怖いお兄さん達に誘拐されたお話

安達

文字の大きさ
32 / 242

材料集め

しおりを挟む
「星秀さん。ありがとう。じゃあ…」

「おう。なんでも言ってみろ。」

「…ここには誰が住んでるか知りたい。」



どのくらいの人がいて誰がいるのか。それを把握出来たら逃げる時に多分助けになる。あまりにも人が多かったら俺はかなり逃げる方法を考えなきゃいけない。ただいつもどんな時も人が多いってわけじゃないと思う。だから人が多い時間やそもそも人はどのくらいいるのかを俺は確かめるためにそう聞いた。



「ここには数え切れねぇほどの人がいる。」

「…そんなにいるのか?」



やっぱりそうか…。そうだよな。廊下だけでもあんなに広かった。だからなんとなくはそれを察していた。



「ああ。けど俺ら幹部がいるこの階はあんまりいねぇよ。ここは4階なんだがここに来れるのは幹部以上の奴らだけだからな。」

「幹部以上…?」

「そうだ。組長と健二さん、俺と蓮に凛翔、渚、勝だけだ。」



てことはこの階すら突破出来れば俺は逃げられるんじゃ…?俺も喧嘩が弱いわけじゃない。だから幹部以下の奴らにはもしかしたら勝てるかもしれない。



「…そうなんだな。」

「おう。けど3階にいるやつらが別に弱いわけじゃねぇよ。」



な、なんだと…。



「3階にいる奴らもかなりの腕っぷしのやつだ。俺らの直々の部下だからな。死ぬことも許されねぇしましてや怪我なんてもっての外だ。使えねぇからな怪我なんてしたら。」

「そ、そうなのか…。」

「そうだ。下っ端のやつらはそんなもんだ。会いに行ってみるか?」

「行かない…!」

「はは、冗談だ。ほら誠也、風呂場に着いたぞ。」



悪すぎる冗談だろ…!そんな必死こいて生きてるやつになんか会いたくねぇ…!そんなことしたら逃げられない現実を受け入れなきゃいけねぇから。



「星秀さん。ここが風呂場か…?」

「そうだ。」



いや…これ…一部屋分ぐらいあるじゃねぇか。やばいだろ。広すぎだろ。こいつらはいつもこんな広い風呂に入ってんのかよ…。



「広すぎやしねぇか…?」

「こんなもんだろ。つか誠也ってそんな感じの話し方なんだな。可愛い顔して。更に気に入った。」

「や、やめろよ…。」



それが嫌で俺はこの話し方を始めたんだ…って言いたいけど父親の影響でもある。そんな話し方ばっかりを聞いて育ったから今更ちゃんとした話し方なんて出来ねぇんだ…。



「悪かった。思い出したくねぇこと思い出させちまったようだな。ごめんな誠也。」



いや…なんで星秀さんが謝るんだ…?この人ってほんとに俺に惚れてんのか…?冗談とかじゃなくて…。



「…いや。星秀さんが謝ることじゃ…。」

「違う。俺が悪かった。誰しも思い出したくない過去はある。俺にだってそれはある。だからごめんな。」



と、言って星秀さんは俺を抱きしめてきた。けど親にすらその行為をされたことがない俺はそれをされるとどうしたらいいのか分からなくなるんだ。



「……………。」

「誠也。お前は強い子だよ。」

「…俺?」

「ああ。お前は強い子だ。」

「どうしてそう思うのか…?」



星秀さんは俺を温めてくれる。その上こんな言葉もかけてくれるんだ。今も俺を抱きしめて頭を撫でてくれる。けど俺はこれに慣れたら駄目だ。ここを出たあとで地獄に戻れなくなるから。



「あんな目に遭ってもこうやって堂々としてる。中々出来ることじゃない。こんな刺青だらけの俺とも普通に話してるしな。」

「…入れ墨は別に怖くない。」

「なんでだ?」



何故って…そんなの入れ墨を入れているか入れていないかのそれだけだから。



「入れ墨を入れてないけど怖いやつはいる。だから関係ない。入れ墨を入れてようが入れていまいが怖いやつは怖いし怖くないやつは怖くない。」



俺がそう言うと星秀さんは固まった。表情も固まった。もしかして言っちゃいけねぇこと言っちまったか…?と俺は星秀さんのことを見ていた。そしたら星秀さんが微笑んだんだ。



「そうだな。誠也の言う通りだ。そうだよな。」



…星秀さんは入れ墨を入れたことで嫌な思いをしたことがあるのかもしれない。この反応はそんな感じだった。てことは星秀さんも望んでこの世界に入ったわけじゃないのかもしれない。これはあくまで憶測だから分からないけどここを出る前にそれは知りたいと思った。



「…実際、入れ墨をいれてるけど星秀さんは優しいから。」

「お前がそう思ってくれてるなら俺は嬉しいな。よし誠也、じゃあそろそろ風呂に入ろう。服脱ぐからちょっと待っててくれ。」

「分かった。」

「いい子だ。」



待つだけなのに褒められるこの環境。こんな環境で育てたらと思うと…いやそんなことはやめよう。いくら置かれた環境を恨んだところで何も変わらないんだから。つかそれよりも俺は星秀さんの背中に入ってる入れ墨に驚いた。



「…星秀さん。」

「ん?どうした?」

「背中に入ってるのって龍ですか…?」

「ああ、これのことか。そうだ。この入れ墨はこの組の幹部と組長が入れてんだ。」

「…何か意味があるんですか?」

「それは今は言えねぇな。ただ大まかに言えば俺らのケジメみたいなもんだ。」

「…ケジメ?」

「ああ。まぁそれはおいおい話してやる。よし、風呂に入るぞ。風邪ひく前に。誠也、おいで。」
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

処理中です...