると考えるほど私はバカではないのですよ」

 キルザがさっと片手を上げると背後にいる聖騎士達がハンス同様、光に包まれ消えていき。

「小童め逃さぬぞ!! ……ミリアとエレーナの……同胞の仇!! ぜああああ!!」

 ウェドガーさんは結った髪が振り解け、その髪を乱して叫び、斬りかかる。おそらくキルザ以外の聖騎士を斬り捨てたであろうその両手も体もおびただしい量の返り血に染まった鬼のような形相で──

 しかしその斬撃は空振りに終わる。

「……手土産は多少あるのでね……お咎めは半分程でしょう……ふっ、また会いましょう、オーガ族の剣士よ!! ……エスケイプス!」

 物理的な存在は光と化す。眩い光が周囲を照らし、その光を遮るようにボクや周りの堕天使族の兵士達も目を覆っていた。

 光が収まった時もはや聖騎士達の姿はなく、あるのは燃え盛る炎と瓦礫の山、そして……命を散らした人間と魔族の骸だった。

 ウェドガーさんが何も無い、誰もいない空へと向かい、大声で叫んでいた。それが届かぬ声だとわかっていても、ボクは止めなかった。……いや、止められなかったんだ。


「おのれえ! 卑怯者の人間どもめえーーッ!!!!」

「……ウェドガーさん……」


 なんて声をかけたらいいか、ボクにはわからなかった。ボクは自分が痛い思いをするのはまだ我慢できるけど、ウェドガーさんのように大切な者の命を奪われた心の痛さに対してどんなふうに接すれば良いのか……ボクはただ、彼の背中を見ることしかできなかった。


 彼の叫び声は空に溶け込んでいくだけだった。
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