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彼の幸せな朝食
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彼女が料理を作っている。
なんて幸せな夢だろう…
思わずそう思ってしまった。
しかしやっぱりこれも夢ではないみたいだ。
彼女は料理を作り終わると料理を机に運ぶ。
私の腕でを掴むと椅子に登って、手錠を天井にある鎖に引っ掛けた。
?
私の両腕と両手が頭の上で拘束される。
彼女が何をしたいのかまだイマイチよくわからない。
彼女は一口大にしてある料理を私の口まで運んでくる。
食べろ……、俗に言う「あーん」というやつでは……
私は目をさ迷わせて戸惑い気味に口を開ける。
彼女はそっと私の口に料理を運ぶ。
なんていうか、私は……幸せだなぁ……
一口一口、彼女が私口に運んでくれる。
時々頭上でする鎖の音が異様な背徳感を感じさせる。
身体が時々ピクッ反応する。
ただ私は普段少食なので、途中でお腹いっぱいになってしまった。
ただし……
残してしまっていいものだろうか?
折角作ってくれた料理を残す事に引け目を感じ、無理やり飲み込むが、そろそろ気持ち悪い。
彼女はそれを察したのか食べ物を私の口ではなく彼女自身の口に運ぶ。
そういえば、彼女はまだ朝食をとっていなかったっけ……
彼女は何を思ったのか、私の方に顔を近づけると、私の髪をすいてからそっと頭を自分の顔の方に引き寄せて、私の目をじっと見つめた。
人形の様に美しい彼女の顔と、少しカールのかかった長くてしっかりとした黒髪、そして吸い込まれる様な黒い瞳に私は思わず息を飲む。
彼女は躊躇いがちに私の唇に自分の唇を近づけると、キスをし、私の口の中に自分の口の中にあった物を流し込んだ。
「あっ…………ん……」
彼女は私が食べ物を飲み込んだ事を確認すると、私の口から舌を抜き、微笑み、軽く力を入れて私の髪を梳き、頭をなでながら言った。
「よく出来ました」
彼女の顔はまるで人形の様に美しいが、彼女の瞳はまるで何ものも恐れていないかの様に力強い。
そんなところも好きです……
そう言おうと思って控えめに開けた口に、さっと轡をされてしまう。
彼女は片手で私の頰をなぞり、指を髪の中に入れてから言った。
「帰ってくるまで大人しく待っててね」
そこから首の下まで手を滑らせ、私の顎をクイッと持ち上げると、上から押し当てる様に2・3秒キスをする。
私は、暫く何が起こっているのかよくわからず惚けてしまった。
彼女は、私の事好きなんだろうか……
そう思った瞬間火がついた花火の様に、ボンッと顔が赤くなった。
余りに色々な展開が早かった為、脳の処理が追いついていない。
そうして私が混乱している間に彼女は食事をし、食器を片ずけ、別室で着替え終える。
いつの間にか仕事に行く支度をした彼女は、私の手錠に手をかけ天井の鎖から外す。
私の腕をじっと見る。
女物の白い着物の裾から腕の打撲の跡が見える。
手錠をしていたところが擦れたのか、赤く跡になっている。
彼女が手錠を外す。
え……?
鍵と手錠をコートのポケットに入れる。
前から私の頭の後ろに手を回して轡を外す。
彼女の腕が私の髪に当たってこそばゆい。
彼女が玄関まで歩いて行く。
「あの……」
「食事は冷蔵庫、トイレの位置はわかるよね」
「は、はい」
「じゃあ、行ってきます」
彼女はそう言って手を振る。
「行ってらっしゃい……」
パタン……
扉が閉じる。
そこには、ただなんとも言えない虚無感だけがそこに残った。
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