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最終話 大団円!
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年明け。
映画『君恋』の試写会が開催された。
「ヒロ君に泣きました」
「ヒロがイケメンすぎる」
「ヒロくん最高」
反応は上々。潔子は満足げにポーズを取った。
「勝利確定ですわーッ!」
「タカへの反応はないの……?」
得名井が小声で物申す。
つめるがアンケートを高速でさばいている。
「タカへの反応が一通ございます」
「見せて!」
『タカ、陸上部にスカウトしたい』
「フィジカルが評価されてる!」
試写会は大成功に終わった。
全国映画館での本公開に向けて最終チェックと追加撮影が行われた。
「タカの胸キュンシーン増やせませんか!?」
「落ちてきた鉄骨でも受け止めるか?」
「またフィジカルじゃん!」
鳥琉と得名井が言い合っている。
潔子は遠い目で、紫色の空を見ている。
「どうかした? 潔子さん」
池輝が訊ねた。
「なんでもありませんわ。ただ……」
「ただ?」
「終わってしまうのが寂しい」
潔子はそう言った。
池輝は笑う。
「公開したら終わりじゃないよ。どんな作品でも」
「そうなんですの?」
「うん。観てもらって、読んでもらって、聴いてもらって、そこからがはじまりだ」
得名井がこっちへ来た。
「見せたからって終わりじゃないんだよ! どんな作品でも!」
「もう聴きましたわ」
「間が悪い!」
得名井が叫ぶ。
三人は笑った。
「ありがとう」
冷たい感触が潔子の頬に現れた。ひとひらの雪だった。
「まあ……!」
空から降りて来る雪を見上げて、潔子は子供のように口を開けた。ぱくん、と雪を食べる。
そんな潔子を見て、二人も真似をする。
「あんまりやると腹壊すぞー」
鳥琉がカメラを回しながら声をかけた。
卒業式で三年生を見送った後、潔子と得名井の二人は映画館へ走った。
初日の舞台挨拶のためだ。
「大丈夫? 寝癖残ってない?」
「じっとしてて!」
「目の隈消せない?」
「それはアンタのトレードマーク! 絶対消さないわよ!」
控室でバタバタと準備を進める。
「……本日は映画『君に恋した』へお越しくださり、本日は、……」
台本の内容を繰り返す潔子。
得名井がその手を握る。
「行こう」
「ええ」
舞台へと向かう。
「本日は映画『君に恋した』へお越しくださり、まことにありがとうございます!」
映画が始まる。関係者席から後ろを振り返り、潔子は人々の表情を見ていた。
驚き、笑い、泣き、また笑い……人々の『感動』を、潔子は目に焼き付けた。
鳴りやまない拍手。
エンディングロールの間にこっそり入口へ移動して、握手の準備をする。
「原作本とパンフレットは物販コーナーにて販売中です! よろしくお願いします!」
潔子は彼ら、彼女らに呼び掛ける。何度も。何度でも。
最後の一人が潔子の前に立った。
「お父様」
「潔子」
多々晃は、畳まれた写真台紙を差し出す。
「相手はメガバンク頭取の孫。将来性は無いが誠実だ」
「それを見せに来たのね、お父様」
「選ぶのはお前自身だ。幸福を掴め」
潔子は見合い写真を押し返す。
「申し訳ないけど、いりませんわ」
彼女は隣にいる得名井の手を握った。
得名井は池輝の手を握り、池輝は鳥琉の手を握る。チームはそれぞれの手を取った。
「今のわたくし、こんなにも楽しいんですもの」
物販の棚は空になった。
劇場を出る前に、潔子はポスターにサインをした。
そうしたら面白がって、鳥琉もナナもみんな「金出甲斐潔子」と書いた。
全員のサインが書かれたポスターは劇場に残されている。
一週間後。
執筆部屋に得名井の姿があった。
高校三年生になった彼は、受験勉強と次回作の執筆に追われている。
「将来に不安がないとしても、やっぱり進学はしておきたいじゃん。キャンパスライフも体験してみないとさ」
「裏口入学でしたら口利きしますわよ」
「気持ちだけもらっておくよ」
得名井の正面に、潔子がいた。
今度はアニメ会社を買い取り、プロジェクトを続けている。
ナナは山本との約束通り画集の企画を進めている。
鳥琉は自分の脚本で新たな映画を撮り始めた。先日元妻から連絡が有ったらしい。
泰山は変わらず自身の道を究めている。
池輝はヒロの熱演で男優賞を貰い、ドラマやバラエティに引っ張りだこだ。
受験生たちの間でも話題で、隣のクラスになったギャルがわざわざ得名井のところにやってきて感想会を開いたりしていた。茂野はエキストラとして出たことを自慢している。ほんの少しだけ騒がしいが、こんな日常も嫌いではないと得名井は思った。
「得名井、あなたの著作者人格権を買い取ってよかった」
「急になんだよ……ずっと聴きたかったんだけどさ」
「なにかしら?」
キーボードを叩く手を止めることなく、得名井は訊ねた。
「どうして僕を見つけられたんだ?」
「……わたくし、デビュー当時からあなたの大ファンですのよ?」
「一冊も読んでないのに?」
「一目惚れでしたの」
潔子は言った。
なんだそれ。得名井は思ったが、喉の奥で笑うだけにした。潔子もくすくすと笑っている。
轟音。
「ウワーッ!」
「何事!?」
障子戸を開ける。
坪庭の上に見えるのは巨大な円盤だった。
「……我々はホシより来た。チキュウのエンターテイメントは我らの支配下に置く」
円盤の中央からスポットライトが照らされ、そこからタコ型の侵略者がフワフワ降りてきた。流暢な日本語で宣言する。
「まずはくだらぬラブコメ作品を全面規制する」
潔子は構える。
「あれは予知夢だったのですわね! 行きますわよ、得名井!」
「エエーッ!?」
侵略者は光線銃を構える。
「チェエエエエエストオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
田中の一閃が光線銃を叩き割った。
円盤の出入り口が爆発する。坪庭の屋根につめるが降り立つ。
「お嬢様!」
こんなこともあろうかと用意していたパワードスーツをじいやが取り出す。得名井に渡し、潔子も装着した。
「守りますわよ! 地球のエンタメを!」
潔子たちの戦いは、これからもつづいていく。
ひとまずおわり
(※他人の著作者人格権は買い取れません。法律は守りましょう)
映画『君恋』の試写会が開催された。
「ヒロ君に泣きました」
「ヒロがイケメンすぎる」
「ヒロくん最高」
反応は上々。潔子は満足げにポーズを取った。
「勝利確定ですわーッ!」
「タカへの反応はないの……?」
得名井が小声で物申す。
つめるがアンケートを高速でさばいている。
「タカへの反応が一通ございます」
「見せて!」
『タカ、陸上部にスカウトしたい』
「フィジカルが評価されてる!」
試写会は大成功に終わった。
全国映画館での本公開に向けて最終チェックと追加撮影が行われた。
「タカの胸キュンシーン増やせませんか!?」
「落ちてきた鉄骨でも受け止めるか?」
「またフィジカルじゃん!」
鳥琉と得名井が言い合っている。
潔子は遠い目で、紫色の空を見ている。
「どうかした? 潔子さん」
池輝が訊ねた。
「なんでもありませんわ。ただ……」
「ただ?」
「終わってしまうのが寂しい」
潔子はそう言った。
池輝は笑う。
「公開したら終わりじゃないよ。どんな作品でも」
「そうなんですの?」
「うん。観てもらって、読んでもらって、聴いてもらって、そこからがはじまりだ」
得名井がこっちへ来た。
「見せたからって終わりじゃないんだよ! どんな作品でも!」
「もう聴きましたわ」
「間が悪い!」
得名井が叫ぶ。
三人は笑った。
「ありがとう」
冷たい感触が潔子の頬に現れた。ひとひらの雪だった。
「まあ……!」
空から降りて来る雪を見上げて、潔子は子供のように口を開けた。ぱくん、と雪を食べる。
そんな潔子を見て、二人も真似をする。
「あんまりやると腹壊すぞー」
鳥琉がカメラを回しながら声をかけた。
卒業式で三年生を見送った後、潔子と得名井の二人は映画館へ走った。
初日の舞台挨拶のためだ。
「大丈夫? 寝癖残ってない?」
「じっとしてて!」
「目の隈消せない?」
「それはアンタのトレードマーク! 絶対消さないわよ!」
控室でバタバタと準備を進める。
「……本日は映画『君に恋した』へお越しくださり、本日は、……」
台本の内容を繰り返す潔子。
得名井がその手を握る。
「行こう」
「ええ」
舞台へと向かう。
「本日は映画『君に恋した』へお越しくださり、まことにありがとうございます!」
映画が始まる。関係者席から後ろを振り返り、潔子は人々の表情を見ていた。
驚き、笑い、泣き、また笑い……人々の『感動』を、潔子は目に焼き付けた。
鳴りやまない拍手。
エンディングロールの間にこっそり入口へ移動して、握手の準備をする。
「原作本とパンフレットは物販コーナーにて販売中です! よろしくお願いします!」
潔子は彼ら、彼女らに呼び掛ける。何度も。何度でも。
最後の一人が潔子の前に立った。
「お父様」
「潔子」
多々晃は、畳まれた写真台紙を差し出す。
「相手はメガバンク頭取の孫。将来性は無いが誠実だ」
「それを見せに来たのね、お父様」
「選ぶのはお前自身だ。幸福を掴め」
潔子は見合い写真を押し返す。
「申し訳ないけど、いりませんわ」
彼女は隣にいる得名井の手を握った。
得名井は池輝の手を握り、池輝は鳥琉の手を握る。チームはそれぞれの手を取った。
「今のわたくし、こんなにも楽しいんですもの」
物販の棚は空になった。
劇場を出る前に、潔子はポスターにサインをした。
そうしたら面白がって、鳥琉もナナもみんな「金出甲斐潔子」と書いた。
全員のサインが書かれたポスターは劇場に残されている。
一週間後。
執筆部屋に得名井の姿があった。
高校三年生になった彼は、受験勉強と次回作の執筆に追われている。
「将来に不安がないとしても、やっぱり進学はしておきたいじゃん。キャンパスライフも体験してみないとさ」
「裏口入学でしたら口利きしますわよ」
「気持ちだけもらっておくよ」
得名井の正面に、潔子がいた。
今度はアニメ会社を買い取り、プロジェクトを続けている。
ナナは山本との約束通り画集の企画を進めている。
鳥琉は自分の脚本で新たな映画を撮り始めた。先日元妻から連絡が有ったらしい。
泰山は変わらず自身の道を究めている。
池輝はヒロの熱演で男優賞を貰い、ドラマやバラエティに引っ張りだこだ。
受験生たちの間でも話題で、隣のクラスになったギャルがわざわざ得名井のところにやってきて感想会を開いたりしていた。茂野はエキストラとして出たことを自慢している。ほんの少しだけ騒がしいが、こんな日常も嫌いではないと得名井は思った。
「得名井、あなたの著作者人格権を買い取ってよかった」
「急になんだよ……ずっと聴きたかったんだけどさ」
「なにかしら?」
キーボードを叩く手を止めることなく、得名井は訊ねた。
「どうして僕を見つけられたんだ?」
「……わたくし、デビュー当時からあなたの大ファンですのよ?」
「一冊も読んでないのに?」
「一目惚れでしたの」
潔子は言った。
なんだそれ。得名井は思ったが、喉の奥で笑うだけにした。潔子もくすくすと笑っている。
轟音。
「ウワーッ!」
「何事!?」
障子戸を開ける。
坪庭の上に見えるのは巨大な円盤だった。
「……我々はホシより来た。チキュウのエンターテイメントは我らの支配下に置く」
円盤の中央からスポットライトが照らされ、そこからタコ型の侵略者がフワフワ降りてきた。流暢な日本語で宣言する。
「まずはくだらぬラブコメ作品を全面規制する」
潔子は構える。
「あれは予知夢だったのですわね! 行きますわよ、得名井!」
「エエーッ!?」
侵略者は光線銃を構える。
「チェエエエエエストオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
田中の一閃が光線銃を叩き割った。
円盤の出入り口が爆発する。坪庭の屋根につめるが降り立つ。
「お嬢様!」
こんなこともあろうかと用意していたパワードスーツをじいやが取り出す。得名井に渡し、潔子も装着した。
「守りますわよ! 地球のエンタメを!」
潔子たちの戦いは、これからもつづいていく。
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