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亡霊と殺人鬼
【6】
しおりを挟むキィン!
「ッ!油断するなおチビ!」
「グゥ……感謝はするけど覚えとけ!」
敵の少年がまたその手に持った黒いロングナイフのような物でセウスに斬りかかってきたのをフォルテが反応して庇った
「…うるさい、うるさいうるさいッ!!」
「‥‥お前の、方がうるさグッ!?」
「フォルテ!」
「大丈夫だ!」
何度も剣撃を防いでいたフォルテだったが押し負けて吹っ飛ばされた
だが怪我はないようだ
駆け寄ろうとしたセウスを止めた
しかし、子供なのに片手で背丈のあるフォルテを吹っ飛ばすなんてすごい力だ
魔力で力を増強していてもあれだけの力だと相当の魔力量とコントロールだ
油断できない相手だと判断できる
片手でクルクルとロングナイフを回していてブンブンと空を斬る音がする
歯軋りをして、こちらを憎々し気に見つめている
……!
奴は倒れるように前傾し突進してきた
その素早さに一瞬対応が遅れる
「させるか!」
セウスがフォルテに突進しようとした奴の前に出て動きを止めた
「揺らぐ水面に映りし姿よ 現世に形を成せ!」
詠唱の後噴水の水面から人型の分身体が現れた
セウスと同じ背格好でゆらゆらと反射した光を体に映している
「行け!」
鋒を敵に向けて言い放った
八体の水の分身体が迫る
「雑魚が」
敵の少年は悪態を吐き舌打ちをして動きだし
素早く片手で腰からもう一本のナイフを取り出した
二刀流のようだ
どちらもクルクルと回し、残像が残る
シュッ……
…!
二体の分身が同時に倒される
片方は腰から両断されもう一方は逆手に持ったナイフが腹部を貫通している
鮮やかな動きだ
そのまま表情を変えずに動く
シュ……サシュ………シュ
静かな斬撃音が聞こえる
その度に分身体が無惨に消える
まるで曲芸のように動き斬りつける
少年とは思えない卓越した技術を見せつけいるが
その表情はひどくつまらなさそうで不機嫌のようだ
「そんな風船みたいに斬らなくても」
「あはーすごいねー」
「のほほんとしてないで!援護援護!」
「あっうん!」
ケイが両手剣を構える
魔法石が装飾でついているから魔法剣のようだ
「業炎よ!焼き尽くして!」
「ちょっ!?」
セウスが慌てて離れた
すると少年の足元に魔法陣が浮かびすぐに火柱が現れた
あたりが一瞬で熱気に包まれる
「こ、殺しちゃってない!?」
「大丈夫だよー、たぶんね」
「お前ら油断するなよ」
復帰したフォルテがそう言った
見ると火柱に変化があった
段々と火柱の回転する炎の動きが止まり、逆方向に動いて吸い込まれるように集まり消えた
そこには黒いベールを羽織った白い肌の人がいた
赤い爪が印象的で顔が見えない
あれは…召喚された精霊、にしては雰囲気が違う
聖者のような神気を感じるがその裏には変えようのない邪悪さを感じる
不気味だった
「黒の聖骸布(ダークベール)」
少年が魔術式名を小さく呟いた
「あれなに?」
「知らない」
「あれに消されちゃったみたいだね」
「見ればわかる」
二人の発言に律儀にフォルテが返答する
「あれは闇精霊の一種です。本体はベールで中の人間は死体ですから気にしなくていいです」
「えぇ?思いっきり暗黒魔術じゃないか」
「暗黒魔術はどれも個性が違うけどどれも禍々しいよね」
「それよりも対処法を考えるべきだ」
各々が話す
「基本的に一緒です。反属性の光で対処可能。ですが光と闇は互いが不利属性ですから気をつけるように」
「それって僕は免除だよね。適正じゃないし」
「他のことを探してやればいいだろ!すぐに怠けるな!」
「そんなこと言ってないじゃん単細胞」
「なんだと!?」
「じゃあ俺が前衛するよー」
「ケイすぐにセウスを甘やかすな。先生が補助してくだされば剣術で応戦できるだろ」
「どうしても矢面に立たせたいのね」
「使えるものは使うだけだ」
「あはは。フォルテはセウスの力を認めてるから推しているんだよね」
「へぇー」
「ち、違う!変なことを言うな!」
すぐにわちゃわちゃと話し出す奴らだ
だがどんな状況でもペースを維持できるのは大事なことだ彼らなりの方法なのだろう
「聞いていますか?」
「あっ、いてて!」
声に反応したがその前に耳を掴まれて引っ張られた
「あなた寝ぼけているんですか。戦場ですよ」
「た、確かにそうだな。悪かったよ。それより、何か?」
動揺しながらも先生とやらにたずねる
雰囲気が王宮に来ていた専任教師に似ていてすこし苦手だ
全てを見透かされているようで自然と背筋が伸びる
「ですから、あなたがセウスと前衛でお願いします。わかりましたか?」
「は、はい。俺?」
「何か?嫌なんですか」
「いえ、そういうわけでは、無いです」
丁寧に言われるがそこには否定はさせない圧を感じる
一返せば百で返ってきそうだ
そう思っているとフェイスベール越しに鋭く睨まれた気がした
「…相変わらず太陽の系譜は呑気なものですね」
「系譜?」
尋ねたが無視をされた
…
「はいみなさん注目」
パンパンと手を叩いて皆が黙る
「話した通り動きなさい。その間に私が精神介入しますので時間を稼いでもらいます。相手はあなた達より強いですから無理をしないように。いいですね」
遠足の子供に対する注意喚起のような言い方だった
三人がそれぞれ返事をする
「…そろそろ相手も動きます。では行動開始」
「「「はい!」」」
配置につく
前衛は俺とセウスが
その後ろにフォルテが遊撃して補助と挟撃として後衛のケイ
その後ろに先生が魔術を発動させるらしい
みると少年は俯いていて
後ろの闇精霊が抱きしめるようにしていた
だが突然その腕を払い除けた
「うぅ………違う。違う違う違う…こんなのじゃないこんなに冷たくない。ない、ないないないんだどこにも、どこにもいない。暗いよ。冷たくて、寒い」
震えながら自分を掻き抱くようにした
その手には二本のロングナイフが握られている
ガキィンッ!
「クッ!?」
思ったより、倍は重い…
瞬時に襲いかかってきたナイフを受け止めた
魔術で身体強化してなかったら吹っ飛ばされていたことだろう
「おりゃ!」
軽い声と共にセウスが後方から斬りつけた
だが後ろも見ずに片方のナイフで防がれそのまま衝撃で仰け反った
「射抜け!フレイムアロー!」
死角からフォルテが炎の矢を放った
フォルテと少年の間で矢は分裂した
熱気が迫ったので俺は退避する
サシュッ
一瞬で全ての矢が斬り落とされた
「子供騙しにもならねーよ!」
再び俺に向かって刃先を向けた
キィン シュ カキィン!
上下左右様々な方向から斬撃が迫る
後退しながらも防いでいるが時間の問題だ
確かに、強い
アクロバティックな動きがこちらを翻弄させ
数で負けているがその戦闘慣れした動きと強さで
こちらが押し負けていた
「キャハハッ!!」
高い笑い子供独特の声で笑い声を上げる
だがその禍々しさと凶悪さが歪さを強調している
「…光よ!我が身に宿れ!」
光が身を包む
「チッ……眩しいんだよ!」
苛立ったような声で言い突き、撫で切り、斬り上げ、袈裟斬り、そして前蹴りをした
…ッ
血の混じった唾を吐く
一撃の蹴りでこれか……間違って馬の尻に箒を落として蹴られた時より痛い…
そんな昔のことを思い出しかながら距離をとる
前では三人が少年を囲んで戦っている
チームだからか、息の合った連携で戦っている
セウスとフォルテが挟撃していて隙ができるとケイが両手剣で攻める
すると離れた二人のどちらかが魔術で攻撃し片方が距離を詰めて接近戦をする
いい戦い方だった
少年も先ほどまで明らかに余裕だったが、今は警戒して戦っていた
「ーーー!」
闇精霊が動いた
「クッ」
「ナッ!?」
「あれっ!?」
三人の足がふらつく
俺は耐えられた
だがこの状況では、平衡感覚が乱される
視界が歪んだ
パチンッ
指を鳴らす音がした
「ー!!」
三羽の鳥がクルクルと回って飛んで闇精霊に襲いかかった
ぶつかる度に闇精霊のベールが吹き飛ぶ
先生の仕業らしい
魔術式を構築しながら片手間に操作している
その中の一羽が捕まった
「爆ぜろ」
その言葉と同時に白い鳥が紫色の光を発して爆発した
「ッ!!」
闇精霊が紫の炎の中で燃えている
熱気は感じられない
不思議な魔術だった
美しいのに、その火は偽物のように感じられた
「クソッ!やめろ!よくもやりやがったな!」
少年が慌てて炎をナイフで切り落とそうとする
だが広がるばかりで意味がなく
闇精霊を退去させた
「許さない。許さない許さない許さない!!!よくも、よくも母さんの贈り物を!!ころ、殺してやる!絶対に、絶対、殺して、うぅッ、殺してやる」
最後の方は弱々しく涙目だった
その様子は痛々しく、知らないものが見たらこちらが子供をいじめて泣かしているようで嫌な気持ちになった
「黙って倒されろ子供」
いつの間にか背後をとっていたフォルテが少年の首に剣で峰打ちしようとした
キィン
「なッ!」
「…」
振り返らないまま剣を防ぎフォルテの首元を掴み投げた
それがケイにぶつかる
「グアッ!」
「うっ!」
「青き雷よ!ほとばしッ!」
詠唱しようとしたセウスが止まる
その両脇にはぬいぐるみがいた
ザシュッ!
「あ、ありが」
一瞬の隙にセウスの懐に少年がいた
やられる!と思ったセウスをヴァルツが後ろから抱き抱えるように後ろに下げて剣を前に突き出し初撃を防いだが
「邪魔だ消えろ」
低く呟かれた後、赤黒い光を纏った斬撃が俺たちを吹き飛ばした
そのまま後ろの街路樹にぶつかる
そして、敵はまだその場の奥で術を構築していた先生へと狙いをつけたようだ
まずい!
動こうとしても衝撃で痺れて動けなかった
セウスも呻き声をあげている
「アハ、アハハ!!死ね!さっさと死ね!暗がりで死ね!」
笑いながら疾走している
離れた所でケイとフォルテが魔術で止めようとしたが
全て一瞬でも止めることはできなかった
あと一歩でナイフが届く
俺の光弾も飛び跳ねて避けられた
「さよならだ」
口元を歪め赤い瞳が光っている
二本の艶消しされた黒い刃物が鋏のようにして先生の首を切り落とそうとした
「それは、まだ早いよ。アトラム」
「ッ!?」
驚きで一瞬、動きが止まった
だがすぐに再び動き出すだろうと思った時だった
ガシャンッ!!
先生と少年の間に裂くように何かが突き刺さった
投擲された、槍のようだった
あれは…武器の尾のように揺れた緑の紐を見たことがあった
「……おい」
低く呟かれた声に皆が反応する
その声には明らかに怒気が込められていて強い殺気が込められていた
「……」
「誰か状況を説明しろ。いや、やっぱいい」
砂埃が風に吹き飛ばされ姿を現す
やはりその眼差しは冷徹さを感じさせ一瞬別人だと錯覚されるほどだった
「とりあえず、お前。お前だ」
突き刺さった武器を抜き取り瓦礫を払って
顔を上げた
「誰に刃物向けてっかわかってんのか?まぁいい、言い訳はとりあえず。俺に殺されてからにしろよ。アトラム」
青龍偃月刀をブンと回して構える
「はぁ?……お前にできるのかよ卑怯者の暗殺者」
「うるせぇよお前もかわんねぇだろ隠気な気狂い殺人鬼」
知人なのか、知ってはいるが仲は良くなさそうだ
互いに睨み合い貶している
一間の後
始まった
ガキィン!キィン!ガッ!ジャキッ!ザッ!シュ!ヒュッ!
二人の凄まじい攻防が繰り広げられる
極まった技の型の攻撃を繰り出すスイウン
武器のリーチさを活かした突きからの薙ぎ払うかのような動き
静かだがそこに隙はなく一撃当たれば勝利できる技ばかりだ
それをアトラムと呼ばれた少年が悪い笑みを浮かべたままクルリと体を回転させ器用に避ける
刃同士が衝突する際激しい衝撃音と共に光が発生する
アトラムは触れた瞬間刃を逸らせ衝撃を緩和し斬撃を防いだり上手く距離を利用して一撃離脱するような戦法をとったりフェイントや体術を利用して応戦していた
それに対し、
スイウンは長い武器を利用し武器を回転させて翻弄したり
大きく振り下ろすことで強撃を放ち流石にその攻撃は防ぐことは厳しいらしく苦々しい顔をしながら避けている
「どうしたクソ餓鬼?いつもうるせー口が静かだぜ?」
「あぁん?つまらなすぎて話すのが億劫なだけだよクソおじ!」
「おれは、お兄さんだコラ!」
怒りの一撃が地面を砕く
互いに距離を取った
「一応確認だ。裏切りモンに慈悲は俺たちにはねぇ。わかってるよな?」
真剣な眼差しで聞いた
「慈悲?……アハ、アハハハハ!!傑作だなぁ!お前が慈悲ねぇ。冗談にしてもキツイな」
「わかってっけど仕方ねぇだろ。俺はお前がどうなろうとどうでもいいけどよ」
そこで一息吐いた
「あの方を悲しませるのだけはやめろよ」
その声は真摯で少し、悲しみを感じさせた
アトラムは険しい表情のまま探るように見つめている
「………悲しませんのは、お前らだろ」
「……はっ?」
シャキン…
ナイフ同士を擦り合わせる
「……母さんを悲しませるやつは、敵だ」
「チッ、だからそれはお前だろ」
「うるさい。誰にも、誰にも、渡さない。あいつにも、絶対俺が、母さんを幸せにするんだ」
強い眼差しで返した
それは意志の強さを感じせる目だった
「…何を言って」
困惑を滲ませた表情をしたスイウン
「だから全部」
脱力したように肩を落とす
その姿勢にスイウンは警戒した
「俺が、殺す」
刃が赤く光る
それは形を成した殺意
赤い軌跡が線を描く
「チッ。これだからガキは。たまにはまともに、喋りやがれ!親離れしろ!」
腰を低くし武器を構える
円を描くように地面に足を滑らした
そこから淡い緑色の光が溢れる
これから起きる出来事はまさに
本気の殺し合いだと察した
他の奴らも含め、黙って見つめている
加勢したところで邪魔だと分かりきっているからだ
「「死ね」」
二人が動き出した
アトラムは黒い光と赤い閃光を惑わせ瞳を光らせている
暗がりから獲物を狙う獣のような目だけがそこにいるのだと知らしめる
対するスイウンは静かに構える
その身の内から凪ぐ風のような魔力が感じられた
息を吐くと溢れ出した魔力が式も使わずに風が発生し、嵐の前の静かな風のようだった
互いが全力で戦うつもりだと感じられた
この場所にいるもの危険かもしれない
そう思って辺りを窺おうとした時だった
ふわりと
雪が音もなく降るように白い一羽の鳥が中央に舞い降りた
二人はそれを黙って見つめる
「………止めないでください。同僚の処分ぐらい俺がやります。あなたの手は汚させません」
振り返らずにスイウンは言う
普段の飄々とした態度とは真逆で
その静かさに内心驚く
「下がりなさい」
「ッ!…ですが」
「二度言わせるつもりですか」
「……」
「スイウン」
「はい…」
「心配ありがとう。君の優しさは受け取るよ。それにいつも助けられる。それでも君たちが本気で殺し合うところを見たくないんだ。わかってほしい」
「承知しました。…そんな俺は、たいそうなものじゃ、ないです」
「それでも私は嬉しい。そこで、見ていて」
スイウンは戦いの構えを解き、退けるように後ろに控えた
何が始まるんだ
「…んぁ?あれ?」
「起きたか?大丈夫かセウス」
意識を失っていたセウスが目を覚まし俺に肩を支えられながら起きる
「あれ、どうなって……ん?スイウン?」
丸く綺麗な瞳が揺れて現れる
スイウンと知り合いなのか
やはり彼らは繋がっていたようだ
まだ分からないことだらけだが、仲間割れ…なのかもしれない
それがどうこの事態と繋がっているかまで判断はつかない
「…お前」
警戒を解かず訝しみながらアトラムが睨む
「私が分かりますか?」
「…お前なんて、知らない」
まじまじと見つめる
「でも、なんでだ。知っている気がする」
その言葉に先生は微笑む
アトラムは苦しそうに頭を押さえる
「そう。なら良かったわ」
前に歩み出す
その行動にアトラムは僅かに、後退した
本人も意図しない行動だった
「助けに来たよ」
そう呟いて始まった
「輝きなさい鳥達よ」
片手を伸ばす
するとヒュッと空を舞う鳥達が集まってきて
肩に一羽がとまった
他の鳥はアトラムを中心に飛んでいる
「これは……黎明鳥…なぜあんたが」
「すぐにわかるさ」
笑顔で答えた
「飛べ」
鳥達に命じる
悠々と空を飛んでいた鳥達がアトラムに迫る
その様子はまるで夜空を流れる星のようだった
「……」
アトラムは素早く目を動かし鳥の動きを追う
複雑に飛び緩急をつけていて予測しにくい動きだった
淡く白い光が嫌に目に残る
なぜかアトラムは困惑していて冷や汗をかいていた
「……おかしい。おかしいなんで、なぜ?なんでだ?なんでお前が、こいつらを扱えるんだ?まさか、う、うう奪ったのか?ででもそんなの、無理だよ。母さんが許さない」
「セウス」
「は、はい!」
ぴょんと飛び上がり手をまっすぐ上げた
「視えますか?」
「えっと…」
目を細めてセウスは見つめる
「…視えます。胸に、あと頭に」
「そう。わかりました」
先生は聞き終えると
伸ばした手を一回、円を描くように回す
「すこし痛いけど大丈夫。痛みは得意でしょ?アトラム」
「なんで知って」
鳥達が襲いかかった
三羽の鳥が同時に迫る
素早くナイフを振りかぶり下段にいた鳥を斬ろうとしたが鳥は身を捻り華麗に避ける
背中を狙った鳥が羽を広げた
ふわりと、羽が光り輝く
「ぐあっ!?」
アトラムの背中を光が焼く
先程は紫の炎だったが今度のは明らかに、光属性だった
「光示す明光の道 暗き世を照らせ 羽搏いた空はどこまでも遠く 希望に満ちている」
詠唱が歌のように紡がれる
鳥達が踊るように闇を照らしている
その度にアトラムが苦しそうに呻く
必死に鳥を斬り落とそうとするが次第に弱々しい動きとなる
「……く、クソ。なんでだ。苦しい。痛いよ」
「…どうか許しておくれ」
光を当てられるたびに闇に覆われていたアトラムが弱っていく
あとは時間の問題だと思った
「セウス」
「うん!今だよ」
片手で目を覆い片目で注視しているセウス
その目が、光っている
神眼かと一瞬思ったが、別物だとすぐにわかった
その目の奥に、明らかに邪悪な存在を感じたからだ
先生がその場を動いた
一瞬でアトラムの前に音もなく移動する
「汝に魂の救済を」
片手が眩い白い光を放つ
神聖魔術か?
先生の手が触れる寸前
異変が起きた
ピピピピピー
!?
警戒な音が鳴り響く
音源は、アトラムからだった
「イヒヒ」
可笑しそうな笑い声が聞こえた
スイウンが瞬時に先生の後ろに移動して腰に腕を回し
後方に跳ねる
その瞬間爆発が起きた
パァン!
風船が弾けた音がした後、パラパラと紙吹雪が落ちてくる
それと共に態とらしい陽気な音楽流れる
まるで、サーカスの演目曲のようだった
「イヒヒ…ヒヒヒ」
身体から黒い煙が上がっているアトラムから笑い声が聞こえた
だが、その声は別人のようだった
「本当に、嫌な趣味をしていますね」
「それはどうも。お気に召したようで、大変、大変嬉しく思います。イヒッヒヒヒ!」
心底そうに笑う
顔を上げたアトラムは笑っていた
「私の子で、汚らしく笑わないでもらえるかな」
「ヒヒッ!愉快ですかぁ?」
馬鹿にしたように笑う
一方先生は冷たく、見据えていた
二人は見つめあっている
正確には、中にいる何かを見ている
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