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5.姫君の暴挙に魔女は身を引くも
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八月末でも、日付が変わる時間になれば気温はぐっと下がり、秋めいていく。
海側の都市圏に比較して山が多いこの土地は、季節の変化に素直だ。
涼やかな風鈴の音色をぼんやりと聞き流しながら、朱理は夕ごはんも食べずベッドの上で膝を抱えていた。
(きれいで、大人の女性だったな……。彬さんにお似合いの)
膝に顔を埋め、夕方に駐車場で会った美人――高宮姫子を思い出す。
神野の婚約者と名乗った彼女は、うろたえる朱理を強引に助手席へ乗せ、山間にあるロッジ風カフェへ車を走らせた。
その間、会話は一切ない。
平日の夕ごはん時ということもあり、そのカフェは人が少なく、眼下に流れる渓流を見つめるうちに勝手にアイスコーヒーが運ばれてきた。
姫子は、きれいにネイルされた爪でストローを摘まみながら、一方的に語りだした。
いわく、神野とはお互いに結婚する気があったが、とある事故により彼が姫子をかばって手を怪我し、それが原因で親などが騒ぎ二人の仲がこじれたこと。
だが、事故から一年経過し、事故の騒ぎも周囲の目も落ち着いてきたので、姫子としては復縁したいこと。
なのに神野から連絡が途絶え、彼が勤務する塚森病院を訪れてみれば、朱理と車に乗るのが目撃され、浮気に確信を持ったこと。
「ちゃんと別れた訳でもないのよ。親から連絡するなと釘を刺されたし、彼も自分のせいだと責任を重く捕らえすぎているようだったし。でも……私の気持ちは変わらないの」
まだ続いている。だから間にはいっている朱理こそ邪魔な悪者なのだと言いたげな口調に心臓が痛む。
「浮気については、一時の迷いというか、私とのことを諦めようと考えてのことでしょうけど。……だけど、もう障害がないのだから、いつまでもその場限りの女にしゃしゃり出られても困るのよ」
断罪するようにきつい口調で言われ、朱理は固唾を呑んでいた。
ただし気に触る部分もあった。
(騒ぎが落ち着いたから復縁したいなんて、身勝手だ)
本当に結婚するのなら、なんでも分かち合う決意が必要ではないか。
それに、姫子から見れば浮気かもしれないが、神野はどう思っているのかわからない。
仕事でも、プライベートでも真摯であろうという性格の彼が、婚約者の存在を隠して朱理と付き合うだろうか。
「それは、貴女の意見……ですよね」
勇気を振り絞り、反論としていぶかしんでいることを告げると、まなじりを吊り上げた姫子が本格的に攻撃を開始しだす。
「婚約がなかったことになっている以上、憂さ晴らしに手頃な遊び相手ぐらい作るでしょう」
「神野先生は、そんないいかげんな人ではありません」
いい加減な気持ちで口説いていない。と言った彼の言葉に縋り告げれば、姫子は馬鹿にしたように鼻で笑った。
「口ではなんとでも言えるわよ。……信じ過ぎるのも善し悪しじゃないかしら。彼、ああみえて策士よ。……それに貴女、簡単に言いくるめられてヤリ捨てされそうな顔しているものね」
カラカラと氷をならしアイスコーヒーを混ぜるだけで、一向に口を付けない姫子から言われ、嫌な気持ちが沸き起こった。
「勝手なことを言わないでください。少なくとも、自分は本気です」
そう伝えた途端に笑われ、ほらね。と人さし指を向けられた。
「子どもの恋愛ね。好きだ、惚れたの言葉だけで簡単に有頂天になって、男のいいなりになっている」
恋愛経験の少なさを見抜きあざけられ、朱理は思わず押し黙る。
「大体、貴女になにができるの? 彬に」
そう言われて答えられるはずがない。
海側の都市圏に比較して山が多いこの土地は、季節の変化に素直だ。
涼やかな風鈴の音色をぼんやりと聞き流しながら、朱理は夕ごはんも食べずベッドの上で膝を抱えていた。
(きれいで、大人の女性だったな……。彬さんにお似合いの)
膝に顔を埋め、夕方に駐車場で会った美人――高宮姫子を思い出す。
神野の婚約者と名乗った彼女は、うろたえる朱理を強引に助手席へ乗せ、山間にあるロッジ風カフェへ車を走らせた。
その間、会話は一切ない。
平日の夕ごはん時ということもあり、そのカフェは人が少なく、眼下に流れる渓流を見つめるうちに勝手にアイスコーヒーが運ばれてきた。
姫子は、きれいにネイルされた爪でストローを摘まみながら、一方的に語りだした。
いわく、神野とはお互いに結婚する気があったが、とある事故により彼が姫子をかばって手を怪我し、それが原因で親などが騒ぎ二人の仲がこじれたこと。
だが、事故から一年経過し、事故の騒ぎも周囲の目も落ち着いてきたので、姫子としては復縁したいこと。
なのに神野から連絡が途絶え、彼が勤務する塚森病院を訪れてみれば、朱理と車に乗るのが目撃され、浮気に確信を持ったこと。
「ちゃんと別れた訳でもないのよ。親から連絡するなと釘を刺されたし、彼も自分のせいだと責任を重く捕らえすぎているようだったし。でも……私の気持ちは変わらないの」
まだ続いている。だから間にはいっている朱理こそ邪魔な悪者なのだと言いたげな口調に心臓が痛む。
「浮気については、一時の迷いというか、私とのことを諦めようと考えてのことでしょうけど。……だけど、もう障害がないのだから、いつまでもその場限りの女にしゃしゃり出られても困るのよ」
断罪するようにきつい口調で言われ、朱理は固唾を呑んでいた。
ただし気に触る部分もあった。
(騒ぎが落ち着いたから復縁したいなんて、身勝手だ)
本当に結婚するのなら、なんでも分かち合う決意が必要ではないか。
それに、姫子から見れば浮気かもしれないが、神野はどう思っているのかわからない。
仕事でも、プライベートでも真摯であろうという性格の彼が、婚約者の存在を隠して朱理と付き合うだろうか。
「それは、貴女の意見……ですよね」
勇気を振り絞り、反論としていぶかしんでいることを告げると、まなじりを吊り上げた姫子が本格的に攻撃を開始しだす。
「婚約がなかったことになっている以上、憂さ晴らしに手頃な遊び相手ぐらい作るでしょう」
「神野先生は、そんないいかげんな人ではありません」
いい加減な気持ちで口説いていない。と言った彼の言葉に縋り告げれば、姫子は馬鹿にしたように鼻で笑った。
「口ではなんとでも言えるわよ。……信じ過ぎるのも善し悪しじゃないかしら。彼、ああみえて策士よ。……それに貴女、簡単に言いくるめられてヤリ捨てされそうな顔しているものね」
カラカラと氷をならしアイスコーヒーを混ぜるだけで、一向に口を付けない姫子から言われ、嫌な気持ちが沸き起こった。
「勝手なことを言わないでください。少なくとも、自分は本気です」
そう伝えた途端に笑われ、ほらね。と人さし指を向けられた。
「子どもの恋愛ね。好きだ、惚れたの言葉だけで簡単に有頂天になって、男のいいなりになっている」
恋愛経験の少なさを見抜きあざけられ、朱理は思わず押し黙る。
「大体、貴女になにができるの? 彬に」
そう言われて答えられるはずがない。
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