異世界には娯楽がない!

山椒

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05:ミッション達成報酬。

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 アンにコイントスを教えた時点でコイントスが広まることは分かっていた。

 だからウチに子供やら色々な人が来て金貨を求めてきたのは分かり切っていたことだ。

 特に必要ないと感じたから渡していくが、一万枚もあるから村の人たちに一枚ずつ渡したとしてもかなり余るから気にしていない。

 そう言えば、コイントスは娯楽に入らないのだろうか。まあジャンケンでさえ怪しかったからコイントス程度じゃ入らないのだろう。

 それか、条件があるのか。

 あのメッセージが現れたのはジャンケン大会が終わった後。アンにジャンケンを教えた後じゃない。

 つまりは一定人数が知っている必要があるのか、その時点で今後普及する状態なのか、ということになるのか。

 ただ報酬が欲しいわけではないから特に気にしないが、知りたいと思うのは性なのだろう。

「ねぇロイ」
「なに? マーちゃん」

 この村ではお金という概念は存在しておらず、みんながみんなお互いに助け合い、物々交換をすることで取引が成立している。

 だから今ウチの中には金貨の代わりに貰ったものが色々と置かれていた。

 食料から始まり、服や鉱石、薬など様々だ。

 それをマーちゃんと整理しているところで、マーちゃんから声をかけられた。

「ロイが声をかけてきた神の名前は分かるの?」

 名前、あの女神の名前は確かアースだったはず。それが本名かどうかは知らないし、地球担当だからアースにしていただけかもしれない。

「アースって名乗ってた気がする」
「何の神さまかしら?」
「娯楽の神さまだって」

 まあここで適当こいても大丈夫だろ。そもそも俺はこの世界に来ることを拒んだんだからそれくらいの適当さは大目に見てもらわないと。

「それがなに?」
「金貨を与える神なんて聞いたことがないから名前を聞いてみたら、案の定知らない神の名前だったわ。祀った方がいいかしら」
「そんなことしなくていいんじゃない?」

 あれに信仰なんて必要ない。

「でも信仰があった方が、神格が上がってロイに与えるものが豪華になるかもしれないわよ?」
「あー……」

 どうなんだろうか。本当か分からない名前や権能をそのまま祀られたとして、あの女神の力になるのか、それとも別の何かが生み出されるのか。

「でも娯楽は俺が考えたのに女神が信仰されるのは何か腹が立つ」
「なに? 神にでもなりたいの?」
「そういうわけじゃない」
「ロイが神のように祭り上げられたいのかしら?」
「そういうものでもない」
「なら神アースのせいにしておけば何があっても神アースのせいになるわよ?」

 それで戦争が起きたとしても、女神のせいにできるというわけか。

「それならそれで」
「分かったわ。石像を作ってもらえるように言っておくわ」

 あの女神の姿なんて見たことがないからどんな女神像になるのか見ものだな。

 もし信仰で姿形が変わったらそれはそれで思いっきり笑ってやろ。

「この村に石像って作られているの? そもそも神の石像ってどこにもあるようになっているの?」

 どこにもかしこにも石像があったらそれはそれですごいなと思うけど、まあそうだとしても信仰する場所や国によって石像は違うんだろうな。

「この村には一通りの石像はあるわよ。太陽の神々七柱と星空の神々七柱の計十四柱は作られているけど、この村には不要な物ね」
「なんで?」
「だって、この村では信仰する人はいないんだから不要でしょ?」
「なら何であるの?」
「それはこの村が神に関係する村だからよ」

 神に関係する村? そういう話は全く聞いたことがなかったぞ。

「この話はまた今度してあげるわ。あと少しで知ることになるだろうし」
「ふーん……」

 今この場で言ってくれてもいいんですけど。何でそこでもったいぶるのか。

 まあそんなことはいいか。石像があろうがなかろうが、神と関係あろうがなかろうが、俺の行動は変わらない。

『〝コイントス〟の認証を確認』

 これも娯楽の中に含まれていたのかと、視界の端を占領する文字を見て理解した。

『今後見込まれるコイントス普及率八十%』
『ミッション達成』

 百%にはならないのかと思ったが、百%は物理的に不可能だろうな。

 さてさて、今回のミッション達成報酬は何だ?

『ミッション達成報酬を付与』
『ミッション達成報酬
 〝知恵の書〟
 受け取りますか?
 YES/NO』

 これは興味がそそられるものが出ているな。

 知恵とだけしか書かれていないから、どういう方面の知恵なのか全く分からないが、思考を広げることはできる。

 世界の真理か。

 魔法の真理か。

 神々の真理か。

 はたまたくだらないことを書いているのか。

 何であろうともこの世界に生まれてから本を見たことがないから本を手に取りたい気持ちはある。

「ロイ、私は少し出かけて来るわね」
「一緒に行こうか?」
「いいえ、私だけでいいわよ。行ってくるわね」
「いってらっしゃい」

 何やら俺に隠しているような感じがするな。でも悪い方向に隠しているわけじゃなさそうだしいいか。

 マーちゃんが家を出て、俺はミッション達成報酬である知恵の書を受け取るためにYESのところを押した。

 すると俺の手元に一冊の分厚い本が出現した。

 本のタイトルは『娯楽の手引き①』と書かれており、本を開いた。

「……マジか。……これは、いいな」

 最初の報酬の金貨よりも何億倍もいい、サイコロの展開図や、トランプの絵柄、将棋の駒、チェスの駒など様々なアナログゲームの道具が詳細に書かれていた。

 ただルールとかは書かれていないから、これはゲームをする時に必要な道具を作るための道具ということになる。

 これは本当に嬉しいな。俺は正直、絵心が一切ないから絵で説明することができないからこれは本当にありがたい。

 だけど、これを渡してきたということは本当に俺に娯楽を広めろということを指示していることになるな。

 命令されるのは癪だけど、ゲームが広まることは嬉しいから今は命令を大人しく聞くことにする。お互いに利害が一致しているようだし。

 これさえあれば、ゲーム相手に困ることはないだろう。ゲームは一人でやるよりも二人でやる方が楽しいからな。

 でもこれを作ってくれる人を探さないといけないんだが……あいにくと村の人たちの職業をすべて把握しているわけではないからな……。

 職人探しから気長に始めて行くか。
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