逃げ出して、その先に

千代乃

文字の大きさ
3 / 14

3到着

しおりを挟む
老人は山内と名乗った。
眼照寺の住職とは親友だという。

「お嬢さん、体調が悪いのかね?」
心配そうにいう老人に、
「大丈夫です、感染るものではありませんから」
と応じた。
教団には長いこといたので、私を呪詛する素材には事欠かないだろう。
まだ体力があるので熱が出ている程度だが、長引いて消耗すればおかしなものを見たり聞いたりするようになる。
そして間違いなく彼らは私の裏切りに怒っているだろうから、おかなしなものを見たり聞いたりだけでは終わらないはずだ。

幸か不幸か呪詛を受けるのは初めてではないので、それほど恐怖を感じていなかった。
もっと弱り、死を直面にすると変わるのかもしれないが、まだその過程ではない。

私を悩ませていた男に一矢報いた爽快感、
「良いこと」をしたという自己肯定感、
ようやく教団を抜け出したという安堵感。

現状は最悪なのに、心境はさほど悪くない。
体は限界に近付きつつあったが。
それでもスムーズに目的地にむかっているこの状況は、私を楽観させるのに十分だった。



目的の眼照寺へは、老人とタクシーで乗り付けた。
老人が当たり前のようにタクシー代を払ってくれ、私は感謝した。
寺は、街の中心部からやや離れた山の麓にあった。
その寺の門の下で作務衣を来た男が掃除をしていた。
やせぎすで眼鏡をしており、年のころは30から40といったところか。
作務衣の男はタクシーから降りた人間に気づいて顔をあげた。
そして、私たちのを認めた瞬間顔つきが険しくなった。
私に緊張して息を止めた。

(…もしかして私のことを知っているの!?)

私はあまり評判のよろしくない教団にいた。
私は表に顔を出すようなことはほとんどなかったのだが、教団内で生き残るには若干汚いこともしなくてはいけなかった。
邪魔な商売敵を潰す手伝いや、依頼人を骨の髄までしゃぶるための工作など自ら進んでしていた…
それを知ったら、私の今の状況は「自業自得」だと片付けられてしまうだろう…
自分のしたことが返ってきているだけだと…

「お前!よく顔を見せられたものだなっ!二度とここには顔をみせるなとご住職に言われただろう!!」

男が怒鳴ったのは、私の横にいる山内翁だった。

(セーフッ!なんだかわかんないけどセーフ!私じゃなかったっ…!)

私は止めてしまった息を吐きだした。

「すまないねえ、井口君。このじじいの面なんぞもう見たくはなかったろうが、でもこのお嬢さんがどうしてもこの寺に行きたいと言っていてねえ。ずいぶん調子が悪いようだし、放ってはおけなかったんだよ」

申し訳なさそうにいう山内翁、驚いたとに私を何かの口実にしたかったようだ。それに…

(んんんっ?…この人、この寺の住職の親友とか言ってなかった!?)

私は山内翁を見る。さっきは人のよさそうなお爺さんにしかみえなかったが、今は海千山千のしたたかじじいにしか見えなくなってしまっていた。

「あなた、ここに用があるんですか?」

井口と呼ばれた男は私に向かって尋ねた。私はうなずく。

「はい、わたしは坂井カコと申します。ぜひともこちらのご住職にお会いしたく参りました。お目通り願えますか?」

荒い息で、声がかすれているが、井口には伝わったようだ。

「ご用件をお聞きしてもよろしいですか?」

井口は私の状態の悪さを見て、やや心配そうな声音で尋ねてきた。

「ここでは少し…」

私は周囲をはばかる様子を見せた。井口はちらりと山内翁を見て、

「一応伺いますが、そちらとお知合いですか?」

と聞いてくる。

「こちらに伺う道中ご一緒しました。こちらのご住職とはご親友であるとお聞きしましたが…」

わたしは困惑した風に聞き返した。

「とんっっっでもない!!親友だなんて、どの口がっ!!恥知らずめっ!」

井口は山内翁を睨みつけた。

「あんたはこの門を通れない!二度と来るなっ」

と一喝すると、わたしに向き直り、

「お嬢さんはどうぞ、お入りください」

と言った。










しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

ずっと一緒にいようね

仏白目
恋愛
あるいつもと同じ朝 おれは朝食のパンをかじりながらスマホでニュースの記事に目をとおしてた 「ねえ 生まれ変わっても私と結婚する?」 「ああ もちろんだよ」 「ふふっ 正直に言っていいんだよ?」 「えっ、まぁなぁ 同じ事繰り返すのもなんだし・・   次は別のひとがいいかも  お前もそうだろ? なぁ?」 言いながらスマホの画面から視線を妻に向けると   「・・・・・」 失意の顔をした 妻と目が合った 「え・・・?」 「・・・・  」 *作者ご都合主義の世界観のフィクションです。

処理中です...