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二章

2-2 舞台裏アイソレーション

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 途端、視界が闇に包まれた。不思議な浮遊感とともに。奴さんの放った鉛玉も、俺が行使した術式による刃物の群れも、全てが消失していた。あるのは俺となっちゃんとウルティオのみ。他には何も無い。周囲は全くの虚無。暗闇だった。これは恐らく、虚ろの堂から他の空間へ移るまでに出来てしまう本来存在しない一時的空間だろう。
「な、どういうことだ!? 何が起きた? どうなっている?!」
「あはっ、このこテンパってるんですけど、ウケる!」
 ウルティオはどたばた暴れ、なっちゃんはそれを指差してケラケラ笑っている。
 どっちの気持ちもわからんでもないが、もう少し自重して欲しい。
「貴様! 私に何をした! 今は試合の途中であろうが! またお得意のペテンか!」
「純粋にうちの魔術とか不過業とか絶理だとは思わないわけー?」
「貴様はイタチの最後っ屁を放って戦闘不能なはずだ。それはありえん」
 ひどい表現だが実際そうだから困る。何が困るって図星を差されたなっちゃんが本気で抗議しだすのが目に見えているのが滅茶苦茶困る。
「はー? 死んだふりだしー? 別にうちやられてないんですけど! あんまチョヅいてっとシメんぞ? ああん?」
 ほらな?
「負け犬の遠吠えか? 惨めなものだな」
「むーー、あんたホントムカつくーー!! バーカバーカ、AKB(アホ消えろバカ)!」
「ふっ、敗者の必死な抗議ほど、滑稽なものもない」
「なにおーーー! アンタほんと超MM! 大体アンタの絶理のカラクリうちらにばれてる時点でアンタの負けみたいなとこあるでしょ! アンタの一見無敵に思えるアレって胴体と頭限定で、実は手足はクソ雑魚―。なぜか二回目の攻撃を避けようとした辺り、今思えば正にそれを表してたよねー、ウケる」
「タネがバレても勝ってしまうのが私だ。残念だったな、若作り」
「はーーーーーーーーーーーーーーーーあああああ??? 誰が若作りだゴラアア!!」
 明らかに年下なウルティオにおばさん呼ばわりされたと思ったなっちゃんは声を荒げ、メンチを切り始めた
「あー、ほらほら喧嘩すんな」
 さすがになっちゃんがあったまりすぎているのでそう言いながら仲裁に入ったのだが、どつかれた挙句こんなことを言われてしまった。
「「うるさい!!」」
 えぇ……。仲良しかよ。
「まあ、そうカッカしなさんなって。なんで突然虚ろの堂から強制離脱させられたのかイマイチわかんねえが、えーとなんだ、最後のあれが多分同時に当たったとかなんじゃねえか。そのせいで引き分けと見なされて、俺達は同時に虚ろの堂から離脱しているみたいな」
「何を言うか、白痴! 私は貴様の術式に未だあたってはいなかった。故にあれで終わったのだというのならば、貴様の負けでなくては辻褄が合わぬ」
「出たー、自分の主観だけでモノ語る奴―! そんなのあんたがあまりのヤバイ痛みに失神したとかでいくらでも辻褄合わせられるんですけどー。現実見よーな??」
「私がその程度の痛みに屈する筈がなかろう。貴様……、撤回しろ!」
「じゃー試してみるー?」
「望むところだ、決着がこれでは消化不良。来い、愚物!」
「お前ら試合は終わったんだから、ほんと仲良くしろよ……」
「終わってなどいない!」「陰キャはだまっててくんない?」
 ほぼ同時に飛んでくる二つの罵倒。
 もう少し年上への敬意とかはないんですかね……。いや、まあいいけども。逆に突然敬われても気持ち悪いし。
 なんて心の中で独りごちる間にも、二人は仲がいいんだか悪いんだかよくわからないやかましいやりとりをし続けていたので、俺は思わず愚痴をこぼす。
「ていうかいつまでこの空間にいなきゃいけねえんだ? いつもだったらもう離脱できてる頃なんだが……。もうやだ。子守は疲れた」
 すると、突然ポケットに入れておいた仕事用の通信用概符から連絡がきた。
 送り主は勿論、ビジネスパートナーのクレア様だ。
(――裁駕クン、聞こえてる? 裁駕クン!)
 なぜかクレアの声は焦り気味だった。珍しい、どうかしたのだろうか?
「わかってはいたが……、なんだお前か。つーかなんでわざわざ通信用概符でなんか連絡よこすんだ? 早くここから出たいんだが」
(ごめんなさい。ちょっと今それどれどころではないの。緊急事態よ。だから公共の通信が使用できなかった。貴方達の試合が強制終了したのもそのせい。とにかく今から貴方達を至急で離脱・転送するから臨戦態勢で待っておいて!)
 彼女の言い分からするに、あの試合の決着がつく直前になにか重大な問題が発生したらしく、そのせいで俺達は虚ろの堂を緊急離脱させられたようだ。
 だが臨戦態勢でとはおだやかじゃねえな。一体何が?
「はあ? どういうことだ、おい。なんかあったのか?」
(ええ、今話してる私も正直理解が追いついてこないレベルの事件がね。詳細は追って説明するけれど、今から飛ぶ先に壮絶な光景と戦闘があるということを覚悟しておいて)
 彼女が覚悟しろと言うということは相当なのだろう。なぜって、これまでなかなかエグい経験を彼女と共にしてきたが、こいつがそんな前置きをしてきたことはなかったからだ。
 それに彼女がこんなにもどかしい説明をするのも初めてだ。
 いやな予感がする……。ここんとこ最低な一週間なんだ、これ以上は勘弁してくれよ?
「あー、なんでそんなまどろっこしい言い方をする。いいから何が起こっているのかだけを早く教てくれ」
 俺がそう言うと、彼女はやや苛立ったような声で、衝撃の事実を口にするのだった。
(うるさいわね、私も困惑してるのよ! いいわ、簡潔に教えてあげる。五月十四日今日十四時三十二分、天神町全域で正体不明のテロリストと思われる集団、約五千が一斉に蜂起、既に多数の死傷者が発生中、被害は今も広がり続けているわ! 以上!)
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