あなたとわたくしの執筆業!~他人に書かせたけど著作者人格権ごと金で買い取ったのでわたくしの作品ですわ~ッ!~

月這山中

文字の大きさ
16 / 17

最終話 大団円!

しおりを挟む
 年明け。
 映画『君恋』の試写会が開催された。

「ヒロ君に泣きました」
「ヒロがイケメンすぎる」
「ヒロくん最高」

 反応は上々。潔子は満足げにポーズを取った。

「勝利確定ですわーッ!」
「タカへの反応はないの……?」

 得名井が小声で物申す。
 つめるがアンケートを高速でさばいている。

「タカへの反応が一通ございます」
「見せて!」

 『タカ、陸上部にスカウトしたい』

「フィジカルが評価されてる!」

 試写会は大成功に終わった。



 全国映画館での本公開に向けて最終チェックと追加撮影が行われた。

「タカの胸キュンシーン増やせませんか!?」
「落ちてきた鉄骨でも受け止めるか?」
「またフィジカルじゃん!」

 鳥琉と得名井が言い合っている。
 潔子は遠い目で、紫色の空を見ている。

「どうかした? 潔子さん」

 池輝が訊ねた。

「なんでもありませんわ。ただ……」
「ただ?」
「終わってしまうのが寂しい」

 潔子はそう言った。
 池輝は笑う。

「公開したら終わりじゃないよ。どんな作品でも」
「そうなんですの?」
「うん。観てもらって、読んでもらって、聴いてもらって、そこからがはじまりだ」

 得名井がこっちへ来た。

「見せたからって終わりじゃないんだよ! どんな作品でも!」
「もう聴きましたわ」
「間が悪い!」

 得名井が叫ぶ。
 三人は笑った。

「ありがとう」

 冷たい感触が潔子の頬に現れた。ひとひらの雪だった。

「まあ……!」

 空から降りて来る雪を見上げて、潔子は子供のように口を開けた。ぱくん、と雪を食べる。
 そんな潔子を見て、二人も真似をする。

「あんまりやると腹壊すぞー」

 鳥琉がカメラを回しながら声をかけた。



 卒業式で三年生を見送った後、潔子と得名井の二人は映画館へ走った。
 初日の舞台挨拶のためだ。

「大丈夫? 寝癖残ってない?」
「じっとしてて!」
「目の隈消せない?」
「それはアンタのトレードマーク! 絶対消さないわよ!」

 控室でバタバタと準備を進める。

「……本日は映画『君に恋した』へお越しくださり、本日は、……」

 台本の内容を繰り返す潔子。
 得名井がその手を握る。

「行こう」
「ええ」

 舞台へと向かう。




「本日は映画『君に恋した』へお越しくださり、まことにありがとうございます!」

 映画が始まる。関係者席から後ろを振り返り、潔子は人々の表情を見ていた。

 驚き、笑い、泣き、また笑い……人々の『感動』を、潔子は目に焼き付けた。





 鳴りやまない拍手。
 エンディングロールの間にこっそり入口へ移動して、握手の準備をする。

「原作本とパンフレットは物販コーナーにて販売中です! よろしくお願いします!」

 潔子は彼ら、彼女らに呼び掛ける。何度も。何度でも。
 最後の一人が潔子の前に立った。

「お父様」
「潔子」

 多々晃は、畳まれた写真台紙を差し出す。

「相手はメガバンク頭取の孫。将来性は無いが誠実だ」
「それを見せに来たのね、お父様」
「選ぶのはお前自身だ。幸福を掴め」

 潔子は見合い写真を押し返す。

「申し訳ないけど、いりませんわ」

 彼女は隣にいる得名井の手を握った。
 得名井は池輝の手を握り、池輝は鳥琉の手を握る。チームはそれぞれの手を取った。

「今のわたくし、こんなにも楽しいんですもの」



 物販の棚は空になった。
 劇場を出る前に、潔子はポスターにサインをした。
 そうしたら面白がって、鳥琉もナナもみんな「金出甲斐潔子」と書いた。
 全員のサインが書かれたポスターは劇場に残されている。



 一週間後。
 執筆部屋に得名井の姿があった。
 高校三年生になった彼は、受験勉強と次回作の執筆に追われている。

「将来に不安がないとしても、やっぱり進学はしておきたいじゃん。キャンパスライフも体験してみないとさ」
「裏口入学でしたら口利きしますわよ」
「気持ちだけもらっておくよ」

 得名井の正面に、潔子がいた。
 今度はアニメ会社を買い取り、プロジェクトを続けている。

 ナナは山本との約束通り画集の企画を進めている。
 鳥琉は自分の脚本で新たな映画を撮り始めた。先日元妻から連絡が有ったらしい。
 泰山は変わらず自身の道を究めている。
 池輝はヒロの熱演で男優賞を貰い、ドラマやバラエティに引っ張りだこだ。

 受験生たちの間でも話題で、隣のクラスになったギャルがわざわざ得名井のところにやってきて感想会を開いたりしていた。茂野はエキストラとして出たことを自慢している。ほんの少しだけ騒がしいが、こんな日常も嫌いではないと得名井は思った。

「得名井、あなたの著作者人格権を買い取ってよかった」
「急になんだよ……ずっと聴きたかったんだけどさ」
「なにかしら?」

 キーボードを叩く手を止めることなく、得名井は訊ねた。

「どうして僕を見つけられたんだ?」
「……わたくし、デビュー当時からあなたの大ファンですのよ?」
「一冊も読んでないのに?」
「一目惚れでしたの」

 潔子は言った。
 なんだそれ。得名井は思ったが、喉の奥で笑うだけにした。潔子もくすくすと笑っている。

 轟音。

「ウワーッ!」
「何事!?」

 障子戸を開ける。
 坪庭の上に見えるのは巨大な円盤だった。

「……我々はホシより来た。チキュウのエンターテイメントは我らの支配下に置く」

 円盤の中央からスポットライトが照らされ、そこからタコ型の侵略者がフワフワ降りてきた。流暢な日本語で宣言する。

「まずはくだらぬラブコメ作品を全面規制する」

 潔子は構える。

「あれは予知夢だったのですわね! 行きますわよ、得名井!」
「エエーッ!?」

 侵略者は光線銃を構える。

「チェエエエエエストオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」

 田中の一閃が光線銃を叩き割った。
 円盤の出入り口が爆発する。坪庭の屋根につめるが降り立つ。

「お嬢様!」

 こんなこともあろうかと用意していたパワードスーツをじいやが取り出す。得名井に渡し、潔子も装着した。

「守りますわよ! 地球のエンタメを!」

 潔子たちの戦いは、これからもつづいていく。



  ひとまずおわり

(※他人の著作者人格権は買い取れません。法律は守りましょう)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

居酒屋で記憶をなくしてから、大学の美少女からやたらと飲みに誘われるようになった件について

古野ジョン
青春
記憶をなくすほど飲み過ぎた翌日、俺は二日酔いで慌てて駅を駆けていた。 すると、たまたまコンコースでぶつかった相手が――大学でも有名な美少女!? 「また飲みに誘ってくれれば」って……何の話だ? 俺、君と話したことも無いんだけど……? カクヨム・小説家になろう・ハーメルンにも投稿しています。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。

昼寝部
キャラ文芸
 俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。  その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。  とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。  まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。  これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

処理中です...