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幼児編

笑える国造り

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「おはようございます」
「おはようございます」
紗枝が頭を下げた。凍太も礼をする。レイレイの世話をして”おつかれさま”を言ってから、朝食を食べるために客間へ向かう途中で、紗枝に会う。ローデリア風の寝巻姿で上には、月狼国で用いられる、防寒着を着用した格好だった。凍太はレイレイの世話を終えたばかりで身体が温かく、オオカミの毛皮で出来た外用のコートは着ずに、トレーニングウェア代わりの綿で出来た道着に似た大きめのズボンと着物のような上着姿だった。
夜が明けて、まだ幾時もたってはいない。が----凍太はこの時間に帰ってくることがいつものルーティン・ワークとして体に記憶されているため、いつもの事だった。
「何か変わったことは?」
いつもの紗枝からの問いが投げられる。
普段であれば、「なにも」の一言でかたずけられるお決まりのシーンだったのだが。
「少しだけきになることがあるんです」
凍太が言ったのは、そんな一言だった。


「それで?」
雪乃を前にして凍太が座る。
雪乃の左には紗枝。右には凍子が座っていた。
「はい。昨日の練習のときに変なことがあって」
「変とは?」
雪乃が片眉を動かして、つづけろ、と指示する。雪乃の癖の一つだった。
「ニポポ山の中腹にある広場で、ダークエルフに会いまして」
「それで?」
「僕の方はなにも言ってないはずだったんですが・・・・その」
言い淀む。
「なんですか?はっきりおっしゃい」
「考えを読まれてるようなことがあって・・・」
うまく説明がつかない。あまりうまく考えがまとまらなかった。
「読まれているとはどういうことです?」
「僕は広場に景色を見に来ている。と相手に言ったんです。ですけど、相手はまるで知っていたかのように僕が毎日行っている行動を言い当てられてしまって・・・・」
「ほう・・・」
雪乃の目が細まる。いろいろ考え事をしている時の顔が凍太の前に浮かんでいた。
「付けられていて、気づかなかったのでは?」
紗枝が意見を述べる。
「隠形していた可能性もあるわ」
凍子も続いた。
しばらくして、雪乃が問う。
「相手は黒耳長族だったのね?凍太」
「はい」
凍太は短く答えた。
「肌の色は?」
「褐色」
「耳は?」
「長かった」
「髪の色は?」
「たしか、銀髪」
「年のころは?」
「僕と同じくらいかと」
いくつかの質問がやり取りされた後、ふう----と雪乃が息をついて、湯呑に口を付ける。
ずずっとお茶を飲む音が立った後で、雪乃は静かに結論を出した。
「おそらく、精霊による事象でしょうねぇ」
「精霊?」
凍太がオウムの様に聞き返した。
「ダークエルフやエルフ族は、人族には見えない「精霊」が見え、声が聞こえると、されているのです」
紗枝が付け足して、凍子につづけるように促した。
「うーんと、簡単に言うと、エルフ、ダークエルフ、ドワーフ、ノームなんかの種族は魔術を使役する際に
”精霊”の助力を得て、魔術を使うの」
凍子の講義が続く。
「私たち雪人や、人族は感じ取れないけど、エルフ、ダークエルフには”精霊”っていうのが見えてて、
魔術を使うときに『力を貸してくれる』なんて言ってたわ」
「なんで見えるのかって? 古代の契約があって。エルフ、ダークエルフなんかは精霊と大昔に契約を結んでいるから----らしいわ」
よくしらないけど。と凍子は締めくくった。
「なんですか?よく知らないというのは」
雪乃が軽く叱責する。
「だって。あたしだって、ローデリア魔法学校にいた時のエルフに聞いただけなんだから」
要は又聞きに近く、噂話の類を出ていないのだが。雪乃にはそれで十分だった。
「まぁ、凍子の古い友人の話を信じるとして----おそらく、ダークエルフであれば何らかの魔術を使ったのではないですか?その”精霊”とやらで」
うーん と今度は凍太が首をひねる番だった。
「構成は見えなかったの?」
凍子が聞いてやると、凍太はこくんと頷く。
凍子はそれをみて、腕組みをしながら、首を上に----天井を見上げる様にして----何かを考え始める。
「そうだ----精霊の声----かも」
「精霊の声?」
「うん。そういえば、エルフの子が言ってたわ。精霊はとっても話好きで、耳元で囁くことがあるって。
嵐が来るよ。だとか、今日のご飯のことだとか、事件、事故、予知に近いものまで多種多様なんだって」
凍子が昔の記憶をひっくり返して、思い出しながら続ける
「で、これは魔術でもなんでもなくって、精霊の声が聞こえてるだけだから、構成なんかはないんだって確か言ってたわ。うん」
「囁いてきた精霊の言葉をそのまま言っていた。と?」
「うーん。構成はなかったんじゃ、その線が一番近いかなぁ」
凍子は軽く判断して見せるのだった。
「で?凍太。その黒耳長族の身元はわかっているのですか?」
雪乃が問う。
「たしか、難民だって言ってました。その子のお母さんにも会いました」
今朝の大門前で在ったイアンナ、イリスの事を思い出し、名前を告げた。
「ふむ。ダークエルフでイアンナ・・・イリスの母娘ですか」
雪乃が何かを思案する。またも目が細まっていた。
「こちらでしばらく調べてみるとしましょう。患者という線も捨てきれませんし・・・・ねぇ」
そういって笑う雪乃。こうして、ここでの一件は、雪乃の預かりで、いったん幕を閉じた。


「白ですか」
「はい。イアンナ、イリス、クロフトの親子については、ただの難民で、都市や後ろ盾などはないと思われます」
「ご苦労でした。紗枝。それで、居場所は?」
「第二難民特区に居を構えています」
「罠の類は?」
「罠やそのほかの呪的なものはありませんでした」
「分かりました。では。会いに行ってみるとしましょうか」
それから、2、3日の後に雪乃による家庭訪問が敢行されることになったのだった。



扉を開けると、目の前に町長が立っていた。
「こんにちは。こちらイアンナさんのお宅でよろしいかしら?」
「ええ。私がイアンナです・・・けど」
何かしただろうか?笑顔のまま内心で思い当たる節を考えるが----町長が来る事態などは思いつかなかった。
「町長様が何か御用でしょうか?」
「ええ。少しお話がして見たくなったのでね?よろしいかしら?」
人のよさそうな老婆がにっこりと笑う。特に断る理由もないし、暇だったのもあるし---で、とりあえず私、イアンナ----は中へと町長を案内した。
「どうぞ」
テーブル席に案内して、お茶をカップに入れて出した。
「あらあら。ご丁寧に。どうも」
町長はそういいながら、カップを受け取ると両手でカップを包むように持ちながら、お礼を言ってくれた。
私も席につきながら切り出す
「それで、町長様がどういったご用件でしょうか?」
おそるおそる聞いてみる。
「いえね。用というほどの物でもなく、少し聞いてみたいことが在ったものですから、視察のついでに寄らせてもらったのです。邪魔でしたか?」
視察----なるほど。町長の公務なのね。----と内心で納得した。
「いいえ。難民である私どもを受け入れてくださって感謝しております」
ついでに頭を下げておいた。
「では、町長として、質問をしますが、よろしいかしら?」
「はい。答えられる範囲でですが」
こうして、町長の質問が始まった。
「まずは、あなた方は黒耳長族ダークエルフですね?」
「はい」
「ダークエルフは森の民と聞きます。ここに逃げてきたのは戦で?かしら」
「はい、ローデリアの傭兵たちから逃げて・・・」
「辛かったでしょうね。心中は察して余りあります。町長として安寧と出来る限りのことはしましょう」
「ありがとうございます」
「もうひとつ、質問してよいかしら?」
「ええ。どうぞ」
「イアンナさん。あなたにはご主人と、娘さんがいるわね?」
「ええ。クロフトと娘のイリスです」
「難民の書類と一緒ね。では、もう一つ。あなたは『凍太』という名前に心当たりは?」
凍太。その名前を聞いたとき、どきりした。そして同時に思い当たる節があった。あの大門の前で会ったあの子の事だと、すぐに思い当たって----町長の縁者なのだと類推した。
「知っております。少し前に、大門ちかくでお話を」
「ですか。なるほど」
町長は自らの顔の前で手を組んで、笑って見せた。
私は席を立って----床に伏すように頭を下げた。
「申し訳ありません。町長様の縁者様とは思いもよらず、ご無礼を----」
「何をしていますか?頭を御上げなさい」
のだが、帰ってきたのは優しい声だった。が、頭を上げるわけには行かなかった。
きっと、知らぬところで無礼があったのだろう。町長は地域にもよるが、月狼国では町を統治する権力者で、
町長とは名乗っているが、実質はその地域の「統治者」。その縁者となれば、あの凍太という子は町長の孫か
----そこまで、頭の中で思いがめぐらされたところで----
ぽん と肩に手を置かれ
「いいから。普通になさって」
そんな優しい言葉が、もう一度かけられた。こんどは少し強めに。
「失礼しました」
再び着席した私は、もう一度頭を下げた。こんどは軽く。
町長はいいのよ とだけ告げると、また質問に戻った。
この町の事、治安は悪くないか、困っていること、等を聞いて、私が答えていく。と――――
「おかぁさん?」
奥の部屋から扉を開けてイリスが眠そうな目をして顔を出した。
「おはようかしら?お嬢さん?」
「・・んぅ?」
イリスが町長を寝ぼけ眼で見つめ、「おはようごじゃいます・・・」とろれつのはっきりしない口調で返す。
「ふふふ。可愛いものね。凍太と同じくらいかしら」
町長が おいで とイリスに呼びかける。イリスはよくわかっていないらしく、私にどうしたらいいのかを目で訴えていたが、私が『この町の町長様よ』と説明すると、力のない表情でぺこんとお辞儀をして見せる。
「イリス。お顔洗って来て」私が言うと、「はぁい」と言いながらイリスは外の井戸まで歩いて行った。
「すいません。まだ小さくてよくわかってないらしくて」
「いいんですよ。あのくらいの年齢はあれくらいの愛嬌があってしかるべきです」
町長はそんなことを言ってくれた。


「薬学がご専門なのね」
「ええ。生来、エルフや私たちダークエルフは森の中で暮らすことが常ですから、薬の類も森から得ています」
「知識などは、代々伝わるのかしら?」
「ええ。教えられるものもありますし。実際に取りに行くと、周りの精霊達が教えてくれるんです」
「ほう?精霊ですか」
「ああ・・・そういえば、雪族や人族には見えないんでしたね。いまもテーブルの上に踊っていたり、町長の肩に乗っかって遊んでいる子もいます」
町長は驚いたのか、片眉を上げて見せた。
「まぁ・・・・全然感じないのね」
「契約がなされていませんから。こればかりはどうしようもありません」
「そういうものかしらね。よくわからないけれど」
「精霊達はいろいろなことを教えてくれるんです。明日の天気だったり、水のありかや、戦争の予兆なんかも」
「便利なものですね」
「小さいころは、教えられる事が多すぎて混乱しますが、慣れてしまうと精霊はなくては生きてはいけません」
てへへと私ははにかんだ。
実際、耳元で風の精霊が『この人はこわくないよ』と囁きかけていたし、町長の髪の毛にぶら下がって遊んでいる子はとっても楽しそうだった。
「一つ。私からも聞いてみていいですか?」
「どうぞ」
今度は、私から質問を切り出した。
「なぜ、町長は我々難民を保護し、種族間の差別や軋轢をなくすように指示されたのですか?」
「そんなに不思議なことかしら」
「ええ。種族間の差をなくすことは、自ら「益」を放棄するようなものですよ?」
「そうね。確かにイアンナさんの言う通り、種族の差を付けておくことは「益」につながります。ですが、それはいずれ、国の内部に「溝」を生んで「争い」を招くのです。例えば、他国のように種族によって税が決められ、エルフやダークエルフなどは人族よりも税が高く設定されている状態では----不満が起きます。
最初はちいさな不満だとしても、やがて、大きく膨らみ「周り」に伝播し、争い、諍いの種になる。この婆はそう考えての事です」
「それに、もっと根源は簡単でね----みんなが笑いあっている方がこの婆は好きなんですよ」
町長の答えは揺るがず、明確だった。
「益などというものは、皆で協力して作り上げていくもので、一所にまとめて持っていても、益は増えないし、差を生むだけです。そして、国の内部に深い溝があるところこそ、弱いものです。この婆は何度もそういう国や町を見て来ました。もう、そろそろ「皆で笑える国」を作ってもいい頃合いだとは思いませんか?」
この人は、本気なんだと実感する。
本気でこの雪花国に「みんなが笑える国」を作ろうとしている。
「それで、この婆はまだ『考え』があるのです」
町長は自信ありげに、そう答えて見せる。
――――「考え」がある。そう言った町長はその後も話を続けてくれた。
身分の差をなくした次の手。それは『能力のある者を、町の全体から公募する』こと。そして、
『雪花国の公費で運営する一般の学校を作る』というもの。
どこまで、利益を捨てているのかと、最初は驚いたが、町長の考えは、目先の『利益』を優先せずに、種をまくことなのだと言ったのを聞いて私はショックだった。
そして、近々、『能力のあるものを町全体から公募する』計画があることを私に告げて、こうも付け加えた。
「町の医者として、あなたを雇いたいのですが、受けてみる気はありませんか」と。
町長が、最初に視察と言っていたのは、ただの口実だったのだと、その時に知れた。
すべては、このオファーが最終目標にあって、ゆっくり時間をかけて、素性を聞かれ、試されていたのだと知って、呆然となった。
「もう、高額な治療師なんかに頼るのは馬鹿らしいわ。あなたがなるのは、この町みんなの『治療院』。
治療費を安くおさえるためにも、『薬草』を自然から見つけてこれるあなた方の能力はこの国に必要。もちろん、ほかからも、公募するつもりだけれど----どうかしら?」
原材料を見極める目と知識。そして、精霊の協力。それが必要とされていることは嬉しかった。



それから数日が経って――――町長の言っていたことが本当になった。
『能力のある者の一般公募』が行われたのだ。
『一般療養施設』での働き手の募集。定員は約15名で、薬学の経験や、ローデリア、月狼国で薬などの知識がある者、人体の構造に詳しい者など、選別は、町長の屋敷で執り行われた。
次々と町の住人が公募の列に並び、お昼を過ぎるくらいになって、やっと私の番が呼ばれた。
「イアンナ。黒耳長族ダークエルフで、薬草の見極めができます」
屋敷の前に居た臨時でやとわれた門番に礼をしてから、簡単に自己紹介をして、屋敷の中へと入る。
屋敷の中には、すでに席が用意され前には5名ほどの人物が並んでいるのが見えた。
質問が投げかけられて、答える。そんな方式で選別を行ってはいるらしいが、他人の事まで見ている暇はなかった。
「おかけください」
やがて自分の番が来た。
「イアンナ。ダークエルフです。特技は薬草の見極めと各、症状に合わせた取り扱いです」
私は、静かにしっかりと名前を言った。



「ずいぶんと繁盛しているようですね」
治療院に町長が来られた。
カウンターで薬を渡しながら、来ていたお客に飲み合わせと、効果を説明して薬草を受け渡す。
「ありがとうございます」
獣人のおばあさんが、お礼を言いながら代金を払っていってくれた。
町長へ挨拶をするため、少しカウンターを離れる。
治療院内にはお茶を配る給仕の人がいて、患者さん達に待っている間にお茶を受け渡していた。
町長である雪乃様も患者の一人に交じって、お茶を受け取ってゆっくりとすする姿を見て少し心がほんわかする。
私----イアンナ----は一般公募に無事採用され、雪花国で唯一の『治療院』の薬師となった。
主な仕事は、薬草の調達・選別。効能に合わせた使用法の説明と調合だ。
雪乃様の隣に腰掛け、挨拶をする。と、雪乃様は「元気そうね」とほほ笑んでくれた。
「ええ。雪乃様のおかげです」
「この婆は何もしてはいませんよ。それにまだまだ、この治療院は歩き始めたばかりです。気を抜くのではありませんよ?」
「はい」
「良い返事です。仕事に戻りなさい」
雪乃様はそれだけ言うとゆっくりと立って、治療院を出ていかれた。


午後になると、人足が少なくなってきたので家に帰ることにした。
ご飯を食べて帰ろうか一瞬考えたのだが、娘のイリスが学校から帰ってくることを思い出していつもの大通りにある屋台街の一角で蜂蜜のお湯割り(ミード)を頼んで待っていると、イリスがいつもの通りの時間に姿を現すのが見えた。
「おかぁさん!」
子犬みたいに走ってくる娘の後ろから、ゆっくりとした歩幅で歩いてくる何人かの子供の中に凍太クンの姿が見えた。今日は大きな虎はおらず、一人だった。
「凍太くん。こんにちわ」
挨拶を投げかけると、「こんにちは」と首だけでお辞儀を返してくれる。
「学校。どうだった?」
彼は少し考えた後で「退屈だったかな」5歳になりたての子供なのに、そんなことを言っていた。
「おかあさん。今日凍太くんとニポポ山に薬草取りに行ってもいい?」
イリスはそんなことを言ってきた。
「イリス。昨日も行ったでしょう?薬草の在庫はまだあるし、取り過ぎてもいけないものだから、しばらく後にしようね?」
「ぶー」
ぷくーと頬を膨らませる娘を見ながら、ほほえましく思う。
雪乃様がもう一つ行ったのが、学舎の設立だった。『雪花国の公費で運営する一般の学校を作る』それを、治療院を作るのと同時期に進められていて、新しく学舎が建ったのがついこの間だった。
この学舎。ローデリアや月狼国によくみられる貴族達の私塾とは違い、無償で入れる学舎として雪花国の運営のもと、作られたもので、読み書き、算学などを基本にして教えてくれるという触れ込みに、町の住民が歓声を上げて喜んだのは記憶に新しかった。
それまで、教育は親やその親族や、周りが行うものだったのだが、識字率は悪く、難民の多くはしゃべれはしても、文字を書くことは難しく、数の概念などはあまり定着していないのが実際だった。
「いまは子供だけですが、そのうち大人用も考えてはいますよ」
と言っていたのは、学舎の責任者を務める、紗枝さんだった。
「蜂蜜割り(ミード)おいしそう」
イリスが蜂蜜割りを見つけて、ねだってくるので仕方なく、カップを渡す。
蜂蜜割りを両手で持つようにして、小さな口でゆっくりと中身を味わっている姿はとっても可愛らしかった。
「凍太ちゃんもいる?」
イリスが隣にいた凍太クンに蜂蜜割りを差し出したが、凍太クンは決して飲もうとはしなかった。
なんでも、紗枝さんに外食禁止令を出されているらしい。
「わたしのあげる」
「いいよ。イリスちゃん飲みなよ」
子供二人で譲り合いをする姿はほほえましい。
イリスは凍太くんの気を引こうと躍起だったが、凍太くんはさして気にもしていない様子で、娘が差し出すカップをやんわりと断る。
(負けちゃだめよ。イリス)
内心でファイトコールを送るが、
「うん。分かった」
あっさりと、凍太クンに押し切られる形で、イリスのアタックは終わってしまった。
少し悲しそうな顔を見せた後で、一気に持っていた蜂蜜割りを煽る我が娘の姿はどこか悲しげにも見えた。
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