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窓野枠

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第23章 幸せの共有

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 小山内慶子が今田純子の秘密主義を指摘するとおり、純子は自分のみだらな人格を秘密にしてきた。その秘密を抑えるため、自らの人格を分離したのだ。社会貢献したい奉仕の精神を抱く純子と、楽しいセックスライフを送りたい潤子は、一人の人間として生きるにはあまりにも相反した。清くみだらに自由に生きていくには、社会は冷たかった。だから、その冷たさを緩和してくれる存在。癒やしてくれる存在。多重人格者・今田純子はすべての人生を共有する人間として今田進一を選択した。いな、取り込んだ。作り上げた。とても嫌らしい自己中心的な策略だ。大学を卒業した大和田純子は、社会貢献すること、人類の役に立つこと、清く正しい社会の中で、だれもが自由で平等で、隣人を助け、自分も助けられ、お互いを大切に思いながら、みんなが幸せを感じて生きることの可能な社会の実現を夢見た。崇高な信念を持った純子だった。
 しかし、その一方で、もう一人の潤子がいた。特定の人に貢献したい。奉仕したい。自分の手足を使って喜びを感じさせたい。その方法はとても人に言えない行為だった。言えないけれど、その方法でないと、潤子は幸せを感じられないのだ。自分が幸せを感じられないのに、人を幸せにすることなど、できるのだろうか。まずは自分を幸せにしてこそ、隣人を幸せにできるのではないか。自分が幸せを感じながら、かつ、相手を絶頂に導く。彼女は常々思っていた。
 その夢のような理想の相手を役所の入所式で見つけたのだから実に幸運だった。彼女のそのときの興奮は凄まじいものだった。この人こそ、運命の出会いだ。それが今田進一との出会いだ。もう、こんなあふれる思いを感じる人とは会えないだろう。彼女の今田進一に対する直感は正しかった。彼女の行動力は筋金入りである。彼女は今田進一を自分のとりこにするため、周囲に働きかけ、策略を駆使した。20年、運命の人は今田進一しかいない、と思って生きてきた。
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