H･I･M･E ーactressー

第25章 ｓｃｅｎｅ５：チャペル

４

　まるで母ちゃん（……はちょっと言い過ぎ？ 失礼？）みたいな斗子さんの温もりに包まれ、やる気マックス状態までチャージした僕。

　「着いたぞ、降りろ」

　長井さんに言われるのと同時に開いたドアから勢い良く飛び降りると、「ヨシっ！」とばかりに両手に拳を握り、一人こっそり気合いを入れた。

　「こっちだ」

　長井さんの案内で建物の中に入る。

　聞いてた通り、そこにはスタッフさんはおろか、人っ子一人いなくて……

　なんだ、こんなことなら……と、キャップを外そうとしたら、斗子さんに止められた。

　「裕也が言ってたでしょ？　どこで誰が見てるか分からないって……｣


　そうなんだけどさ、せっかくの新しいウィッグに、キャップの跡が付いちゃうの嫌なんだもん


　僕が唇を尖らせていると、斗子さんが「しょうがないわね」って、首に巻いていたストールを解き、僕の頭にフワリとかけた。

　「え……？」
　「これなら、キャップを外しても顔は見えないでしょ？」
　「う、うん、ありがと……」


　やっぱり斗子さんは優しい。
　鬼軍曹（長井さんのことね）とは大違いだ。


　僕はキャップを外すと、斗子さんの匂いがたっぷり染み込んだストールで顔の半分を覆い、一人足早に先を歩く長井さんを追った。

　それにしても、撮影場所は教会だって聞いてたけど、今のところそれらしい雰囲気は全然感じられなくて……
　本当にここで合ってるのか、ちょっぴり不安になってしまう。


　だってさ、この業界にいると良く聞くんだよね……

　聞かされてた場所と全然違う場所に連れて行かれた挙句、とんでもなく酷い扱い受けた、とかさ……
　だからもしかして僕も……


　なんて不安に思っていると、突然足を止めた長瀬さんが、廊下の突き当たり手前の一室のドアを開けた。

　「ここだ、入れ」
　「入りましょ？」
　「うん……」

　僕が不安に感じていたのが分かったのか、斗子さんが僕の手を引いて、先に部屋の中へと足を踏み入れた。