ヴェルシュトラ 〜スキル経済と魔導石の時代。努力が報われる社会で俺たちは絶望を知りそれでも、歩き出した〜

けんぽう。

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本編

面白くなってきたな

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——どこかで、喉を鳴らす音がした。

影が、微かに震えた。

それは、洞窟の天井付近に張り付き、闇に溶けるように潜んでいた。

(……信じられん……!)

反射的に息を飲み、視線を釘付けにする。

目の前に広がるのは——ありえない光景だった。

(キマイラを倒した!?)

頭が追いつかない。ありえない、そんなはずは——だが、確かに目の前で起きている。

指先が震えそうになるのを抑えながら、静かにスキルを発動する。

「《解析映録》——停止」

(……急ぎ、ハイネセン様に報告を)

考えている暇はない。今すぐ、伝えなければ——。

スキルが発動する。

次の瞬間、影は完全に闇へと溶け込み、音もなく洞窟から姿を消した。


ヴェルシュトラ本部  ハイネセン執務室

重厚な扉が静かに開いた。

「……失礼します、ハイネセン様。」

低く抑えられた声が、執務室の静寂を破る。
ヴェルシュトラの偵察部隊。
情報収集と諜報活動を担う、影のような存在。
その男が執務室の中央で片膝をついた瞬間——

「……至急の報告? ならば、報告書にまとめて提出しろ。」

冷ややかな声が響いた。
大きな執務机の向こう側で、ハイネセンが書類を手にしながら指を軽く鳴らす。

「まさか、そんなことも忘れたのか?」

鋭い眼差しが、偵察員を射抜く。
一瞬の沈黙。偵察員は背筋を伸ばし、冷静に答えた。

「……申し訳ありません。しかし——これは、報告書では伝えきれない内容です。」

ハイネセンの指が、机をリズムよく叩かれた。
「……ほう?」

「例のノクスに出した依頼の件でございます。キマイラが出現しました。」

執務室の空気が、わずかに重くなる。

しかし、ハイネセンは書類に視線を落としたまま、興味すら示さない。

「……それで?」

まるで「だから何だ?」と言わんばかりの、退屈そうな声。

「……全滅か?」

わずかに口角を持ち上げながら、まるで数字を確認するかのように無機質に呟く。

それは、人間の死ではなく、ただの「予定通りの損失」を確認する言葉だった。

「……いえ、それが——ノクスは討伐に成功しました。」

——ピタリ。

ハイネセンの指が止まった。

「……ほう?」

その表情に、ほんの僅かだが変化が生じた。
視線が偵察員へと向けられる。
今度は、ほんの少しだけ興味を持った目だった。

「どこかのパーティと共闘したのか?」

「いいえ。ノクス単独での討伐です。」

その言葉に、ハイネセンの目が僅かに細められた。
そして、低く呟く。

「……証拠は?」

「こちらをご覧ください。」

偵察員が、静かに手を動かした。

「《解析映録》——発動。」

淡い魔力の光が手元から溢れ出し、空中に映像が浮かび上がる。
映し出されたのは、血だまりの洞窟。
そこには、巨大なキマイラと対峙するノクスの姿があった。

ハイネセンは静かに目を細め、映像を観察する。

「……ふむ。」

画面の中、ノクスの動きは確かに洗練されていた。
だが——ハイネセンは退屈そうに呟く。

「確かに並の冒険者の動きではないが……それだけでは、キマイラ討伐は不可能だ。」

視線は冷静なままだった。

——しかし。

「……いえ、ここからです。」

偵察員が、映像を少し先へと進める。
そして——

「……ッ!?」

ハイネセンの表情が変わった。
困惑の色が浮かぶ。

キマイラの攻撃を回避し、スキルを叩き込み続けるクラフト。
まるで戦場のすべてを把握しているかのような異様な動き。
完全に敵の動きを支配し、一方的に攻め立てている。

「……こいつ……」

僅かに、ハイネセンの口元が動いた。

その視線は、もはや「ただの冒険者」を見るものではなかった。
偵察員が、ゆっくりと口を開く。

「この後、彼の動きはさらに変わります。」

映像の中——

クラフトは、完璧な流れでキマイラを追い詰め、
ブラスとの連携によって、まるで生きた武器のように戦場を駆けていた。

「……これは……」

ハイネセンの指が、机の上でゆっくりと動く。
まるで、計算していた数式が一気に解けたかのように、彼の唇が動く。

「金鉱を見つけた気分だよ……しかも掘れば掘るほど、まだ出てきそうだ。」

偵察員は即座に答える。

「最終選考会議に入れられるのは、三ヶ月後かと。」

「……三ヶ月後?」

ハイネセンの指が、机を軽く叩いた。

「一ヶ月後の会議にねじ込め。」

「はっ!」

偵察員が即座に一礼し、その場を後にする。
静かに扉が閉まる。

執務室には、ただハイネセンの吐息だけが残った。

映像が消えた宙を見つめたまま、彼は静かに言葉を紡ぐ。

「……面白くなってきたな。」

口元に薄く笑みを浮かべながら、ハイネセンは手元の書類を脇へと押しやった。
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