白い花が咲く丘で

黒月禊

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白い花が咲く頃に

出立は万全に

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しばらく体の調子を確認しながら、怪我を労りながら軽く体を鍛える
寝込んで休んでいた分を取り返さなければ…
片腕片足で腕立てをする
首から下げた首飾りが揺れた


そうしていると扉が開いた
「おかえりスノー、大丈夫だった、かい?」
スノーはこちらを二度見して驚いた様な目で見る
なぜだろう?

「ただいまヴァルツ、怪我人は休めと言ったはずだが?もう俺は悪化してもみないからね。人の看病を無にする気なら出ていってもらおうかな」

「そんなつもりじゃなかったんだ!つ、つい手持ち無沙汰で運動は習慣だったからさごめん。怒らないでくれ」
慌てて近寄り肩を掴んで謝る
「ふん。わかったなら汗を拭いて横になってなよ。さすがに半裸の男に掴まれるのは驚くから」

「わかった。なんか恥ずかしい姿を見せてばかりで情けないな」
スノーはその言葉に顔を背け言う

「君は大変な目にあったんだ。仕方ないだろう。大変な思いをしたばかりだ。きっと体だけじゃなく精神も弱っているはずだ。ゆっくり休むといいよ。精神と肉体がそろって健全だ」
そしてボソッと声を出す
「君は見目がいい素敵な男性、………だと思うからそのぐらい気の抜けている方が接しやすいんじゃないか。俺にはそんなことよくわからないが、格好の良いところばかりでは気が疲れるだろう?」

お、俺がかっこいいだと!?
スノーからみて見目がいい素敵な男性なのか俺は!
春なのか?春なのか!
感情の高ぶりに興奮していると
いつのまにか掴まれていた状態から抜け出した
スノーは手荷物を片づける


「へぇ、結構いろいろあるんだな。これは……食べれるのかな?」
ヴァルツが机に並べられた中から草を持ってそんな疑問を問いかける

「葉先を食べてみるといいよ」

「うがッ!?に、苦いよこれ!」

微かに笑みを浮かべながら応えるスノー
「そりゃそのまま食べれるものじゃないからね。煎じて乾燥したやつを飲むんだ。毒消しで腹痛にも効く」

「そ、そうなのか。なら食べるのはすすめないで欲しかったよ」
涙目で訴える
これは苦い

あむっ

口に小さな果物らしきものを唇に押し付けられる
「これで口直しをするといい。ここで採れる果実は甘味がいい」

ほらっと言われる
これは…….噂のあーんというやつか
ドキドキとする。きっとスノーは一切他意はないのがわかるけど…
意を決して口に入れる

「むっ!…….ごめん!」
つい勢いをつけて指を食んでしまった

「こらこら、指は食べ物じゃないよ」

「お、おう。とても甘いね。美味しいよ」
あの綺麗な指を………俺はなんてことを


「仕方ないな君はほら、こっちにおいで」
ベットに腰掛けてスノーが手招きする

な、な、ななななななんて!?

「どどどうしたんだスノー?!そんな俺たち出会ったばかりだしほら段階とか色々あるじゃないかほらあれ、あの」

展開についていけず慌てふためくヴァルツ
展開についていけず頭を傾けるスノー

「何を言ってるんだ君は。ほらやることあるんだ俺は。早く汗を拭くから来なよ」

そ、そうか拭いてくるのか
落ち着けヴァルツ!!
騎士としていかなる時も冷静沈着に!!

「いいのか?なんか何から何まで本当にすまない。じ、自分で拭けるからスノーは自分の作業を進めてくれ……」
せっかくの機会だが面倒なやつだと思われたくない
気を遣って断っておこう
すごいドキドキするし……

「こんな作業ぐらい大差ないさ。その腕じゃ背中は無理だろ。早くしてくれ」

「うっ、なら頼むよ」
スノーが座っているベッドの隣に腰掛ける
うわぁあぁあ

冷たいからねと声をかけられ
背中を拭いてもらう
床には水と葉?が入った桶がある
優しい力加減で背中を拭かれる
こんな経験初めてだ…
修練場や野外活動時まわりのムサい男どもと共に届かない背を拭く感覚とは天と地の差だ
あれ
「あれ、なんかひんやりとする気がするな」

「ん。そこにハーブが入ってるだろ?ミントだ。あと抗菌と抗炎症作用のある木の精油が入っている」

「たしかにスッキリとしていい香りだ。スノーはなんでも知っているな!香りが良くて実用的なんてすごい」

「ただ薬としてじゃなく。嗜好品としてやちょっとした生活の知恵としていいものだろ?俺が調合したのはよく売れるんだ」
どこか誇らしげに語るスノー
気が利いて繊細な作業をこなす彼はただ剣をふり戦場で生きてきた自分とはだいぶ違った
感性と知恵がある
素直に尊敬できた

「自分で調合できるなんて本当にすごいな!俺には絶対できない。ぜひ俺にも売って欲しい全部買う!あっ、金がなかった。後払いでもいいかな?」
くそぅ、こんな時に一文なしとは
流石にこのネックレスや騎士団の紋章入りの鎧は手放せない

「いちいち褒め立てなくてもいいからなヴァルツ。気持ちは十分もらったよ。ふふっ、お金がないのはお客様とは呼べませんねー」

意地悪そうに笑うスノーが可愛い
ああこんなことならロイが言っていた
好きな人を百発百中落とす恋愛指導教本完全版を読んで勉強していれば…
くだらないと一刀両断しないで読んでおけばよかった

「く、国に戻ったら買うから!絶対買うから!貧乏じゃないからな俺。これでもまぁ稼いでるんだ無駄な出費もしないし福利厚生もしっかりしている!積立金も定額でしてるし建設的だろ?」
ついできる男アピールをしてしまった
だが少しでも株を上げなければ

「へぇー。それは立派だなぁ俺には遠い話だ。確かにお金はあって困らないからなー。じゃそんな騎士様にこれを差し上げよう」
彼は拭いていた布を桶に戻し
隣に置いてあった鞄から小瓶を取り出した

「これは、なに?綺麗な瓶だなこれ。もらっていいの?」
それは透き通ったガラスで装飾がされている液体が入っていた小瓶だ

「これは呪(まじな)いを込めた香油だよ。水やお湯に垂らしていいし首や体に塗ってもいい。打身や切り傷ほてりや疲れに効くよ。香りは白花スノウだ」

「ほ、ほんとにもらっていいのかい?こんな素敵なものを………すごく嬉しいよ!!きっとお返しするから期待していてくれ!」
つい手を握ってしまった
「ああいいとも。試作品だが一点ものだよ。朝飲んだお茶の花があったろう?その香りだ」

「へぇー!楽しみだな!すごくいい香りがするんだろうな!本当に君はすごい。あれ、スノーは魔術が使えるのか?」

「そんなものでも喜んでくれたなら薬師冥利に尽きるよ。今夜寝る前にそれでマッサージしてあげる。魔術は簡単なものだけさ。…まぁ怪我もあるから肩と首周りかな。香りはほら…こんな感じだよ嗅いでごらん」
褒めたら気分が良くなってくれたようだ
好きな子が笑顔だとこんなにも嬉しいものなのか
すまないロイ
酒場でお前の恋話を一切聞いてなかったが今ならわかる気がするぞ
脳内で語っているとスノーが首元のシャツを緩め首元を近づけてきた
なぁッ!!??!
刺激が強いッ
白い肌に鎖骨が滑らかな曲線を描いていて
同じ男だとは思えない

「ほらほら、早くしてくれ」
さらに距離を詰めてきた

「は、はぃ!し、失礼しますです」
きっと顔は真っ赤であろう
首筋に近づきくんくんと嗅ぐ…
こんな………なんのご褒美だろうか
近年得た国の褒賞より比べられるもなくいい
竜討伐の褒美だろうかこれなら何万匹も倒せそうだ

ふぁあぁああぁ

確かに朝飲んだ白花の香りがする
甘くスッキリした甘美な香りだ
それにスノーの体温から揮発された香りと混ざり
天の加護を得たかのように効力を発揮したのだ
つまりやばいのだこれは…俺には刺激が強すぎる

俺が騎士じゃなかったら危なかった

「どうだ?俺もお気に入りなんだ。販売するには量も手間もかかるし新鮮な生花じゃないとこの香りは出ないから生産は難しいんだ。聞いているか?」

「お、おう!聞いてる聞いてる!すんごくいいよ。一家に一台欲しいものだ!なんなら君が欲しい!」
あっ!!勢い余って本音が…
引かれてしまうだろうどうしよう
脳内の兄様笑ってないでたすけてください

「?よくわからないが気に入ってくれたんだな。一家に一台俺がいても困るだろ変なことを言うなぁ君は」

「困るなんてそんな、お、おおおれはぜひスノーがいてくれたら仕事も生活も楽園の如く日々祝福の日のように素晴らしい生活になると断言できると思うってあれ?」

隣にスノーの姿はなかった
見ると桶の水を捨て外から戻ってきたようだった
「何か言ったかい?」

「…………いいえ、なんでもございません」

「あっそう」
そう言ってスノーはテキパキと片付けと採取した草や木の実、捕まえた魚などを加工作業を始めた





「起きてくれヴァルツ」
肩をトントンとされ起きる
いつの間にか寝ていたようだ

「よく寝ていたよ。やはりまだ疲労は残っているようだね。でもだいぶ顔色がいい。少し早いが夕食にしよう」
窓を見ると空が暗く、僅かにオレンジの陽が層になっていて陽が暮れているのがわかった

「また寝てしまったのか俺は。スノー何も手伝えなくてごめん。何かあるならなんでも手伝うよ」

「んー、元気になったらこき使うから気にしなくていいよ。じゃあ食卓を拭いてもらおうかな」

「わかった」
俺はスノーから台拭きを借り卓を拭く

そこにスノーが料理を並べた
川魚の香草焼き、ソーセージとベーコンと芋の胡椒炒め、トマトスープとフルーツサラダ、そして木の実が入ったパンのようだ

「ご馳走だ!スノーは料理上手なんだな」

「料理ぐらいできないと旅の楽しみが半減するだろ?いろんなものを美味しく食べれた方が楽しいじゃないか。健康的だしね」

「そうなのか。俺は普段宿舎の食堂だし家の食事は少ないうえに食べ辛いから食べた気がしないんだ。スノーの手料理なら毎日食べたいよ!」

「騎士なら美味しいものたくさん食べれそうなのにそっちはそっちで大変なんだねー。こっちだっていつもこんなのは食べれないよ。ここはキッチンがしっかりあるし、食材がたまたま揃っていたから用意できたんだ。家のご飯が少なくて食べ辛いのかい?てことは騎士だしもしかして貴族様なのかな。なら無礼を働いてしまったかも」

まずい、身分がバレてしまうのはまだ困る
もちろん嘘はつかないと神に誓うが許してくれスノー
まだ距離を離されたくないんだ
「スノーならなんでも美味しく作ってくれそうだなって思っただけさ。き、きみとの食事はほら楽しいし誰かと食事するのってほら、いいものだろ?あと別に家は普段バラバラで食べるからさ。騎士は忙しいからゆっくり食べるのはあまりできないんだ」

口説き文句なんてわからない
とりあえず褒めて褒めて特別感をアピールだ
嘘偽りはないし
君にはゆっくり時間をかけて知っていってもらいたいだけなのだ
俺が王族なんてバレたらきっともっと他人行儀になってしまうだろう。そんなことは悲しすぎる

「はぁ。まぁ確かに久しぶりに人間と食事したが一緒に食べるのは悪くないね。ヴァルツはたくさん食べてくれるし綺麗に食べてくれるから嬉しいよ。騎士ってのは大変なんだね。俺には無理だなぁ」

なんとか軌道修正できたか?さすが俺
「どこの国の騎士だっけ?」

「え?えっとゼンクォルツ王国、…だけど」

「ほう、丁度そこへ向かうつもりだったんだ。確か大国だよなそこ。あそこの騎士なら将来安泰だね。モテるんじゃないか?騎士様なら相手も満更じゃないだろう」

「スノーも我が国へ来るのかい!?それは良かった!なら一緒にいこう。荷物持ちでも身辺警護でもなんでも任せてくれ!も、モテるとかよくわからないけど仲間たちはよく飲みに行くよ。普段でも騎士として矜持を忘れてはならないから軽はずみなことはしないよ。それでも酒を飲んでハメを外す者もいる。その時はよく密告されて罰せられているよ」

「確かに道中そうしてもらえると助かる。ここから七日ほどかかるから途中散策したり獣を狩ったりするから手伝ってもらえるとありがたいなぁ。どこにいても見張られているようで気疲れしそうだねぇ。偉いなぁ。ヴァルツもお仕置きされたりするのかい?」

お仕置き!?なんて可愛い言い方だ
これをロイが言ったなら張り倒すだろう

「俺は断じて恥じることはしていないぞ!騎士の誉れを忘れず日々鍛錬しているからな!七日とかかるのか、ぜひ俺に任せてくれ。何があろうと君を守ると誓うよ!」

「騎士様が護衛なら安心だねいい拾い物をしたよ。なら君の怪我の具合を見て二日後に出立できればいい。置いていかないからゆっくり治してくれたまえ。あと気恥ずかしいしそこまで気負わなくていいよ。旅は道連れさ」
すこし照れたらしい僅かに頬が赤い
視線を逸らされた
この記憶を焼き付けておこう

「さぁ冷めるからお早くお食べ」

「いただきます!」

スノーの手料理はどれも素晴らしく美味しくて楽しかった
家庭を持つなんて微塵も興味なかったがこんな生活なら未来永劫過ごしたい

食後に消化にいいと言うハーブティーをいただき
至れり尽くせりだった




さて寝ようかという時
また俺には衝撃的なことがあった


「い、一緒に寝るの?!ほんとに?いいのか?」

「ヴァルツが寝込んでた日も一緒に寝てたよ。嫌かい?俺だってベッドで寝たいんだよ。体はちゃんと昼間清めてきたさ」

「そ、そんなぁ。それなら俺が床に。嫌だとかそんなことは絶対ないからな!」

「怪我人を床に寝せるわけがないだろう!もうそれなら俺が床に寝るよ」

「それは絶対ダメだ!!」

「ならいいだろ別に同じ男同士なんだから、ほら横になって。そういえば香油試す話だったな。失礼するよ」

サイドテーブルに置いてあった小瓶から香油を少量取り出し押し倒すようにうつ伏せになった俺の肩に触れる

「くすぐったかった?少し我慢してくれ。体温で香油が溶けて柔らかくなり香りが広がるから。それで揉むと気持ちがいいんだ」

も、揉むだとなんて破廉恥な!
お願いします


スノーが直に肌に触れる
香油を手で馴染ませ伸ばし肩を撫で首まで丁寧に塗る
これはなんて甘い拷問なんだ
マッサージといえばよく往診に来てた按摩師の老人は
何人もの騎士を泣かせてきた
俺も泣きはしなかったがもう二度と世話になるまいと思ったものだ
だがスノーのマッサージは優しく丁寧で指の腹で指圧したり血流をよくするためか流れに沿って按摩する
その度に快感が走りなんともいえない気持ちになる
確かに滑る香油のお陰か痛くはなく気持ちがいい
そしてふわりと香る白花の香りがより贅沢な気持ちにさせる
あぁ天国だ
ならスノーは天使か
…違いない
なら天使とはどうやって結婚するんだ?
別に結婚できなくても永遠を誓い傍にいれたら
幸せだ
天国では結婚届はどこに出せばいいんだろう
まぁスノーと決めればいっか

なんてアホなことを考えているうちに
寝てしまったのであった







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