触れるな危険

紀村 紀壱

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15話 触れるな危険 【後】 その2*

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<ギィド視点>




「ほら、体の自由が効かないんだカラ、あんまり抵抗しないでヨ」
 考えていたよりも、数段に不味い状況だ。
「う、ぶ」
 うつ伏せになって、顔がつぶれる。
 それに気がついたシャルトーが、胸の下にクッションをつめて、顔が浮いて呼吸が楽になる。
「んー。仕方ない、シーツ丸めるカ」
 背後で、ゴソゴソと蠢く気配。
 腰を掴まれて持ち上げられたと思えば、腹の下にも丸めた布の塊を押し込んでくる。
「っ」
 必然的にケツを突き出した体勢になった。
 話の流れから、どういう事をしたいのかは分かっていた。
 わかっていたが、自由の利かない状態で、こんな体勢をとる事になるとは思っていなかったのだ。
「さてト、足開こうか」
 やめろやめろやめろ。
 膝裏に手がかかって、左右に割り開かれる。
 普段はひと目に晒すことが無い場所が、晒されているという状況に、流石に羞恥が抑えきれず、顔に血が上るのが分かった。
 本当はもっと淡々と、済ませてしまうつもりだったのだ。
 痛みを最小限に抑えるぐらいは努力して、さっさとぶち込ませて、この馬鹿の頭を冷やそうと思っていたのだ。

 それが、何故。

 膝裏から太ももへと、指先でくすぐりながら手が這い上がってくる。
 気色悪いだけのはずなのに、なぜゾワゾワと腰が痺れる感覚がそこに湧き上がるのか、理解が出来ずに喉がひゅっと鳴った。
「ね、アンタの太もも、すげービクついてんのわかる? 俺の手、そんなに気持ちいいノ?」
 シャルトーの言葉を鼻で笑ってやりたいのに、俺の意思を裏切るように内股の皮膚が薄い部分を撫でられれば、その刺激に足がひくつく。
 その反応を面白がるように何往復か手が太ももを這っていたが、不意に手が尻にかかり、意図を持って尻たぶを掴まれた。
「やっぱり、女の尻と違って硬いよネ」
 先程太ももを撫でていたときとは違い、無遠慮にケツを揉みしだかれる。
 女と比べる扱いに苛立ちを覚えるが、先程の下手にくすぐられて妙な感覚に陥らされるより、やや乱暴なその接触のほうが何も感じなくてマシかと思う。
 そう、思っていたが。
「て、めぇ……」
 こいつ、どこまで意図してやがるのか。
 ふと、ケツをつかむシャルトーの手のひらがアホみたいに熱い事に気がついて。
 その熱が、こっちに移ってきたに違いないのだ。
「んー……なに? どうしタ?」
 うつ伏せのせいで、シャルトーの顔は見えない。
 見えないが、とぼけたような返事をするその口元が確実に弓なりに歪んでいるのが分かった。
 揉まれたところで、決してなんとも感じてなどいなかった。
 
 そのはずなのに。

 ジワジワと尻が熱を持ってきている。
 揉まれて、血流が良くなっているせいに違いない。そうに違いないと思うのに。
「っく、そ」
 尻たぶを左右に引っ張られて穴が引き伸ばされる感覚が気になる。
 しかも粗雑に尻を揉みしだいているように見せかけて、時折、会陰を指で押されれば直接触れていない前にずくり、と刺激が走った。
「も、ぃい……げん、……しろっ」
 これ以上、醜態を晒すのは我慢がならない。
 動きの悪い腕を、それでも何とか動かしてシャルトーの手を掴めば。
「マダこれからなのに。でも俺もあんまり我慢できないから仕方がないか」
 ぼそりと、シャルトーがそうつぶやいたかと思うと。
「っ!?」
 尻に。正確には後ろの穴へ。
 ねばついた軟膏のようなものを塗りつける感覚に驚いて体が跳ねた。
「ほら、まずは指カラね」
 いちいち報告なんぞするな。
 そう文句をいいたくなるが。
「ゔ……ぃっ」
 穴へ軟膏を塗り拡げるようになぞっていた指が。シャルトーの宣言どおり、にゅく、と、ぬめった音と共に腹の中へ侵入してくる。
 強烈な違和感に、どうしてもケツに力が入って指を締め付けてしまう。
 しかしながら、体のしびれはソコにも影響しているのか、指はぬめりを利用してじりじりと、確実に押し入ってくる。
「……一本目、ね、痛くはないデショ?」
 痛いほうが、いっそのことマシだった。
 たった指一本というのに、既に無視が出来ないほど、腹の中の存在感まざまざと感じて、段々と俺の体はどうなるのかという不安が襲ってくる。
 突っ込まれた指が、中で緩やかに円を描くように動くのが分かって愕然とする。腹の中を広げられている。その事実にどうしようもなく心がざわつき始めた。
 俺は、なんでこんな、とんでもない約束をしてしまったのか。
「ふ……ぅ、も、つっこ……ぇよっ」
 頭の中で警告灯がチカチカと点滅する。このままだと酷く不味い予感がする。
 いっそのこと、どんなに痛かろうが、さっさと終わらせたほうがマシだと、そう思って訴えるが。
「はー……あんまり煽らないでよ、酷くしたくないんだから」
 シャルトーがため息を付いて、やや不機嫌そうにそうつぶやくのが聞こえた。
 どちらかというと今この現状のほうが俺にとって酷くて、最悪だ。
 いっそのこと煽られてくれればと思うが、指は丁寧という言葉が当てはまるようにゆっくりと腹の中をのたうつ。
「薬のおかげかな、アンタの中すげぇ柔らかい。もう一本入れてみても大丈夫そうだネ」
 一度、指が引いていった、と思ったら質量が増えてまた押し入って来る。
 緩やかだった先程とは違って、すぐに奥まで指が入り込んでくる感覚に、とっさに後ろに力を込めてしまえば、指のゴツゴツした関節の形を感じる羽目になって怯んでしまう。
 しかし力を抜けばすぐさま指が腹の中を探るように動き出し、ぐぷぐぷと粘着質な音が響く。
 己の中から湿った嫌な音に耳を塞ぎたいと思って、ふと、先程シャルトーが「薬」といっていた事に気がつく。
 塗られたのは、ただの潤滑剤だと思っていたが。

 もしかして――

「!?」
 一瞬、わけのわからない刺激が駆け抜けて、思考が途切れる。
「みつけた。ココ、か」
 独り言のようなシャルトーの不穏な言葉に、悪寒が背筋を駆け上がり、汗が一気に吹き出す。
 恐ろしい何かが迫っている気配がする。

 ――逃げねぇと。

 本能的にそう思って、体がろくに動かせないのも忘れて身を起こそうとするが。
「ぅぐっ!?」
 指が腹の中の『ソコ』をグッと押し潰す。その瞬間、イチモツの奥がじゅわっと熱くしびれた。
 嫌だ。
 こんなのは何かの間違いだ。
 今しがた己を襲った感覚を必死に拒絶するが、シャルトーの指が腹の中で蠢けば自分の体がなすすべもなくわななくのを止めることが出来なかった。
 頭に血が上って熱い。視界がじわりとにじんでゆく。
「良かった、イイみたいだね」
「はぁ……っ」
 シャルトーの言葉がうまく認識できない。
 ただ否定しなければ、という思いだけが浮かぶが、口を開けば荒い息と唾液をシーツに落すことしか出来ず、引き結ぶしか無い。
 こんなのはおかしい。絶対、何かしているに違いない。
 嗚呼、動かすな。
「……もう少し、かな」
 食いしばった己の口から漏れるのとは別のところから上がった息が聞こえる気がする。
 圧迫感が増える。
 額をシーツに押し付けて、ただただ内蔵を嬲られる事に耐える。
 ぐるり、と指を回されるたび、生まれる熱にぐうっと息が詰まる。
 神経がつながってしまったのか、前が兆し始めていることを認めたくない。
「わるぃ、ちょっと早いカモ」
 どれくらい時間が過ぎたのかわからない。
 シャルトーの、妙に焦ったような言葉が聞こえたと思ったら。
「が……っ!」
 苦しい。無理やり腹の中を引き伸ばしながら押しあげる感覚が襲ってくる。
 膝がシーツから持ち上げられる。太ももの下に、他人の肌の感触がする。
 ぬち、ぬち、と、緩やかに揺れながら腹の中を質量が少しずつ侵食してくる。
 息苦しさを感じながら、しかしあの頭をおかしくする刺激がなくなってことで、ゆるりと頭が回ってくる。
 そしてやっと『入れられているのか』と間抜けにも気づいた。

 ……コレで、やっと終わる。

 事実に気がついて、何よりはじめに思ったことはそれだった。
 それは恐らく脳が現実逃避していたのだろう。
 あとから考えれば、挿入したらそれはあくまでも「終わりの始まり」でしか無いのだというのに、その前にひっきりなしに与えられた刺激から開放されて気が緩んだのだ。
 それが良くなかった。
「お゛っ!? ぁ゛、ぁ……」
 腹の中のあの場所を、えぐるように押されて脳天に衝撃が走った。
 頭の血管が切れたのではないかというくらい、かあっと頭の中が赤く、熱くなる。
 反射的に逃げようとするが指先に力が入らずシーツをひっかくことしか出来ない。
 腰を持ち上げることも――いや、腰は痛いほど力の入った手が掴んで後ろに引かれ。
「逃がさないカラ」
「い゛、ぁが、はいって……く…なぁっ!」
 ソコをすり潰しながら奥へ、奥へと熱の塊が入り込んでくる。
 押し出されるように額から汗が、目から、口から体液がぼたぼたと落ちる。
 脳みその芯がビリビリと痺れる。
 腹の中で自分とは違うどくどくと早鐘を打つ鼓動に気づいて、他人が己の中にいることを認識する。
「やば、アンタの中、うねってめちゃくちゃ気持ちいい」
「んぐっ、ぅ、ぅ」
 ゆさっ、ゆさっ、と地面が揺れる。
 その度にずぐずぐとした痛みのような痺れが背筋を引き絞って、後頭部を締め付けてゆく。
「ココ、気持ちいい? 気持ちいいよネ?」
「ぁ゛っ!?」
 腰から手が腹に回って下腹部を押し上げる。
 その瞬間、後頭部が弾けたように熱く、視界が真っ赤になる。

 ……コレは、気持ちがいい、のか?

 シャルトーの言葉が無防備になった頭の中に忍び込んでくる。
「前も、おれに突っ込まれて気持ちいいって、とろとろヨダレ垂らしてるね」
 手がイチモツに絡みついてくる。手のひらで亀頭を包むようにくるりと撫でられれば、親しんだわかりやすい快楽と、くちゅくちゅと濡れた音が響いた。
 たいして触られてもいないのに、先走りがシャルトーの手をしとどに汚す。
「思ったより良さそうだけど、後ろだけはまだ無理だろうから、今日は前でいかせてあげるネ」
「さ、わん゛……ぃっ!?」
 シャルトーの手が俺のモノを擦り上げて。先程よりもその刺激を脳みそが強い快楽と受け止めて射精感がつのる。急激に追い込まれて、その手から逃げるように腰を引けば、尻の中のモノをより奥に受け入れ、締め付ける形になって、きゅうっと視界が狭まっていく。
「あ゛、くぅ」
「っ! ばかギィ。締めんな」
 どこか、切羽詰まった声で名前を呼ばれた気がする。
「クソっ」
「がっ!?」
 衝撃と、閃光。
 ぶちゅりと、頭の中で何かが潰れた音が聞こえた気がした。
「お、ご、ぉ、ぉ」
 ずちゅっ、ずちゅっ、と、聞くに堪えないひどい音が聞こえる。
 酷く体が揺すられている。
 体の奥に熱杭が入り込んでくるたびに、口から声が漏れるのを止められない。
 視界がチカチカと明暗する。足が痙攣する。
 熱を帯びた頭がうまく動かない。
 コレは気持ちがいいとか、そういうものじゃない。

 ただ気が狂いそうな熱に食われている。

「ん、悪い、無理、中、ちょっと出させて」
 いつもより低く震えたシャルトーの声が背中に落ちてくる。
 その意味をうまく咀嚼出来ないまま。
 背中に重みと汗に濡れた肌の感触。
 自分と異なった、同じくらい早く脈打つ鼓動が背中から伝わる。
 打ち付けられた腰が止まって。
 しかしさらに強く抱きすくめられ、更に奥へ入ってこようとする。
「お、ぁ゛っ、ぃ、やへ、あ、ぁ゛」
 やめろ。入ってくるな。無理だ。
 押し付けられた腰に、ぬぐっ、っと腹の中で音がした。
 光の玉が目の前で弾けたように頭が真っ白になる。
 ぞわりと、体中からまた汗が吹き出るとともに、腹の中が熱くなって。

 俺の意識はそこで途切れた。



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