白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!

ろき

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1章

【第6話】神速の狩人

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 残り少ない体力のなか、決死の覚悟で魔力制御を試みた僕は、なんとか魔力の漏れを「決壊したダム」から「バルブが少し壊れた水道管」くらいには抑えられた――はずだった。

 なのに。

「グルゥゥゥッ!!!(どうして、どこにもいないんだ……オークは!!)」

 空腹でふらふらしながら、これだけ森を歩き回っているというのに、目当てのオークの気配がまったくない。

 もしかすると、僕が必死に抑えたつもりの魔力も、上級のオーク相手では、まだ感知されてしまっているのかもしれない。

 僕がある程度近づいた時点で、奴らはその僅かな魔力すら察知し、蜘蛛の子を散らすように逃げてしまっているのだ。

(ダメだ……埒が明かない)

 空っぽの胃が、内側からギューッと絞り上げられるように痛む。
 唾液すら出てこなくなり、喉はからからだ。
 思考は鈍り、視界の端がじわじわと暗く滲んでくる。

(……腹が減りすぎて、もう魔力制御に集中するのもキツい)

 このままでは――
 ………………餓死エンド!?

 地獄のようなブラック企業で、連日の徹夜と理不尽なパワハラに耐えて生き延びてきたというのに。
 転生先で、何もできずに餓死なんて、冗談じゃない!

 そんな最期、あまりにも惨めすぎる!

(絶対に生き延びて……至上最高の【もふもふ】を味わい尽くすんだ!!)

(……こうなったら)

 僕はその場で立ち止まり、深く息を吸い込んだ。
 乱れた呼吸を整え、意識を【魔力感知】一点に集中させる。

 もう、当てもなく歩き回るのはやめだ。
 この場から動かず、感知範囲を限界まで広げ、森の奥深くまで探る。

「グルルル……(探れ、探れ……)」

 意識を研ぎ澄ませると、感知の範囲が水面の波紋のように、じわじわと遠くへ広がっていくのを感じた。

 同時に、頭の奥がズキズキと痛み出す。
 脳に、相当な負荷がかかっているのが分かる。

 ――それでも、やめるわけにはいかない。
 これが、最後のチャンスだ。

 ……っ、いた!!

 北東、約三キロメートル先。
 複数の、家畜のような獣臭い魔力反応。

 間違いない――オークだ!

(……だが、マズい!)

 僕が広範囲に魔力感知を使った瞬間、それを察知したのか、オークたちの反応が一斉に動き始めた。

 今の僕では、完全に魔力を隠しきれない。

(なら……答えは一つだ)

(相手が逃げ切るか、俺が追いつくか……勝負だ!)

 僕は逃げていくオークめがけ、残った力をすべて振り絞り、四肢に力を込めた。

 地面を掴む鋭い爪の感触。
 全身の筋肉が、バネのように一気に収縮する。

「グルルルゥ!!(待ってろ……俺の晩ごはん!)」

 その瞬間、僕の体が白い弾丸へと変わった。

 ――スキル【神速(幼)】発動。

 ドォンッ!

 爆音とともに、周囲の景色が一斉に後方へ吹き飛んだ。

(ちょっ……速い! 速すぎる!)

 木々も岩も、ただの色の帯となって流れていく。
 風圧で顔の毛が逆立ち、耳がちぎれそうだ。

 ブラック企業時代、納期に追われ、死に物狂いで終電に駆け込んだあのダッシュとは次元が違う。

 ――これが、本物の「神速」。

 だが、その代償も大きかった。

 全身の血液が沸騰するように熱くなり、筋肉が悲鳴を上げるような激痛が走る。
 空腹で、ただでさえ限界の体には、あまりにも過酷な負荷だ。

(それでも……止まるわけにはいかない!!)

「ブヒィ!?」「ブギィ!!」「ブギャァ!!」

 三キロの距離を一瞬で駆け抜けた僕の姿に、オークたちがようやく気づき、間抜けな悲鳴を上げた。

 慌てて腰の棍棒を手に取ろうとするが――もう遅い。

 全部で三体。

 僕は即座に【鑑定】と【鑑定(もふもふ)】を発動させた。

 ------------------------------------
 種族:オーク
 レベル:15
 状態:混乱
 ------------------------------------
 【鑑定(もふもふ)】結果
 もふもふ度:論外
 (対象に毛が一本も存在しません)
 ------------------------------------

(ぶっ……星ゼロどころか『論外』!?)

 スキルの容赦ない評価に、切羽詰まった状況にもかかわらず、思わずツッコミを入れてしまう。

 ――だが、それでいい。

 こいつらは、僕の愛する「もふもふ」とは対極の存在。
 遠慮なんて、必要ない。

(まとめて……俺のエサになれ!!)

 オークの一匹が棍棒を振り上げた、その瞬間。

(――今だ!)

 僕は懐へ飛び込み、無防備な喉元に鋭い牙を突き立てた。

 ザクッ。

 生温かい感触。
 鉄錆のような味が、口の中に広がる。

 これが――生き物を殺すという感触。

 人間だった頃の僕なら、きっと耐えきれず、嘔吐していただろう。
 だが、今の僕はフェンリル。

 本能が、はっきりと告げていた。

 ――これでいい。

「ブゴッ!?」

 残りの二匹が反応するより早く、僕は牙を引き抜き、距離を取った。

「ブヒィィィ!(仲間!)」

 仲間が倒れたことに気づいたオークたちが、血走った目でこちらを睨む。
 明確な殺意。

 ――だが、今の僕には。

 それすら「獲物のささやかな抵抗」にしか見えなかった。

 体が、完全に獣の本能に支配されている。

 僕は二匹に向かって、大きく息を吸い込み、肺の奥底から魔力を練り上げた。

「フゥゥゥ―――ッ!!」

 白い霧が渦を巻き、オークたちへと襲いかかる。

 ――スキル【氷結の息吹(弱)】。

「ブギッ!?」

 足元からバキバキと音を立て、大地が一瞬で凍りつく。
 二匹の動きは、完全に封じられた。

 その隙を、今の僕が逃すはずがない。

 再び【神速】を発動。

 白い閃光が走り、凍りついた二体の首筋を、正確に噛み千切った。

 ドサッ。
 バタッ。

 二つの巨体が、凍りついたまま地面に倒れ伏す。

「……はぁ、はぁ……」

 荒い息を吐きながら、僕はその場に立ち尽くした。

 初めての【狩り】。

 血を吸ったせいか、わずかに体力が戻った気がする。

(……これが、フェンリルの力……)

 倒したオークの亡骸を見つめる。
 口元も、前足も、真っ赤に染まっていた。

(……僕が、やったんだ)

 一瞬、人間としての理性が「なんてことを」と囁きかける。

 だが――

 グゥゥゥ……。

 強烈な空腹が、その声を容赦なくかき消した。

(生きるためには……食べるしかない)

 感傷に浸っている暇はない。

 僕は新しく手に入れたスキルを思い出し、念じる。

 スキル【アイテムボックス】。

 目の前の空間が歪み、黒い穴のようなものが現れた。
 僕はオークたちの亡骸を、一旦そこへ放り込む。

(すぐに……安全な場所で解体しないと)

 白い毛並みに付いた返り血を、ブルブルと激しく振り払う。
 早くこの不快な汚れを落として、もふもふな自分に戻りたい。

 僕は疲労困憊の体に鞭打ち、岩陰の寝床へと走り出した。

 ――あれを、どうやって食べるか。
 それが、次の問題だった。
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