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5.姫君の暴挙に魔女は身を引くも
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なにしろ神野ときたら、料理がまるでできないのだ。
作れる料理とかあるかと聞いた時、「うどんに湯豆腐、そうめんぐらいだな」と答えられ、呆れつつ「白いものをゆでる系ばかりですね」と言えば「そういえば、そうだな」と笑って済まされた。
やる気になればやれるだろうし、朱理と付き合いだしてからは少しずつ自分でも作れるように勉強しているようだ。
曰く、結婚して、家事を手伝えないから嫌いと言われたくないかららしい。
そんな風に未来のことを考えて、努力してくれるところもまた好きで、嬉しい。
だけど今日は、出張前。
(腕を振るって、胃袋を掴んでおかなきゃ)
などと考える自分が、少しくすぐったくもおかしい。
「さあ、勉強、勉強」
リビングに神野を押しやり、台所に入って、持ってきたエプロンをつけて野菜を洗う。
その一方で神野は諦めた様子でノートや資料を開いて、自分のやるべき事に集中している。
なんだか、いいな。と思う。
今日だけでなく、来月も、秋になっても、冬が来て、二人が出会って一年経っても、こんな風に日々をかさねて少しずつ二人の時間を重ねていければ――いつか、きっと。
一瞬、頭の中に白い光が閃いて、真っ白なウエディングドレスを来た自分と、白いタキシード姿の神野が肩を寄せ合うイメージが浮かび、朱理は思わず野菜を取り落としそうになる。
(いけない、いけない)
あわてて気を引き締めるも、左手の薬指に嵌まっている約束の約束であるガラスビーズの指輪は、やっぱり今日もきらめいていて、綺麗で、これから続く幸せの夢みたいに見える。
具材を刻んで、炒めてと忙しく台所で動いていると、不意にスマートフォンの呼び出し音が鳴った。
メロディーで、病院からと気付いた朱理は少しうかない表情をしてしまう。
――呼び出しだろうか。
今日は完全な休日で、オンコールという、電話があれば出勤する待機状態でもない。
なのにかかってくるとは、事故でもあったのだろうか。
あまり怪我人や病人が出てないといいけれど。と心配しつつそろりと肩越しに神野に視線を向ければ、彼は溜息一つおとし電話に出た。
「多鹿か」
今日、当番――というか、休みにも拘わらず、救急と心臓血管外科の掛け持ち出勤をしているという、男性医師の名を呼ぶ声がわずかに固い。
相手の声は聞こえないものの、一拍置いて神野が肩の力を抜いたのを見て、急患ではないらしいと安心する。
入院患者の処置で迷うところが出たのか、容態に変化があったのか。そんなところだろうと検討をつけつつ朱理は調理に戻る。
(医師の仕事に、随分詳しくなってきちゃった……)
神野と付き合って、彼の生活サイクルを知るようになり、自然と自分でも心得た対応をわかりかけていることに気づき、なんだか妻っぽいなと小さく笑った時だった。
「追い返せ」
硬く、すげない声が響いて、朱理はびっくりしてしまう。
「……ああ。かまわない。……大丈夫だ、話はついている。相手にしなくていい」
誰に対しても当たり障りのない神野らしくない、拒絶も顕わな口調にドキリとする。
作れる料理とかあるかと聞いた時、「うどんに湯豆腐、そうめんぐらいだな」と答えられ、呆れつつ「白いものをゆでる系ばかりですね」と言えば「そういえば、そうだな」と笑って済まされた。
やる気になればやれるだろうし、朱理と付き合いだしてからは少しずつ自分でも作れるように勉強しているようだ。
曰く、結婚して、家事を手伝えないから嫌いと言われたくないかららしい。
そんな風に未来のことを考えて、努力してくれるところもまた好きで、嬉しい。
だけど今日は、出張前。
(腕を振るって、胃袋を掴んでおかなきゃ)
などと考える自分が、少しくすぐったくもおかしい。
「さあ、勉強、勉強」
リビングに神野を押しやり、台所に入って、持ってきたエプロンをつけて野菜を洗う。
その一方で神野は諦めた様子でノートや資料を開いて、自分のやるべき事に集中している。
なんだか、いいな。と思う。
今日だけでなく、来月も、秋になっても、冬が来て、二人が出会って一年経っても、こんな風に日々をかさねて少しずつ二人の時間を重ねていければ――いつか、きっと。
一瞬、頭の中に白い光が閃いて、真っ白なウエディングドレスを来た自分と、白いタキシード姿の神野が肩を寄せ合うイメージが浮かび、朱理は思わず野菜を取り落としそうになる。
(いけない、いけない)
あわてて気を引き締めるも、左手の薬指に嵌まっている約束の約束であるガラスビーズの指輪は、やっぱり今日もきらめいていて、綺麗で、これから続く幸せの夢みたいに見える。
具材を刻んで、炒めてと忙しく台所で動いていると、不意にスマートフォンの呼び出し音が鳴った。
メロディーで、病院からと気付いた朱理は少しうかない表情をしてしまう。
――呼び出しだろうか。
今日は完全な休日で、オンコールという、電話があれば出勤する待機状態でもない。
なのにかかってくるとは、事故でもあったのだろうか。
あまり怪我人や病人が出てないといいけれど。と心配しつつそろりと肩越しに神野に視線を向ければ、彼は溜息一つおとし電話に出た。
「多鹿か」
今日、当番――というか、休みにも拘わらず、救急と心臓血管外科の掛け持ち出勤をしているという、男性医師の名を呼ぶ声がわずかに固い。
相手の声は聞こえないものの、一拍置いて神野が肩の力を抜いたのを見て、急患ではないらしいと安心する。
入院患者の処置で迷うところが出たのか、容態に変化があったのか。そんなところだろうと検討をつけつつ朱理は調理に戻る。
(医師の仕事に、随分詳しくなってきちゃった……)
神野と付き合って、彼の生活サイクルを知るようになり、自然と自分でも心得た対応をわかりかけていることに気づき、なんだか妻っぽいなと小さく笑った時だった。
「追い返せ」
硬く、すげない声が響いて、朱理はびっくりしてしまう。
「……ああ。かまわない。……大丈夫だ、話はついている。相手にしなくていい」
誰に対しても当たり障りのない神野らしくない、拒絶も顕わな口調にドキリとする。
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