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コミュ障、精霊と契約する②。

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 俺を持ち上げた何かを見ると、大きな光の玉が腕の側にあった。どうするつもりかと思っていたら、超スピードで引っ張られてみんなから離されて行った! おぉ、痛い痛い痛い! すごいスピードで動いて身体も固定されていないから、水切りみたいにはじかれて痛いぞ!

『もう少し我慢して』

 もう少しだけなら我慢できるが、少し問いたい。誰だよ!? と言う問いかけを口に出そうとした瞬間、俺は陸に上げられた。

『服は違う私に取りに行かせてたからここにあるよ』

 俺の目の前に俺の服が置かれた。寒い、ものすごく寒い。

『私は治癒精霊だから体温を暖かくする方法はないけど、炎魔法を使えばいいじゃないの? 使えるでしょ?』

 あ、そうだった。一応使えるんだった。炎炎炎、炎よ、出でよ!

 炎と念じると俺の身体から炎があふれ出してきた。これは昨日戦った時に常時纏っていた炎か。・・・濡れている身体が乾いていく。そして体温を取り戻していく。あぁ、生き返る。この体温を維持するために服を着て来た時と同じ格好になった。

「ジェレミアくん大丈夫!?」

 水を纏っているマヤさんがすごい勢いでこちらに来てくれた。だが、さっきまでのマヤさんと違っていたから目を見開いた。マヤさんの周りにこの光の玉と同じような青い玉が三つあり、それが水を出している。何だこれは?

「ミア!」

 マヤさんの後ろから全裸のエヴァもこちらに来た。そして濡れている身体で俺に抱き着いてきた。

「ミア・・・ミア・・・突然いなくならないでください」
「ごめんな、エヴァ」

 何か、昨日の事件以来エヴァが俺の側から全然離れてくれない。トイレの時も中まで来ようとしてきた。さすがにそれは勘弁してほしかったからトイレの前で済ませてくれた。

 濡れているとエヴァが風邪をひくから、俺は炎魔法を使ってエヴァの余計な水分を蒸発させて乾かす。

「・・・エヴァの服を」
『そういうと思っていたからもう持ってきてるよ』

 俺が光の玉に言うが、もうすでにこちらに服を持ってきているのが見えた。

「エヴァ、とりあえず服を着ないか?」
「もう少し、もう少しだけ、このままにしておいてください」

 まぁ俺は気にしないんだが、マヤさんががっつりこっちを見ていて恥ずかしいんだけど。

「良いかしら?」
「あ・・・はい」

 マヤさんは気まずそうにしながらも俺に話しかけてきた。

「君がさっき引っ張られて行った現象を説明できる?」
「説明・・・・・・うーん」

 俺が聞きたいんだが。この話しかけてくる光の玉は何なんだよ。

『私? 私は治癒の精霊だよ?』
「・・・治癒の、精霊?」
『そう。私自身名前はない。癒しという現象を起こすために大気中に存在している治癒精霊の一部。私が治癒精霊であり、治癒精霊は私。ただ、現象を引き起こす意識がない道具ではないの。群があれば個もある。精霊はそういう存在なんだ』
「・・・つまり、個体ごとに・・・性格が、あるってことか?」
『ピンポーン。人間と共存していくにつれて、人間とより強固な絆を得るために精霊も自我を得たの』

 こいつが見えているのはさっきの儀式のせいだよな。それに精霊がこんなに喋る掛けてくるなんて知らなかった。

「・・・さっきから誰と喋っているのかしら?」

 一人で感心していると、マヤさんが怪訝そうな顔でこちらを見てくる。

「え・・・治癒の精霊と・・・です」
「精霊、ね。本当に精霊に自我があったとはにわかには信じれなかったけれど、目の当たりにすれば嫌でも信じないといけないわ」
「どういう・・・?」
「ジェレミアくんは魔法などのことを習い始めて間もないから分からないと思うから説明しておくけれど、本来、精霊と会話はできないのよ」
「・・・え、で、でも・・・今」
「本来よ。でも、人と精霊の相性について研究している人がいたけど、その人は精霊も人と同じく自我を持っていると仮定すれば相性云々を解決できると言っていたわ。私は現象自身に自我があるとは思っていなかったけど、もしかしたら魔法適正、神と精霊の相性が高ければ話ができるかと思っていたの。それが大当たりとは驚きだけど」

 ・・・つまり、俺はすごいってこと?

『実際すごいよね。生まれた時から神に愛されちゃうんだから』

 神に愛される? それはどういうことだよ? 何で神から愛されるんだよ。

『あっ・・・ふゅ~、どうかなぁ~』

 完全に言ってはいけないことを言ってしまった感がある声音なんだが。でも、生まれた時から神に愛されているってどういうことだよ。また謎が深まったぞ。

「さぁ、それよりあちらに戻りましょう。ステラたちが心配しているわ」
「あ・・・はい」

 ようやく離れてくれたエヴァは、自分の服を着た。エヴァが服を着終えると俺たちは元いた場所へと戻っていく。

「君は精霊と会話できるということは、精霊の姿が見えているの?」
「え、いえ・・・・・・光の玉に、見えてます」
「光の玉ね。私の精霊も見えているの?」
「あ、はい・・・青い、玉が。三つ」
「へぇ、本当に見えているのね。私の契約している精霊の数と一緒だわ」

 何かマヤさんは外見的なイメージと違うな。外見的なイメージでは『不要な会話は不要。いることだけ話して』な感じだけど、何だかんだで普通だ。むしろキチンとしている。

 そんな感じで話しながらみんなの元に戻っていった。そこにはたき火を囲んでいる一行がいた。

「あ、ミアさぁん! 無事でしたかぁ?」
「・・・はい」

 全員がタオルを巻いているが寒そうにしている。

「やぁ、一緒に温もらないか、と言おうとしたが、どうやらその必要はなさそうだ」

 レッシングもたき火の周りにタオルで下を隠して温もっていた。

「でもどうやってやったんだ? あの短時間で乾かしたのか?」
「あ~・・・炎魔法を使った」
「炎魔法を使って乾かしたのか? それは炎の識別をして燃やしたのか?」
「・・・それ以外、何があるんだ?」

 これまた含みのある笑みでこちらを見てくる。・・・それより、キャンベルさんの方を見れないんだが。一瞬だけ見たが、めっちゃ睨んでいたからな。

「じゃあ僕の身体も乾かしてくれないか? 寒くて仕方がないんだ!」

 レッシングは立ち上がりこちらにゆっくりと歩み寄ってくる。しかしその過程でレッシングの下を隠していたタオルは外れてまた全裸となった。

「お尻が見えてる! 早く隠して!」

 後ろの女性から悲鳴やら何やら聞こえてくる。・・・うん? こいつ、別に寒くないんじゃないのか? 水の精霊の加護で寒くないんじゃないのか!? と言うか段々とこっちに裸で来ている。怖ッ!

 俺は恐怖でレッシングに向けて大きな炎を放出する。その炎はレッシングの後ろにいるクラスメートにも炎が当たり全員の身体が乾いていく。炎が放出が終わる頃には全員の身体は乾いていた。

「おぉ、すごい。心地よい炎だったよ」

 身体が乾いたレッシングは服を着ながらそう言ってくる。一息ついて仕切り直してロス先生が話し始める。

「ゴホンッ。それではぁ、これからここら辺を歩き回ってぇ、波長が合う精霊を見つけましょう! 波長が合っているとぉ、光の玉が見えてきますのでぇ、それを探してくださいねぇ。見つければきっと精霊さんも気づいてついてきてくれるのでぇ」

 あの、俺はどの精霊も見えているんですけど、これはどうしたらいいんですか?

『君はどの精霊からも愛されているからね。もちろん、無条件ではないよ。その悪意のない感情も評価されるところだよ』

 光の玉こと治癒の精霊からそう言われるとうれしいものがある。

「精霊を見つけたらぁ、私のところに言いに来てくださぁい。精霊と契約するための詠唱を伝えますからぁ」

 エヴァを含めたクラスメートは散開していった。しかし・・・・・・波長が合う精霊が見えて、その精霊と契約すれば良い。・・・結局、俺はどの精霊と契約すればいいんだ? 

『そこは私でしょ!? 何で他の精霊に行こうとしているの!? 私ってこれでも優良だよ!? 他の理性がない精霊をつか・・・精霊と仲良しで言うこと聞いてくれるし、無と有の境界線を操れるし、何より精霊として君と釣り合うのは私しかいないよ!?』

 ・・・何か他の精霊を操れることを綺麗な言い方で言えてないし、必死だな。それより、俺と釣り合うとはどういうことだ?

『これでも、精霊の中ではキングの地位にいるんだよ? そんな私じゃないと君の魔法適正に押しつぶされて精霊が死んじゃうよ』

 え、精霊って死ぬのか?

『正確には死ぬんじゃなくて、戻るんだけど、それでも存在が消えることには変わりないよ。今ならお買い得だよ? お一ついかが?』

 ・・・何かそう言われると買いたくなくなるな。

『お願いします! 私と契約してください! ここまでずっと待ってたんだからここで選ばれなかったら恥ずかしくて死んじゃうよ!』

 お、おう。最初からお前にしようとしていたから別に良いけど。

『それを最初から言ってよ! はぁぁ、驚いたぁ』

 ・・・心の声が全部聞こえるわけではないんだな。たぶん、伝えようと思っていることなら伝わるけど伝えないで良いことなら伝わらないのかな?

『じゃあじゃあ、早速契約しよう!』

 今更だけど、光の玉が喋っているのは違和感があるな。そんなことより、先生はどこだ?

『そんなことをしなくても私が知っているんだから良いんだよ?』

 知っているのか?

『当たり前でしょ? 治癒精霊のキングだよ? そんなことは知っているに決まっているよ』

 何か慢心した言い方だなぁ。やっぱり他の精霊に・・・

『調子に乗りましたごめんなさい!』

 いや、そこまで必死にならなくていいだろ。軽い冗談なんだから。これからお前と俺は対等なんだから。

『心臓に悪いからやめてよ』

 心臓? 精霊に心臓なんてあるのか?

『・・・それでは、契約の儀式を行っちゃいましょう!』

 おい、その間は完全に聞こえていただろ。まぁ、ものの例えだと思うから気にしないけど。

 俺は精霊の言う通りに儀式の準備に取り掛かっていく。必要なものは特になく、あるとすれば炎の魔法もしくは火種と、契約陣を書くための道具くらいだ。この下は地面だから問題なく木の枝でかけるから良いと言われた。場所はこの精霊が心地いいと感覚で思っている場所。この精霊の場合は木々が周りにある特に代わり映えのない場所。精霊が良いと思っている場所ならより強固な契約を結べるらしい。

『これでいいかな』

 実体化している精霊と俺で円型の契約陣を完成させた。実体化している精霊が棒切れを持っているときはどんな原理かと思った。この魔法陣はこの精霊のことを示しているこの精霊専用の魔法陣。他の精霊にもあるらしいが、それを聞き取れる契約者はもちろん話している俺だけだ。

『それじゃあ教えた通りによろしくね』

 俺は頷き、魔法陣の外から教えてもらった言霊を発する。

「『契りを見届ける善の炎よ、天より舞い降りよ』」

 何もない魔法陣の中央から唐突に炎が出現し、炎は浮きながら燃えている。

「『汝、我が魂の盟友としてここに契りを結ぶ。我、ジェレミア・ロドリゲスの名において、世に存在を肯定すべく・・・・・・ジュリアの名を汝に授けよう』」

 地面をえぐっただけの魔法陣は光りだした。

『契りをここに。我はジュリアの名において、汝、ジェレミア・ロドリゲスにいつ何時も仕えることを、我が名においてここに誓おう』
「『善の炎よ、これを見届けたならば、天に舞い上がれ』」

 俺が最後の句を言い終えると、中央の炎は消えていき魔法陣の光もゆっくりと消えていった。

『これで私たちは家族以上の絆が結ばれたね!』

 それはない。

『即答!? でも、これから絆を紡いでいけばいいか』

 当たり前だ。これからよろしくな。

『よろしくね、我が主』

 それはやめてくれ。主ではなく、対等な存在なんだから。

『じゃあミア?』

 別にそれを呼ばれることは何も苦ではない。これからよろしく、ジュリア。

『うん、私はジュリア。これからジュリア』

 ジュリアの声音は嬉しそうに聞こえてくる。詠唱の時に名づけをしてくれと頼まれた時はどうしようかと思ったが、何となく思い浮かんだジュリアという名前にしてみたが、喜んでくれて何よりだ。

『あ、あとその契約陣は消しておいてね。それは私のすべてが書かれているから』

 そう言われ、せっせと契約陣を欠片も残さずに消していく。コンクリートにチョークで書いた日には消すのが面倒くさそうだが、ここは簡単でいい。

 そう言えば、契約したから色んな魔法が使えるようになるんだよな?

『うん、そうだよ。今まで発動しなかった魔法でも私が仲介して使えるようになるよ』

 ほぉ、それは楽しみだ。でも俺の場合は魔力の消費が少ないという点以外はあまりうまみがないか? とか思いながら先生がいるであろう泉の前まで行く。そこにはすでに俺以外の全員が集結していた。

「ミアさぁん、精霊は見つかりましたかぁ?」
「あ、はい・・・一応」
『一応じゃないでしょ!』

 隣で俺にしか聞こえない声で叫んでくるジュリアをいさめながら、クラスメートを見るとそれぞれの側に精霊を一体ずつ引き連れている。

「じゃぁ、早速精霊と契約してみましょうかぁ!」

 俺は俺がやった契約と先生がやる契約が一緒のものなのか疑問に思い先生が準備しているのを見る。そこにはジュリアとしたような契約陣が描かれた。そして手のひらの瓶の蓋を開けると小さな火種が出てきて契約陣の中央に移動していった。え、あの炎は魔法で呼び寄せるものじゃないのか。

『それは人間が魔法を知らないから、ああやって劣化し続けている炎を使っているんだよ』

 そうか。精霊が知っていてもそれを教える術がないのか。じゃあそれを俺が他の人に教えれば、劣化していない炎を使えるのか?

『使えるよ。そもそも魔法詠唱だって、精霊の言葉を伝える人間が教えたものなんだから』

 魔法詠唱がどこから来たのか疑問だったが、そういうことだったのか。俺とジュリアが話している間に準備ができ、まずはヴォワネさんからすることになった。

「『癒しの精霊をこの身に受け、御身のおそばへと至らせたまえ』」

 ヴォワネさんが俺が知らない詠唱を口にすると俺の時と同様に光だし、光はすぐに収まった。だが、肝心の精霊の番が回ってきていない。精霊はただ契約陣の中にいるだけで何も喋っていない。

『あれは、人間が考えに考えた方法だよ。それも中途半端な方法で契約をしているからもったいない』

 精霊が教えたんじゃないのか?

『教えたよ。でも精霊の声が聞こえない人間からすれば名をつけることに何も意味はなさず、誰かが中途半端に変えて、広めたから間違った契約の仕方が広まっているんだよ』

 誰だよ、その変えたやつ。迷惑な話だ。ジュリアと話していると精霊との契約が終わったヴォワネさんは契約陣から離れて、別のクラスメートの番となるが、契約陣は一緒のままだ。あれ? 精霊一体一体違うんじゃなかったのか?

『だから言ったでしょ? 人間は精霊の声は聞けない。だから精霊のすべてを表現できない』

 ・・・それは俺みたいなやつがいないとどうしようもないんじゃないのか?

『うん、どうしようもない』

 俺はきちんとした契約を知っているにも関わらず、何も言えないでいることに罪悪感を感じていた。

「どうしました? ミア。どこか具合でも悪いのですか?」
「・・・いや・・・何でも」

 エヴァが俺の顔を覗き込んでくる。・・・そうだ。エヴァもこの契約でしてしまうんだ。そんな中途半端な契約をさせるわけにはいかないんだよ。・・・ジュリア、やり方を他の人に伝えればできると言ったな。

『そうだよ』

 じゃあ契約したものの契約を破棄して新しく契約できるのか?

『・・・契約魔法というのは基本的に破棄できるものではないんだよね。人間が死ねば精霊が死ぬみたいに。でも、破棄じゃなくて変更、更新すればその限りじゃないよ』

 ・・・よし。

「あ、あのっ!」

 俺は間違った契約方法を止めるために前に出て声を上げる。その声で全員が俺の方を見てきた。それは心臓を握られているくらいの圧迫感があった、俺的にはね。

「何かなぁ、ミアさぁん?」
「え、えっと・・・その・・・その」

 俺から声を上げたことがないからそれからどうすれば良いのか考えてなかった。ただ止めないといけない一心で声を上げてしまった。

「ミア。何かあるのですね。“私”が聞きますから話してくださいませ」

 エヴァが妙に私の部分を強調したから、俺はまず深呼吸をしていつも通りにエヴァだけ話しかける要領で話す。

「俺って精霊と話せるだろう?」
「はい、そう言っていましたわね」
「で、さっき俺を引っ張っていった精霊と契約したんだ」
「そのお騒がせな精霊と契約したのですわね」
「あぁ、まぁお騒がせと言うところは否めないけど・・・それで、俺の契約の仕方とヴォワネさんの契約の仕方が違ったんだ。俺と契約した精霊が言うには、契約の仕方が間違っていて、中途半端にしか契約できていないんだと」
「・・・まぁ、それは大変なことですわ」

 エヴァはそう言いながら先生の方へと向く。先生は驚いた顔をしてマヤさんの方を見る。マヤさんはその視線に頷いて返す。そして俺の元へと来た。

「ミアさぁん、そのことをもう少し詳しく聞いても良いですかぁ?」
「は、はい」

 ロス先生だけなら何とか話せれる。何気に学校で知り合った中で一番話しているのがロス先生なんだよな。だから言葉詰まりも知らない人よりだいぶましになっている。

 俺はジュリアに教えてもらったやり方を話した。契約陣の構築要素、詠唱、必要なものをすべて。

「そう、ですかぁ。ちなみにぃ、契約を変更することはできると言っていましたかぁ?」
「は、はい・・・破棄じゃなくて、変更、なら」

 実際どうやってやるんだ?

『簡単だよ。前に述べた詠唱を言った後、この言霊を真なる言霊に述べかえる、って言って私が教えた詠唱を言えば変更は完了だよ』

 契約と言うくらいだからもう少し大がかりかと思ったが、案外簡単だな。

『まぁ、変更だからね。それに不完全なものから完全なものになったりとか良いことだらけだから、簡単なんだよ』

 それも先生に言う。・・・でも、これって精霊の声が聞こえていないと結局精霊と息を合わせるって無理なことじゃないか?

『うん。でも、一時的にミアと同じ状況、つまり精霊の声を聴いたりすることができる魔法もあるんだよ』

 え、じゃあそれを使えば終わりじゃん。

『そんな簡単にできないけどね。それ相応の魔力が必要なんだよね』

 魔力? どれくらいだよ?

『うーん・・・ミアの全快の魔力の、十分の一かな。ミアの魔力量が多いから大抵の人は無理なんだけどね』

 そうだわな。そんな魔法があれば精霊が伝えていたよな。

「こちらの都合ですけどぉ、クラスメートの精霊契約を手伝ってくれませんかぁ?」

 ロス先生が言うまでもなく、俺は了承するつもりだ。俺は大きく頷き、全員分の契約魔法をし始めた。ジュリアの手も借りつつな。



 全員の契約をし終え、木陰に入って一休みしていた。全員と言ってもクラスメートの分だけで、ロス先生とマヤさんの契約変更はしなかった。また今度お願いしますねぇと言われた。何故かは知らないど。

「ふぅ・・・」

 休もうとしたせいか、どっと疲れが来た気がした。

「お疲れのようですわね、ミア。私の枕を使っても良いですわ」

 エヴァが太ももをポンポンと叩き、こちらを誘惑してくる。俺はその誘惑にのまれて柔らかい太ももに頭をのせる。・・・これは、至極の品だ。一気に睡魔が襲ってきた。

「出発するまで寝ていても構いませんわ。おやすみなさい、ミア」

 その言葉を聞き、俺は一気に睡魔に身をゆだねた。

 だが、何か正体不明なものが近づいてきていることを察知して眠気が覚めた。

「どうしましたか?」
「いや・・・何かが」

 受けごたえをしようとした瞬間、森の上を通っている黒いもやがかかっている巨大な生き物が目に入った。それを見たとき俺は鳥肌が立った。

『ッ! あれは危険だよ!』

 ジュリアの言葉に俺はすぐに身体を起こして巨大な生き物を見据える。

「あれは・・・何だ?」
「どうしましたかぁ?」

 巨大な生き物の概要は見えなかったが、巨大な羽は見えた。あれはどこに行っているんだ? あんな鳥肌もの生き物が王都へと行ったら大災害ものだ。そして全員が俺の方を見ていて鳥肌ものだった。

「い、いえ・・・何でも」

 俺はすぐに腰を下ろす。・・・うん? 俺にしか見えていなかったのか? あんなまがまがしいものが見えていなかったのか? そうなれば精霊の類か?

『そうだよ! あれは精霊、それも善の私たちとは相反する邪の精霊。あれは力をむやみやたらに使いまわす人間の憎悪から作られた邪精霊』

 ハァ、そんなものがここに降り立たなくてよかった。対処できるかわからなかったぞ。俺はもう一度エヴァの膝枕に頭をのせる。・・・・・・それにしても、あいつは西に行っていたな。・・・西。俺は王都から東に行っていたんだよな。つまり・・・あいつは王都の方向に、行っているってことか?

 今度こそ俺は危機感を察知して起き上がる。

「ろ、ロス先生!」
「はぁい、何ですかぁ?」
「え、えっと、あの、さっき空に・・・」
「ミア、少し落ち着いてください」

 俺は少し深呼吸をして言葉を纏める。

「あ、あの・・・さっき、空に、邪精霊が!」
「何ですって!?」

 俺の言葉にロス先生とマヤさんはすぐに立ち上がった。

「それはぁ、本当ですかぁ?」
「は、はい。さっき、西に・・・俺の精霊も、邪精霊だって」

 真剣な顔をしているロス先生と険しい顔をしているマヤさん。

「西か・・・ステラ。すぐに王都に向かいましょう。もしかしたら私だけを行かせて彼を狙うのかもしれない、罠かもしれないわ。だから一緒に行った方が良いわね」
「はぁい、それには賛成でぇす。皆さぁん、休憩は馬車の中で取ってくださいねぇ。ちょっとぉ、大事な用事あるのでぇ、今すぐに王都へと戻りましょぉう」

 俺たちは言われるがままに森から出て馬車の中へと乗り込む。そして素早く王都へと出発した。・・・王都にはクレアやナタリーたちがいるんだ。どうか狙いが王都ではなかってくれ。
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