上 下
31 / 96
-第一章-スプリングフィールド王国-

-第一章二十七節 バニーガールキャロットとラッキースケベ-

しおりを挟む



初めて対峙するニンジン相手にマサツグが瞬間的に集中状態になると捕獲に

成功するのを見て、農家のおじさんとリコが驚く。モツの方もニンジンの

植わっている畝に向かうとニンジンの葉に手をかけ引っこ抜く。すると、

今までのニンジン同様にジタバタと暴れ、自身の葉を引き千切ると

逃げ出そうとする。


「逃がさん!」


モツはニンジンが地面に降り立つ前にマサツグ同様に瞬間的に集中状態になると

捕獲を成功させる。それを見てマサツグの時同様に農家のおじさんが驚く。


「驚いた…

リコちゃんと同じ方法でニンジンを捕らえるとは…」


「…?

同じ方法?」


モツが農家のおじさんの一言に疑問を持っているとリコが畑に入ってくる。

すると、ニンジンの植わっている畝に向かいマサツグとモツ同様にニンジンを

捕らえる。しかしさすがは人参ハンター、その一連の作業に迷いが無い上に

隙が無い。


「お兄ちゃん達やっぱりすごいのね!

ここのニンジンって普通のニンジンじゃないでしょ?

オマケに走り回るし脱走するし…」


「そ…そうか…」


リコがここのニンジンについて文句を言っている最中、マサツグは気にせず農家の

おじさんに捕まえたニンジンを持っていくとバニーガールキャロットに

挑戦出来るかを尋ねる。


「おじさん。

とりあえず、ニンジンも捕まえたけど。」


「あ…あぁ…

ただ、本当に挑戦するのか?

言っておくがそこに植わっているニンジンとは違い、数段格上だぞ?」


「…?

あぁ、どうしても必要なんだ。」


農家のおじさんがマサツグ問い掛けに驚きながらも挑戦する意思を尋ねると

マサツグが返事をする。農家のおじさんもマサツグの返事を聞くと

少し俯き顎を触りながら考え込むが数分唸ると頷き、マサツグに場所を教える。


「う~~~ん……

よし、わかった!!

何であのニンジンが必要とされているかは解らんがその動きが出来るのなら

大丈夫だろう。

しかし、覚悟しておけよ!

さっきも言ったがあのニンジン達より格段に実力は上だからな!!」


「分かったよ!!」


マサツグが返事をすると農家のおじさんは畑の端の方に有る一画を指差すと

そこには他のニンジンの葉とは色が濃い物が植わっている場所を指し示す。


「あそこ一画に植わっているのがそのバニーガールキャロットなんだが…」


農家のおじさんが教えてくれるがやはりまだ不安があるのかそれとも

教えたくないのか渋々とマサツグに説明する。説明を受けたマサツグが

その一角に向かうと後ろからリンの叫び声が聞えてくる。


「うおらああああ!!!

待て待て待てえぇぇぇ!!!」


「本当に元気だな…リン…」


リンの叫び声にマサツグがそんな事を考えているとモツも合流する。

どうやらモツも農家のおじさんに許可を貰ったのか手を振り後ろから

駆け寄る。


「お~い!!

俺も手伝うぞ!!」


「おぉ、助かる~!」


のん気にマサツグは振り返るとモツに手を振り返す。がしかし、この時まだマサツグ

とモツはこのバニーガールキャロットの本当の恐ろしさを…

農家のおじさんが何度も挑戦するのかと尋ねた理由を知らず、これがちょっとした

戦いになる事を知らないのであった。

マサツグがバニーガールキャロットの葉を握り引っこ抜くと、モツが捕まえると言う

二人体制で構えを執る。そして、マサツグがゆっくりニンジンの葉を握ると

モツの方を向き、アイコンタクトを取る。モツもそれに気が付きゆっくり頷くと

足幅を広く取り、腰を少し落とす。それはもう取り組みが始める前の関取の様な

構えになる。

マサツグとモツの後ろでは農家のおじさんとリコが心配そうにこちらを見ていた。

マサツグが先ほど見せたニンジン捕獲時同様にゆっくり息を吐くと手に力を入れ、

一気に引っこ抜く!するとそこにはリンが言っていた通りに二又ニンジンが

編みタイツを穿いた様な模様に何故か異様なまでに美脚な根っこが出てくる。

しかも、ご丁寧にハイヒールまで履いている。その異様なニンジンにマサツグと

モツが面食らっていると突如それは起きた。バニーガールキャロットを抜いて

たった1秒で自身の葉を引き千切り、逃げ出そうとする。普通のニンジンは自身の

葉を抜くのに大体3~4秒位掛かるのだがバニーガールキャロットはそれより

速く抜ける。モツが慌てて捕まえに掛かろうとすると次の瞬間、マサツグと

モツが後方に少しノックバックすると同時に二人の顎が跳ね上がる。

それを見たリコは何が起きたのか解らず驚いていると隣に居た

農家のおじさんは戦慄していた。


「で…出た!…」


「え?…」


農家のおじさんの言葉にリコがおじさんの方を見るがおじさんは冷や汗を掻き、

マサツグとモツを見つめる。しかし、リコには何の事かは解らず首を傾げ、再度

マサツグとモツの二人の方を向くとその場に倒れ、顎を抱え悶絶していた。


「ッ!?

お…お兄ちゃん達!!

大丈夫!!!」


リコが慌てて二人の元に駆け寄ろうとすると二人が片手をリコの方に向け、

手を開く。まるでこっちに来るなと言っている様にリコには見える。

しかし、リコは理解出来ずに如何したらいいのか解らないでいると農家の

おじさんがリコに戻ってくるように伝える。


「リコちゃん!!

そっちに行っちゃイカン!!

今はあのお兄ちゃん達から距離を取るんだ!!」


「え!?

どうして!!

お兄ちゃん達が痛そうにしてるんだよ!!

助けないと!!!」


リコがおじさんに反抗しているとマサツグとモツがゆっくりと起き上がる。

しかし、マサツグ達の膝はガクガクと揺れ心許ない。更に打ち所が悪かったのか

二人揃ってスタン状態に陥る。だが、喋れる様になったのかマサツグがポツリと

呟く。


「マジかよ…」


「ッ!!

お兄ちゃん!!」


リコがマサツグに駆け寄る。その際、農家のおじさんも慌ててマサツグ達の方に

駆け寄ってくる。リコはマサツグの手を支えると何が合ったのかを尋ねる。


「お兄ちゃん!?

どうしたの!?

一体何が合ったの!?」


モツも喋れる様になったのかマサツグ同様にポツリと呟く。しかし、

その言葉にリコは更に困惑する。


「俺…ゲームの中とは言えあんなに綺麗な足で顎を蹴り上げられたの…

初めてなんだが……

……それもに……」


「……?

お兄ちゃん?

何を言っているの?」


リコの言い分はごもっともだがマサツグとモツは何が合ったかを確かに確認した。

それは二人にとってはかなりキツイ事実であった。

まずあのニンジンはモツが捕まえに入るも間に合わず地面に落ちた途端、地面を蹴り

飛び上がるとマサツグに向かい飛んで行き顎に一撃を繰り出す。その反動で今度は

モツの方に飛ぶとマサツグの時同様にモツの顎を捉えると一撃を放つと言う、

某暗殺スナイパーが撃った跳弾の様な弾道を見せる。

が問題はそこではない、本当に問題なのは余りの速さにニンジンが普通では捉え切れ

ない事、そしてあのニンジンが足技に長けている事。一瞬の間に二人の顎を

蹴り上げる脚力!更に正確に人の弱点に一撃を放つ技量!

本当にニンジンかと疑うような動きを見せマサツグ達の度肝を抜く。


「つつつつつ…

なるほど…おじさんが何度も尋ねて来る筈だ…

普通に強い…」


「結構色んなモンスターと戦ってきたけど…

今までの中で一番戦いたくない相手だな…

速いし、痛いし…」


二人が頭を叩いたり、頭を左右に振ったりと意識をハッキリさせようと色々と

動かす。その際おじさんがマサツグ達の顎を蹴り上げたニンジンが居ない事に

気が付くと二人にバニーガールキャロットが何処に言ったかを急ぎ尋ね始めた。


「ッ!?

そんな事よりアイツは!!」


マサツグとモツがバニーガールキャロットの一撃に嫌気を指しているリコが二人の

心配するがおじさんの質問にマサツグとモツがハッとする。それを聞きリン

を除く全員が辺りを見渡す。すると、マサツグが畑の端の方を指差し全員に

知らせる。


「ッ!?

居た!

あそこでこっちに向かって、土をかけて居やがる!!」


マサツグの指摘通りバニーガールキャロットはこちらに向け犬の様に土をこちらに

かけている。それを見てマサツグとモツが本腰を入れると同時に苛立ち始める。


「野朗…」


「ニンジンに土をかけられるとは…」


煽っている様な光景を見て静かに二人が怒っているとバニーガールキャロットは

更に煽る様に二人に向かい屈伸運動を始める。

それ見た途端マサツグとモツが完全にブチ切れる。


「野朗オブクラッシャー!!!」×2


先ほどの弱気とダメージが嘘の様に消え、立ち直すと二人揃って刹那を発動する。

そしてバニーガールキャロットに向かい突貫を始める!

しかし、突貫を始めた二人には冷静さが欠け、動きが雑になる。


「ウオオオォォォォォォォ!!!」


マサツグが一気にバニーガールキャロットとの距離を詰めるがニンジンはそれを

簡単に回避してみせる。それにマサツグが驚くと同時にあることに気が付く。

刹那を発動してもニンジンの動きがスローに見えない事である。確かに、

先ほどに比べてニンジンの動きが落ち着いて見える。見えるのだがそれでも

刹那を使っていない時の普通のニンジンクラスに速い!

バニーガールキャロットの異常なまでの速さをここまで痛感させられるがそれでも

二人は追い回す。


「ッ!?

これって相手が速くてスローに見えないのか!?

ただ、刹那は適応されているみたいだな!…」


ニンジンがマサツグを踏み台にして飛び上がるとモツがそれを見越し手を伸ばし

捕獲に掛かる。しかし、ニンジンはそれを嘲笑うようにモツの手を蹴り飛ばすと

モツの顔を踏みつける。


「ぶへッ!!…

この野朗!!…」


そんな光景を目の前で繰り出される状況ではあるが実際に見ているリコと

農家のおじさんにはただ某龍の球を集める冒険譚の戦闘シーン張りの高速戦闘が

繰り広げられている様にしか見えず、着いて行けない状況にただただ唖然とする。

しかし、そんな事お構い無しにマサツグとモツはニンジンを追い掛け回す。

必死に食らいついてニンジンに手を伸ばすがその手を蹴り飛ばし、踏みつけては

逃げるを繰り返す。どちらも一歩も引かない戦闘に二人はここが畑である事を忘れ

、地面を踏み固め、戦闘をしているとここで二人とは関係ない所で普通のニンジンと

格闘しているリンがこちらに徐々に近づいてくる。


「あッ!!

コラァーーーー!!!

待てぇぇぇ!!」


そうして徐々に近づいてくるリンに全く気が付かないマサツグとモツは構わず

バニーガールキャロットと戦闘を繰り広げていると遂にリンとぶつかってしまう。


「ッ!!

うわあっぶ!…」


「へ?

きゃあああ!!」


しかし、これが奇跡を呼び起こすのであった。マサツグがリンとぶつかる瞬間、

リンを抱きかかえ受け身を取る。その際、モツも一時動きを止め、二人を心配して

駆け寄る。リンはマサツグの腕の中で震えながら小さくなっておりマサツグは急な

動きに対応した際、スタミナを使ったのか肩で息をしていた。


「マサツグ!!リン!!

大丈夫か!!」


モツが駆け寄ると一緒にリコとおじさんが駆け寄る。モツの問い掛けにマサツグが

息を切らしながら振り向くと答える。


「ぜぇ…ぜぇ…

あ…あぁ、何とか…

あ~!!危なかった…」


「ふぅ~…

そうか。

リンは」


モツがリンに話しかけるとリンは何故か恥ずかしそうにしながらモツの問い掛けに

答える。顔を赤くし、何やらマサツグに胸を押し付ける様に抱きついた居た。

それを見てモツが不思議に思っているとマサツグがリンに離れる様に呼びかける。


「……あの~…

リンさん?

出来れば離れて頂けると助かるのですが…」


「ご…ごめんなさい!!

でも!今はこのままでも良いですか?…」


リンは顔を赤くしながら上目遣いでマサツグに訴えかける。目の前で突然のラブ

ロマンス展開にモツが困惑する。リンはと言うとマサツグに胸を押し付け必死に

マサツグに張り付く。


「…え?

何これ?」


農家のおじさんはそれを見た途端、リコの目を覆い今の状況が見えない様にする。

リコはと言うと突然目を覆われた事におじさんに文句を言う。


「ちょっと!

おじさん!!

前が見えないよ!!」


「スマン!リコちゃん!!

今はちょっと我慢してくれ!!」


マサツグも突然のリンの行動に困惑しているとリンの胸元がムズムズと動くのが

見える。それを見てマサツグがドギマギしているとリンがとんでもない事を

言い始める。


「マ…マサツグさん…

私の胸元を弄って貰っても良いですか?…」


「…へ?」


マサツグの頭がショートする。突然のリンの一言に上目遣いで目をウルウルと

させている。モツもこの状況にこのゲームが全年齢対象かどうかを改めて

確認するなどテンパり始める。


「え?

ちょっと待って?

このゲーム全年齢対象だよな?」


依然おじさんはリコの目を隠し、事が終わるのを待つ。その間リコはおじさんに

目隠しをされながら何時になったら開放するのかと尋ねる。


「おじさん、まだぁ~?」


「ま…まだ駄目だ!」


居た堪れない空間にマサツグが困惑しているとリンがマサツグを急かし始める。

勿論、マサツグの心の中は言うまでもなく動揺で一杯になっていた。


「は…早くお願いします!…」


{え?

な…何この状況?

俺は只ニンジンと格闘していた筈だが?…

と言うか今更だがニンジンと格闘とかこの時点で普通じゃないし…

一体全体如何なって!?…

どうしてこうなった!?…}


マサツグの頭の中でグルグルと思考が巡る中、リンの胸元から普通では

見慣れない物がチラッとだけ見える。それを見るとマサツグがリンの顔を

見る。リンは胸元をモジモジとさせ変わらず訴えかける様にマサツグを

見つめる。ここでようやくマサツグがリンの意図を読んでかリンの胸元に

手を突っ込む!


「ひゃん!!」


リンが高い声で鳴くと声を我慢し始める。モツは何が何だかもう解らず、

とりあえずこの場から一旦離れてニ、三時間後に戻ろうかと考え始める。

農家のおじさんはリコに見せない聞かせない様に器用に手と腕を使い

ガッチリガードする。突如耳も防がれた事にリコが怒るがおじさんは

ガードをする。


「おじさん!!

まだぁ~!!耳も聞えないよ!!」


「も…もうちょっと!!もうちょっとだから!!!」


マサツグが照れながらもリンの胸元を弄っていると何やら妙な感触が

マサツグの手に当たる。その感触にマサツグが覚えがあると分かると

リンに確認を取る。


「ッ!?

これか!!」


「ッ!?

は…はい!それです!!」


「じゃあ、抜くぞ!!」


「は…はい!!!」


マサツグがそれをしっかり掴み握ると一気にリンの胸元から引き抜く!

そしてマサツグの手に握られていた物に全員の注目が集まる。そこには

ピクピクと痙攣するバニーガールキャロットがしっかりと握られていた。

どうやらリンとマサツグがぶつかった際に偶然にもリンの胸元にニンジンが

入ったらしくぶつかった後にリンが気付いたらしい。


「な!!…」


「…おいおい…

こんなラッキーイベントは何なんだ!?…

運営も何を考えているんだ!?」


「何!?何が合ったの!?」


各々が思い思いにこの状況にツッコミを入れているとリンがホッとし

マサツグから離れる。そして…


「マサツグさん…」


「は…はい…

何でしょうか?…」


ニンジンが居て捕まえる為とは言えリンの胸元を弄った事にマサツグが

混乱しているとリンがマサツグに文句を言い始める。


「マサツグさん!!

酷いです!!

私にあんな羞恥プレイをして楽しむなんて!!」


「はああ!?

おいおい、ちょっと待て!!

これは事故で更にリンが引き起こした…」


「嘘です!冗談ですよ!!

でも…もう少し速く気付いて欲しかったです…」


「そ…それは……

すいません…」


マサツグがリンの一言に申し訳なく謝るとリンは頬を染め微笑みだす。

マサツグ自身も赤くなっているとモツがマサツグとリンに話しかける。


「お~い。

後どれくらいここでこのラヴィシーンを見ていたら良いんだ?」


「ねぇ!!もういいでしょ!!」


「お…おうふ!!

あ…暴れるんじゃない!!

分かったから!!」


マサツグとリンが慌てて離れるとリンがマサツグの手に握られているニンジンに

視線を送る。マサツグがリンの視線を感じてバニーガールキャロットをリンに

手渡すとリンが目をキラキラとさせニンジンを観察し始める。


「おぉ、これがバニーガールキャロット!!

資料で見たとおり美脚に網タイツ!!…」


リンがニンジンに夢中になり始めるとマサツグがその場にへたり込む。

モツが慌ててマサツグに駆け寄るとマサツグに安否を確かめる。


「お…おい!

大丈夫か!?

やっぱり、ぶつかった時に何か怪我でも!…」


「い…いや…

何というか…」


マサツグがモツの心配を否定すると手を上に伸ばし黄昏る。

それを見てモツが溜め息を吐きその場に一緒に座り込む。


「まったく、一体如何なってんだか…

やっぱ、これもヤブのあの気になるスキルの恩恵?」


「…分からん。

分からんけど…」


マサツグは空に向け伸ばした手を握ると一人心の中で呟く。


{…やわらかかったな…}


やはり何だかんだで男のマサツグであった。

しおりを挟む

処理中です...