好奇心

sandalwood

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第1話「受験生」

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池下いけしたぁ、ドッジボールやろうぜ!」
 帰りの会が終わるやいなや、うしろから都築つづきの高い声がきこえた。

「うーん、ごめん。今日はちょっと」
「また図書館かー、好きだよなあホント」
 都筑が、なかばあきれたような表情で肩をすくめる。
「うん、悪いな」
 リアクションに迷いながら、半笑いをうかべて答えた。

さとるくんは受験生なんだから、だれかさんと違って暇じゃないのよ」
 斜めうしろの席の山内さんが、ランドセルに教科書をしまいながらくすりと笑って言った。
「ちぇっ、どうせ俺は暇人だよ」
 都筑が爽やかな半笑い――というのはなんか変な形容かもしれないけど――を返し、クラスメイトたちを率いて出て行った。

 都筑はさっきああ言ったけど、僕のほうこそそう思う。毎日毎日、中休みにも昼休みにもドッジボール、おまけに放課後までやるって。好きだよなあ、ホント。
 僕もドッジボールは嫌いじゃないし、都筑や他のみんなも良いやつだからそれなりに付き合っているけれど、放課後はちょっと遠慮したい。授業のあとで疲れているし、山内さんが言っていたように、僕はこれでも受験生だ。志望校はそこまでの難関校ではないにせよ、それなりに準備していなければ苦労するのは目に見えている。

 クラスメイトたちに挨拶し、帰り道とは反対の方向を歩く。塾のない日は市の図書館でひと勉強してから帰るのが、ここ数ヶ月の習慣になっていた。家に帰るとどうしてもだらけてしまうし、何かと障壁が多くて思うように勉強できない。
 
 「お勉強しっかりね」なんてひと事みたいな忠告を三日に一回ぐらいするくせに、リビングで海外ドラマなどを大ボリュームで観ている母さんには、それならせめてまともな学習環境ぐらい整えてくれるのが親の役目だろうと悪態のひとつもつきたくなるけれど、そんなことしたって状況は変わらない。だから、自分でなんとかするよりないんだ(自分の部屋があれば万事オーケーなのだが、あいにくないので勉強机はリビングに置かれている)。

 歩きながら、口の中がむずがゆくなる。午後の家庭科の授業で作った菜の花の天ぷらが、これ以上ないくらいに不味まずかったのだ。
 なんで小学生の調理実習でそんな年寄りくさいものを作らなければならないんだと、クラス中非難ごうごうだった。それに、植物を食べるということ自体が、僕はどうにも受け入れられなかった。
 
 動物を食べるのは大丈夫で、なぜ植物となると眉をひそめてしまうのか自分でもわからないが、たぶん日ごろから馴染んでいるかいないかということなのだろう。天ぷらにしてあっても、あの独特なまとわりつくような苦みは、お子様な味覚しか持ち合わせていない僕にはハードルが高すぎた。

 図書館に着き、中に入る前に横の自販機でドリンクを買った。果汁百パーセントのアップルジュースが、口のなかにしつこく残る苦みをケアしていく。三百ミリリットル弱をその場で飲み干すと、身体がすうっと冷えてきた気がした。
 十一月も下旬となり、秋風が身体に溶け込みやすくなっている。ペットボトルをゴミ箱に捨て、足早に中へすべりこんだ。
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