怖いお兄さん達に誘拐されたお話

涙

｢おい蓮。外にも声が聞こえてんぞ。｣



そう言ってお風呂に入ってきた人は俺がずっと会いたかった人。心配でたまらなかった。ずっと。ずーっとだ…。その人が今目の前にいる。



｢…星秀さん。｣

｢よぉ誠也。元気そうでよかった。｣



それはこっちのセリフだ…。どこも怪我してない。服きてるからわかんない部分もあるけど…でも顔にも痣がない。俺は最悪の事態を想定してたから…ほんとに良かった。



｢つか星秀こそな。歩けるようになったんだな。｣

｢ああ。お前が鎮静薬なんて飲ませるから寝ちまったじゃねぇか蓮。｣

｢いやいや感謝しろよ。お前ろくに寝てなかったろ？その状態で誠也に会いに行くとか聞かねぇから。つか…お前ここに来て大丈夫かよ。健二さんにまたなんかされるぞ。その前にどっか行けって。｣



蓮さんはそう言いながら湯船から上がって星秀さんを浴室から出そうとした。けど星秀は浴室から出ようとせず俺に微笑みかけた。そんで星秀さんは蓮さんを宥めるように肩に手を置いた。



｢そんなに焦らなくても大丈夫だって。まぁ落ち着けよ蓮。｣

｢落ち着いてられっかよ！！｣



蓮さんがまた本気で怒ってる。ここはお風呂場だからその蓮さんの怒り声が余計に響いた。けどそんな蓮さんを前にして星秀さんは焦り1つ見せなかった。



｢ほんとに大丈夫だから。｣

｢大丈夫じゃねぇだろ！お前自分が健二さんや組長に何されたか忘れちまったのか！？｣

｢忘れてねぇよ。｣

｢じゃあなんでお前は自分の首を絞めるようなことをするんだ！｣



健二は蓮さんにさっき星秀さんには手を出さないって言ったけど蓮さんはそれを完全に信じてないんだろうな。だからこうして星秀さんを守ろうとする。けどやっぱり星秀さんはそんな蓮さんを前にしても穏やかな表情をしてた。この顔が…まじかでまた見れてよかった。殺伐とする空気の中俺はそんなことを思っちまった。



｢してねぇよ。落ち着けって蓮。誠也が驚くだろ。｣

｢してんだろうが！なぁ星秀。お前が良くても俺が良くねぇんだ。お前が傷つく姿は見たくねぇんだよもう。だからいい加減に自室に戻れって。｣

｢蓮。話を聞け。｣

｢んな暇ねぇだろ！！｣

｢あるんだ。だから話を聞けって。｣

｢…お前さっきから何言ってんだよ。｣

｢今は組長も健二さんもこの屋敷にいない。｣

｢…はぁ？｣



さっきまで騒ぎ立てていた蓮さんだったけどその星秀さんの言葉を聞いてその場に立ち尽くした。



｢どういう事だ。組長も健二さんもいない？そんな事あるわけねぇだろ。お前ついに嘘までつき始めたか。誠也に会いたいのは分かるがお前…。｣

｢違うって。勝手に勘違いして妄想広めてんじゃねぇよ馬鹿蓮。な？誠也。まじでこいつどう思う？最低だよな。｣

｢…え、えっと、｣



蓮さんもこの状況に混乱してるけど俺はその蓮さん以上に混乱してるんだ。それは何もわかんねぇから。治や健二が同時にいなくなることは無い？それが事実だったら嘘ついてんのは星秀さん。けど星秀さんを見る限り嘘ではなさそうだ。もう訳わかんねぇんだよ。



｢誠也を混乱させんな。こいつさっきまで健二さんに…｣

｢れ、蓮さん！｣



躾をされてた。蓮さんはそういうつもりだったんだろう。だから俺はすぐに声を荒らげた。それだけは星秀さんに知られたくなかったから。星秀さんに何も無かった。それだけを伝えたいんだ。心配…されたくねぇから。



｢言わないで…。｣

｢おい誠也。俺には教えてくんねぇの？蓮は知ってんのに？｣

｢…教えるも何も俺は何もされてないから。｣



そうやって星秀さんに嘘をつく俺を蓮さんは黙って見ていた。いや多分蓮さんは知りたかったんだ。さっき星秀さんが言ってたことを。だからその証拠に蓮さんは…。



｢へぇ。何もされてないねぇ。それは事実か？蓮。｣

｢さぁな。それよりも俺に言うことがあるだろ星秀。組長も健二さんもいないってどういう事だ。｣

｢そのままの意味だ。健二さんも組長も仕事に行ってる。｣

｢…何があったんだよ。凛翔や勝もか？つか渚はどこ行ったんだよ。お前の部屋にいたはずだろ。｣

｢渚が手を回してくれたんだ。それに俺が早くここに帰ってこれたのは凛翔のおかげ。あいつがそれに関しては手を回した。｣ 

｢んだのそれ。俺はなんも知らねぇぞ。｣

｢あいつらは単独で動いてたからな。だから知らなくて当然だ。｣

｢詳しく聞かせろ。｣

｢それは風呂上がってからだな。誠也がゆだっちまう。｣

｢そうだな。｣



蓮さんがそう言って俺を抱き抱えようとしてきた。けどその時星秀さんが…。



｢待て蓮。俺が誠也を連れて行く。｣

｢そうかよ。｣



蓮さんは仕方ねぇなと言うように俺を星秀さんに渡した。その時俺は蓮さんに頭をぽんと触られた。だけどすぐに意識は星秀さんに行く。だってこの人…暖かいんだ…。



｢久しぶりだな誠也。｣



そう言って星秀さんが俺の事抱き締めてきた。俺は濡れてるから星秀さんの服…濡れちまうのに。



｢また会えて良かった。俺の為に色々してくれたこと蓮から聞いた。ありがとうな。けどもうそんな事しちゃ駄目だ。自分を1番大切にしろ。約束だ誠也。｣



星秀さんに頭を撫でなれながらそう言われて俺は我慢してたものが全部溢れてきた。さっきも怖かった。けど泣けなかった。それは俺のプライドだ。なのに…だったのに…涙が溢れてきた。我慢してたのが馬鹿らしくなるぐらい涙が止まらなくなった。



｢…っ、ぅ、く゛っ、せいっ、しゅ、さん…っ、｣

｢よく耐えたな。もう大丈夫だ。｣