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窓野枠

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第3章 リア・ラブゲーム店

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 店員がショーケースに近づくように促してくる。高さ1m、幅、奥行き30cm角ほどのショーケースの上に5CMほどの大きさのものが2個だけ陳列されていた。黒色とピンク色のスマホだ。脇の説明プレートには全24カラーのボディと記載がある。
「僕がラブゲーム通? 何? それっ? そんなゲームなんかやったことがないよ、何を言ってるの?」
「いやいや、お客様も体験してご存じのリア・ラブゲームのことでございますよ。この商品を視認できる方はそうそう、いらっしゃいません。愛に満たされた方は、この商品が全く認知できないのです。愛が満たされた方には新たな愛を求めない。より大きな愛などないのです。愛はどこまでも愛です。だから、愛の必要のない方は、こういうアイテムを必要としない。故に見えない、という人間の心をサーチし、招き寄せる邪神界のテクノロジーを駆使した画期的なAI(人工知能)機能搭載アイテムです」
 進一は訳のわからない御託を並べる店員の多弁な口調に閉口しながら眉をひそめた。
「それでは何かね? あなたは、僕には愛がなくて、いつも愛に飢えている、とでも言うのかね? 僕は妻帯者ですよ、あまりに失礼な物言いではないですか?」
 進一が語気を荒げて言うものだから、終始笑顔だった店員は真剣な表情に変わった。
「もちろん、お客様が愛に満たされていれば大変に失礼なことを申し上げたとおわび申し上げるところでございますが、お客様が愛を渇望していることは、私どもの方で、すでにリサーチ済でおります。きょう、お客様がお見えになることもすでにかなり前から予知しておりました。そうなんですよ、今田進一様」
 店員は実に自信に満ちた口調で進一に話し、最後、彼の名前を上げたことで、底知れない嫌悪を感じた。
「なぜ、僕の名前を知っているのです?」
 進一は語気を荒くして店員に言う。
「愛に迷われている今田様を救うために、私が誘導したからでございます」
「さっきから、きみは何を訳のわからないことを…… 僕はもう帰る」
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