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貮
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しおりを挟む「じゃあいいよ、呼んでやんよ! ――――あ、あ、飛鳥!」
「よし、じゃあ君は今日からチャゲって呼んでいい?」
「断る!」
『あんたら仲良しね』
例の西王母ストラップが、飛鳥の制服の胸ポケットからぶら下がりながら言った。
……因みに、子猫の兄弟は家に置いてきた。
「保食達、君のお母さんとも会話するのかい? っていうかするよな」
「うん。 母さん、アイツら見て直ぐに解ったとさ。 化け猫だって」
「…………まあ、厳密には化け猫とはちょっと違うんだけどね」
じゃあ何なのさ。 訊いても彼女は答えはしなかった。
しばらく歩いて辿り着いた森家の邸宅は、羨ましさで失禁しそうなほどに大きかった。 玄関のドアが開いていて、颯斗さんと、もう一人女性が立っている。
「こんにちは」
「…………」
僕らが近付くと、颯斗さんは爽やかに挨拶してきたが、女性の方は無言で会釈しただけだった。 近くで見るとかなりの美人だが、色の濃い影が差している。 悲しそうな顔に見える。 ――――もしかして幽霊か? 普段からハッキリ見えてると、たまに混乱する。
「この人は森花子です。 分家の人間です」
「………どうも」
声まで死人の如しだった。 花子さんは小柄で、飛鳥よりも背が低い。 意外と背の高い颯斗さんと並んでいると、余計小さく見える。 全体の顔の造りはかなり整っているが、特に目に生気が無い。 外国人のように彫りが深いためか、暗さが際立つ。 左目の下に泣き黒子がある。
「どうぞ入って下さい」
颯斗さんは相変わらず眩しい笑顔で、俺達を招き入れた。 内装もゲロ吐きそうなくらい豪華だが、描写していくとあまりの格差に涙が出てきそうなので省かせて下さい。
食堂に皆が集まっていた。
颯斗さんと花子さんに続いて中に入った俺達を、そこに居た全員が注目する。 特に飛鳥に。
「…………」
その視線を「文句あるんですか?」とでも言うかの如く、飛鳥は無い胸を張って受け止めた。 見た目が可愛いのに、雰囲気が浮世離れしているから、目立つのだ。
「皆さん、この子が羽生飛鳥さんです」
と、颯斗さんが紹介する。 飛鳥が俺を指差し、
「こっちは大国孝次郎。 下僕です」
「えっ!? 俺って下僕だったの?」
「間違えた、奴隷でした」
「余計悪いよそれ」
酷い紹介をするので口答えをしたら、変なショートコントを繰り広げてしまった。
「こちらは森 晴敏、花子はもう紹介しましたね。 この二人は分家の人間です。 あとは全員使用人です」
晴敏さんは20代後半から30半ばくらいの年頃の男性で、爽やかなイケメンの颯斗さんとは逆に、実直そうではあるが厳つい印象のある、近寄りがたい感じがする人だった。
花子さんは、さっきも描写したから省く。
使用人は全員で15人。 男が四人に女十一人。 そのうちパツキンの外国人女性二人。
飛鳥は「はいはいわかりました」と適当に応えると、そのパツキンの片割れを指差して
「まあ、とりあえずお茶を頂きたい。 そこのブロンドのブスな方、アンタは紅茶を淹れるのが上手なようなので、淹れてきて」
ブスとか言うな。 ブスっていうより普通だし、単に相方のほうがモデル並に美人だから、比べたらかなり劣って見えるだけの問題であって、可愛い方ではあるから。
いや、そもそも人ん家でそんな横柄な態度を取るもんじゃありません。
パツキンのブスな方………じゃなくて、普通な方が淹れた紅茶は、確かに美味しかった。 食堂のデカイテーブル(映画で片方に一人、もう片方に一人座って会話するけど、距離がありすぎて声が聞こえない、っていうネタに使われそうな位、横の幅が広い)の片隅に俺、飛鳥、颯斗さん、晴敏さんの四人で向かい合って座り、しばらくその紅茶を啜った。
本当に美味しい。 あまり紅茶は飲まないが、これは美味しいものだと解る。
「よく解りましたね。 彼女はイギリスの生まれで、美味しい紅茶の淹れかたを知ってるのです」
晴敏さんが、見た目とは裏腹な謙虚そうな態度で言う。
「ええ、彼女はお祖母さんから教わったんですよ。 良家の出身です」
「………正解です」
飛鳥の言葉に、晴敏さんが颯斗さんを見た。 なんで知ってんの? 話したの? いや、メイドの身の上なんて話すわけないじゃん。 ――――多分そんな意味の目配せ。
「種明かししておきますが、彼女の後ろからそのお祖母さんが『この子の紅茶、飲んでみて! 美味しいから!』って英語で仰ってたので」
「…………」
冗談抜きの真顔で言う飛鳥を見て、晴敏さんは一瞬目を細めた。 そして俺に視線を移し、この子大丈夫?と目で訴えてくる。
「すいません、俺も見えてました」
ただ、英語解らなかったけど。 上品そうなおばあちゃんが、何か言いながら孫娘をしきりに指差していたのは見えていた。
「幽霊なんて、居るわけないだろ」
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