怖いお兄さん達に誘拐されたお話

安達

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星秀さんが連れていかれた…。あんな顔…。あんな顔をなんでさせるんだよ…。星秀さんのあの諦めたようで悔しそうな顔が頭から離れない…。



「誠也。お前は星秀が好きか?」

「…え?」



治に突如そう聞かれて俺は固まった。今この部屋には治と俺の2人だけ。余計に緊張するんだ。けどそれと同時に星秀さんが心配でたまらなかった。けど好きとかそういう訳じゃ…。



「いや…別に…そういうんじゃ…っ。好きじゃない…。」

「そうか。安心した。好きとか言ったらお前を快楽漬けにしてやろうかと思ったがそうじゃねぇならいいな。」

「……………っ。」

「そんな顔をするなって誠也。俺はお前を大切にするから。まぁお前がいい子ならの話だがな。でも分からないことがあればなんでも聞け。歳もそんな離れてねぇんだから、な?」



いや…歳は近くねぇだろ。俺は16…。あんたは27だっけ?どこが近いんだよ。けど聞きたいことはある。聞けるのならそれは聞くべきだ。



「…治さんは星秀さんのことをどう思ってるんですか?」

「あ?それはどういう意味だ誠也。」

「…さっき俺にそう聞いたから。俺も気になって。」

「あーなるほどな。そういうことか。」

「…はい。」



危ない。危なかった。治を怒らせるところだった。こいつを怒らせたら終わりだ。俺にはどうすることも出来ない。だから俺は良かったと心から安心した…。



「星秀はな、堅気だったんだよ。ヤクザじゃねぇんだ元はな。」



それはさっき健二に聞いた。あんたが星秀さんを攫って来たってこともな。



「…そうだったんですね。」

「ああ。そうだ。何年前かな。もう忘れちまったが俺が車に乗ってると星秀が歩いてたんだよ。あいつ昔は可愛くてよ。そんで俺のもんにした。」



本当にこいつらは自分のことしか考えない。星秀さんには家族や大切な誰かがいたかもしれない。なのに…。



「けどなぁ、星秀は暴れん坊でな。中々躾が上手くいかなかった。だから捨てようとしたんだが星秀は頭が冴えるやつでな。だからそれを俺は利用した。他の組の奴らにも星秀を味あわせてやった。そしたら取引が上手くいくからな。そうしていくうちに星秀も段々と聞き分けが良くなっていったんだよ。」



…言葉が出ない。星秀さんはものじゃないのに。こんな扱いをされていいわけが無い。取引の材料にされるなんて以ての外だろ…。くそ…。だからといって俺が何かをできる訳じゃない。



「だから俺も星秀に優しくした。あいつは使えるからな。頭が冴える分金も組に入ってくる。そっからは組が安泰した。だから俺も色々遊んだぜ。そんで誠也、お前に出逢えたんだ。お前に会った時俺は運命を感じたぞ。お前だけは絶対離しちゃいけねぇってな。」

「………………っ。」



治が俺の顔を撫でてくる…。怖い…。こいつが1番怖い。あんな凶暴な奴らを取りまとめてんだから…。俺が何かやらかしたらまたこいつに酷いことをされる。それが脳内に埋めつけられてる…。くそ…。



「だから安心するんだぞ誠也。お前には酷いことをしない。ましてやお前で取引をするなんてことはしねぇから。お前は大切にする。大切な俺のものだ。愛人にしてやるよ。」



してやるよ…ってなんだよ。俺はそんなこと頼んでない。なのに俺がして欲しいみたいな言い方…すんじゃねぇ。



「可愛いな。お前は本当に可愛い。この16年間よく無事でいたな。誰にも狙われなかったのか?」



ああそうだよ。あんた以外には何もされてこなかった。平和だったよ。くそ…。手を払いのけたい。俺の事を抱きしめてくるこいつから離れたい…。



「…狙われなかった。」

「そうかそうか。まぁそれどころじゃねぇよな。お前家庭環境複雑だったから。けど安心しろ。これからは俺が幸せにしてやるから。」



家庭環境とか…どうやって調べんだよ。俺の親に直接聞いたのか?そうじゃねぇなら張り込みか?益々こいつが怖い…。



「あーそうだ。誠也、お前に言わねぇといけないことがある。俺は警察とも繋がってんだ。だから万が一逃げてもお前に逃げ場はない。警察も俺の見方なんだからよ。よく覚えとけよ。逃げてもお前はここに戻ってくるしかないんだ。」



そんな…。警察って俺らみたいな市民を守ってくれる存在じゃねぇのかよ…。俺みたいなクズは用無しなのか?俺みたいなやつだから…。



「俺も伊達に組長をしてねぇからな。そこだけは覚えとけよ。」

「……………っ。」

「誠也。返事は?」

「…分かりました。」

「いい子じゃねぇか。なら休んでろ。今日は疲れただろ。」



…?なんでこんなに優しくしてくれるんだ?前はもっと酷かったのに。俺が泣き叫んでもやめなかったのに。まぁいいか…。休める時に休んどかねぇと逃げれるもんも逃げられねぇ…。



「そうそう誠也。そうやって休んでろ。休んだ後で俺が可愛がってやるから。」



そんなの…一生目を覚ましたくねぇな。嫌だな…。起きたくない…。



「んじゃ、俺も休むか。」



……は?なんて?治が休むって?そりゃ逃げるチャンスじゃねぇか。寝たふりして治が寝たところで逃げればいい…!



「おやすみ誠也。」

「…おやすみなさい。」

「ああ。ゆっくり休めよ。」

「…はい。」



…このチャンスを逃しちゃいけねぇ。こいつが寝静まったのを俺はちゃんと見るんだ。寝たフリをしながら。
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