怖いお兄さん達に誘拐されたお話

安達

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願望

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「なぎさ…っ、終わり…!!」



渚さんはいつもの如くネチネチとねちっこいキスをしてくる。それに耐えきれなくなった俺は強めに渚さんの前胸を押して抵抗した。



「仕方ねぇな。今日のところは……ってやべ。組長から着信入ってた。」

「はぁ?!馬鹿渚!さっさと出ろ!」



治からの着信はそんなに重要なんだな。蓮さんが声を荒らげて怒った。そんで渚さんも慌てて治に電話をかけ直す。



「慌ただしくてごめんな誠也。」

「全然。それより星秀さん…。」



星秀さんはどこも悪くないのか?それを俺は聞きたかった。寝ていた…と蓮さんは言ってたけどそれだけで体は回復するのだろうか。まだきっと体も痛いはず。なのにその素振りすら見せない。だがだからこそ俺は聞きづらかった。星秀さんが隠していることをわざわざ聞く勇気が俺にはない。



「………………。」

「誠也?」



俺は聞きたいけど星秀さんに聞くことが出来ない。だから黙って星秀さんを見つめて困った顔をしてしまった。そんな顔をしたら星秀さんは当たり前に俺を…。俺を…?心配してくれるって俺…そんな甘ったれたこと考えたか…?駄目だろ。星秀さんは酷い目に遭わされてここへ戻ってきたんだ。今だけは星秀さんに甘えるのは無しだ。



「な、なんでもない。ごめん星秀さん。」

「お前どうした…」

「おい星秀!蓮!」



俺が甘えたせいで星秀さんが俺の事を心配するような目で見てきた。けどその直後渚さんが血相変えて戻ってきたんだ。



「どうした。まさか組長の身に何かあったのか!?」



あまりにも渚さんが慌ててたから蓮さんもそれに釣られたのか立ち上がって渚さんにそう言った。2人にとっては治って大切な存在なんだろうな。



「いや違ぇ。組長は無事だ。それに関しては安心しろ蓮。ただ健二さんが撃たれた。」

「…はぁ?撃たれた?どういう事だ!組長と健二さんは會田会と話に言っただけだろ!?話の最中に撃たれたのかよ!?」



空気がピリついてる。撃たれた…って事は健二は危ない状況なのか…?けど俺は正直ほっとしてしまう。駄目だ。人としてそれは最悪だ…。けど健二は俺にあんな事をした奴だから…。悲しめないきっと…。



「落ち着け蓮。健二さんは命には別状がない。それと犯人は分かんねぇんだ。それは會田会と穏便に話を終えた後で健二さんが撃たれたからな。もしかしたら會田会の連中かもしれねぇし他の連中かもしれない。犯人の目星はまだついていないそうだ。何しろ取り押さえた犯人は一般人だったんだからな。」

「…なるほどな。闇バイトか。」



星秀さんが納得したようにそう言った。闇バイト…。さすがの俺でもその言葉は知ってる。詳しくは知らないけどな。けど実際にあるんだなそういうの。



「そうだ。一般人が絡むとどうしてもめんどくせぇ。警察が動くからな。」



と、渚さんが困ったように言った。その横で蓮さんが安心したような顔をしてる。多分健二が生きてるから。蓮さんは健二の事を慕ってる。それは命を捧げるほどに。



「んで渚、組長はなんて?俺らにどうしろって?」



完全に仕事の顔になった蓮さんが渚さんにそう聞いた。俺はその時思っちまった。今思うことじゃねぇかもしれねぇけど…健二が撃たれたってことはここには健二は帰ってこない。もしかしたら治も…。そうしたら俺は逃げられる可能性が高くなるんじゃ…?



「とりあえず蓮は俺と健二さんのとこに来いってよ。んで星秀、お前は誠也の見張りをしろって。」



…星秀さんと2人きりの留守番。チャンス…じゃねぇの…?いやけどそんな簡単にいくか?怖い。失敗した時のことを考えたら怖い。



「よし分かった。星秀、留守を頼むぞ。」



蓮さんがそう言ってこの部屋を出ていった。それぐらい蓮さんは健二のところにいち早く行きたいんだ。



「悪いな誠也。慌ただしくなっちまったな。けどいい子にしてるんだぞ。星秀を困らせるな。分かったな。それと絶対に逃げるな。逃げても捕まえられる。それは覚えとけ。」



俺が逃げようとしていたのを分かったように渚さんはそう言ってきた。全部バレバレかよ…。くそ…。



「…分かってる。」

「それならいい。それでいいぞ誠也。んじゃ星秀、後は任せた。何かあったら直ぐに組長に連絡しろって組長から。もしお前が…組長が嫌だったら俺に連絡しろ、な?」



渚さんは口説いぐらいにそう言ってきた。星秀さんが心配なのか俺が逃げるのが心配なのか…。いや全部かもな…。だって俺たち2人は望んでここにいるわけじゃないんだから。



「うるせぇな渚。さっさと行け。余計なお世話だ。」

「そうかよ。じゃあ行くな。星秀、口説いがくれぐれも誠也から目を離すな。」

「分かってる。さっさと行け。」



星秀さんがそう言うと渚さんは少し困ったように笑って部屋を出ていった。久しぶりの2人っきり。けどさっきまで空気がピリついてたから俺は星秀さんと何を話したらいいか分からなくなっていた。



「誠也。」



俺がどうしようかと布団と睨めっこしてたら星秀さんが俺の名前を呼んできた。



「…なに?」

「お前はまだここから逃げる気が失せてねぇな?」

「…え?」



星秀さんの口からそんな事が出ると思わなかった。だって…だって…さっきまで渚さんがあんな口説いぐらいに言ってたのに…。それにそんな素振りさっきまで見せてなかったから。



「どっちだ。」

「そんなの…当たり前だ。ずっと逃げたいと思ってる。」

「良かった。」



星秀さんの様子がおかしい。覚悟してる顔だ…。まさか星秀さん…。



「俺がここからお前を逃がしてやる。」
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