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第二話 赤い花瓶と覚悟
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イケメンの突飛な提案。
別の世界への生まれ変わり。
普通そんなことを言われて「はいお願いします」なんてヤツはいないだろう。
俺だって道端でそんなこと言われれば目も合わせず素通りするに決まってる。
でも、この不思議な状況が俺に無視することを許さなかった。
事故の後に変な空間で変な人物に別の世界への転生を促される。
現実にあるはずがないのに随分聞いたことがある展開だった。
「そうそう、そういうことだよ。僕は今、君に異世界転生ってヤツを勧めてるんだよ。知ってるでしょ?異世界転生」
あれ、俺今しゃべってたか?
独り言は多くないハズだったと思うけど…。
「違う違う。君の思考を僕が読み取っただけだよ。あー、プライバシーとか気にする人?だったらごめんね。読み取る気が無くても勝手に見えちゃうものだから気にしないで」
なるほど。
コイツも俺に負けず劣らず失礼な奴の様だ。
人の考えていることを勝手に見た挙句気にしないで、とは中々にガサツとしか言いようがない。
「勝手に見えちゃうんだって…。と、とにかく君は僕の勧めに乗ってくれるのかい?」
…正直面白そうな話だとは思う。
だけどあまりにこのイケメンが怪しすぎるんだよなぁ…。
「いや!分かるよ!そしていいね!君のその一般人らしい感想!正しく僕が求めていたモノそのものだ!」
別に一般人が貶し言葉だとは思わないけど、今の流れで言われるとなんだか意外性のないモブって言われた気分だな。
でもまぁ、さっきから俺の考えていることが筒抜けなのは確かなようだしこの怪しげな提案も本物だと思っていい…と、思う…多分…。
「疑り深いね…。ま、まぁ、初対面だしそれくらい用心深い方が何かと良いでしょ!」
パンっと、乾いた音で手を叩いたイケメンは俺の方をにんまりと見つめる。
「大丈夫!君の転生の意思が言葉でなく、心で理解できましたから!なんの心配も要りません!僕に任せておけばイッツオーライです!」
すごい。
未だかつてここまで信用できないヤツがいただろうか。
やはり念のため転生しない可能性も視野に入れておかなければ…。
「あの…ちなみに転生を拒否った場合はどうなります??」
「あー…、それ聞いちゃいますか。単直に言えば元の体の運命を全うすることになるね。元の体は…これは君に見る権利があるよね…だけど覚悟してね。」
イケメンは複雑な顔で足元の雲海を両手で抱え避ける。
そして両手に雲を抱えたまま俺へ雲海の穴を見るようにジェスチャーを送ってきた。
言われるがままに穴の中を覗き込んだ俺は、思わず胃の内容物を吐き出すのを必死にこらえる。
鮮やかな赤。
見覚えのある服は白地だったはずだけど、今はまだらに濃淡のある赤色に染まっていた。
意思はなく、命もない。
首の上に赤い花を生けられた人型の花瓶。
あれは俺だ。
いや、俺だったモノだ。
あれはもう人とは呼べない。
それは自分の体だったかどうかさえも曖昧なほどに別なものとして俺の目には映ってしまっていた。
「…どう?君がここで転生を拒否することも一つの自由だ。拒否したところで君に苦しみはないし、このまま天国に旅立とうというのであれば僕にそれを引き止める権利はない。これは君が決めることだ。ただ、僕の個人的な意見を言わせてもらえるのであれば転生を受け入れてほしい。」
イケメンは真剣な眼差しで俺を見つめてくる。
恰好はふざけているけど、きっとこの言葉は本物だ。
どうしてここまで俺に新しい世界で生きることを求めてくるのか分からないけど、どうせ一度は死んだ身だ。
それだったらもう一度生きてみるのも面白いんじゃないか?
…よし、もう一度生きよう。
一度目の人生では何も為せなかった。
きっと二度目の人生では何かを為そう。
「俺に何ができるかはわかりませんし、あなたの期待に応えることが出来ないかもしれません。でも、それでも良いと言ってくれるのであれば…、俺は新しい世界で生きてみたいです。」
はっきり口に出す。
これは俺の覚悟とこの世界へのけじめだ。
新しい世界でもきっと俺は失敗も、挫けもするのだろう。
でも、諦めることだけは絶対にしない。
一度目の人生では諦めの連続だった。
学業、就職、日常生活に至る全てが諦めで彩られた俺の人生。
先立った両親へは心労をかけ続けた駄息だった。
自分への愛想をつかし、いつしか諦めずに立ち上がり続けられるゲームのキャラクターを生きる希望にし始めた。
もちろん俺がプレイヤーである以上は俺が諦めてしまえばそこまでだ。
でも、俺という心が折れなければ何回でも立ち上がる。
そんなキャラクターに憧れた。
俺もいつか操作キャラクターの様になりたい。
諦めずに戦い続けられる。
そんな人間に。
俺の言葉を聞いたイケメンは静かにうなずくと俺の方へ手のひらをかざしてきた。
ゆっくりと視界がぼやけてくる。
俺の視界のイケメンが4人に分裂し始めた頃に俺は意識を失った。
「この人間に幸多からんことを…」
そんなイケメンの祈りの声が微かに聞こえたような気がした。
別の世界への生まれ変わり。
普通そんなことを言われて「はいお願いします」なんてヤツはいないだろう。
俺だって道端でそんなこと言われれば目も合わせず素通りするに決まってる。
でも、この不思議な状況が俺に無視することを許さなかった。
事故の後に変な空間で変な人物に別の世界への転生を促される。
現実にあるはずがないのに随分聞いたことがある展開だった。
「そうそう、そういうことだよ。僕は今、君に異世界転生ってヤツを勧めてるんだよ。知ってるでしょ?異世界転生」
あれ、俺今しゃべってたか?
独り言は多くないハズだったと思うけど…。
「違う違う。君の思考を僕が読み取っただけだよ。あー、プライバシーとか気にする人?だったらごめんね。読み取る気が無くても勝手に見えちゃうものだから気にしないで」
なるほど。
コイツも俺に負けず劣らず失礼な奴の様だ。
人の考えていることを勝手に見た挙句気にしないで、とは中々にガサツとしか言いようがない。
「勝手に見えちゃうんだって…。と、とにかく君は僕の勧めに乗ってくれるのかい?」
…正直面白そうな話だとは思う。
だけどあまりにこのイケメンが怪しすぎるんだよなぁ…。
「いや!分かるよ!そしていいね!君のその一般人らしい感想!正しく僕が求めていたモノそのものだ!」
別に一般人が貶し言葉だとは思わないけど、今の流れで言われるとなんだか意外性のないモブって言われた気分だな。
でもまぁ、さっきから俺の考えていることが筒抜けなのは確かなようだしこの怪しげな提案も本物だと思っていい…と、思う…多分…。
「疑り深いね…。ま、まぁ、初対面だしそれくらい用心深い方が何かと良いでしょ!」
パンっと、乾いた音で手を叩いたイケメンは俺の方をにんまりと見つめる。
「大丈夫!君の転生の意思が言葉でなく、心で理解できましたから!なんの心配も要りません!僕に任せておけばイッツオーライです!」
すごい。
未だかつてここまで信用できないヤツがいただろうか。
やはり念のため転生しない可能性も視野に入れておかなければ…。
「あの…ちなみに転生を拒否った場合はどうなります??」
「あー…、それ聞いちゃいますか。単直に言えば元の体の運命を全うすることになるね。元の体は…これは君に見る権利があるよね…だけど覚悟してね。」
イケメンは複雑な顔で足元の雲海を両手で抱え避ける。
そして両手に雲を抱えたまま俺へ雲海の穴を見るようにジェスチャーを送ってきた。
言われるがままに穴の中を覗き込んだ俺は、思わず胃の内容物を吐き出すのを必死にこらえる。
鮮やかな赤。
見覚えのある服は白地だったはずだけど、今はまだらに濃淡のある赤色に染まっていた。
意思はなく、命もない。
首の上に赤い花を生けられた人型の花瓶。
あれは俺だ。
いや、俺だったモノだ。
あれはもう人とは呼べない。
それは自分の体だったかどうかさえも曖昧なほどに別なものとして俺の目には映ってしまっていた。
「…どう?君がここで転生を拒否することも一つの自由だ。拒否したところで君に苦しみはないし、このまま天国に旅立とうというのであれば僕にそれを引き止める権利はない。これは君が決めることだ。ただ、僕の個人的な意見を言わせてもらえるのであれば転生を受け入れてほしい。」
イケメンは真剣な眼差しで俺を見つめてくる。
恰好はふざけているけど、きっとこの言葉は本物だ。
どうしてここまで俺に新しい世界で生きることを求めてくるのか分からないけど、どうせ一度は死んだ身だ。
それだったらもう一度生きてみるのも面白いんじゃないか?
…よし、もう一度生きよう。
一度目の人生では何も為せなかった。
きっと二度目の人生では何かを為そう。
「俺に何ができるかはわかりませんし、あなたの期待に応えることが出来ないかもしれません。でも、それでも良いと言ってくれるのであれば…、俺は新しい世界で生きてみたいです。」
はっきり口に出す。
これは俺の覚悟とこの世界へのけじめだ。
新しい世界でもきっと俺は失敗も、挫けもするのだろう。
でも、諦めることだけは絶対にしない。
一度目の人生では諦めの連続だった。
学業、就職、日常生活に至る全てが諦めで彩られた俺の人生。
先立った両親へは心労をかけ続けた駄息だった。
自分への愛想をつかし、いつしか諦めずに立ち上がり続けられるゲームのキャラクターを生きる希望にし始めた。
もちろん俺がプレイヤーである以上は俺が諦めてしまえばそこまでだ。
でも、俺という心が折れなければ何回でも立ち上がる。
そんなキャラクターに憧れた。
俺もいつか操作キャラクターの様になりたい。
諦めずに戦い続けられる。
そんな人間に。
俺の言葉を聞いたイケメンは静かにうなずくと俺の方へ手のひらをかざしてきた。
ゆっくりと視界がぼやけてくる。
俺の視界のイケメンが4人に分裂し始めた頃に俺は意識を失った。
「この人間に幸多からんことを…」
そんなイケメンの祈りの声が微かに聞こえたような気がした。
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