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重なる熱

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「ああ、渉……すごく……いいぜ。いい」
 宥めるように髪を撫でられ、耳元で優しく囁かれると、それだけで渉は達ってしまいそうになる。鼻先に漂う鷹村の香りを肺一杯に吸い込みながら、それでもなお飽き足らないと口中の鷹村を舐めまわす。まるで飢えた犬みたいだと自嘲してみるのだが、それでも鷹村を味わいたいという欲望の方がまさって、鷹村の脚の間に這いつくばったまま、なおも渉は懸命な奉仕を続けた。その手で、休みなく自身の欲望を育てながら。
「無理はしなくていい。辛ければ、休め」
「ぅん……?」
 雄を銜えたまま視線だけで返事する。途端、鷹村の喉がごくりとなるのを渉は聞いた。
「お前……こんなに可愛かったか?」
 そっと頬に指を添わされ、そのまま顎を撫でられる。耳の裏を、髪の毛を掻き上げられるように撫でられると、何ともいえない心地よさが身内を満たした。
 口中の塊は熱く、何より口腔に収まりきれないほどに巨きい。あの夜、鷹村が怖くなるから見ない方がいいと言ったのはきっとこのためだろう。思えばあの夜は、初めてだったにもかかわらずよくもこんな大質量を受け止められたものだと呆れてしまう。
「なぁ渉……今度は、舌だけで舐めてみてくれ。俺を見ながら……」
「ぅん」
 熱から口を離し、言われたとおり舌先だけで舐めまわす。上目づかいで鷹村を見上げると、その鷹村の口から満足そうな溜息が漏れた。
「もっと挑発するような……ああ、そうだ……いい。いいぜ、渉」
 何だか少し恥ずかしいが、鷹村が喜ぶことなら何でもやりたいのが今の渉だ。
「部活の連中が見たら、きっと羨むだろうな」
「部活の? どうして?」
「何だ、やっぱり気づいてなかったんだな。まぁ今だから話すが、お前、実は結構モテてたんだぞ。――っても男子限定だがな。あいつが女子だったら絶対声かけてるって、そういう奴が部内にごろごろいやがって、俺としては気が気じゃなかったが」
「……初めて聞いた」
「みたいだな。ちなみに、文化祭で嫌がるお前に無理やり女装させてたのも、そういう連中だ」
「は……?」
 渉は唖然となる。そういえば高校の頃、なぜかバスケ部では毎年のように女装喫茶の案が出され、そして渉は、毎年のように着たくもない女子の制服やメイド服をお仕着せられた。
「まぁ俺は、お前が男でも女でも好きになっていたと思うがな。――ほら、身体を上げろ」
 命じられるまま身体を起こし、さらに促されるまま鷹村の膝に跨る。向き合うかたちになったところで、鷹村は渉の背中を抱き寄せ、目の前にある渉の乳首を唇で軽くついばんだ。
「……ん、っ」
 さらに舌先で転がされ、前歯で甘く噛まれる。優しいが執拗な愛撫に、早くも渉の身体は蕩けはじめる。
「ほんとに……あいつらに見せてやりたいよ」
「い、やだよ、そんなの」
「どうして。こんなに可愛くて色っぽいのに」
「いやだ……涼にしか、見せない……」
 ひっ、とか細い悲鳴が喉から溢れる。背後に回された鷹村の手が、開いた渉の脚の間をまさぐり、奥の弱い場所を小突いたのだ。
「嬉しいな」
 ゆるゆると宥めるように撫でながら、確実に奥へと進めてゆく。この二週間ですっかり馴らされたそこは、何の抵抗もなく鷹村の指を受け入れた。
「あ……ん、っ」
 全身の皮膚という皮膚が粟立つような感覚に思わず溜息を洩らせば、それを余すまいとばかりに鷹村の唇が重なってくる。上と下の口を同時にまさぐられ、危うく理性が飛びそうになる。
 鷹村の肩に腕を回し、さらに貪欲に舌を絡めた。
「ん……ふぅっ……」
 いやらしい水音が耳の奥でうるさいほど響く。一方で鷹村の指先はいよいよ抽挿を激しくし、無遠慮なほど荒々しく奥を掻きまわした。
「んあ……ぁ、やぁ……あっ」
 知らず知らず腰が動いて、互いの自身を擦り合せている自分に気づく。あまりにもはしたない行為に、やめようと思うのだけども余りに快すぎて止めることができない。
「……いやらしいな」
 鼻先で、鷹村が形の良い唇をにやりと歪める。
「りょ……涼が、いけないんだ」
「俺が? どうして」
「こんなこと、教えるから……」
 実際、擦り合わせる快さを渉に仕込んだのは鷹村なのだ。
 鷹村の肩に回していた手の一方をそこに回し、二人の熱を掴んでさらに強く擦り上げる。敏感な裏側が強烈に刺激されて、今にも意識が白く飛びそうになる。
「い……達きたい……っっ!」
「ああ、俺も……」
 だしぬけに奥を突かれて、弾みで思わず渉が達した次の瞬間、自分のものでない飛沫が渉の痩せた胸板をしとどに濡らした。
「ず、ずるいよぉ……」
 鷹村のたくましい肩に額を預けながら、恨みがましく呻く。あの不意打ちさえなければ、きっと、もっと長く保っていたはずなのに。
「すまない。つい」
「何が、つい、だよ」
 むくれながらも渉は、鷹村の傷の様子をチェックすることを忘れない。
 六つに割れた腹の脇には、何だかシールのように頼りないバンドエイドが貼られている。これが、傷を縫った後に貼られたテープだそうで、本当にこんなものが効くのかと心配になるのだけど、実は通気性や密着性にも優れた優秀な医療用バンドエイドとのことらしい。
 そのバンドエイドはかすかに血が透けて見えるばかりで、傷口が開いたようには見えない。
「心配か?」
「う、うん……」
「だったらこっちの心配もしてくれ」
 鷹村が指さした方を見ると、そこには、今なお衰えることなく天井を指し示す鷹村のたくましい雄があった。
「収まらないんだ。早くお前の中に挿れさせてくれ」
「挿れさせて、って……もっと言い方ってのがあるだろ?」
「ない」
 言うが早いか鷹村は渉の中から指を引き抜くと、そこに猛ったままの自身の雄をあてがった。
 渉の心配など、もはやどこ吹く風だ。
「そのまま腰を落とせ」
「……うん」
 命じられるままそっと腰を落とす。すでに十分ほぐされたそこに、大きく傘を張った先端が、ぬる、とすべりこむ。
 それだけで渉は、達った直後の疲労が一気に吹っ飛ぶのを感じた。
「う……ぁ……ああっ」
 今度は鷹村の方から突き上げがきて、渉の奥を、さらに奥を埋めてゆく。愛する人に空隙を埋められる感覚に、渉の愉悦と幸福感はいよいよ高まってゆく。
「す……好き、だよ、涼……」
 激しく揺すられながら、ほとんどすすり泣きに近い声で渉は呻いた。
「あ、ああっ、だいすき……ううっ、いい……」
 ついに根本まで埋められ、突き上げるように激しく揺すられ捏ね回される。粘膜の擦れあう淫らな水音が背後から響いて、羞恥心だけで死んでしまいそうだ。
「すごい締めつけだな渉。また……達っちまいそうだ」
「い、達って……何度でも……もっと、僕を、よごして」
 そして隅々まで鷹村の色に染めてしまえばいい。鷹村の色に。匂いに。たとえ地球の反対側に逃れても、もう自分は逃げられないのだと思い知ることができるほどに。
「見たいか?」
「え? 何を……」
「自分が汚されてるところを」
 言うが早いか鷹村は、繋がったまま渉ごと前に倒れると、その身体を大きく二つに折り、天井に後孔が向くようにした。
「ほら見ろ……しっかり、咥え込んでる」
 言いながら、ふたたび雄を沈めてゆく。かと思えば腰を浮かせて先端近くまで引き抜き、粘膜が物足りなさを覚えたところで一気に奥まで叩き込む。巨大な肉塊が目の前で妖しく出入りする光景に、渉は恥ずかしさでおかしくなりそうになる。
「ああっ、い、いや、あぁ」
 恥ずかしい。どうしようもなく恥ずかしくてたまらない――のに、もっと汚してほしくてたまらなくなる。先ほど胸板に撒き散らされた飛沫を、自らの手でひたひたと肌に塗り込みながら、中も外も余さず汚してほしいと鷹村に目で訴えた。
「すごい……色っぽいな」
 覆いかぶさるように顔を寄せてきた鷹村が、鼻先でそっと囁く。
「やっぱり、誰にも見せたくない」
「……りょう」
 その首にしがみつき、なおも寄せては返す愉悦の波に渉は必死に耐え続けた。
「い……達っちゃう……また、あぁ……」
「渉」
 耳元で、鷹村の濡れた声が囁いた。
「もう二度と……逃がさないからな、渉」
 そして、今一度唇を重ねる。前歯がかち合うのも構わず唾液を貪り合い、舌先を絡めるうちに 渉の中で熱が膨張して、花火のように一気に弾けた。
 気づくと渉自身も、何度目かになる絶頂を迎えていた。
「駄目だ、全然足りねぇ」
「……僕も」
 そして唇を重ね合う。どうやら今夜は、このまま長くなりそうだった。
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