逃げ出して、その先に

千代乃

文字の大きさ
9 / 14

9門戸

しおりを挟む
部屋に沈黙が落ちた。
私は頭を下げた姿勢のままじっとしていた。
先ほど自分で言った「着の身着のまま逃げ出してきた」という言葉…ここで、断られたら私はどうしよう…。私の立ち寄りそうな数少ない知り合いのところは、教団の手が伸びているだろうし…。緊張しながら、さまざまなことが頭をかけめぐる。

「……あなたが今日ここへ来たのも、もしかすると何かの導きかもしれませんね……」

しばらくして、浦上住職が静かに言った。
私は顔を上げた。
年の頃は50程の、痩せぎすの浦上住職は私の顔をじっと見ながら言葉をつなげた。

「今日、門戸君はここへ来ます」

その言葉は私に衝撃を与えた。

「本当ですか!?」

浦上住職が頷くより先に、
私の左手の襖が開いた。

「ご住職はお前とは違って、本当のことしか言わない」

門戸が立ち、私を見下ろしていた。




門戸は背の高い男だ。
長い髪を後ろで一つにくくっている。
全身を黒っぽい服で包んでいた。なかなか引き締まった体をしている。会うのは二度目だが、やはりできれば会いたくなかったな、と思わずにはいられない。
若く美しく健康で、才能まである。業界で敵が多いのも頷ける。私だって嫌いだ。
心の中の本音に、我ながらぎょっとする。

(…っダメッ!今から説得するというのに!今はたとえ心の中でも敵意を持ってはだめだわ!この人は正義の人!私を助けてくれる人!!)

相手をだますには、まず自分から騙さなければならない。敵意や苦手意識は隠したって伝わるものなのだから。今は特にネガティブな感情など絶対に伝えてはならない相手だ。

「……門戸君、このお嬢さんと知り合いなのですね」
浦上住職が確認するように門戸に問いかけると、門戸は否定するように軽く首を振った。
「一度会ったことがあるというだけですよ…話は聞かせて頂きました」
盗み聞きをしたことを詫びるように浦上住職へ軽く会釈する。そして私の方に向きなおり、
「…話は聞いていた。ずいぶん、事実を歪曲して話していたな?」
といった…。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた

今川幸乃
恋愛
ローザン公爵家の跡継ぎオリバーの元に嫁いだレイラは若くして父が死んだため、実家の財産をすでにある程度相続していた。 レイラとオリバーは穏やかな新婚生活を送っていたが、なぜかオリバーは妹のエミリーが欲しがるものを何でも買ってあげている。 不審に思ったレイラが調べてみると、何とオリバーはレイラの財産を勝手に売り払ってそのお金でエミリーの欲しいものを買っていた。 レイラは実家を継いだ兄に相談し、自分に敵対する者には容赦しない”冷血王子”と恐れられるクルス第三王子に全財産を寄付することにする。 それでもオリバーはレイラの財産でエミリーに物を買い与え続けたが、自分に寄付された財産を勝手に売り払われたクルスは激怒し…… ※短め

処理中です...