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3到着
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老人は山内と名乗った。
眼照寺の住職とは親友だという。
「お嬢さん、体調が悪いのかね?」
心配そうにいう老人に、
「大丈夫です、感染るものではありませんから」
と応じた。
教団には長いこといたので、私を呪詛する素材には事欠かないだろう。
まだ体力があるので熱が出ている程度だが、長引いて消耗すればおかしなものを見たり聞いたりするようになる。
そして間違いなく彼らは私の裏切りに怒っているだろうから、おかなしなものを見たり聞いたりだけでは終わらないはずだ。
幸か不幸か呪詛を受けるのは初めてではないので、それほど恐怖を感じていなかった。
もっと弱り、死を直面にすると変わるのかもしれないが、まだその過程ではない。
私を悩ませていた男に一矢報いた爽快感、
「良いこと」をしたという自己肯定感、
ようやく教団を抜け出したという安堵感。
現状は最悪なのに、心境はさほど悪くない。
体は限界に近付きつつあったが。
それでもスムーズに目的地にむかっているこの状況は、私を楽観させるのに十分だった。
目的の眼照寺へは、老人とタクシーで乗り付けた。
老人が当たり前のようにタクシー代を払ってくれ、私は感謝した。
寺は、街の中心部からやや離れた山の麓にあった。
その寺の門の下で作務衣を来た男が掃除をしていた。
やせぎすで眼鏡をしており、年のころは30から40といったところか。
作務衣の男はタクシーから降りた人間に気づいて顔をあげた。
そして、私たちのを認めた瞬間顔つきが険しくなった。
私に緊張して息を止めた。
(…もしかして私のことを知っているの!?)
私はあまり評判のよろしくない教団にいた。
私は表に顔を出すようなことはほとんどなかったのだが、教団内で生き残るには若干汚いこともしなくてはいけなかった。
邪魔な商売敵を潰す手伝いや、依頼人を骨の髄までしゃぶるための工作など自ら進んでしていた…
それを知ったら、私の今の状況は「自業自得」だと片付けられてしまうだろう…
自分のしたことが返ってきているだけだと…
「お前!よく顔を見せられたものだなっ!二度とここには顔をみせるなとご住職に言われただろう!!」
男が怒鳴ったのは、私の横にいる山内翁だった。
(セーフッ!なんだかわかんないけどセーフ!私じゃなかったっ…!)
私は止めてしまった息を吐きだした。
「すまないねえ、井口君。このじじいの面なんぞもう見たくはなかったろうが、でもこのお嬢さんがどうしてもこの寺に行きたいと言っていてねえ。ずいぶん調子が悪いようだし、放ってはおけなかったんだよ」
申し訳なさそうにいう山内翁、驚いたとに私を何かの口実にしたかったようだ。それに…
(んんんっ?…この人、この寺の住職の親友とか言ってなかった!?)
私は山内翁を見る。さっきは人のよさそうなお爺さんにしかみえなかったが、今は海千山千のしたたかじじいにしか見えなくなってしまっていた。
「あなた、ここに用があるんですか?」
井口と呼ばれた男は私に向かって尋ねた。私はうなずく。
「はい、わたしは坂井カコと申します。ぜひともこちらのご住職にお会いしたく参りました。お目通り願えますか?」
荒い息で、声がかすれているが、井口には伝わったようだ。
「ご用件をお聞きしてもよろしいですか?」
井口は私の状態の悪さを見て、やや心配そうな声音で尋ねてきた。
「ここでは少し…」
私は周囲をはばかる様子を見せた。井口はちらりと山内翁を見て、
「一応伺いますが、そちらとお知合いですか?」
と聞いてくる。
「こちらに伺う道中ご一緒しました。こちらのご住職とはご親友であるとお聞きしましたが…」
わたしは困惑した風に聞き返した。
「とんっっっでもない!!親友だなんて、どの口がっ!!恥知らずめっ!」
井口は山内翁を睨みつけた。
「あんたはこの門を通れない!二度と来るなっ」
と一喝すると、わたしに向き直り、
「お嬢さんはどうぞ、お入りください」
と言った。
眼照寺の住職とは親友だという。
「お嬢さん、体調が悪いのかね?」
心配そうにいう老人に、
「大丈夫です、感染るものではありませんから」
と応じた。
教団には長いこといたので、私を呪詛する素材には事欠かないだろう。
まだ体力があるので熱が出ている程度だが、長引いて消耗すればおかしなものを見たり聞いたりするようになる。
そして間違いなく彼らは私の裏切りに怒っているだろうから、おかなしなものを見たり聞いたりだけでは終わらないはずだ。
幸か不幸か呪詛を受けるのは初めてではないので、それほど恐怖を感じていなかった。
もっと弱り、死を直面にすると変わるのかもしれないが、まだその過程ではない。
私を悩ませていた男に一矢報いた爽快感、
「良いこと」をしたという自己肯定感、
ようやく教団を抜け出したという安堵感。
現状は最悪なのに、心境はさほど悪くない。
体は限界に近付きつつあったが。
それでもスムーズに目的地にむかっているこの状況は、私を楽観させるのに十分だった。
目的の眼照寺へは、老人とタクシーで乗り付けた。
老人が当たり前のようにタクシー代を払ってくれ、私は感謝した。
寺は、街の中心部からやや離れた山の麓にあった。
その寺の門の下で作務衣を来た男が掃除をしていた。
やせぎすで眼鏡をしており、年のころは30から40といったところか。
作務衣の男はタクシーから降りた人間に気づいて顔をあげた。
そして、私たちのを認めた瞬間顔つきが険しくなった。
私に緊張して息を止めた。
(…もしかして私のことを知っているの!?)
私はあまり評判のよろしくない教団にいた。
私は表に顔を出すようなことはほとんどなかったのだが、教団内で生き残るには若干汚いこともしなくてはいけなかった。
邪魔な商売敵を潰す手伝いや、依頼人を骨の髄までしゃぶるための工作など自ら進んでしていた…
それを知ったら、私の今の状況は「自業自得」だと片付けられてしまうだろう…
自分のしたことが返ってきているだけだと…
「お前!よく顔を見せられたものだなっ!二度とここには顔をみせるなとご住職に言われただろう!!」
男が怒鳴ったのは、私の横にいる山内翁だった。
(セーフッ!なんだかわかんないけどセーフ!私じゃなかったっ…!)
私は止めてしまった息を吐きだした。
「すまないねえ、井口君。このじじいの面なんぞもう見たくはなかったろうが、でもこのお嬢さんがどうしてもこの寺に行きたいと言っていてねえ。ずいぶん調子が悪いようだし、放ってはおけなかったんだよ」
申し訳なさそうにいう山内翁、驚いたとに私を何かの口実にしたかったようだ。それに…
(んんんっ?…この人、この寺の住職の親友とか言ってなかった!?)
私は山内翁を見る。さっきは人のよさそうなお爺さんにしかみえなかったが、今は海千山千のしたたかじじいにしか見えなくなってしまっていた。
「あなた、ここに用があるんですか?」
井口と呼ばれた男は私に向かって尋ねた。私はうなずく。
「はい、わたしは坂井カコと申します。ぜひともこちらのご住職にお会いしたく参りました。お目通り願えますか?」
荒い息で、声がかすれているが、井口には伝わったようだ。
「ご用件をお聞きしてもよろしいですか?」
井口は私の状態の悪さを見て、やや心配そうな声音で尋ねてきた。
「ここでは少し…」
私は周囲をはばかる様子を見せた。井口はちらりと山内翁を見て、
「一応伺いますが、そちらとお知合いですか?」
と聞いてくる。
「こちらに伺う道中ご一緒しました。こちらのご住職とはご親友であるとお聞きしましたが…」
わたしは困惑した風に聞き返した。
「とんっっっでもない!!親友だなんて、どの口がっ!!恥知らずめっ!」
井口は山内翁を睨みつけた。
「あんたはこの門を通れない!二度と来るなっ」
と一喝すると、わたしに向き直り、
「お嬢さんはどうぞ、お入りください」
と言った。
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