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-第二章-サマーオーシャン連合国-前編

-第二章五節 洞窟ゴブリンと竜の巣-

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マサツグを取り囲むゴブリンに如何対処するかで悩んでいるとゴブリン達は容赦なく

マサツグを襲い始める。ゴブリンはシロと同じ位の大きさで、飛び掛るように棍棒を

振り回し攻撃を仕掛けるもマサツグは回避し続ける。


「うわっぶな!」


ゴブリンは必死にマサツグに飛び掛り、攻撃を当てようとするも当たらないと

分かると徐々にその攻撃法方が変わってくる。先ほどまではただ飛び掛るだけだった

のだが今度はそこ等辺に落ちていた石を拾うとマサツグ目掛けて投げつけ始める。

さすがのマサツグも石を回避しながらゴブリンの攻撃を回避する事は出来ず

に被弾し始める。


「クソ!!…本当に面倒だな!!……

とは言ったもののこの通路の狭さじゃ!!……」


マサツグが大剣を抜こうと一時は考えるものの今いる場所はお世辞にも広いとは

言えない通路、まず大剣を振り回す事は出来ない。そこでマサツグがゴブリンの

猛攻に耐え、隙を見て武器を刀にスイッチする。


「……よし!!

これなら!!……」


しかし…いざ抜いてみるとあの時のバルデウス戦で最終攻撃を刀で受けきったせい

か、刀の刃はボロボロになり、とてもではないが現状使える状況ではない。

マサツグも刀を抜いて初めて気が付く。


「うわ!なんじゃこりゃ!」


マサツグが刀の惨状に驚いているその間にもゴブリンが襲い掛かる。マサツグも

武器が無い状況で悩むも徐々にゴブリンに対し鬱憤が溜まり始める。そうして、

ひたすらにゴブリンの攻撃に耐えていると遂にマサツグに堪忍袋の尾が切れる。


「こうなりゃヤケクソ!!

やってやるよ!!この野朗!!!」


丁度マサツグの目の前に笑みを浮かべ、飛び掛るゴブリンが目に留まる。

マサツグはそのゴブリンの動きを見切ると回避し、そのゴブリンの顔に拳を当てると

その腕を引き戻す様にカウンターパンチを入れる。


「あれ?意外といける?」


その際、マサツグの腕にはゴブリンを殴った際の鈍い音と感覚が腕を伝わる。

そして、勢いそのままにそのゴブリンを地面に叩きつけるとゴブリンの顔には

マサツグの拳の跡がくっきりと残っていた。ゴブリン達もその光景に一時ピタリと

攻撃を止めるとそのやられたゴブリンを見て、恐怖を感じる。しかし、今まで

やられっぱなしのマサツグは頭に血が上った状態でまだゴブリンに対して敵意

剥き出しのまま、ここからマサツグの拳闘劇が始まる。


「次来いよ!!

ウオラアアアア!!!」


マサツグがゴブリン達を威嚇すると再度ゴブリン達は奇声を揚げてマサツグに襲い

掛かる!一気に三体のゴブリンがマサツグに襲い掛かるが、回し蹴りで横薙ぎにし、

まとめて対処するなど、石を投げてくる奴には飛び掛ってきたゴブリンを捕まえては

全力で投げつけこれまたまとめて駆除していく。しかし、それでもゴブリンの猛攻は

続き、完全には捌き切れずに被弾する。その時、マサツグの後ろから攻撃を仕掛けて

くるゴブリンが一匹……


「チッ!!ま~だ来るか!!この野朗!!!」


「ゲヒャアアア!!!」


___ガァン!!


「ッ!!…うあッ……」


後ろからの奇襲にマサツグが反応し切れず、後ろから頭を殴られ少しふらつく。

この時軽いスタン状態に入り、マサツグは直ぐに動く事が出来なくなる。

その隙を突いて、すかさず洞窟ゴブリンが畳み掛けてくる。一気に五匹がマサツグに

襲い掛かる。が、次の瞬間、スタンが切れ動ける様になるとマサツグが刹那を

発動する。


「…ッ!?鬱陶しいわ!!」


そして、襲い掛かってくるゴブリンがまだ宙に浮いている状態でマサツグが瞬時に

その場でジャンプするとまとめて滞空回し蹴りを繰り出し、撃退する。その時、

隙を突いて襲ってきたゴブリン達の顔はしたり顔であったがマサツグが迎撃態勢に

入った時には誰が見ても分かる絶望に満ちた顔になる。そして、マサツグのこの時の

顔はまるで殺す事を何とも思わない無表情で冷たい目をしていた。マサツグがその

ゴブリン達に放った滞空回し蹴りはさながら、竜巻○風脚の様に見え、蹴散らすと

更にゴブリン達は青ざめ始める。


「チッ!!まだ居やがるのか!!

面倒だな……」


徐々に減りつつある仲間に増える仲間の被害、ゴブリン達がマサツグにたじろぐも

残り僅かな頭数で向かうが、やはり刹那を発動したマサツグに到底敵う訳無く、

被害が増えて行く。それはまるでマサツグの無限組み手をしている状態になる。

マサツグが何も言わずに襲い掛かるゴブリンを殴る蹴るで次々に倒していく

中、ゴブリンの群れの中から突如そこへ一回り大きな体に全身を見たこと無い素材で

武装をしている洞窟ゴブリンが出てくる。そのゴブリンが雄叫びを上げると先ほど

まで襲ってきたゴブリンの猛攻がピタッと止む。身長にして160位だろうか、その手

には何も持っておらず、ただゴブリンの手は布が巻かれており、まるでグローブを

つけている様になっていた。


「漸く…お出ましか……」


親玉ゴブリンが子分を掻き分け、マサツグの前に立つと何やらぶつぶつと話し掛け

始めるもマサツグには何を言っているのか解らずただ律儀に親玉ゴブリンの出方を

待っていると親玉ゴブリンが両腕を前に添える。その構えはまるでボクシングの様に

マサツグを睨みつけながら足で何やらリズムを刻んでいた。マサツグも親玉ゴブリン

を鑑定すると我流の構えでゴブリンを睨み返す。ここまで来るとマサツグも

妙なテンションになり元々のキャラが行方不明になる。

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 「洞窟ゴブリンリーダー」

   Lv.30

   HP 12000   ATK 290   DEF 190

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両者動かず、ゆっくりとファイティングポーズを取る。マサツグはこの時既に

格ゲーのキャラになった気になり合図を待っていた。そしてマサツグが動かない事に

親玉ゴブリンも同じ様に何か合図を待つ。


{ファイナルラウンド……}


そこへ一滴の水滴が鍾乳石を伝い、滴り落ちそうになる。その間辺りは不思議と

静かになり、取り巻きのゴブリン達も合図はまだかと二人を見守る。そして遂に

その時が来る!鍾乳石の先端に水滴が貯まり、滴り落ちると音を立てる!


_____ピチョン……


{ファイト!!!}


音を聞いた両者が飛び出すと全く回避する気無しの右ストレートが火を噴く!

お互いがその最初の一撃を拳同士でぶつけ合うと次の瞬間、どちらも退かない

ベタ踏みインファイトが始まる!


「ウオラアアアアア!!!」


「ゲギャアアアアアア!!!」


両者共にジャブやストレート・フック・アッパー、その他にもハイキック回し蹴り

といったストリートファイトが狭い洞窟内で繰り広げられる。その光景に周りの

ゴブリン達も親玉ゴブリンを応援する。親玉ゴブリンとの格闘戦が繰り広げられる

洞窟内でそれは突如起きた。マサツグが足を滑らせ、バランスを崩すとそこへ

親玉ゴブリンの右ストレートがマサツグの左頬を捉える!


「ッ!!…ンの野朗…!!」


「ゲギャアアアアアア!!!」


マサツグが正面から見事に右ストレートを貰い、後ろに仰け反ると親玉ゴブリンが

畳み掛ける様にラッシュを繰り出すとマサツグは咄嗟にガード態勢を取り、

防戦一方になり徐々に押され始める。


「チッ!!調子に乗りやがって!!……」


HP、TPが減少していく中、マサツグがガードしながらでも隙を探しているとその

チャンスが訪れる!親玉ゴブリンが後ろに大きく振りかぶったのである。この隙を

マサツグは見逃さなかった、マサツグはガードをした状態で親玉ゴブリンの左足に

向かい、力の入ったローキックを叩き込む!すると振りかぶった状態で構えていた

親玉ゴブリンはバランスを崩し、ガードも回避も出来ない状態になる!


「散々てこずらせやがって……これで仕舞いだ!!」


マサツグが容赦なく体勢を崩している親玉ゴブリンに追撃の二撃を入れる!

一撃目に親玉ゴブリンの腹部に鋭い正拳突きを入れると親玉ゴブリンの動きを完全に

止め、ニ撃目に顎にアッパーを繰り出す。しかし、マサツグは上に打ち上げる際に

力を入れ直し、更に威力の高いアッパーを全身をバネの様に働かせると最後の無常の

一撃を親玉ゴブリンに放つ!!


「真…昇○拳!!」


{K・O!!!}


「グッ!!ギャアアア………」


何処かで聞いた事有る技を洞窟内に響く様にマサツグが叫ぶと親玉ゴブリンは空中で

縦に回転しながら落ちていくと地面に叩き付けられる。その時、洞窟内に

親玉ゴブリンが倒れる音が響き渡る。それは他のゴブリンにも聞えたのか何処から

ともなく横穴からゴブリン達が飛び出すと親玉ゴブリンを抱えて、戦闘エリアから

次々に離脱していく。ここで漸くピチピチ及び洞窟ゴブリンとの戦闘が終わり、

戦闘エリアが消失する。マサツグが戦闘が終了した事に安堵しその場にへたり込むと

一言呟く。


「ぜぇ…ぜぇ…

な…何とかなったぜ…」


ここで漸く本来のマサツグのキャラに戻る。今の今までまるで別人がマサツグに憑依

していた様に本人も感じているとマサツグは辺りを見渡す。するとそこにはマサツグ

が今まで倒してきたゴブリンの死体がゴロゴロと転がっていた。


「うへぇ……かなり居たとは分かっていたけどここまでとは……」


軽く見た限りそこにあったゴブリンの数は30匹位は有る。ボスが来るまでの間に

まだまだ追加されていたとなると今の戦闘だけで倍の60位は居ただろうか。

マサツグが見つめる先には通路一杯にゴブリンが倒れている。


「うわぁ…見事に死屍累々…」


そう言いながらアイテムポーチから回復薬を取り出し、飲んでいるとここでスキル

獲得の通知がやってくる。マサツグが何を獲得したのかと確認をするとそこには

先ほどの戦闘で開花したスキルが有った。


[マサツグは拳闘術Lv.5を習得]


「……あれ?いきなりLv.5?」


マサツグが疑問に思うも次にまた通路一杯のゴブリンの倒れた姿を見て自分で

やった事を漸く自覚したのか、思わず言葉が漏れる。このLv.5を獲得するのに

通常どれ位の時間を消費するのだろうかと考えてしまいながらもマサツグは

この事を胸の中に仕舞うのであった。


「あ…

多分これが一番速いと思います……」


マサツグのHPとTPが回復すると洞窟の最深部に向かい改めて歩き始めるとその道中

徐々に何か嫌な雰囲気が漂い始める。マサツグが警戒しながら歩いていくとそこには

件の竜にやられたのか焼け焦げた服やカバンがちらほらと見え始め、それと同時に

何かが焼け焦げた匂いも強くなり始める。


「この先に居るみたいだな……

さっきのゴブリンみたいにまともに戦えたら良いけど……

そうは行かないよな……」


しかし、マサツグの理想とは違い、いよいよ雲行きが怪しくなる。辺りからは更に

焼け焦げた匂いが充満し、遺品らしき焦げた物体が転がり始める。マサツグが

更に置くに進んでいくと遂には人の骨がマサツグの足元に転がり始める。


「竜の巣の近くまで来たのかな?」


マサツグがのん気に洞窟の奥に進んでいくと遂に辿り着いたのか大空洞に出る。

そこはただただ広く、大空洞には規模が大きい鉱脈が見て取れるがそれより更に

目に付く中央に妙な窪地がある。


「…?あれは何の窪地なんだ?

いかにも感が有るけど……」


___ブォン…ブォン…


マサツグが遠目から観察していると何やら大きな生き物が羽を羽ばたかせる音が

聞えてくる。その音にマサツグが嫌な予感がし、近場の岩に隠れて様子を見ている

と、遂にモジャ男が言っていた竜だろうか、獲物を銜えた飛竜が降りてくる。

マサツグが鑑定を使い、飛竜を調べると飛竜は窪地に着地し、取ってきた獲物を

食べ始める。

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 「レッサーワイバーン」

   Lv.35

     HP 35000   ATK 340   DEF  260

  ------------------------------------------------------------------------

大きさにして大体2~3m、レッサーでこれとなると普通の大きさはどれ位に

なるのだろうかと岩場に隠れながらマジマジと観察する。


「この世界ゲームに来て初めての翼竜だな…

とにかく今はまだ気付かれていないし……

静かに近づけばまだ戦え……」


___コツンッ…カラカラ……


__あっ……


気を付けていたのも関わらず無常にも大空洞内で響く石を蹴る音…

この音を聞いてワイバーンが食事を中断して、音のなった方を向き、そこに

マサツグが居るのを確認するとマサツグの方に向かい牽制のブレスを吐く!

距離にして大体5~6mはあるだろうか、それでも余裕でマサツグが隠れている岩まで

ブレスが届くとマサツグが隠れている岩を一気に熱する。


「うわちちちち!!!

ここまで届くのかよ!!…まぁ何処かの一狩り行こうぜ!ゲームよろしく火の玉で

飛んで来ないだけマシだけど……」


マサツグも岩に隠れていたから軽傷で済むもダメージを喰らう。そしてゆっくり岩の

陰からワイバーンを見よう顔を出すもすかさずワイバーンはブレスを吐き、マサツグ

を威嚇する。


「うわぁ!!……さて、どうする?

このままだとマサツグさん蒸し焼きにされて上手に焼けました~♪

なんて事になる!!何か…何か打開策を!……」


ブレスを吐かれた事にマサツグが岩に隠れながら悩んでいるとマサツグがブレスを

警戒しながら辺りに使えそうな物が居ないか見渡す。するとマサツグからそう遠く

ない距離にゴブリン達を死屍累々とした通路の時同様の水溜りを見つける。そして

、マサツグがその水溜りを見つめていると見覚えのある魚がその水溜りから

ピチャンと音をたてて跳ね、その姿を見せる。


「ッ!?あれは!!……初見殺しのぴちぴち!!……

は良いとして如何したものか……」


マサツグがピチピチの居る池を見つけるも池の近くには隠れる物は無く一度出れば

ワイバーンのブレスで上手に焼けました~♪にされる。かと言ってあの池は上手く

使えばこの上ない打開策なのだが……そうマサツグが考えているとマサツグはもう

一度ワイバーンの様子を確認する。


___チラッ


___ゴオオオオ!!!


「わああぁぁ!!!

すんませんした!!!」


ワイバーンがブレスを吐くのを確認するとすかさずマサツグが岩に隠れ、難を逃れ

るともう一度確認をする。マサツグがまたブレスが飛んでくるのを警戒し岩から

顔を出すとワイバーンは息を吸い込み、ブレスを吐く態勢を取っていた。それを

確認してマサツグが岩に隠れるとブレスは数秒送れてマサツグの居る岩場に到達

する。ここでマサツグにある作戦が思い浮かぶ、しかしタイミングを間違えると

間違いなくコゲ肉になる。マサツグは大きく深呼吸をすると意を決して岩から

顔を出し、ワイバーンを確認する。


___ゴオオオオ!!!


「…今じゃああああ!!!」


ワイバーンは先ほどから同じ様にマサツグのいる岩場にブレスを吐くとあたりを

焼き尽くす。そしてブレスが収まり、辺りに残り火が残る中、マサツグが岩場から

飛び出すと一直線に池に向かう!その間マサツグがワイバーンの方をチラッと確認

するとワイバーンはニ発目を撃つのに息を大きく吸い込み始めていた。


「よし!!思ったとおり!!

さすがのワイバーンでも連続でブレスは吐けない!!

この隙に!!」


そしてマサツグが池に辿り着くと大剣を構え、池に向かい徐に雷撃刃を放つ!

雷撃刃が池に直撃するとヴァチィ!!!と激しい音をたてる。そして、中で

泳いでいたピチピチがぷかぁ~と浮いてくるとマサツグはそれを数匹掴んで

元の岩の陰までまた逃げる。


「いよし!!後は逃げるんだよ~!!」


しかし、ワイバーンも息を吸い込み終えると、すかさずマサツグの方を向き、

ブレスを吐く!マサツグが岩に向かい走るもブレスの勢いは速く徐々にマサツグに

迫る!!


___ゴオオオオ!!!


「オオオオオ!!!間に合えぇぇぇぇえええ!!!」


マサツグがギリギリの所でスライディングをすると何とか岩場に隠れる事に成功し

難を逃れる、更にこの状況を打開するピチピチを手にマサツグは岩の陰で不適に

笑い始める。


「はぁ…はぁ…うおあっぶね!!!本当にあぶねぇ!!!

生きた心地しなかったぁぁぁ!!!

でも……これでまともに戦う準備は整った!!

後は出たとこ勝負……ふふふ!!……」


マサツグは感電したピチピチを片手に岩の陰で笑っているとワイバーンの様子を

伺い、何時ピチピチを使うかを考える。ワイバーンはマサツグが先ほどから

ウロチョロしているのが気に食わないのかその場から動く事無くイライラとしな

がらマサツグの出方を伺っていた。

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