examination

伏織綾美

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「あれが蘭丸だとして、何でミキちゃんを追いかけ回したわけ?このオッサンも何なのか気になるし」


蘭丸がロリコンだったんなら問題解決だが、そんなわけなかろう。


「オッサンがもし森家の関係者なら、また家に行ってこっそりアルバムとか探して、写ってる写真探してみればいい」


どうせそれも俺にやらせるんだろ?

飛鳥は、墓を囲む石の柵に腰掛けた。足を組み、陰鬱な雰囲気でブツブツ呟き続けるオッサンを横目で睨み付けた。


「気色悪いオッサンだな。殺したい」

「もう死んでるよ」

「…………」

「無視とか止めてくれません?」


そのまま、飛鳥は何も言わなくなった。オッサンを見詰め墓石を見詰め、周りを見回しては考え込む素振りで口元を右手で隠す。

森蘭丸(仮)はどこに行ったのだろう、このオッサンと彼との関係はあるのだろうか。何より、どうして彼はミキちゃんを追いかけたりしたのだろうか。


俺も必死に考えるが、まあご想像の通り、何にも解らないんです。五秒後には、明日の弁当の中身の事で頭がいっぱいになりましたわ、はっはっは。


と、ふと時間が気になって腕時計を見る。「っどぁぁ!?」22時。こんなに長く居ただろうか。


「飛鳥、今日はとりあえず帰ろうぜ」

「嫌だ。もう少し考えさせろ」

「もう10時だって!」

「お前だけ帰れ」

「プリン買ってやるから」

「…………解った」


ありがとうプリン。美味しいお菓子でいてくれて、本当にありがとう。おかげでうちの飛鳥が言うこと聞いてくれます。

渋々立ち上がった飛鳥を連れて、墓地から出ようと歩き出す。



「ふぉっ!?」


しかし、突如自分のパーカーのポケットから電子音が鳴り、びびって足を止めてしまう。鳴り出した携帯を取り出し、画面を見ると電話が掛かってきている。見たことのない番号だ。


「いたずら電話かな……」

「貸しな、いたずら電話ならお前より私が出た方が勝てる」


いや、勝ち負けの問題ではないし。
まあ確かにビビリな俺が出るよりはマシかと思い、言う通りに携帯を渡す。


「もしもし、誰だこんな夜中にこの番号が警察庁長官の携帯だと解った上での狼藉か」

「そういうとんでもない嘘吐かないでよ!」


駄目だ、余計ビビったわ。


「ん?――ああ、あなたでしたか。あなたが何と言おうと私は先日の議論に対する意見は変わりませんよ?
 たい焼きの中身はつぶ餡が正義なんです。あなたは頭がおかしい」


何の話だよ。
それから、飛鳥は冷たい口調でつぶ餡について語り出したが、意味が解らないので割愛する。3分ぐらい電話の相手につぶ餡の話をしていたが、ふと思い出したかのように「ところで、何の用です?」と訊いた。最初に訊くべきことなんですがね。


「ふむ。………ほう、そいつは大変ですなあ。ええ、今は外に居りまして、今から帰宅する所ですが。…………解りました。明日伺います」


そして電話を切った飛鳥に、「誰なの」と質問。「晴俊さん」あの気難しそうな晴俊さんと、たい焼きの中身を議論するような仲になっていたのかお前は。俺ばっかり仲間外れだな。悲しい。悲しいぞ。


「颯斗さんが発作を起こして、救急車で運ばれたそうだ。しばらく入院だとさ」

「ほう!それはマジでヤバイな!?」

「この墓に近々入ることになるわけだな」

「いや、出来るだけ頑張って、原因突き止めようよ」


不謹慎甚だしい飛鳥から、電話を取り返した。そんな俺を感心したように見て、


「お前いい奴だな。だから私のパシりなんだよな」


心を抉られる言葉を吐く飛鳥。

まあ飛鳥が携帯を持ち歩いていることは知ってるが、同時に常にドライブモードであることも知っている。晴俊さんも、それを解ってて仕方なく俺に掛けてきたのだろう。だってあの人、俺のこと「中二病」て呼んでるんだ。俺は知っている。っていうか飛鳥がニヤニヤしながら教えてくれた。


颯斗さんが倒れたのは、とても心配だ。祟りだの何だのと、今までは半分おふざけで調べていたが、それらによる「被害」を見たことがなかったからだ。
今、こうして颯斗さんの苦しみをリアルタイムで知ることになった。やっと自覚した。これは現実なのだと。


「しかし、不思議だな。あまり病気の兆候は見られなかったのに」

「運動不足ではあっただろうけど」

「だな。本人の言ってた化学物質過敏症も、どうやら違うみたいだし」

「そうなの?」

「化学物質だらけの私の制服に触れても、全く変化は見られなかったし」

「え、颯斗さんがお前に触ったの」

「ちげーよ。ちょっと制服の裾で首をこちょこちょしたんだよ」


子供の悪戯じゃねぇか。


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