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02:外は危険と隣り合わせ。

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「なるほど……覚悟しておけってこういうことだったのか……」
「そんな呑気に言っている場合ではないわよ!」
「た、助けてくれ!」
「ッ……!」

 三人が俺にしがみつている理由は、俺たちの周りに半径百メートルほどを埋め尽くすモンスターの群れがあるからだ。

 そのモンスターは多種多様で、オーク、ゴブリン、スライム、ドラゴンなど様々だ。モンスター間で争わないのかと思ったが、それよりも俺たちを狙っている。

 俺が目覚めた時と同じように俺に近づくことができないモンスターたち。

 こんな状況にいつまでもなっているわけにはいかないから安底羅の「千手」によってモンスターを叩きつぶした。一撃千発では足りなかったが一回にかかる秒数は一秒にも満たず、五秒ほどで形も残らないほどのモンスターの肉塊が俺たちの周りに生まれた。

「これ、全人類がダンジョンに落とされたんだよな?」
「え、えぇ、そうみたいよ」

 生きた心地がしないみたいな顔をしている四条が答えてくれた。

「俺みたいな強さがないと生き残れなくないか?」
「……ここにいるモンスターが強すぎるのか、それとも他の人たちは生き残るための術式を持っているのかね。それじゃなければ生き残れないでしょうね」
「今どれくらい人類が生き残っているのかは気になるな」
「……お母さま」

 ボソリと天白が呟いた。

 女子高生なのだからそりゃ親が恋しいものだろう。

「情報を集めないことには何とも言えないから先に進もう」

 俺はチュートリアルもなしに始まったし四条たちの話では四条たちも情報を持っていないに等しい。

 進むためにモンスターの屍を超えていると天白が足をすべらしてこけそうになったから手を取って助けた。

「あ、ありがとうございます……」
「いや、滑りやすいからな。このまま手を繋いでいくか?」
「……はい、お願いします」

 このまま汚くなればメンドウだからな。今の状態も俺以外の三人は汚い……あれ?

「天白の術式で綺麗にできないのか?」
「……できますね。今まで忘れていました」

 俺に言われるまで気付かなかったようで恥ずかしそうにしている天白。

 モンスターの屍ゾーンを抜けて四条、天白、児島三人の体を綺麗にする天白。

「思ったんだが、術式を使う力の源って何だろうな」
「魔力らしいわよ。術式も魔法の一種なのかしら?」
「そうなんだろうな。その魔力を纏ったりそれ単体で使えると思うか?」
「その説明はされなかったわね。使えるんじゃない?」
「そんな感じはするよなぁ……」

 こう話しているが、天白がこけそうになった時に俺は魔力を使って動きを早くしていた。

 何となく術式に回している力を理解して、何となくそれを使うことができた。上手くいくとは思ってなかったけど。

 でも俺の術式はオートかつ最高率で魔力を勝手に使ってくれる。だから魔力を回しているという感覚はあっても魔力をどれくらい送るかという意識は全くない。

「村までは後どれくらいあるんだ?」
「どれくらい……あれって……ッ!? うぷっ」

 児島は千里眼で何を見たのか分からないがいきなり顔色を悪くして嘔吐した。

 さっきの件があって四条と天白は児島を心配する素振りはしていなかった。

「何が見えたんだ?」
「……人が、食べられていた」
「生きているか?」
「……生きてない。頭を食べられて、脳みそが飛び出て……うぷっ」
「なるほど。それならせめて遺品だけでも引き取っておくか」
「い、行くつもりなのかい!?」
「行くぞ。さすがに放置はできないだろ」
「自ら危険を冒しに行くべきではない! 二人もそう思うだろ!?」
「まあ、そこは宝月の判断かしら。アタシたちは宝月に付いて行っているだけだから何も言えないわよ。それに、こんなところに落とされて無念の中死んでいく人を可哀想だと思うわ。それがアタシかもしれないと思うと、放ってはおけないわよ」
「……私も、宝月様に賛成です。自身が助かるために行動するのは正しいかもしれませんが、最低限の品位は持っておきたいです」

 俺の意見に四条と天白が賛成してくれた。

 まあ俺が強いのがあるだろうが真っ向から児島を否定しているな。

「決まりだな。俺たちは行くが、児島はここで待っておくか? 置いて行ったりはしないぞ」
「……行くよ、行けばいいんだろ!」
「それは良かった。なら行くぞ」

 引き返してメンドウになるのは嫌だからな。

 俺を先頭に四条と天白が両横に、児島が後ろの布陣で歩き始めたが案外早くたどり着いた。

 人の形をしているが三メートルはある全裸のハゲたモンスターが、女性の頭の中を吸い出していた。吸い出されている中、息絶えているのに体を痙攣させている。

 そのモンスターは一体ではなく、三体いて三人が臓器やら脳みそを吸われて息絶えている。

「うっ、おえぇ」
「大丈夫か?」

 俺の横にいた天白がたまらず吐き出した。それに後ろにいる児島も音もなく吐いているのが分かる。四条も顔をしかめているのが横目で見えた。

 食事に夢中だったモンスターたちがその音で俺たちのことに気が付き、次の獲物として襲い掛かってきた。

「きもっ」

 そのモンスターに不快感を覚えそう一言放った瞬間には四体のモンスターは平べったくなっていた。

 これは安底羅が何度も拍手して叩き潰したようだ。それに地面に隠れていた五体目のモンスターも一緒に殺していた。

 こんなところに隠れられたら分からないな。まだ児島が見ていたら分かるだろうけど、油断してたっぽいし。

「天白、大丈夫か?」
「はぃ……うっ……」
「少し休んでいろ。俺は遺品を探してくるから四条は天白と児島を頼む」
「清香は任せなさい。アタシも休んでいるわ」

 児島の名前も出したんだけどな。でも仕方ないか。自業自得だし。

 ぐちゃぐちゃにされ、モンスターに蹂躙された四人を見てグロイなと思うだけで気分は悪くならなかった。

 だからこうして亡骸の服を漁って調べることができる。

「……あった」

 三人のポケットにスマホがあり、一人の近くには血だらけのバックも発見した。

 それにしても、どうやらこのモンスターはたちが悪いみたいだ。足には必死に逃げた跡があったり顔が無事な人は泣いている跡も見える。

 逃げ惑っている姿を見て楽しんで食べたのか? 気分が悪いな。

 とりあえずスマホやら身分証明書やらを確保して、亡骸はそこら辺で埋葬することにした。その時も安底羅の千手でやった。

「終わったぞ。もう大丈夫か?」
「えぇ、平気よ。……ごめんなさいね、全部やらして」
「気にするな。俺が望んでここに来たんだ、これくらいはする」
「ありがとう」
「あぁ、どういたしまして」

 四条は平気な顔をしているが、天白と児島はまだ顔色が悪い感じだ。

「村はもう近いか? 近ければ村に向かうが日が落ちそうだから遠ければどこかで休むのもいいな」

 ダンジョンと呼ばれているのに太陽があるのは違和感がある。ダンジョンではなく異世界のような気がするな。

「……近いよ。もう少しすれば見えてくるはず」
「それなら向かおう。そこで宿をとれればいいが……」
「そんなお金どこにあるのよ」
「だよな。何か売って金にできないものか」
「向こうがどういう文明を持っているのかは分からないから行ってみないことには分からないわね」
「そうだよな」

 言葉も通じるかどうか。行かないことには分からないな。

「天白、大丈夫か?」

 誰よりも顔色が悪い天白にしゃがんで視線を合わせて声をかける。

「……はい、大丈夫です」
「大丈夫ではなさそうだから聞いたんだ。天白は子供だ。高校生だろ?」
「はい、高校二年生です」
「だから俺たち……俺と四条に頼ってもいいんだ。これで無理して倒れたら俺と四条が気にしてしまう。だから無理をすることは悪いことだ。まだ出会ったばかりの俺が何を言っているんだと思うだろうが、無理せず頑張れ」

 高校生だからメンタルも気を付けておかないといけない。

「……少し、手を貸してくれませんか?」
「いいぞ」

 俺が手を差し出すと天白は両手で包み込んでくれた。

「……もう、大丈夫です。少しなら耐えれます」
「分かった。無理ならすぐに言うように」
「はいっ」

 これで天白は大丈夫そうだな。

「児島、大丈夫か?」
「……ボクはキミの精神攻撃でやられたよ」
「自業自得だろ。ほら行くぞ」
「少しはボクの味方にもなってくれないかな……」
「はははっ」

 そんなことを言われても笑うしかないだろ。もしくは無視。

 天白と手を握りつつ、村がある方に足を進めた。
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