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イントロ JKとセンセー

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【あの日の少年が今や老人
一度も交わらず生き様で交信
こうして口唇で押韻し行進
後進の価値観もとうに更新
歌ってやる人生変える音楽
俺はどんな苦痛も超え尖る
頭角現した後もしないトーンダウン
この曲でみんな上げる口角
  
──イドラアニマ/spectacle days】


   たった一冊の本が、誰かの人生を変えることがある。
 それと同じくして、たった一つの映画が、音楽が、絵画が、小説が……、多くの人々の人生を、きっと変えてきた。
 だからそれと全く同じように、たった一つのバースが、フロウが、ライムが――誰かの人生を変えることだってあるのかもしれない。もしかしたら、ただの一つの単語でさえ。
 俺にも経験はある。痛いほどにある。泣きたいくらいに。

 けれど、だからといって。
 ――こんなことになるなんて誰が予想できた?


「小鳥遊、逃げないで。教えて」
 横から、クールな割にやたらとよく通る声がする。
「早くあたしを弟子にして」
 俺はさっきからそれを聞こえないフリで、スタスタと廊下を歩いていた。
 それでも声は止まない。
「生徒が話しかけてる。なのに教師がそれを無視。なにそれ完全にキチ」
 そう、その言葉通り、俺に話しかけてる彼女は生徒。そして俺はその担任だった。
 なので、さすがに周囲の目もあり、ただ無視し続けるわけにもいかず、
「教師をキチガイ呼ばわりする不良に応じる義理はない」
 そう返答。
すると、なぜかカノジョみたいに俺の隣を迷惑極まりない至近距離で延々歩く不良少女は、「どの口が言うんだ?」みたいなことを口にした。
「そういう不良高校生をよく更生させるのがあんたのこの今世のお仕事。You know?」
 対教師にも関わらず毅然とした目付きに、挑戦的な口調。更に言えば、肩上くらいに伸ばされたアシメの黒髪にはインナーで青が入っているし、耳にはピアス。あと、まあここまで言えばもはや言うまでもないかもしれんが、制服は超着崩されている。
 完全な不良。しかしムカつくのが、背伸びしたい高校生にありがちな身の丈に合ってない感じではなく――元々の素材がいいってのもあるんだろうが――それらの奇抜さをコイツはきちんと自分流に落とし込んでいることだ。
 だからなんだ、端的に言っちゃうと、イルな美少女。無口そうな感じのクールな顔付きが最高。邪道ではあるが、ぶっちゃけクラスで一番かわいい。まあ、一番怖いのもこの子なのでアレだが。
 そして、そんな美人女子生徒に、俺はここのところずっと付きまとわれているのである。
 が、どんなに顔が良かろうが、付き合えるわけでもなし。正直勘弁して欲しい。
 むしろそういう顔のいいやつとあまり絡みすぎると、他の生徒から変な噂流されたり、えこ贔屓だのなんだの言われてだるいし。だいたい、俺はロリコンではない。
 てなわで、とりま生徒には塩対応が安牌。
「わかってんなら自省しろ。それとなんだユノウって。日常生活でそんな言葉使うな」
 しかし、彼女はまるでめげてくれない。
「自省なんかできない。なぜならアタシ、私生活ダメダメな不良。なんならそう、姿勢も猫背だし品性もノー。まるであなたみたい非正規の雇用」
「誰が非正規雇用だ。韻踏む為だけに虚構を織りまぜんな」
「え、そうなの? それはほんとに勘違い。ごめん」
 俺の指摘に、彼女は急にしおらしくなって謝った。根はいいやつなのかもしれない。
 しかし、だからこそその言葉は刺さった。
「本気で思われてた方が冗談で言われるより傷つくんだが……」
「? よくわかんない。……けど、じゃああたしの勝ちってことで。」
 にこっと笑う、不良少女。
「何言ってんのお前?」
「だから――あたしを弟子にして、小鳥遊。……で、さ、日本一になるの」
 彼女はそう言って、びしっと俺を指差した。クールな顔して電波かよ。
「あー、色々意味わかんねえけど、取り敢えず教師のことを呼び捨てにするのいいかげんやめような? あと、人を指差すのはあんまよくないぞ」
「ふむ……。小鳥遊……、ますたー。小鳥遊マスター。……これでいい?」
「なんだそりゃ……。それならまだ呼び捨ての方がマシだ……」
「???」
 彼女は不思議そうな顔で俺を見つめる。なんだよコイツ、マジで天然か?
「……めんどくせえ」
 思わず声が漏れる。
 すると、その声をかき消す様にキンコンカンとチャイムが鳴った。
 まったく、せっかくの昼休みをどうしてこんなことに消費させられてんだ俺は?
「はあ……」
 大きなため息をつきながら、きょとんとしたお目目でこっちを見ている不良ちゃんを睨みつける。
 しかし彼女はどこ吹く風で。
「マスターじゃなくて、メンターとかがよかったの?」
 とか、頓珍漢なことをのたまう。
「……」
 呆れて言葉も出ない。てか、コイツなんでチャイム鳴ってんのにまだ普通に俺の横にいんだよ。はよ教室戻れや。授業に遅れてやってきていいのは教師だけだろが。
「うーん、なら、ティーチャー?」
「……それを和訳しろ。つうか、チャイム鳴ってんぞ不良少女」
「鳴ってるね。キンコンカンって。あ、チャイムって日本語で言うとなんなんだろ」
「……『振鈴』だ、ボケ」
 俺はうんざりしながら、どうしてこんなことになっちまったのか、数日前の自分を呪いつつ、教室へと向かった――。
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