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三章
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………………………
20××年 10月7日 金曜日
�D�D駅に程近いこの公園は夜中でも比較的明るくて、交番も近所にあるためか不審者も現れない。
何より、トイレが一般的な公園のそれと比べるとかなり綺麗だ。 毎日昼に清掃されているため、臭いも少ない。
時たま家出少女の類が一時の塒(ねぐら)として使用することもあるが、今日は誰も居ないらしい。
「よし、ちゃんとお尻拭いてくるんだよ」
「うん!」
近所に住む主婦の彼女は、今年で四歳になる我が娘が、外出中急にもよおしたと言うので、この公園に連れて来た。
よく遊びに来ている所なので、娘も勝手が解っている。 最近やっと一人でトイレに行けるようになったとはいえまだ三歳、自分が使い慣れた場所のトイレしか使えないのだ。
「ここにいてね! ちゃんといてね!」
「大丈夫だよ。 ちゃんといるから」
念を押すように繰り返す娘。 彼女は入り口付近にあるベンチに座り、ニッコリと笑って見せた。 それで安心したのか、娘はやっとトイレの中に入って行った。
「――――ふう」
くたびれた。
娘が幼稚園から帰ってきてすぐに、二人で発表会の日に着るための服を見に行ったのだ。 ピンク、白、黒など、様々な色合いの様々なデザインの、可愛らしくてそれでいて値が張る代物ばかりを見てきたので、彼女は心身共に疲労を覚えていた。
今月の家計が苦しい。
夫の給料は雀の涙に等しい額だし、彼女の両親からの仕送りと合わせてもギリギリなのだ。 だからといって夫の両親に相談するのは気が引ける。 ただでさえあまり良く思われていないのに。 ある日電話してきて「お金が欲しい」とはどういう料簡だと言われかねない。
自分の孫の事でも、だ。 クソババアにクソジジイ。
そんな母親を思ってか娘は彼女に気を遣って、「これがいい」と、一番安っぽくて可愛くもない服を選んだ。 まだ四歳にもならないうちから、そんな気遣いを覚えていた事実に衝撃を受けて泣きそうになった。
去年はまだ三歳だったし、幼稚園で用意した衣装を着せられてハイハイしただけだったからまだいい。
三歳児なんだからもっとまともなことができるだろうに、とは思ったが。
今年からは各自持参だ。 普段から贅沢させてやれないし、発表会くらいはいい思いをさせてやりたい。
「――――はあ」
何度目かの気苦労の溜め息に被さるように、金切り声が響いた。
顔を上げてトイレの方を見る。 どうしたのと声を掛けようとするが、それよりも早く二回目の金切り声。
彼女は娘の身に危険が及んだと考えた。 急いでトイレに駆け込み、娘を探す。
「どうしたの?」
娘はすぐに見付かった。 トイレの個室を前に立ちすくんでいる。
「ああ………もう」
その足元に尿(いばり)が池を作っており、彼女が手作りした娘の服は下半身がびしょ濡れになっていた。
なんとも恐ろしげな叫び声だったので肝が冷えたが、蓋を開けて見れば大事では無かった。 まずはそのことに安堵した。 粗相(そそう)をしてしまった事に驚いたのだろう、小さな子供はよく癇癪(かんしゃく)を起こすから。
「大丈夫だから。 家に帰って着替えよう」
個室を見つめたままの娘に言いながら、近寄って手を取ろうとした。
そして、「それ」が視界の端に入ってきたのだ。
入口に立って居た時には全く感じなかった、異臭。 ツンと鼻をつく臭いと、焦げ臭さ。 明らかに誰かの排泄物の放つ臭いではない。
何かを凝視して固まっている娘が、この近さに来て震えていることに気付いた。 もしかしたら、自分も震えているのかも知れない。
彼女は深呼吸をして、ゆっくりと顔を個室の方に向けた。
「…………っ! あ――――……っぐ……」
「それ」が何か認識すると、次に込み上げてきたものは吐き気だった。
その場にしゃがみこんで、タイルの床に両手をつく。 娘の尿で手が汚れる。 胃液が食道を一気に駆け上り、口から溢れ出した。
母のその姿を見て我に返ったのか、娘が「ママ、大丈夫?」と背中を擦ってくれた。 その優しさに喜ぶ心の余裕は無い。
「………い、……行こう…………!」
汚れた手で娘を抱えると、彼女は出来る限りの力で走って帰宅の途についた。 帰宅してすぐ、警察に通報したのだった。
『女の焼死体が、トイレの個室に転がっている』と。
………………………
………………
………
20××年10月7日金曜日に�D�D駅に近い公園のトイレにあった死体は、私のクラスの生徒だった。
しかも私の前の席に座ってた生徒で、どうやら焼け死んだらしい。
流れている噂なので真偽の程は定かではないが、彼女はどうやら頭に黒いビニール袋を被せられ、両手足を縛られた状態で頭に火を点けられたらしい。
そして、これも噂なのだが、たしかその生徒は綺麗なネイルを付けていた。
その見事な装飾のネイルも、10本の指先から自爪ごと全て剥がされていたそうだ。
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