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7.ケイト・フォレスト
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翌朝は、薄暗いうちに目が覚めた。
そっと身を起こすと、
「お早うございます」
と声をかけられ、心臓が口から出そうになった。
「お、お早うございます…あなたはお休みにならなかったのですか?」
メイド兼巫女の彼女に尋ねる。
昨晩、私が横になってから彼女は退室している。一晩中ここにいたはずはないのだが…
「もちろん休ませて頂きました。聖女様は、まだもう少しお休みになられても大丈夫ですよ」
それは、私が起きると世話をしないといけないから、寝ておけということか?
まあ、私も他人の仕事を増やすのは申し訳ないから、寝ていて欲しいのなら大人しく従うが。
「今日は王都へ向かい、王家や教会の皆様と対面する忙しい一日となるでしょうから」
…親切心からの言葉だったようだ。
「王都へはあなたも一緒に?」
彼女はトートニスの城に所属しているのか、それとも教会なのか分からない。
「私は巫女ですので、お供します」
ということは、教会所属になるのだろうか。
「あなたのお名前をきいてもよろしいですか?」
「はい…私は…ケイト…フォレストと申します。ケイトとお呼び下さい。それと、私や使用人などに敬語は不要です」
「敬語で話さない方がいいのですか?」
「はい」
ふうん…しかし、私は元の世界でも基本が敬語だったからな。砕けた話し方を望まれたときは、そういう話し方にはしてたけど。
「気をつけます…気をつけるわね…こんな感じでいいかなしら、ケイトさん」
「ケイトと呼び捨てでお願いします」
すかさず訂正が入る。他人様を呼び捨てにする文化で育ってないからなー。私はデブだのブタだの呼ばれていたが。まあ…郷に入っては郷に従えだ。
「分かったわ。よろしくね、ケイト」
「よろしくお願いします、ユラノ様」
改めて見ると、ケイトはほっそりとして美しい娘だった。肉が薄くて中性的な印象だ。美しい銀髪を結い上げて、紫の瞳をしている。あまり余裕がなくて容姿に気がいかなかったが、凄い美形ではないか…この娘が私の横に並ぶのか、私の巨体と醜さがさぞ引き立つことであろう。
ケイトが薄暗いうちからやってきたのは、例のパツパツの衣装を補正するためだそうだ。
「どうしたって、私の方が大きくて生地には限界があるんだから、そのままで良いわよ。あなたのせいではないのだから」
「少し解いて布を足そうと思います。時間の余裕がないので応急処置になるのですが」
「そう。ここでするなら明るくした方がいいわね」
私はカーテンを開くために窓に向かう。
「ユラノさま、私が」
ケイトはこちらを追ってこようとしたが、
「服を任せるわ。私だって少しでも楽な服を着たいから」
そういうと、足を止めてくれた。
ケイトが服の補正に取り組みだしたのを見ながら、私は召喚時に鞄をこちらに持ってきただろうか、と記憶をたぐった。鞄の中には簡単なソーイングセットや、鎮痛剤、抗生剤、絆創膏や軟膏などを入れている。非常食もほんの少し。いざというときの大きめの札は、ブラの間に挟んでいたが、現金はこちらでは役にたたないだろう。しかし、薬などはいざというときの生死を分ける可能性がある。私の鞄はたびたび、中身をぶちまけられたり、水没させられたりしていたので、防水対策を施していた。湖におちても薬系は大丈夫だとはおもうのだが。
…いざというときのため、必要となる最低限のものは身につけるようにしていたが、その「いざ」は異世界にとぶことは想定していなかったんだよなあ…とため息をつく。命綱だと思っていた携帯電話や緊急連絡先などはここでは何の役にも立たないのだ。
「ユラノ様、両手を広げてお立ち下さい」
パッとケイトが顔を上げる。言われたとおり案山子のように両手を広げた私に服をあてがい、
「脱いで頂けますか?」
短時間で補正を済ませないといけないので、ケイトの言葉は無駄のない指示だった。
はいはい、脱ぎますよ。と思いながらシルクのドレスを脱いで薄い肌着になる。トドのように脂肪がたっぷりついた体に衣装を当てて、必要な情報を得た彼女は再び衣装にとりかかる。動作に無駄がなく、布を裁ち、縫い止めていく。
(これは、何とかなりそうだな)
ケイトの作業を感心しながら眺めた。この巨体なので、飛んだボタンを留め直したり、破れたスカートを修復したりすることはよくあったが、私の裁縫技術はその程度だ。デブが着れるように服を直す技術までもっているとは、このケイトなる巫女はすごいなー。
「できました。どうでしょうか?」
「凄いわケイト!着心地がぜんぜん違う!」
部屋が明るくなるころには、聖女の礼服の補正は終わっていた。パツパツの服がスルッと着れて、私が思わず声をあげると、ケイトは少し表情を緩めた。
そっと身を起こすと、
「お早うございます」
と声をかけられ、心臓が口から出そうになった。
「お、お早うございます…あなたはお休みにならなかったのですか?」
メイド兼巫女の彼女に尋ねる。
昨晩、私が横になってから彼女は退室している。一晩中ここにいたはずはないのだが…
「もちろん休ませて頂きました。聖女様は、まだもう少しお休みになられても大丈夫ですよ」
それは、私が起きると世話をしないといけないから、寝ておけということか?
まあ、私も他人の仕事を増やすのは申し訳ないから、寝ていて欲しいのなら大人しく従うが。
「今日は王都へ向かい、王家や教会の皆様と対面する忙しい一日となるでしょうから」
…親切心からの言葉だったようだ。
「王都へはあなたも一緒に?」
彼女はトートニスの城に所属しているのか、それとも教会なのか分からない。
「私は巫女ですので、お供します」
ということは、教会所属になるのだろうか。
「あなたのお名前をきいてもよろしいですか?」
「はい…私は…ケイト…フォレストと申します。ケイトとお呼び下さい。それと、私や使用人などに敬語は不要です」
「敬語で話さない方がいいのですか?」
「はい」
ふうん…しかし、私は元の世界でも基本が敬語だったからな。砕けた話し方を望まれたときは、そういう話し方にはしてたけど。
「気をつけます…気をつけるわね…こんな感じでいいかなしら、ケイトさん」
「ケイトと呼び捨てでお願いします」
すかさず訂正が入る。他人様を呼び捨てにする文化で育ってないからなー。私はデブだのブタだの呼ばれていたが。まあ…郷に入っては郷に従えだ。
「分かったわ。よろしくね、ケイト」
「よろしくお願いします、ユラノ様」
改めて見ると、ケイトはほっそりとして美しい娘だった。肉が薄くて中性的な印象だ。美しい銀髪を結い上げて、紫の瞳をしている。あまり余裕がなくて容姿に気がいかなかったが、凄い美形ではないか…この娘が私の横に並ぶのか、私の巨体と醜さがさぞ引き立つことであろう。
ケイトが薄暗いうちからやってきたのは、例のパツパツの衣装を補正するためだそうだ。
「どうしたって、私の方が大きくて生地には限界があるんだから、そのままで良いわよ。あなたのせいではないのだから」
「少し解いて布を足そうと思います。時間の余裕がないので応急処置になるのですが」
「そう。ここでするなら明るくした方がいいわね」
私はカーテンを開くために窓に向かう。
「ユラノさま、私が」
ケイトはこちらを追ってこようとしたが、
「服を任せるわ。私だって少しでも楽な服を着たいから」
そういうと、足を止めてくれた。
ケイトが服の補正に取り組みだしたのを見ながら、私は召喚時に鞄をこちらに持ってきただろうか、と記憶をたぐった。鞄の中には簡単なソーイングセットや、鎮痛剤、抗生剤、絆創膏や軟膏などを入れている。非常食もほんの少し。いざというときの大きめの札は、ブラの間に挟んでいたが、現金はこちらでは役にたたないだろう。しかし、薬などはいざというときの生死を分ける可能性がある。私の鞄はたびたび、中身をぶちまけられたり、水没させられたりしていたので、防水対策を施していた。湖におちても薬系は大丈夫だとはおもうのだが。
…いざというときのため、必要となる最低限のものは身につけるようにしていたが、その「いざ」は異世界にとぶことは想定していなかったんだよなあ…とため息をつく。命綱だと思っていた携帯電話や緊急連絡先などはここでは何の役にも立たないのだ。
「ユラノ様、両手を広げてお立ち下さい」
パッとケイトが顔を上げる。言われたとおり案山子のように両手を広げた私に服をあてがい、
「脱いで頂けますか?」
短時間で補正を済ませないといけないので、ケイトの言葉は無駄のない指示だった。
はいはい、脱ぎますよ。と思いながらシルクのドレスを脱いで薄い肌着になる。トドのように脂肪がたっぷりついた体に衣装を当てて、必要な情報を得た彼女は再び衣装にとりかかる。動作に無駄がなく、布を裁ち、縫い止めていく。
(これは、何とかなりそうだな)
ケイトの作業を感心しながら眺めた。この巨体なので、飛んだボタンを留め直したり、破れたスカートを修復したりすることはよくあったが、私の裁縫技術はその程度だ。デブが着れるように服を直す技術までもっているとは、このケイトなる巫女はすごいなー。
「できました。どうでしょうか?」
「凄いわケイト!着心地がぜんぜん違う!」
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