トライアングルパートナー

窓野枠

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第1章 二人

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 進一と結婚した彼女は、役所の仕事が終われば、速攻で帰宅し、進一に奉仕することが、最大の幸福だった。進一のお世話をしたり、進一と抱き合ったりすることが、彼女にとって山積する諸問題をつかの間、忘れることができる唯一の娯楽であったり、趣味であったり、スポーツをしたりすることと同じくらい大切だった。彼女には食事と同じくらい生活に欠かせない。彼女は彼に言う。
「ねえ、きょうはどこを食べてもらいたいの?」
 彼女は進一を見つめながら、ベッドの上に全裸で横たわった進一の胸にほおを付ける。彼の胸の上の小さな3ミリほどの二つの突起を唇で絶妙の感覚ではさむ。進一の息づかいがだんだんと荒くなる。彼は両手首を後ろ手に縛られ、両足首もベッドの隅にそれぞれがストッキングで縛られていた。
「あなたって、こういうの、好きなのね? あたしも好きよ、こういうの……」
 彼女は進一が動けない姿を見るのが好きだ。動けない彼を見て興奮する。
「あなた、動けなくて、かわいそう。あたしって、悪女よね? あら? ここは動けるみたいね? こんなになって、どうしたの?」
 寝かされた進一を見つめる彼女の脳内にアドレナリンが大量に分泌される。平穏無事な生活をする彼もまた、人には言えない行為を妻から受けて興奮している。こんなに愛されている僕はなんて幸せなんだ、と心から思うと体がパワーでみなぎる。
「そんな動けなくされると、喜ぶなんて、あなたって、変態ね?」
 すでに彼女の人格が交代していた。昼間は純子。彼女の性格は、まじりけや偽りがなく、人柄や気持ちが素直で、汚れが一切ない。夜は潤子。彼女は、うるおう。うるおす。艶を付けることに長けていた。金銭感覚にシビアで冷静な決断力に長けていた。その極端な性格の二人の仲介をしながら、いわゆる客観的で、当たり障りなく社交的に振る舞う順子が日常を仕切っていた。人に取り付くことのうまい順子は、純子の後ろでうまく立ち回った。二人の極端な性格が持つ能力を、決して表に出ることなく背後から操縦していた。純子と潤子がうまく生きてこられたのは、調整役の順子のおかげだった。
 こうして、キャリアウーマンの今田純子は、順子と潤子の性格を共有することで、平穏、平和、平静で日常のバランスを保っていた多重人格者だった。
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