トライアングルパートナー

窓野枠

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第1章 二人

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 彼女は係長のポストに就き、リーダーという才能が開花していく。めきめき、頭角を現し、部署を異動するたび、その人気は広がり彼女を知らないものはもぐりと言われるまでになっていく。やがて、課長補佐、課長代理、課長そして、一昨年、参事になり、去年、40歳という若さで危機管理室長という役職に抜てきされ、女性の理想的なリーダーモデルとして注目され、いずれは区長か、と役所内でうわさされた。できる女と呼ばれることは日常茶飯事、彼女を天使のようだ、女神さま、観音様、弁天さまなど、とほめたたえ崇めるものもいる。さらに、純子信者が敏腕すぎるカリスマ美人部長とネットのサイトに、美しい姿を写真付きで投稿するとたちまち全国に拡散し、それによってK区への転入人口が爆増した。彼女の人気はうなぎ登りの絶好調だ。
 このように、彼女が人間界の中だけで崇められているうちは良かった。それが女神、弁天さま、仏様という呼び名は、人間界の外である天界にまで鳴り響くようになったから神の間で問題ではないか、と言う話題になる。
「われわれ神がいるのに、人間が神と言われている? 愚かな人間がわれわれの存在を忘れてしまったと言うことか、まずいなぁー まずいよなぁー」
 当然、聞き逃すことができない、と顔をしかめる神が現れる。その神は椅子から立ったり座ったり、右へ行ったり、戻ったり、いらついていた。
「あー まずいよなぁー こんなこと、あっちゃいかんなぁー」
 30メートルほど離れた場所で膝を突いて控えている天界の見習い天使8ピッドは静かに聞いている。
「なあ、まずいなぁー たんなるうわさだといいのだがなぁー」
 神はなおも独り言をだれに話すでもなくつぶやいていた。ピタリと体を制止すると、8ピッドに向かって顔を曇らした。
「8ピッドよ、確かめてくるのだ。人間界に神がいてはならないぞ」
 あろうことか、この神が彼女の身辺調査を8ピッドに命令した。
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