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1章
【第7話】初めての食事と、遠い焼き肉への道
オークの返り血を振り払い、僕は安全な岩陰の寝床まで戻ってきた。
(ふぅ……疲れた)
初めての狩りは、想像以上に神経と体力を使った。
【神速】での長距離疾走は、まだ幼体の身体にはかなりの負担だったらしい。
だが――今はそれよりも。
「……グルゥ」
圧倒的に、腹が減っている。
「アイテムボックス」
念じると、目の前の空間が歪み、先ほど収納したオークの亡骸(一体分)が現れた。
(……さて、どうしたものか)
魔獣としての本能は「このまま食べてしまえ」と言っている。
だが中身は、白瀬陸空(24歳・元人間)なのだ……。
出来るなら……出来ることなら、せめて火は通したい。
(火……火か)
自分のスキルを思い返すが、火を出すスキルは無かった。
(もしかして、魔力を使えば炎を出せるんじゃないか……?)
一瞬考えたが、すぐに首を振る。
さっきの魔力制御ですらあんなに苦戦したんだ。
魔力を炎にするなんて、もっと難しいはずだ。
もし魔力が暴発して大怪我でもしたら、目も当てられない。
「クゥゥン……(諦めるか……)」
空腹はもう限界だった。
元人間としての理性と、フェンリルとしての本能を天秤にかけ――
ほんの一瞬、迷って。本能が勝利した。
(……いただきます)
目をつぶり、オークの肉にかじりつく。
(……あれ?)
何も感じない?
口の中に入った肉は、自然に溶けて純粋なエネルギーとなり、身体の奥へ流れ込んでいった。
味のない綿あめを食べたような感覚だ。
だが、枯渇していた体力と魔力が、みるみる回復していくのが分かった。
(……これが、魔獣が魔物を食べるってことなのか)
正直、拍子抜けだった。
噛んだ感触もないのに、腹だけが満たされていくなんて。
それから僕は無心で肉を口に運び、ようやく人心地ついた。
(ふぅ……生き返った)
空腹感も満たされたし、もう一度ステータスを確認してみよう。
「ステータスオープン」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
名前: (なし)
種族: フェンリル(幼体)
レベル: 1 → 5
状態: 良好(満腹)
スキル:
・【神速(幼)】
・【氷結の息吹(弱)】
・【魔力感知】
・【鑑定】
・【アイテムボックス】
・【もふもふ愛(極)】
・【火魔法(初級)】(New!)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(……お!)
レベルが一気に、五まで上がっている。
オークたちとの戦闘で、結構経験値が稼げたらしい。
(あれ?)
先程までなかったスキルに、視線が止まった。
【火魔法(初級)】
(火の魔法が増えてる!?)
レベルアップでスキルが増えていたのだろう。
これがあれば――
(肉……焼ける、よな?)
もしかしたら、焼いたら何か変わるかもしれない!
僕は残っていたオークの肉塊をアイテムボックスから取り出し、前足をかざした。
(いくぞ……イメージは、コンロの火だ)
「グルルァ!(ファイア!)」
バチッ!!
目の前で、真っ赤な火花が上がった。
「アチッ!? ギャウン!?」
焦げ臭い匂いがあたりを漂う。
習得したてで火力の調整がうまくできず、火花が爆ぜて、僕の前足の毛先がチリチリと焼け焦げてしまったのだ。
(ぎゃあああ!! 僕の……僕の至高のもふもふのおててがぁ!!)
慌てて前足を振って火を消し、涙目で焦げてしまった毛先を見つめる。
……どうやら、火魔法のスキルを使いこなすのは、まだ難しいらしい。
「クゥゥン……(もう今日は寝よう……)」
満腹感と、何より大事なもふもふの毛を焦がしてしまったショックが重なり、急激な睡魔が襲ってきた。
僕は自慢のもふもふした尻尾を枕にして、岩陰で丸くなる。
あぁ……今まで使ったどんな枕よりも、心地いい……。
僕はあっという間に、眠りに落ちてしまった。
――この時の僕は、この【火魔法】が、
まさかあんな方向に進化することになるとは、
まだ知る由もなかった。
(ふぅ……疲れた)
初めての狩りは、想像以上に神経と体力を使った。
【神速】での長距離疾走は、まだ幼体の身体にはかなりの負担だったらしい。
だが――今はそれよりも。
「……グルゥ」
圧倒的に、腹が減っている。
「アイテムボックス」
念じると、目の前の空間が歪み、先ほど収納したオークの亡骸(一体分)が現れた。
(……さて、どうしたものか)
魔獣としての本能は「このまま食べてしまえ」と言っている。
だが中身は、白瀬陸空(24歳・元人間)なのだ……。
出来るなら……出来ることなら、せめて火は通したい。
(火……火か)
自分のスキルを思い返すが、火を出すスキルは無かった。
(もしかして、魔力を使えば炎を出せるんじゃないか……?)
一瞬考えたが、すぐに首を振る。
さっきの魔力制御ですらあんなに苦戦したんだ。
魔力を炎にするなんて、もっと難しいはずだ。
もし魔力が暴発して大怪我でもしたら、目も当てられない。
「クゥゥン……(諦めるか……)」
空腹はもう限界だった。
元人間としての理性と、フェンリルとしての本能を天秤にかけ――
ほんの一瞬、迷って。本能が勝利した。
(……いただきます)
目をつぶり、オークの肉にかじりつく。
(……あれ?)
何も感じない?
口の中に入った肉は、自然に溶けて純粋なエネルギーとなり、身体の奥へ流れ込んでいった。
味のない綿あめを食べたような感覚だ。
だが、枯渇していた体力と魔力が、みるみる回復していくのが分かった。
(……これが、魔獣が魔物を食べるってことなのか)
正直、拍子抜けだった。
噛んだ感触もないのに、腹だけが満たされていくなんて。
それから僕は無心で肉を口に運び、ようやく人心地ついた。
(ふぅ……生き返った)
空腹感も満たされたし、もう一度ステータスを確認してみよう。
「ステータスオープン」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
名前: (なし)
種族: フェンリル(幼体)
レベル: 1 → 5
状態: 良好(満腹)
スキル:
・【神速(幼)】
・【氷結の息吹(弱)】
・【魔力感知】
・【鑑定】
・【アイテムボックス】
・【もふもふ愛(極)】
・【火魔法(初級)】(New!)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(……お!)
レベルが一気に、五まで上がっている。
オークたちとの戦闘で、結構経験値が稼げたらしい。
(あれ?)
先程までなかったスキルに、視線が止まった。
【火魔法(初級)】
(火の魔法が増えてる!?)
レベルアップでスキルが増えていたのだろう。
これがあれば――
(肉……焼ける、よな?)
もしかしたら、焼いたら何か変わるかもしれない!
僕は残っていたオークの肉塊をアイテムボックスから取り出し、前足をかざした。
(いくぞ……イメージは、コンロの火だ)
「グルルァ!(ファイア!)」
バチッ!!
目の前で、真っ赤な火花が上がった。
「アチッ!? ギャウン!?」
焦げ臭い匂いがあたりを漂う。
習得したてで火力の調整がうまくできず、火花が爆ぜて、僕の前足の毛先がチリチリと焼け焦げてしまったのだ。
(ぎゃあああ!! 僕の……僕の至高のもふもふのおててがぁ!!)
慌てて前足を振って火を消し、涙目で焦げてしまった毛先を見つめる。
……どうやら、火魔法のスキルを使いこなすのは、まだ難しいらしい。
「クゥゥン……(もう今日は寝よう……)」
満腹感と、何より大事なもふもふの毛を焦がしてしまったショックが重なり、急激な睡魔が襲ってきた。
僕は自慢のもふもふした尻尾を枕にして、岩陰で丸くなる。
あぁ……今まで使ったどんな枕よりも、心地いい……。
僕はあっという間に、眠りに落ちてしまった。
――この時の僕は、この【火魔法】が、
まさかあんな方向に進化することになるとは、
まだ知る由もなかった。
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