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森山の告白3
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駅裏から地下道を通って駅前へと歩く。
しかし、やはりどう考えても私が悪いのだ。
あれはただの嫉妬。
わかっている。
そうだ、彼女に謝らなければ。
私はすぐに公園へ戻った。
地下道の階段を勢いよく駆け上がった私の前を一台の車が横切る。
「危ないなあ」
減速もしない車を睨みつけるうち、ふと気付いた。
走り去る車のドアから布がはみ出ている。
そしてそれは、先程置き去りにした雅美の履いていたスカートの色にとてもよく似ていた。
嫌な予感がする。
私は先ほどの車の進行方向とは反対にある公園に向かって走った。
なにが起こった?
公園に先ほどまでいた筈の雅美の姿が消え、口が開いて中身が少し飛び出た彼女のカバンがベンチの下に転がっている。
雅美のスカートと同じ色の布がドアの隙間からはみ出していた車。
消えた雅美。
そして、ベンチの下に転がった彼女のカバン。
おそらく雅美は何らかの事情でさらわれたのだ。
大変だ! 一刻も早く誰かに知らせなければ!
しかし、私はある一点を見つめ息を呑んだ。
そう、彼女の小説の束が入ったカバン。
私にとってそれは宝箱だった。
私は咄嗟に宝箱から宝を取り出し、自分のカバンに押し込んだ。そして一目散に駆け出した。
私は何も気付かなかった。
黒い車など見なかった。
水色の布など見なかった。
彼女が連れ去られるところなど見なかった。
ただただ行きよりも格段に重くなったカバンを抱え走った。
カバンは公園から遠ざかるほど重さが増していった。
しかし、自宅に近づいたところで考える。
もしも雅美が誰かに私と今日会っていることを話していたら?
彼女の身に何かあった時、私が疑われるのでは?
どうしよう?
どうすれば良い?
私は大急ぎで帰宅すると、雅美のノートを勉強机に並んでいる自分のノートに紛れ込ませていった。
学校のノートとノートの間、ノートを開いたその間、学生カバンの中。
膨大な雅美のノートを自分のノート次々飲み込ませていった。
これで警察が来ても、雅美から奪った物がここにあることは気付かれないだろう。
あとは練習通りにやるだけだ。
私は公園まで戻り、ベンチの下に無造作に捨てた雅美のバッグを拾い、もうすっかり暗くなった道を彼女の家へ向かい歩いた。
雅美の家のインターホンを押す。
大丈夫。
何度も練習したのだから。
「はい」
インターホン越しに短く返事をされる。
「僕、今日雅美さんと会っていた小嶋と言います。雅美さんのカバンが落ちていたので届けに来ました」
するとすぐに母親らしき人が玄関ドアから出てきた。
「あら、それはどうもありがとう。それで、雅美は一緒ではないのかしら?」
そこで私は練習通りに答えた。
「え? 雅美さん、帰っていないのですか? 実は、今日雅美さんとお話をしていたのですが喧嘩になってしまい、僕が怒って公園に雅美さんを置き去りにして帰ってしまったんです。しばらくして、やはり仲直りしたいと思い公園に行ってみたら雅美さんは居なくて、カバンが落ちていたのです」
雅美の母親の顔色はみるみる青ざめ、バタバタとし始めたので、私は自分の連絡先を教え帰宅した。
それから警察や雅美の母親、知人、先生、様々な人にその時の様子を訊かれたので、同じことを話すうち嘘が真実のように思えてきて、より上手く感情を乗せることが出来るようになっていった。
しかし、あの日からずっと私は、ただ一つの事だけを考えて、いや、願っていた。
――どうか彼女が見つかりませんように――
数日後、彼女は遺体で発見された。
葬儀に参列した私は、練習通りお悔やみの言葉を述べながら、心ではこう思っていた。
これで宝は私のものだ、と。
その後、彼女のノートを全て読み、改めて彼女の才能に感動と嫉妬を覚えた。
そして、どこかのタイミングで書き溜められていた膨大なこの作品たちを少しずつ発表していくことにしたのだ。
しかし、やはりどう考えても私が悪いのだ。
あれはただの嫉妬。
わかっている。
そうだ、彼女に謝らなければ。
私はすぐに公園へ戻った。
地下道の階段を勢いよく駆け上がった私の前を一台の車が横切る。
「危ないなあ」
減速もしない車を睨みつけるうち、ふと気付いた。
走り去る車のドアから布がはみ出ている。
そしてそれは、先程置き去りにした雅美の履いていたスカートの色にとてもよく似ていた。
嫌な予感がする。
私は先ほどの車の進行方向とは反対にある公園に向かって走った。
なにが起こった?
公園に先ほどまでいた筈の雅美の姿が消え、口が開いて中身が少し飛び出た彼女のカバンがベンチの下に転がっている。
雅美のスカートと同じ色の布がドアの隙間からはみ出していた車。
消えた雅美。
そして、ベンチの下に転がった彼女のカバン。
おそらく雅美は何らかの事情でさらわれたのだ。
大変だ! 一刻も早く誰かに知らせなければ!
しかし、私はある一点を見つめ息を呑んだ。
そう、彼女の小説の束が入ったカバン。
私にとってそれは宝箱だった。
私は咄嗟に宝箱から宝を取り出し、自分のカバンに押し込んだ。そして一目散に駆け出した。
私は何も気付かなかった。
黒い車など見なかった。
水色の布など見なかった。
彼女が連れ去られるところなど見なかった。
ただただ行きよりも格段に重くなったカバンを抱え走った。
カバンは公園から遠ざかるほど重さが増していった。
しかし、自宅に近づいたところで考える。
もしも雅美が誰かに私と今日会っていることを話していたら?
彼女の身に何かあった時、私が疑われるのでは?
どうしよう?
どうすれば良い?
私は大急ぎで帰宅すると、雅美のノートを勉強机に並んでいる自分のノートに紛れ込ませていった。
学校のノートとノートの間、ノートを開いたその間、学生カバンの中。
膨大な雅美のノートを自分のノート次々飲み込ませていった。
これで警察が来ても、雅美から奪った物がここにあることは気付かれないだろう。
あとは練習通りにやるだけだ。
私は公園まで戻り、ベンチの下に無造作に捨てた雅美のバッグを拾い、もうすっかり暗くなった道を彼女の家へ向かい歩いた。
雅美の家のインターホンを押す。
大丈夫。
何度も練習したのだから。
「はい」
インターホン越しに短く返事をされる。
「僕、今日雅美さんと会っていた小嶋と言います。雅美さんのカバンが落ちていたので届けに来ました」
するとすぐに母親らしき人が玄関ドアから出てきた。
「あら、それはどうもありがとう。それで、雅美は一緒ではないのかしら?」
そこで私は練習通りに答えた。
「え? 雅美さん、帰っていないのですか? 実は、今日雅美さんとお話をしていたのですが喧嘩になってしまい、僕が怒って公園に雅美さんを置き去りにして帰ってしまったんです。しばらくして、やはり仲直りしたいと思い公園に行ってみたら雅美さんは居なくて、カバンが落ちていたのです」
雅美の母親の顔色はみるみる青ざめ、バタバタとし始めたので、私は自分の連絡先を教え帰宅した。
それから警察や雅美の母親、知人、先生、様々な人にその時の様子を訊かれたので、同じことを話すうち嘘が真実のように思えてきて、より上手く感情を乗せることが出来るようになっていった。
しかし、あの日からずっと私は、ただ一つの事だけを考えて、いや、願っていた。
――どうか彼女が見つかりませんように――
数日後、彼女は遺体で発見された。
葬儀に参列した私は、練習通りお悔やみの言葉を述べながら、心ではこう思っていた。
これで宝は私のものだ、と。
その後、彼女のノートを全て読み、改めて彼女の才能に感動と嫉妬を覚えた。
そして、どこかのタイミングで書き溜められていた膨大なこの作品たちを少しずつ発表していくことにしたのだ。
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