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夏祭りと屋台メシ
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屋台の営業が始まる午後4時になると、日中の酷暑は幾分かマシになったが、外を歩くと湿気と暑さで汗が滲む。しかし、そんな苦行もなんのその。
俺にはビールが待っている!
虎之介と龍さんを連れて屋台が並ぶ商店街を訪れると、開始時刻早々だというのに大勢の人が通りを歩いていた。生ビールを販売している屋台を探していると、銀色に輝くビールサーバーが置かれた一画を発見。はやる気持ちを抑えきれなかった俺は、小走りで目的地に向かい、すぐさま店の人に声をかけた。
「すいません! 生ビールをください! ……あれ、美影さん? なんでここに」
「あら、いらっしゃい! 仲良く3人で来たのね。今日は出店依頼が来たから、ここでお酒を提供してるのよ。生ビールは2つでいいのかしら?」
「おう。金は大史が払う。500mlの大サイズで頼む」
「奢らないって言ったのに……仕方ない。ビールくらい奢ってやるよ」
「ふふっ。毎度あり」
次々とお客が来る中、接客をしながら手際よく生ビールを注ぐ美影さんはさすがだ。楽しそうに仕事をしている様子を見るに、こういう場所が好きらしい。
思わぬ知人に出くわしたが、もしかしたら他にも……。
「おい、大史! あの回転してる肉の塊はなんだ! アレが食べたい!」
「あれはケバブだね。お小遣い持ってきたんでしょ? そこは自分で……」
「行くぞ!」
「いや、だから」
龍さんに引っ張られてケバブ屋に行くと、金髪の外国人らしき女性が塊肉を丁寧に削ぎ落としていた。やはり本場の人がお店をやっているのか、と思ったのも束の間。
こちらを振り向いたその女性は、よく知っている人物、いや、妖怪だった。
「やだ、龍ちゃんとそのお供! 来てくれて嬉しいー!」
「なんだ、玲子だったのか」
「まさか玲子さんも屋台を出していたとはね。その肉の塊ってもしかして……」
「もちろん、あたしが育てた鶏だよ。知り合いから頼まれちゃってさ、わざわざ業務用のロティサリーオーブンを購入したんだよねぇ」
「うわあ、本格的だね。でも1人でやるのは大変じゃない?」
「1人じゃないよ」
話している玲子さんの背後からぬっと現れたのは、メガネのあの人だった。
暑いテント内にいたせいか、メガネが白く曇りゲッソリとした顔をしている。
「やあ、皆さん」
「河童じゃねぇか。お前たち、いつの間に仲良くなったんだ」
「仲良くないですよ。今日だって無理矢理手伝わされてるんですから。それでもバイト代を支払ってくれるというので、致し方なくここにいるわけです。まったく、猛暑だというのに朝からこき使われて……頭のお皿が乾いて仕方ないです」
「被ってるんだから乾かないでしょ。それに、差し入れしたきゅうりもバクバク食べてたじゃん」
「あれは最低限の水分補給ですから。ところで、注文はどうします?」
「じゃあ、チリソースのケバブをテイクアウトで3個」
「いや、10個だ。我はいっぱい食べるのだからな! 金は大史が払う」
「おい」
「ありがとうね、龍ちゃん!」
虎之介といい、龍さんといい、俺をなんだと思ってるんだ。
しかしながら、玲子さんの作るケバブはとても美味しそうだった。ピタパンというポケット状の薄い生地に、鶏ケバブとレタス、トマト、千切りのきゅうりがサンドされていて、ボリュームたっぷりな品。龍さんは本当に食べきれるのだろうか。
「それにしても知り合いが多いな」
「隣のお店にも行ってごらんよ。よく知ってる妖怪がいるよ」
「隣?」
玲子さんの屋台の隣は、カフェが出店しているドリンク屋。
女性スタッフの中でひと際目立つ長身の美男子が1人、エプロン姿で接客をしていた。
「あ、玉藻さん」
「あらやだ! 見つかっちゃったわぁ」
美男子かと思いきや、オネエ言葉を発するギャップに初対面の人はさぞ驚くだろう。しかし、それが功を奏したのか、ここのブースは女性客で大賑わい。
「もしかして、カフェのお手伝い?」
「そうなのよ。アタシ、ここのカフェの常連だから、手伝いを買って出たってわけ。よかったらドリンクどう? ジュースもあるけど、フロート、シェイク、かき氷もやってるわよ」
「おお! 我はアイスが乗っているメロンフロートとやらがいい!」
「はいはい。じゃあ、それを1つください」
「ありがとね! もし時間があったら、メイン会場も行ってみたら? 今年のカラオケ大会も、あの人が優勝しちゃうかも」
「俺の知ってる人? じゃあ、行ってみようかな」
メロンフロートを受け取った龍さんは、アイスを溶かしながらストローを吸う。満面の笑みで「美味い!」と発すると、玉藻さんも嬉しそうに微笑んだ。
その後もすべての屋台を見て回り、ついいろんな物を買ってしまった。
松さんの焼き鳥はもちろん、たこ焼き、肉巻きおにぎり、焼きとうもろこし……ただでさえ「お祭り価格」で割高だというのに、やはり食べ物の誘惑には抗えない。
なんか俺、めっちゃ楽しんでる。
対して虎之介と龍さんは射的や水ヨーヨー釣り、金魚すくいに夢中になり、景品を両手に抱えていた。龍さんは大量にすくった金魚を食べたいと言い出したので、「かわいそうだからやめときな」と諭したところ。
そうこうしているうちに日は暮れ、ようやく公園のメイン会場に辿り着いた。
既にカラオケ大会が始まっていて、またしても見知った顔の人物が、ステージ上からファンサをしながら歌謡曲を歌っていた。最前列には、名前入りのうちわやペンライトを持っているマダムたちが大勢いるようだ。
「あれは団三郎ではないか」
「うわあ。自分の歌謡ショーみたいになってるじゃん。意外と盛り上がってるのが悔しいね」
「あいつ、確か屋台も出してたよな。なんとかサロンって書いてあったけど、ファンの休憩所みたくなってたな」
抜かりのない団三郎さんは、いろんな人が集まるこの場でもファンクラブの会員を増やそうと目論んでいるのだろう。その予想は大当たりのようで、初見の人たちをも虜にする歌声を響かせ、皆が聞き入っていた。
歌唱を終えると、団三郎さんは大歓声の中、にこやかに手を振りながらステージから降りて行った。それはまるでアイドルのよう。
『最後のトリとなるのは、前年度優勝のこのお方! 陽仰寺の住職、森 才雲さんです! 大きな拍手でお迎えください!』
「え!? マジ?」
アナウンスと共にステージに上がった才雲さんは、正面を向いて両手を合わせながら丁寧にお辞儀をする。ステージの端を見ると、てっちゃんとヤマさんが緊張の面持ちで見守っている様子が伺えた。
「あの坊さん、なにやってんだよ」
「歌が得意だと聞いてはいたけど、去年の優勝者が才雲さんだったとは……」
「優勝したら何がもらえるのだ?」
「確か、金一封と国産牛の詰め合わせだったかな」
「なんと! おい、大史! ぬしも出てこい!」
「やめとけ。大史は鼻歌でさえ超絶音痴なんだから」
「……ぐぬぬ」
なにも言い返せないまま、才雲のさんの歌唱が始まったのだが……曲のイントロが始まった途端に観客がザワザワとし始める。聴き覚えのあるこの曲は、最近人気のヒップホップデュオによる超有名曲。
「ま、まさかのラップ、だと……!」
想像の斜め上の選曲をした才雲さんに度肝を抜かれていたのも束の間、アドリブを交えながら巧みなフロウで生み出される語彙の数々に、会場中は大盛り上がり。
「お、おい、なんだこれは。経か? 経を読んでいるのか?」
「経を読んでるだけなのに、なんでこんな盛り上がってんだ」
「違うよ、これはラップ。ヒップホップ」
「ひっぷぽ……」
ぽかんとする龍さんと虎之介は、何がいいのかさっぱり分からない様子だったが、熱気溢れる観客たちに触発され、意外にも楽しそうに盛り上がっている。才雲さんの新たな一面を知れた俺は、あっけに取られながらもその才能に尊敬すら覚えた。
「ていうか、本家より上手いって何事……」
今回は団三郎と才雲さんの優勝争いとなったが、今年も優勝したのは才雲さんだった。 会場が一体となって盛り上がった点が優勝のポイントとなったらしい。
準優勝となった団三郎さんは賞には興味がないらしく、新規のファンを引き連れてそのまま自身の蕎麦屋へと向かった。彼としてはこれが狙いだったので、大変満足している様子。
一通りのイベントが終わったので帰ろうとすると、「ちょっと待った!」という声と共にステージに上がったのは、昼間店に来た圭太だった。
「え! あいつ、なにやってんの!?」
「歌でも歌うのか?」
司会者からマイクを奪った圭太は、ひと呼吸ついてまさかの言葉を発した。
「僕は今日、この場で告白したい人がいます! み、美希ちゃん!」
圭太の視線の先には、可愛らしい浴衣姿の女の子がいた。彼女は突然の行動に驚き、周囲から注目の的となっている。龍さんからアドバイスをもらった圭太が、こんなにも大胆な行動に出るとは思いしなかった。その割には緊張した様子で、手に持ったマイクは少し震えている。
そして、大きく深呼吸をした圭太は……。
「わ……我のぉ! 生涯の伴侶になってくださぁいっ!」
「我?」
龍さんの言葉をそのまま言ってしまった圭太だが、本人は気にも留めていない様子。それに、告白というかもはやプロポーズだ。
周囲は静まり返って女の子の答えを見守っていると……。
「よ、よろしくお願いしまぁす!」
女の子は顔を赤くしながら声を振り絞り、見守っていた人たちは温かい拍手と共に、「おめでとう」と言葉をかける。ステージ上の圭太もガッツポーズをし、俺たち気付くと笑顔で手を振った。その様子に、ほっと胸をなでおろす。
「はあ……よかったぁ」
「ふふん! 我の手にかかれば造作もない」
「お前、ありゃ婚姻する時の言葉だろ?」
「どのみち婚姻するのだから同じことだ。我が直々に教えた言葉なら、言質を取ったも同然。心配せずとも、将来的にあやつらは夫婦になるのだ」
「へえ。龍さんすごいじゃん。さすが神様って感じ」
「そうだろう? 我は凄いのだ! もっと敬え!」
「はいはい。じゃあ、帰ってテイクアウトした屋台メシでもゆっくり食べよっか」
今日は賑やかな祭りのおかげでいい気晴らしになった。
子供の時以来の祭りも、大人になった今でも十分に楽しい。
それも、虎之介と龍さんがいてくれたからこそだと思う。
「来年はうちも屋台を出そうかな」
「それなら鉄板で出来る料理がいいんじゃないか?」
「肉だ! 肉屋をやろうではないか! 豚の丸焼きがいい!」
「龍さんが食べたいだけだろ」
祭り会場を離れるとひぐらしの鳴き声が聞こえ、べたつく肌に纏うのは生温い風だった。
俺にはビールが待っている!
虎之介と龍さんを連れて屋台が並ぶ商店街を訪れると、開始時刻早々だというのに大勢の人が通りを歩いていた。生ビールを販売している屋台を探していると、銀色に輝くビールサーバーが置かれた一画を発見。はやる気持ちを抑えきれなかった俺は、小走りで目的地に向かい、すぐさま店の人に声をかけた。
「すいません! 生ビールをください! ……あれ、美影さん? なんでここに」
「あら、いらっしゃい! 仲良く3人で来たのね。今日は出店依頼が来たから、ここでお酒を提供してるのよ。生ビールは2つでいいのかしら?」
「おう。金は大史が払う。500mlの大サイズで頼む」
「奢らないって言ったのに……仕方ない。ビールくらい奢ってやるよ」
「ふふっ。毎度あり」
次々とお客が来る中、接客をしながら手際よく生ビールを注ぐ美影さんはさすがだ。楽しそうに仕事をしている様子を見るに、こういう場所が好きらしい。
思わぬ知人に出くわしたが、もしかしたら他にも……。
「おい、大史! あの回転してる肉の塊はなんだ! アレが食べたい!」
「あれはケバブだね。お小遣い持ってきたんでしょ? そこは自分で……」
「行くぞ!」
「いや、だから」
龍さんに引っ張られてケバブ屋に行くと、金髪の外国人らしき女性が塊肉を丁寧に削ぎ落としていた。やはり本場の人がお店をやっているのか、と思ったのも束の間。
こちらを振り向いたその女性は、よく知っている人物、いや、妖怪だった。
「やだ、龍ちゃんとそのお供! 来てくれて嬉しいー!」
「なんだ、玲子だったのか」
「まさか玲子さんも屋台を出していたとはね。その肉の塊ってもしかして……」
「もちろん、あたしが育てた鶏だよ。知り合いから頼まれちゃってさ、わざわざ業務用のロティサリーオーブンを購入したんだよねぇ」
「うわあ、本格的だね。でも1人でやるのは大変じゃない?」
「1人じゃないよ」
話している玲子さんの背後からぬっと現れたのは、メガネのあの人だった。
暑いテント内にいたせいか、メガネが白く曇りゲッソリとした顔をしている。
「やあ、皆さん」
「河童じゃねぇか。お前たち、いつの間に仲良くなったんだ」
「仲良くないですよ。今日だって無理矢理手伝わされてるんですから。それでもバイト代を支払ってくれるというので、致し方なくここにいるわけです。まったく、猛暑だというのに朝からこき使われて……頭のお皿が乾いて仕方ないです」
「被ってるんだから乾かないでしょ。それに、差し入れしたきゅうりもバクバク食べてたじゃん」
「あれは最低限の水分補給ですから。ところで、注文はどうします?」
「じゃあ、チリソースのケバブをテイクアウトで3個」
「いや、10個だ。我はいっぱい食べるのだからな! 金は大史が払う」
「おい」
「ありがとうね、龍ちゃん!」
虎之介といい、龍さんといい、俺をなんだと思ってるんだ。
しかしながら、玲子さんの作るケバブはとても美味しそうだった。ピタパンというポケット状の薄い生地に、鶏ケバブとレタス、トマト、千切りのきゅうりがサンドされていて、ボリュームたっぷりな品。龍さんは本当に食べきれるのだろうか。
「それにしても知り合いが多いな」
「隣のお店にも行ってごらんよ。よく知ってる妖怪がいるよ」
「隣?」
玲子さんの屋台の隣は、カフェが出店しているドリンク屋。
女性スタッフの中でひと際目立つ長身の美男子が1人、エプロン姿で接客をしていた。
「あ、玉藻さん」
「あらやだ! 見つかっちゃったわぁ」
美男子かと思いきや、オネエ言葉を発するギャップに初対面の人はさぞ驚くだろう。しかし、それが功を奏したのか、ここのブースは女性客で大賑わい。
「もしかして、カフェのお手伝い?」
「そうなのよ。アタシ、ここのカフェの常連だから、手伝いを買って出たってわけ。よかったらドリンクどう? ジュースもあるけど、フロート、シェイク、かき氷もやってるわよ」
「おお! 我はアイスが乗っているメロンフロートとやらがいい!」
「はいはい。じゃあ、それを1つください」
「ありがとね! もし時間があったら、メイン会場も行ってみたら? 今年のカラオケ大会も、あの人が優勝しちゃうかも」
「俺の知ってる人? じゃあ、行ってみようかな」
メロンフロートを受け取った龍さんは、アイスを溶かしながらストローを吸う。満面の笑みで「美味い!」と発すると、玉藻さんも嬉しそうに微笑んだ。
その後もすべての屋台を見て回り、ついいろんな物を買ってしまった。
松さんの焼き鳥はもちろん、たこ焼き、肉巻きおにぎり、焼きとうもろこし……ただでさえ「お祭り価格」で割高だというのに、やはり食べ物の誘惑には抗えない。
なんか俺、めっちゃ楽しんでる。
対して虎之介と龍さんは射的や水ヨーヨー釣り、金魚すくいに夢中になり、景品を両手に抱えていた。龍さんは大量にすくった金魚を食べたいと言い出したので、「かわいそうだからやめときな」と諭したところ。
そうこうしているうちに日は暮れ、ようやく公園のメイン会場に辿り着いた。
既にカラオケ大会が始まっていて、またしても見知った顔の人物が、ステージ上からファンサをしながら歌謡曲を歌っていた。最前列には、名前入りのうちわやペンライトを持っているマダムたちが大勢いるようだ。
「あれは団三郎ではないか」
「うわあ。自分の歌謡ショーみたいになってるじゃん。意外と盛り上がってるのが悔しいね」
「あいつ、確か屋台も出してたよな。なんとかサロンって書いてあったけど、ファンの休憩所みたくなってたな」
抜かりのない団三郎さんは、いろんな人が集まるこの場でもファンクラブの会員を増やそうと目論んでいるのだろう。その予想は大当たりのようで、初見の人たちをも虜にする歌声を響かせ、皆が聞き入っていた。
歌唱を終えると、団三郎さんは大歓声の中、にこやかに手を振りながらステージから降りて行った。それはまるでアイドルのよう。
『最後のトリとなるのは、前年度優勝のこのお方! 陽仰寺の住職、森 才雲さんです! 大きな拍手でお迎えください!』
「え!? マジ?」
アナウンスと共にステージに上がった才雲さんは、正面を向いて両手を合わせながら丁寧にお辞儀をする。ステージの端を見ると、てっちゃんとヤマさんが緊張の面持ちで見守っている様子が伺えた。
「あの坊さん、なにやってんだよ」
「歌が得意だと聞いてはいたけど、去年の優勝者が才雲さんだったとは……」
「優勝したら何がもらえるのだ?」
「確か、金一封と国産牛の詰め合わせだったかな」
「なんと! おい、大史! ぬしも出てこい!」
「やめとけ。大史は鼻歌でさえ超絶音痴なんだから」
「……ぐぬぬ」
なにも言い返せないまま、才雲のさんの歌唱が始まったのだが……曲のイントロが始まった途端に観客がザワザワとし始める。聴き覚えのあるこの曲は、最近人気のヒップホップデュオによる超有名曲。
「ま、まさかのラップ、だと……!」
想像の斜め上の選曲をした才雲さんに度肝を抜かれていたのも束の間、アドリブを交えながら巧みなフロウで生み出される語彙の数々に、会場中は大盛り上がり。
「お、おい、なんだこれは。経か? 経を読んでいるのか?」
「経を読んでるだけなのに、なんでこんな盛り上がってんだ」
「違うよ、これはラップ。ヒップホップ」
「ひっぷぽ……」
ぽかんとする龍さんと虎之介は、何がいいのかさっぱり分からない様子だったが、熱気溢れる観客たちに触発され、意外にも楽しそうに盛り上がっている。才雲さんの新たな一面を知れた俺は、あっけに取られながらもその才能に尊敬すら覚えた。
「ていうか、本家より上手いって何事……」
今回は団三郎と才雲さんの優勝争いとなったが、今年も優勝したのは才雲さんだった。 会場が一体となって盛り上がった点が優勝のポイントとなったらしい。
準優勝となった団三郎さんは賞には興味がないらしく、新規のファンを引き連れてそのまま自身の蕎麦屋へと向かった。彼としてはこれが狙いだったので、大変満足している様子。
一通りのイベントが終わったので帰ろうとすると、「ちょっと待った!」という声と共にステージに上がったのは、昼間店に来た圭太だった。
「え! あいつ、なにやってんの!?」
「歌でも歌うのか?」
司会者からマイクを奪った圭太は、ひと呼吸ついてまさかの言葉を発した。
「僕は今日、この場で告白したい人がいます! み、美希ちゃん!」
圭太の視線の先には、可愛らしい浴衣姿の女の子がいた。彼女は突然の行動に驚き、周囲から注目の的となっている。龍さんからアドバイスをもらった圭太が、こんなにも大胆な行動に出るとは思いしなかった。その割には緊張した様子で、手に持ったマイクは少し震えている。
そして、大きく深呼吸をした圭太は……。
「わ……我のぉ! 生涯の伴侶になってくださぁいっ!」
「我?」
龍さんの言葉をそのまま言ってしまった圭太だが、本人は気にも留めていない様子。それに、告白というかもはやプロポーズだ。
周囲は静まり返って女の子の答えを見守っていると……。
「よ、よろしくお願いしまぁす!」
女の子は顔を赤くしながら声を振り絞り、見守っていた人たちは温かい拍手と共に、「おめでとう」と言葉をかける。ステージ上の圭太もガッツポーズをし、俺たち気付くと笑顔で手を振った。その様子に、ほっと胸をなでおろす。
「はあ……よかったぁ」
「ふふん! 我の手にかかれば造作もない」
「お前、ありゃ婚姻する時の言葉だろ?」
「どのみち婚姻するのだから同じことだ。我が直々に教えた言葉なら、言質を取ったも同然。心配せずとも、将来的にあやつらは夫婦になるのだ」
「へえ。龍さんすごいじゃん。さすが神様って感じ」
「そうだろう? 我は凄いのだ! もっと敬え!」
「はいはい。じゃあ、帰ってテイクアウトした屋台メシでもゆっくり食べよっか」
今日は賑やかな祭りのおかげでいい気晴らしになった。
子供の時以来の祭りも、大人になった今でも十分に楽しい。
それも、虎之介と龍さんがいてくれたからこそだと思う。
「来年はうちも屋台を出そうかな」
「それなら鉄板で出来る料理がいいんじゃないか?」
「肉だ! 肉屋をやろうではないか! 豚の丸焼きがいい!」
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